患者さんへ正しくインフォームドコンセントするときや、多職種が協働して最適な治療を提供する仕組みを作るときに重要なのが、クリニカルパスです。医療スタッフ間の情報共有を促進し、標準化された医療の質を提供するうえで不可欠なツールとして、多くの病院で活用が進んでいます。
記事では、看護師や看護師を目指している学生さんに向けて、クリニカルパスの目的やメリット、基本用語の意味を分かりやすく解説します。実際の運用フローについても紹介しているので、初めてクリニカルパスに触れる方はぜひ参考にしてください。
中松繁 治(新東京病院所属)
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岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科 |
クリニカルパスとは
クリニカルパスとは、患者さんの入院中に行う治療や検査の予定を時間軸でまとめた診療計画書のことです。クリニカルには「臨床の」、パスには「経路」という意味があります。
クリニカルパスは患者さん用と医療スタッフ用の2種類に分けられます。
患者さん用のクリニカルパスは、患者さんが入院中に受ける治療・検査の内容や予定などを案内するために、患者さんに渡す書類です。
対して医療スタッフ用のクリニカルパスは、患者さんの治療計画を医療スタッフ間で共有するために使用します。
(出典:富山市市民病院「クリニカルパスについて」)
クリニカルパスの目的
クリニカルパスの主な目的は、患者さんの病気に合わせて医療を標準化し、提供する医療の質について改善を図ることです。
現代の入院診療はチーム医療で行われていて、患者さんの治療には診療科の医師や看護師をはじめとして、さまざまな医療スタッフがかかわりを持ちます。医療スタッフごとに治療の方針や内容が異なる状態では、患者さんに適切な医療を提供できません。
クリニカルパスを作成すると、患者さんの治療にかかわる医療スタッフ全員が治療の方針や内容を共有し、連携して働けます。結果として医療の質を統一・改善して、患者さんに良質で安全な治療を提供することが可能です。
クリニカルパスとクリティカルパスの違い
クリニカルパスとよく似た言葉に「クリティカルパス」があります。
クリティカルパスとは、主に産業界の業種において、プロジェクト全体のスケジュールを管理するための作業経路のことです。「タスクAをしなければタスクBができず、タスクBができないとタスクCが完了しない」といったように、タスク同士を結び付ける因果関係を視覚的に表します。
クリニカルパスとクリティカルパスは言葉に違いこそあるものの、医療機関において多くのケースでは同じ内容を指す言葉です。病院などの医療機関では一般的に「クリニカルパス」、もしくは省略形の「パス」が使われます。
(出典:日本リハビリテーション医学会「クリティカルパスとクリニカルパス」
クリニカルパスのメリット

クリニカルパスを作ることは、看護師をはじめとした医療スタッフにとっても、患者さんにとってもメリットがあります。
クリニカルパスのメリットを、看護師視点・患者さん視点に分けて解説します。
看護師にとってのメリット
医療スタッフ用のクリニカルパスを作ることで、患者さんの看護を担当する看護師には下記のメリットがあります。
- 多職種で協力して働きやすくなる
クリニカルパスに記載する内容は医師や看護師をはじめ、各分野を担当する医療スタッフの専門知識や経験にもとづいて作成しています。チーム内での機能分化が進むと同時に、進捗管理や情報共有がしやすいため、ほかの医療スタッフの業務を意識できるようになり、多職種で協力して働きやすくなるでしょう。 - 指示漏れやチェック漏れを防ぎやすくなる
クリニカルパスには検査や処置などの予定が記載されていて、看護師が行う看護ケアの内容もほかの医療スタッフが確認できます。予定の複数チェック体制が構築できて、指示漏れやチェック漏れを防ぎやすくなる点がメリットです。 - 質の高い医療を提供して入院日数を最適化しやすくなる
クリニカルパスを作成すると看護や検査・処置などの内容が統一されるため、医療の質を高めることが可能です。不要な検査や処置を行うケースが少なくなり、入院日数を最適化しやすくなります。 - 患者さんへの説明が容易になる
クリニカルパスを作ることにより、患者さんへの今後の治療経過などの説明が容易になります。
看護師がクリニカルパスのメリットを最大限享受するには、クリニカルパスを綿密に作成し、実際の看護をクリニカルパスに沿って行うことが大切です。
患者さんにとってのメリット
患者さん用のクリニカルパスを作ると、患者さんにとって下記のメリットがあります。
- 医療についての説明を理解しやすくなる
患者さんが入院する際は治療の内容や流れについて説明を行います。患者さん用のクリニカルパスは専門的な用語を使わず、図などを使用して分かりやすい内容で作成するため、患者さんが医療についての説明を理解しやすくなるでしょう。 - 入院中の予定を把握しやすくなる
クリニカルパスを渡された患者さんは、入院中の予定を把握しやすくなります。「入院中にどのように過ごせばよいか」「手術はいつ行われるか」を把握することで、患者さんが入院生活で感じやすい不安を軽減できます。 - 適切な医療提供により入院日数が短くなる
適切な医療提供により入院日数が短くなれば、医療費を抑えることができます。
医療や入院生活について理解を深めた患者さんは、医療スタッフとコミュニケーションを取りやすくなり、患者さん自身の積極的な治療への参加を期待できます。
【看護師向け】クリニカルパスの基本用語

クリニカルパスを使って患者さんに医療を提供する際は、いくつかの用語を覚えておくとよいでしょう。
クリニカルパスに触れた経験が少ない看護師の方向けに、クリニカルパスの基本用語を3つ説明します。
(出典:科学技術振興機構「アウトカム志向パスの運用と記録」)
アウトカム
アウトカムとは、達成すべき目標や状態のことです。クリニカルパスでは「患者アウトカム」という使い方がされ、患者さんが達成すべき目標を段階的に設定します。
患者アウトカムを設定するときは、同時に目標達成の判断基準を定めます。例として、患者アウトカムを「発熱がない状態」と定めたとき、患者さんの体温が37.5℃未満の状態を目標達成の基準とするという流れです。
また、クリニカルパス全体の最終目標は「最終アウトカム」と呼びます。最終アウトカムは退院基準であり、患者さんが最終アウトカムを満たした場合は退院可能です。
タスク
クリニカルパスにおけるタスクとは、設定したアウトカムを達成するために医療スタッフが行うべき仕事のことです。
タスクは医療スタッフの職種ごとに作成し、クリニカルパス上でそれぞれのタスクを認識できるようにします。
各職種のタスクが行われて、アウトカムの達成を実現することがクリニカルパスの理想的な流れです。
バリアンス
バリアンスとは、クリニカルパスの通りにアウトカムが達成されていない状態のことです。バリアンスには「正のバリアンス」と「負のバリアンス」の2種類があります。
正のバリアンスとは、クリニカルパスで設定した予定より早くアウトカムが達成された状態のことです。患者さんの経過が予定より良好で、早期の退院が可能な場合などが正のバリアンスに該当します。
対して負のバリアンスとは、クリニカルパスの予定よりもアウトカムの達成が遅い、もしくは達成できていない状態を指します。患者さんに合併症が現れて回復が遅れるなどが、負のバリアンスに該当するケースです。
バリアンスが発生したときは、バリアンスに関する情報を収集・分析して、医療の標準化や質の改善につなげます。
また、バリアンス発生によりクリニカルパスを逸脱する場合は看護計画を立案し、適切な看護を提供します。
検査・治療の内容、感染管理の方法、リハビリテーションの方法、栄養管理の方法などの見直しを行い、医療の質を改善します。
クリニカルパスを作成する流れ

クリニカルパスの作成から運用までの流れは、以下の通りです。
1 | クリニカルパスを標準化する |
---|---|
2 | アウトカムを標準化する |
3 | 入院日数を定めて医療スタッフ用のクリニカルパスを作る |
4 | 患者さん用のクリニカルパスを作る |
5 | クリニカルパスを確認する |
6 | 日々アセスメントを繰り返しながらクリニカルパスを改善する |
クリニカルパスの標準化では、手本となる治療法や看護ケアを標準に定めます。アウトカムの標準化は、使用する表現や観察項目、観察結果の表記方法を統一することです。
医療スタッフ用と患者さん用のクリニカルパスを作った後は、クリニカルパスに沿って患者さんに治療や看護ケアを提供します。同時にバリアンスなどにかかわるデータの分析と評価を行いましょう。
分析と評価をもとにクリニカルパスを改善することで、医療の質を高められます。
まとめ
クリニカルパスは、医療スタッフ間の連携を強化し、患者さんへの治療計画を可視化することで、医療の質を向上させます。特に看護師にとっては、他職種との協力体制を整え、指示漏れや処置漏れを防ぐだけでなく、適切な時期に適切なケアを提供しやすくなる点が魅力です。また、バリアンスの分析によって標準化の精度を上げられることも見逃せません。
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※当記事は2025年1月時点の情報をもとに作成しています
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