皮下注射とは? 必要物品や事前準備・刺入から抜針までの手順を解説
  • 2025年1月25日
  • 2025年1月22日

皮下注射とは? 必要物品や事前準備・刺入から抜針までの手順を解説

 

皮下注射は、皮膚の下にある脂肪組織へ薬剤を注入することで、ゆっくりと効果を発揮させる注射方法です。特に慢性疾患の治療や予防接種で広く使用され、患者さん自身が自宅で行える自己注射としても注目されています。

当記事では、皮下注射の特徴や筋肉注射との違い、具体的な手順、注射の際に注意すべきポイントなどを紹介します。これから皮下注射を学びたい医療従事者の方や、安心して皮下注射を行いたい看護師の方は、ぜひ最後までご覧ください。

皮下注射とは?

皮下注射とは、皮膚と筋肉の間にある皮下組織へ薬剤を注入する方法です。体内に薬剤をゆっくりと吸収させるため、安定した効果が期待できます。予防接種やインスリン注射など、医療現場でよく使用される注射方法の1つです。痛みが比較的少ないため、患者さんが安心して受け入れやすく、自己注射としても多く利用されています。

以下では、注射の種類や筋肉注射との違いを解説します。

注射の種類

予防接種や治療に使用される注射は、皮内注射・皮下注射・静脈注射・筋肉注射などの種類があります。以下は、代表的な注射の種類です。

  • 皮内注射
    皮膚の表皮と真皮の間に注射し、局所にとどまった薬剤への反応を確認する目的で使われる方法です。主にツベルクリン反応検査やアレルギー反応検査のために行われます。
  • 皮下注射
    皮膚と筋肉の間にある皮下組織に薬液を注入する方法です。体内への吸収速度が比較的遅いことから、ワクチンやインスリンなどで用いられる方法です。主に慢性的な病気の治療で広く活用されており、自己注射にも使用されます。
  • 静脈注射
    静脈に直接薬剤を注入する方法で、もっとも速く薬剤を全身に行き渡らせられる方法です。特に緊急の治療が必要な場合や患者さんの状態が不安定な場合に、迅速な効果を期待して選ばれる方法です。また、点滴静脈注射として大量・長期投与を行うこともあり、水分や栄養補給の目的でもよく使用されます。
  • 筋肉注射
    筋肉に薬剤を注入する方法です。静脈注射よりは時間がかかるものの、皮下注射より薬剤の吸収が速いのが特徴です。特に、鎮痙薬、ホルモン剤や不活化ワクチンなどに利用されます。

注射の目的や患者さんの状態・症状によって有効性が異なるため、適切な種類を選ぶことが重要です。

皮下注射の場所・部位

皮下注射は、基本的に関節や神経、血管、骨に近い場所にはできません。それ以外の場所であれば全身に行えますが、特に皮下脂肪が多く柔らかいところに適している注射方法です。以下の部位が皮下注射に適しているとされています。

  • 上腕伸側(上腕後側正中線下1/3の部位)
  • 三角筋前半部
  • 大腿前外側中央部

該当部位を露出させやすく、止血や観察もしやすいことから、大人への皮下注射では上腕伸側を用いるのが一般的です。なお、1歳未満の場合は大腿外側もしくは上腕伸側を選ぶ傾向にあります。多少の個人差はあるものの、適切な注射部位の選定により、効果的かつ痛みを抑えた投与が可能です。
(出典:国立国際医療研究センター「接種法」

筋肉注射との違い

筋肉注射と皮下注射の主な違いは、注射する深度と薬液の吸収速度です。皮下注射は、薬液を皮膚と筋肉の間にある「皮下組織」に注入する方法で、一般的には皮膚をつまみ上げて約10~30度の角度で注射します。薬剤が脂肪層にとどまるためゆっくりと吸収され、体内でおだやかな効果を発揮します。ただし、注射部位に腫れや炎症が起こる可能性もある方法です。

一方、筋肉注射は皮膚に対して垂直に針を刺し、皮下組織のさらに深い筋肉層に注射します。筋肉は血管が豊富であるため薬剤の吸収速度は皮下注射の約2倍となり、効果の発現も早いのが特徴です。また、筋肉注射で得られる免疫効果は皮下注射より高く、副反応のリスクも低い傾向にあります。筋肉注射は痛みを感じやすいタイプの薬剤投与や、より早い効果が必要なケースで使用される方法です。

筋肉注射は、静脈注射や皮下注射ができない場合や、薬液量が多い場合、刺激性の強い薬剤を投与する場合などに適応されます。皮下注射に比べて多くの薬液を投与でき、薬液の選択肢も広くなります。

なお、日本の予防接種では皮下注射が一般的ではありますが、海外では筋肉注射が主流です。それぞれの特性を理解し、状況・状態・疾患に応じた注射方法の選択が、患者さんの負担軽減につながります。

皮下注射で必要な物品

皮下注射で必要な物品

皮下注射を行う際には、事前に必要な物品を揃える必要があります。以下の物品は、安全で適切な手技を行うために欠かせません。

  • 指示箋
  • 手袋
  • 注射針
  • トレイ
  • 薬液
  • 注射器
  • アルコール綿
  • 針捨容器
  • 膿盆
  • 速乾性摩擦手指消毒剤

手袋は、感染防止のために使用します。また、指示箋は6R(正しい患者・薬剤・用量・目的・用法・時間)の確認に必要です。注射針には23~27Gの針を使用します。長さが16mmを超える針は使用できません。注射器(シリンジ)の容量は、2.5~5mLが一般的です。薬液は医師の指示に従って準備しましょう。

アルコール綿は注射部位の消毒に、速乾性摩擦手指消毒剤は手指の衛生を保つために用います。針捨容器は、使用済みの針やシリンジを安全に処理するために必要です。また、膿盆は廃棄物の一時的な置き場所として活用します。

これらの物品を漏らさず準備し適切に使うことで、皮下注射を安全かつ効果的に行えます。
(出典:厚生労働省「~筋肉・皮下注射~」

皮下注射はいつする? 方法と手順を解説

皮下注射はいつする? 方法と手順を解説

以下では、皮下注射を行う際の準備と具体的な手順を解説します。事前準備から実際の刺入、抜針までの一連の流れを把握し、患者さんに安全で確実な処置を行えるようにしましょう。

事前準備

患者さんに安全で正確な注射を提供するためにも、事前準備を確実に行うことが重要です。

1 指示箋で患者さんの氏名・日付・薬品名・用法用量・目的・実施時間を確認する
2 石けんを使用し、流水で手を洗う
3 手袋や注射針、アルコール綿、針捨容器など、必要な物品が揃っているか確認する

患者さんの氏名だけでなく、体格やアレルギー既往歴、注射禁忌の有無なども余さず把握しましょう。指示箋の内容が読み取れない場合や内容に疑問を感じた場合、必ず医師に確認することが、患者さんを守ることにつながります。
(出典:厚生労働省「~筋肉・皮下注射~」

刺入から抜針までの手順

皮下注射の実施手順は、以下の通りです。

1 患者さんに皮下注射の目的と手順を説明し、承諾を得る
2 患者さんの氏名を確認し、注射指示箋とネームバンドを照合する
3 患者さんに安楽な体位をとってもらい、注射部位を露出する
4 注射部位を選定する
5 皮膚をつまみ、皮下脂肪の厚さが5mm以上あることを確認する
6 手袋を装着する
7 刺入部位の中心から外側に向かって、円を描くようにアルコール綿で消毒する
8 アルコールが乾燥し切ったのを確かめる
9 注射針のキャップを外し、注射部位の皮膚をつまんで持ち上げる
10 注射針のカット面を上に向けて約10~30度の角度で刺入する
11 針を刺した状態で、激痛や痺れ、血液の逆流がないことを確認する
12 ゆっくりと薬液を注入する
13 薬液の注入が終わったら素早く針を抜き、アルコール綿を当てて止血を確認する
14 針と注射器はそのまま針捨容器に捨てる
15 患者さんの衣類や寝具を整え、注射による異常や変化がないか観察する
16 注射実施の記録を行う

これらの手順を遵守することで、皮下注射を安全かつ効果的に行えます。患者さんが注射に対して不安を感じている場合には、言葉をかけて安心感を与え、リラックスできるように配慮することが大切です。

また、注射後も患者さんの状態を観察し、必要に応じてフォローアップを行いましょう。刺入部位だけでなく、全身に異常が出ていないかを慎重に観察し、異常が見られた際にはすぐに適切な処置を施す必要があります。もし薬剤投与中に腫脹や疼痛の出現があれば、すぐに投与を中止し抜針をし、皮膚の状態を確認します。

さらに、注射実施後の記録を詳細に残し、医療スタッフ間で情報を共有するのも患者さんの安全性を高めるうえで欠かせない要素です。情報の共有が円滑であれば、患者さんの状態に応じた迅速な対応が可能となり、危険性を下げられます。また、記録を見直すことで注射手技の振り返りや改善点の発見につながり、自分自身の看護技術向上にも寄与します。
(出典:厚生労働省「~筋肉・皮下注射~」

注射・採血時に患者さんの不安を和らげるコミュニケーション方法

まとめ

皮下注射は、皮膚と筋肉の間にある皮下組織へ薬剤を注入する方法で、体内での吸収が緩やかなため、予防接種や慢性疾患の治療に広く使用されています。筋肉注射や静脈注射と異なり、痛みが少ないことや自己注射が可能な点が特徴です。

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※当記事は2024年11月時点の情報をもとに作成しています

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