• 2025年1月25日
  • 2025年1月21日

腹部膨満感のガス抜き方法は? 看護する際の手順・アセスメントも

 

腹部膨満感は多くの方が経験する不快な症状で、その原因は便秘や腹水、消化器疾患など多岐にわたります。特に腸内ガスの蓄積による腹部膨満感は、適切なガス抜きケアで緩和できる可能性があります。

当記事では、看護現場で行われるガス抜きの手順や方法、注意点について詳しく解説します。患者さんの快適な生活をサポートするために、腹部膨満感のガス抜きに関する正しい知識を身に付けましょう。

腹部膨満感とは?

腹部膨満感とは、腹腔内に何らかの内容物が溜まり、腹部が全体的または部分的に圧迫されている・張っている感覚を指します。一般的な食事でお腹が満たされた状態である「満腹感」とは異なります。腹部膨満感が生じる原因はさまざまであり、複合的に組み合わさっている場合もあります。

【腹部膨満感が生じる主な原因】

  • 腸管内にガスや液体、便が過剰に溜まっている(便秘症状)
  • 腸管外に腹水が溜まっている
  • 内臓や骨盤内に腫瘍ができている
  • 肥満
  • (女性の場合)妊娠 など

腹部膨満感に加えて、嘔気・嘔吐や腹痛、食欲不振などの症状が出る場合もあります。

複数の要因が組み合わさっている場合もあるため、症状や状態を事前によく確認したうえで、腹部膨満感やその原因への対処法を検討することが大切です。
(出典:iNDEX|東北大学病院ウェブマガジン「腹部膨満感と卵巣がん」
(出典:北播磨総合医療センター「腹部膨満感 」
(出典:大学病院医療情報ネットワーク「腹部膨満」

腹部膨満感を緩和するガス抜きの手順・方法

腹部膨満感を緩和するガス抜きの手順・方法

腹部膨満感を緩和・解消するには、その原因となる習慣の改善や疾患の治療を行うとともに、原因や症状に合った看護を行うことが大切です。腹部膨満感の原因が腸内ガスである場合は、「ガス抜き」というケアによって症状を緩和できる可能性があります。

ガス抜きとは、腸管などの消化管に貯留したガスを、自分の力で「げっぷ」や「おなら」として排出できない方に実施する看護ケアのことです。ガス抜きを行うことで、患者さんの腹部膨満感や不快感を緩和できれば、健康面でより質の高い生活をサポートできるでしょう。

ここでは、腹部膨満感の緩和に向けたガス抜きの方法を3つ紹介します。それぞれの手法の特徴や必要なもの、手順も併せて確認し、患者さんに適したガス抜きを実践できるようになりましょう。

駆風浣腸

駆風浣腸とは、お腹の張り解消に向けて、肛門から挿入したカテーテルを通して腸管内に貯留するガスを排出する方法です。消化器官における疾患が原因で排出機能が低下し、自力で排便や排ガスができない患者さんに対して行うことが多い傾向にあります。

<必要なもの>

  • 使い捨ての手袋、マスク、エプロン
  • 汚染防止シーツ(防水シーツ)
  • ネラトンカテーテル
  • 潤滑剤
  • 水の入った容器(尿器やコップなど)
  • ウェットティッシュ(おしりふき)
  • タオル

<手順>

(1) 汚染防止シーツをベッドの上に敷き、患者さんに体の左側を下にして横向きに寝る姿勢(左側臥位)になってもらい、そのまま膝を少し曲げてもらう。
(2) 肛門に挿入する側のカテーテルの先端に潤滑剤を塗り、もう一方の先端は水の入った容器に入れ、先端を水につけておく。
(3) 臀部を露出し、臀部以外にタオルをかける。
(4) 患者さんに口呼吸をしてもらい、力を抜いてリラックスしてもらう。
(5) カテーテルを肛門から5~6cmの位置(直腸からS状結腸のあたり)までゆっくりと挿入する。
(6) 容器の中の水を確認し、カテーテルの先端から気体が出ていることを確認する。患者さんの体からカテーテルを抜き、処置した部位を拭いてから衣類や寝具を整える。

駆風浣腸の際には、腸の粘膜をカテーテルで傷つけないよう慎重に行いましょう。また、肛門から挿入するので、肛門の周りに傷などの病変がある場合も注意が必要です。カテーテルを挿入すると自然にガスが排出されますが、必要に応じてガスの排出を促す腹部マッサージを行うとよいでしょう。

ストーマを造設した場合

ストーマからの排出物は、面板とパウチからなるストーマ用の装具で受け止めます。しかし、パウチにガスが溜まりすぎると腹部に圧迫感が生じる場合があるほか、装具が外れる恐れもあることに注意が必要です。

最近の装具には、一定量のガスが溜まると自動的に排出される高性能フィルターも備えられていますが、フィルターの目詰まりなど不具合が起こる可能性もゼロではありません。このような場合には、装具からのガス排出を手動で行う必要があります

<必要なもの>

  • 使い捨ての手袋、マスク、エプロン
(1)

ストーマの装具の種類を確認する。

  • ワンピースタイプ…面板とパウチが一体化しているタイプ
  • ツーピースタイプ…面板とパウチが別々のパーツであるタイプ
(2)

タイプに応じたガスの排出を行う。

  • ワンピースタイプ…排出口(便廃棄口)を開けてガスを排出する。
  • ツーピースタイプ…面板とパウチの接続部を開けてガスを排出する。

ストーマからガスを抜く際は、腹部や装具に負担がかからないよう、強く圧力をかけないことを心がけましょう。また、ストーマからのガス抜きが必要かどうかは、患者さんの便の状態やパウチの使用日数からある程度判断できます。たとえば、水様便が続いている場合や同じパウチを長期間使用している場合は、ガス抜きが必要といえるでしょう。

胃ろうを造設した場合

胃ろうとは、嚥下機能が低下した方の誤嚥リスクを下げるために、栄養や内服薬を経管で胃に直接注入するためのものです。胃ろうを造設した方の場合、経管栄養を行う前に胃の中の空気を抜く必要があります(エア抜き)。胃にガスが溜まった状態で経管栄養を行うと、腹部膨満感や嘔気・嘔吐といった症状につながる可能性があることを押さえておきましょう。

<必要なもの>

  • 減圧チューブなどの接続用カテーテル
  • シリンジ
  • 排液袋(必要に応じて)

<手順>

(1) ガス抜きを行う前に、胃ろうチューブに破損・抜けといった不具合がないかチェックする。
(2) 胃ろうに接続用カテーテルをつなぎ、シリンジや排液袋に接続する。
(3) ガスが抜ける様子を確認する。シリンジを接続した場合は、シリンジをゆっくりと引いて胃の中のガスを抜く。

経管栄養前のガス抜きでは、なるべくシリンジを用いたほうがよいとされていますが、胃ろうの種類によってはチューブのふたを開放するだけでガス抜きを行える場合もあります。シリンジや接続用カテーテルを用いる場合は、感染を予防するためにも必ず本人用のものを使用しましょう。

腹部膨満感でガス抜きをする際の注意点

腹部膨満感でガス抜きをする際の注意点

腹部膨満感という症状が現れる原因は多岐にわたり、必ずしも消化管内のガスが原因であるとは限りません。そのため、患者さんの観察や問診の結果からアセスメントを行い、適切な判断につなげることが大切です。

【腹部膨満感を訴える患者さんのアセスメントの流れ】

1 問診
自覚症状や併発している症状、症状が現れた時期や程度などを聞き取る。既往歴や排便・排ガスの状況もチェックする。
2 バイタルチェック・採血
体重や血圧、脈拍数など一般的なバイタルサインのチェックに加えて、腹囲の測定などを行う。また、採血を行い腫瘍マーカーや炎症反応などの数値を確認しておく。
3 視診
腹部全体を確認し、腹部の大きさや皮膚の色、腹部の拍動などに外観的な異常がないかチェックする。
4 聴診
小腸から大腸の走行に沿って聴診器を当て、腸の蠕動音(ぜんどうおん)を聴取する。蠕動音に異常がある場合は、イレウスや便秘といった可能性が考えられる。
5 打診
腹部を「右上腹部」「左上腹部」「右下腹部」「左下腹部」に大きく分け、それぞれの部位を打診する。鼓音であればガスの可能性が、濁音であれば腹水の可能性が考えられる。
6 触診
腹部を触り、張り感の有無などを確認する。たとえば、一方の側腹部を軽くたたいた際にもう一方の側腹部に波動を感じた場合、ガスではなく腹水の可能性があるため注意する。

これらの観察項目・アセスメントから患者さんの状態を評価し、適切な処置へとつなげましょう。

まとめ

腹部膨満感のガス抜きは、患者さんの不快感を軽減し、生活の質を向上させる重要なケアです。しかし、その原因がガス以外の場合もあるため、適切なアセスメントが不可欠です。駆風浣腸やストーマ、胃ろうからのガス抜き方法を正しく理解し、患者さん一人ひとりに合った対応を心がけましょう。

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※当記事は2024年11月時点の情報をもとに作成しています

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