• 2025年1月25日
  • 2025年1月21日

テーパリングとは? 医療用語の意味やウィーニングとの違いを解説

 

医療業界では、医療従事者同士の情報共有をはじめとした各作業の効率化や特定の医療手法の正確な表現を目的に、多くの専門用語が使用されています。そのなかでも「テーパリング」という医療用語は、幅広い診療科・病棟で日常的に用いられる重要な概念の1つです。

こうした医療用語は、必ずしも学校ですべてを学ぶわけではなく、現場での実務を通じて学んでいくケースも少なくありません。そのため、医療従事者は日々の業務の中で必要な用語を身につけ、活用しながら専門知識を深めていくことが求められます。

そこで今回は、医療業界におけるテーパリングの意味から、類似するウィーニングとの違い、さらにテーパリングに関する注意点まで詳しく解説しています。

医療業界におけるテーパリングとは?

テーパリング(tapering)とは、「漸減する」「徐々に減らす」という意味をもつ単語です。

医療用語としてのテーパリングは、患者さんに処方する薬剤の投与量や酸素流量などを徐々に減らすことを指します。「漸減法」ともいわれており、抗不整脈薬や昇圧薬・降圧薬など、一度に中止すると副作用の危険性がある薬剤に対して行われるのが基本です。

また、テーパリングという言葉は、医療業界以外にも金融政策や競技シーンで使用され、各業界で異なる意味をもちます。ここからは、金融政策におけるテーパリングと競技シーンにおけるテーパリングの意味について詳しく紹介します。

金融政策におけるテーパリングの意味

金融政策におけるテーパリングは、「量的金融緩和の縮小」を意味する言葉です。特に米国の中央銀行である「FRB」が行う量的緩和政策は、世界中のマーケットで大きな注目を集めることでも知られています。

量的金融緩和とは、中央銀行が民間の金融機関から国債や手形といった資産を買い取って当座預金残高を拡大させ、市場に供給する資金量を大幅に増やして金融市場の安定や景気回復を図る金融政策の手法です。金融市場の安定や景気回復を図る一方で、ドルの価値が低下する場合もあり、ビジネス環境や為替市場には大きな影響を与えかねません。

中央銀行は、景気の悪化やデフレの発生時にはまず政策金利を引き下げることで経済を立て直そうとします。しかし、金利をゼロにしても効果が見られない場合、次の手段として大量の資金を市場に供給し、市場に出回る貨幣の量(相場)を押し上げる政策に切り替えます。

経済が回復し、インフレが目標水準に近付いたら、次は市場に供給する貨幣の量を少しずつ減らすという流れです。この段階的な資産買い入れの縮小がテーパリングであり、将来的には利上げといった追加的な引き締め政策へと移行する場合があります。

競技シーンにおけるテーパリングの意味

競技シーンにおけるテーパリングとは、試合本番に向けて練習量やトレーニングの負荷を徐々に減らし、コンディションをベストな状態に整える調整方法を指します。

競技者が試合でベストなパフォーマンスを発揮するには、心身を最良の状態に仕上げておくことが欠かせません。疲労が蓄積されたまま試合に臨むと、実力を十分に発揮するのが困難となるためです。特に、試合直前までハードなトレーニングを継続していると、疲労が蓄積されるだけでなくケガのリスクも高まります。

そのため、多くの競技者は試合が近づくにつれて練習量を徐々に減らし、適度に身体を休ませながらコンディションの調整を行います。こうした競技シーンにおけるテーパリングは、試合本番に向けてコンディションを最良の状態に整えることを目的に行われる、重要な戦略の1つといえるでしょう。
(出典:日本体育協会「トレーニング基本モデルに照らした実践的テーパリング」

テーパリングとウィーニングとの違い

テーパリングとウィーニングとの違い

医療業界におけるテーパリングと混同されがちな言葉として、「ウィーニング」があります。ウィーニングとは、「人工呼吸器からの離脱」、つまり人工呼吸器による強制換気から自発呼吸へ移行させるための訓練を意味する言葉です。

人工呼吸器は装着期間が長くなるほど、気道損傷や無気肺、VAP(人工呼吸器関連肺炎)といった合併症リスクが高まります。そのため、人工呼吸器の装着要因となった疾患や症状が改善またはコントロール可能となった時点で、できる限り早くウィーニングを開始することが推奨されています。

テーパリングとウィーニングに共通しているのは、いずれも患者さんの治療を自然な状態に近づける過程を指すという点です。しかし、テーパリングは薬剤や酸素流量を徐々に減らしていくことを指しており、「自発呼吸へのプロセス」を指すウィーニングとはその手段が大きく異なる点に留意しておきましょう。

くわえて、テーパリングは「〇〇をテーパリングする」と具体的な対象を伴う表現として使用されるのに対し、ウィーニングは動詞としては使われず、「ウィーニングを行う」という形で用いられます。

テーパリングに関する注意点

テーパリングに関する注意点

テーパリングの意味を理解できたとしても、正しい使い方ができなければ情報共有が不十分となり、かえって業務効率が低下するおそれもあります。看護師が日々の業務でテーパリングに携わる際には、いくつかの注意点をしっかりとおさえておくことが重要です。

ここからは、テーパリングに関する2つの注意点について詳しく説明します。

看護記録に「テーパリング」と記載しない

テーパリングという言葉は、日常の申し送りや情報共有の場面で便利に活用できます。しかし、カルテや看護記録においては記載を避けるべきといえます。

なぜなら、カルテや看護記録はあらゆる職種の医療従事者が参照するものであり、誰が読んでも正確に理解できることが求められているためです。専門用語であるテーパリングは、一部の職種や経験年数の浅い医療従事者にとって馴染みがない可能性もあり、誤解や情報の行き違いを招くおそれがあります。

そのため、看護記録ではテーパリングと記載せず、「症状が安定しているため薬剤の投与量を漸減したが、副作用や症状の悪化は見られず経過した」といった具体的な記述を心がけましょう。

SpO2の許容範囲や対策を医師と共有しておく

酸素療法を受けている患者さんを担当する看護師は、医師から「SpO2の値を見ながらテーパリングしてほしい」と指示を受けることがあります。SpO2とは、動脈血中のヘモグロビンに酸素がどの程度結合しているかを示す酸素飽和度を、経皮的に測定した値です。

医師から「テーパリングしておいて」と伝えられた場合は、患者さんの状態に応じて、変化が許容範囲内なのか否かを正確に判断する必要があります。テーパリングを行う際は、対象となる酸素や薬剤などの効果・副作用を把握したうえで、テーパリングによる患者さんの変化を予測・観察しながら進めることが重要です。

SpO2の基準値や対応策についてあらかじめ確認するだけでなく、「SpO2が何%まで低下したら酸素流量を戻すのか」「酸素流量の上限は何Lなのか」といった具体的な条件も共有しておけば、より安全かつ負担の少ないケアを患者さんに提供できるでしょう。
(出典:一般社団法人日本呼吸器学会「酸素飽和度 SpO2とは何ですか?」

テーパリングと副腎皮質ステロイドについて

テーパリングと副腎皮質ステロイドについて

前述の通り、テーパリングは急に投与を中止すると副作用が発生するおそれのある薬剤に対して行われる方法です。そのなかでも、副腎皮質ステロイドは突然の投与中止が大きな影響を及ぼす代表的な薬剤の1つとされています。

副腎皮質ステロイドは、さまざまな疾患に対して高い効果が期待できる一方で、長期使用後に投与を突然中止すると、強い倦怠感やそのほかの離脱症状が起こりかねません。

そのため、患者さんに投与する副腎皮質ステロイド薬の量を徐々に減らして、最終的に中止を目指すテーパリングが広く採用されています。特に、副腎皮質ステロイドの長期治療後に行うテーパリングは、慎重に進めなくてはなりません。

このように、テーパリングは患者さんの負担を軽減しながら副作用を回避するための重要な方法として、多くの医療現場で日常的に行われています。
(出典:滋賀医科大学「《研究課題名》乳癌の術前・術後補助化学療法におけるデキサメタゾンによる離脱症状の発現率とテーパリングによる離脱症状改善効果」

そもそも副腎皮質ステロイドとは?

副腎皮質ステロイドとは、副腎という臓器の皮質から産生される「副腎皮質ホルモン」を化学的に合成して作られた治療薬です。副腎皮質ホルモンには主にコルチゾールとアルドステロンが含まれており、体の恒常性を保つ重要な役割を果たしています。

副腎皮質ステロイドには外用薬や内服薬、注射薬などさまざまな剤型があり、自己免疫疾患や呼吸器疾患、アレルギー疾患などの幅広い疾患の治療に用いられています。

副腎皮質ステロイドの主な効能は、抗炎症作用です。体内で起こる炎症を抑えることで、痛みや腫れ、発熱、かゆみなどの症状を軽減する効果が期待されます。

しかし、副腎皮質ステロイドは優れた抗炎症作用をもつ一方で、強い副作用が出やすい薬剤でもあります。たとえば、長期使用による高血圧や糖尿病、免疫力の低下といった全身的な副作用のほか、顔が丸くなるムーンフェイスや体重増加など外見の変化が生じる可能性も否めません。

くわえて、投与を突然中止すると倦怠感や関節痛、さらには副腎不全といった離脱症状が発生するリスクもあります。そのため、副腎皮質ステロイドを使用する際は、医師の指示にもとづいて適切な投与量と期間を守ることが重要となっています。
(出典:公益社団法人 日本薬学会「副腎皮質ステロイド」

まとめ

テーパリングとは、「漸減する」「徐々に減らす」という意味をもつ言葉であり、医療業界では患者さんに処方する薬剤や酸素の投与量を徐々に減らしていく際に用いられます。

投与を急に中止することで起こり得る副作用や離脱症状の予防に重要な役割を果たしており、患者さんの治療を副作用なく自然な形で終了するための調整として広く実施されています。

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※当記事は2024年11月時点の情報をもとに作成しています

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