臨床現場で患者さんの診療・治療を行ううえでは、患者さんが感じる痛みの程度を客観的に、かつ正確に評価することが重要となります。そこで重要となるのが、「NRS(Numerical Rating Scale)」という評価スケールです。
NRSとは、患者さんの主観的な痛みの程度を数字で評価する指標・尺度であり、適切な診断や治療方針の決定にも役立ちます。
そこで今回は、NRSの概要やNRS以外の痛みの指標から、NRSの主な活用シーン、さらに患者さんの痛みを評価する際に確認しておくべきポイントまで詳しく解説します。
NRSをはじめとした痛みの指標は?
「痛み」には個人差があり、たとえ同じ症状であってもどの程度の痛みを感じているかは患者さんによって異なります。痛みの強さを他人と比べるのは極めて困難で、医療従事者でも個々の患者さんの痛みを正しく認識するのは不可能といっても過言ではありません。
しかし、どのような処置・治療法が必要なのかを適切に判断するためには、患者さんが感じている主観的な痛みの程度を把握することが重要です。こうした際に役立つのが、「痛みの評価スケール(評価尺度)」です。
臨床現場において主に用いられる痛みの評価方法には、「NRS」「VRS」「FPS」の3つが挙げられます。ここからは、それぞれの疼痛スケールの概要やどのような患者さんに向いている指標なのかを分かりやすく説明します。
(出典:一般社団法人 日本ペインクリニック学会「痛みの基礎知識」)
NRS
NRSとは、「数値的評価スケール」という意味をもつ「Numerical Rating Scale」の頭文字をとった略称であり、患者さんが感じる痛みを「0~10」の11段階に区切って評価する指標です。
NRSを用いる際は、患者さんに痛みの強さについて質問します。一般的に用いられる質問方法としては、下記の2つが挙げられます。
(1)痛みが全くない状態を「0」、中等度の痛みを「4~6」、想像できる最大の痛みを「10」として、現在の痛みがどの程度にあたるのかを聞く
(2)初診時や治療開始前、または鎮痛剤の服用前など特定の状況での痛みを「10」として、現在の痛みがどの程度にあたるのかを聞く
NRSは患者さんの主観的な自己申告によって評価できるほか、いつでも・どこでも検査できるため広く使用されています。しかし、痛みの程度をうまく表現できない乳幼児期の子どもや、認知症が進行している患者さんには使用できないという欠点もあります。
VRS
VRSとは、「言語式評価スケール」という意味をもつ「Verbal Rating Scale」の頭文字をとった略称であり、患者さんが感じる痛みを4段階の言葉で回答してもらい評価するスケールです。
0:痛くない
1:少し痛い
2:かなり痛い
3:耐えられないほど痛い
上記のように、VRSでは患者さんが感じる痛みの程度を日常表現に近い言葉で回答してもらいます。そのため、数字で表現するのが難しい小児にも使用できます。しかし、言語の選択肢が固定化する点や、段階の少なさから痛みを詳細に評価できない点が欠点です。
FPS
FPSとは、「表情的評価スケール」という意味をもつ「Faces Pain Scale」の頭文字をとった略称であり、「フェイススケール」とも呼ばれます。平穏な状態を示す穏やかな表情から苦痛を感じている険しい表情まで、6段階の顔のイラストを用いて患者さんの心情に近い表情を回答してもらい、痛みの程度を評価するスケールです。
痛みを数値化・言語化するのが難しい乳幼児期の子どもや高齢者の方には特に有用ですが、痛み以外の気分も含めて回答される可能性がある点・痛みを詳細に把握できない点が欠点となります。
NRSを活用するシーンは?

NRSは、医療機関におけるすべての診療科の受付・外来・病棟・集中治療室で使用できます。また、病院外の救護室でも使用できるほか、特別な医学知識のない方でもNRSを用いて痛みを評価することが可能です。
なお、NRSは身体の変化を確認するためにも、基本的に「安静時と体動時(深呼吸をしたとき・咳をしたときなど)」や「治療前と治療後」という2つの状況をセットで評価します。このとき、カルテには患者さんが申告した内容とともに、申告当時の患者さんの様子や身体所見についても一緒に記載しておくとよいでしょう。
痛みを評価する際に確認したいその他のポイント

NRSスケールをはじめとした痛みの評価法を用いて患者さんの痛みを把握する場合は、痛みレベル以外にその性質や影響についても把握しなければなりません。痛みの性質や影響までしっかり理解しておくことは、より適切な治療計画の立案につながります。
ここからは、痛みの評価時に確認しておくべきポイントを6つ紹介します。
(出典:慶應義塾大学病院 緩和ケアセンター「2.痛みのアセスメント」)
(出典:一般社団法人 日本ペインクリニック学会「痛みの基礎知識」)
(出典:厚生労働科学研究成果データベース「2 がん性疼痛のアセスメント」)
痛みの部位
痛みの部位や範囲を正確に評価することは、原因や性質の特定・適切な治療計画や薬剤の選定において重要な役割を果たします。
患者さんが申告する「痛みを感じる部分」は1か所とは限らず、強い痛みを感じる部位のみ訴えているケースも珍しくありません。そのため、「訴えのあった部位のほかにも痛みが存在していないか」「現時点で痛みを感じるのは、どこからどこまでの範囲なのか」を注意深く確認する必要があります。
痛む時期
痛みの発生時期や持続期間を把握することは、痛みの背景にある病態の予測・生活や鎮痛薬投与時間の工夫において重要な役割を果たします。
特に、長期間の持続的な痛みや新たに生じた突発的な痛みは、がんをはじめとした重病の進行や重病による合併症の発生の兆候でもあり、早急な診断・対応が重要となります。「今感じている痛みはいつごろからあるのか」「その痛みは常時感じるか」「何かのきっかけで強くなることがあるか」など、痛みの経過を詳細にモニタリングすることが大切です。
痛みの性質
痛みの性質、つまりどのような感覚の痛みなのかを把握することは、痛みの背景にある病態の予測・投与薬剤の選定・適切な治療計画の立案において重要な役割を果たします。
基本的に人間が感じる痛みには、「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」の2つに大別されます。侵害受容性疼痛は侵害受容器が刺激されることによって発生する痛みであり、脈打つような痛み・ズキズキした痛みを感じる点が特徴です。
一方で、何らかの疾患によって引き起こされる神経障害性疼痛は、電気が走るような痛み・しびれるような痛みを感じます。また、いずれにも区別できない痛みは身体的要因以外の関与も考えられるでしょう。
こうした痛みの性質を正確に把握するためには、痛みの性質別に問診することが大切です。痛みをうまく表現できない患者さんに対しては、「ズーンとした重い痛みですか?」など痛みの表現を具体的に示すと、患者さんも答えやすくなります。
痛みの影響
痛みが増強する要因および緩和する要因、さらに痛みと関連するほかの症状といった影響因子を把握することは、鎮痛薬以外の緩和ケアの工夫において重要な役割を果たします。
痛みの影響因子を正しく把握するためには、「何をしているときが一番痛みを感じるか、または和らぐか」「温める、または冷やすと痛みはどう変化するか」など、考えられるさまざまな状況ごとに痛みの変化を聞くことが重要です。
また、病状の経過とともに痛みの影響因子も変化しやすくなります。治療効果や身体状態の変化を確認するためにも、問診は定期的に行うとよいでしょう。
これまでの治療
これまで行った治療や、それによる痛みの度合いの変化を把握することは、適切な看護計画の立案・投与薬剤の選定・鎮痛薬投与時間の工夫において重要な役割を果たします。
これまでの治療による痛みの変化を正しく把握するためには、「今までに使った治療や痛み止め薬で効果があったか」「効果は何時間くらい持続していたか」などを詳しく問診する必要があります。
しかし、患者さんによって痛みの期間やこれまで行ってきた治療、服用してきた薬はそれぞれ異なります。これまでの治療による痛みの変化を正しく把握するためには、個々の患者さんに応じて適切な質問をすることが大切です。
生活への影響
患者さんが感じる痛みによって日常生活にどのような支障をきたしているかを把握することは、適切な治療計画の立案・生活援助の必要度の判断において重要な役割を果たします。
痛みの影響を把握するためには、「重い荷物を運ぶとき」「腰を曲げる、または伸ばすとき」など、日常生活で考えられるさまざまな動作ごとに痛みを評価することが重要です。また、入院患者さんの場合は直接聞くだけでなく日々の行動を観察するのもよいでしょう。痛みにより、日常生活が制限されている範囲が拡大すると、ADLやQOLの低下にもつながるため、どの程度の支障や制限が生じているか、患者さんの思いと合わせて聴取するようにします。
まとめ
NRSとは、患者さんが感じる痛みを「0~10」の11段階に区切って評価する指標です。痛みが全くない状態を「0」、想像できる最大の痛みを「10」として、患者さんに痛みの強さを質問します。
NRSを用いて痛みを評価する際は、患者さん自身が感じる痛みの強さだけでなく、その性質やそれによる影響についても把握することが大切です。
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※当記事は2024年9月時点の情報をもとに作成しています
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