輸血は、外傷や手術などによる大量出血や、白血病、化学療法後の骨髄不全など、さまざまな理由で必要とされる医療行為です。輸血の準備に間違いがあると患者さんに大きなリスクを負わせることになるため、看護師は血液製剤の取り扱いミスや患者さんの取り違えなどがないよう注意を払うことが求められます。
この記事では看護師の方に向けて、輸血の基礎知識や準備方法、手順、副作用について解説します。輸血が必要になった患者さんを担当するときに焦らないよう、事前にやり方を知っておきましょう。
輸血とは?
輸血とは、赤血球や白血球、血小板といった血液成分が減少・機能低下を起こした際に、該当する成分を補充し、症状の改善を図る行為です。輸血は、次のような状況で適用します。
- 外傷や手術などによる大量出血
- 白血病や化学療法後に起こる骨髄不全
- 肝硬変・急性肝不全などの肝不全
- 凝固異常 など
輸血はあくまで血液や血液成分を補充するだけの「補充療法」であり、根本的治療ではありません。
(出典:富山県「血液製剤の取り扱いマニュアル(2019年7月版)」)
(出典:日本赤十字社「輸血とは?」)
輸血の種類
輸血には、成分輸血と自己血輸血の2種類があります。成分輸血は、輸血用血液製剤を使って患者さんに必要な成分のみを輸血する方法です。輸血用血液製剤は、献血者の血液から採取した成分からできています。成分輸血用の輸血用血液製剤には、赤血球製剤・血小板製剤・血漿製剤があります。
自己血輸血は、患者さん本人から採血した血液を、手術中や術後に輸血する方法です。自分自身の血液を体内に戻すため、自己血輸血は輸血のなかでも安全性が高い手法とされ、特に輸血を要する外科手術で推奨されています。
看護師が知っておきたい輸血の準備方法

輸血は緊急性の高い状況、あるいは外科手術を要する状況で準備するケースが多く、プレッシャーによるミスや、焦りによるヒューマンエラーを起こしやすい作業です。また、血液製剤や輸血液の取り扱い方を誤ると患者さんの生命を危機にさらすときもあるので、輸血の準備にあたっては適切な手順を守るのが重要です。
以下では看護師の方向けに、輸血の準備方法について解説します。
(出典:秋田県合同輸血療法委員会「2020年2月 秋田県合同輸血療法委員会看護師部会による看護師のための輸血ポケットガイド 」)
(出典:日本赤十字社「どうやって輸血するの?」)
輸血同意書を取得する
輸血前には、患者さんやご家族に対して輸血の説明(インフォームド・コンセント)を行ったうえで、輸血同意書に署名を依頼します。輸血同意書を取り付ける際には、次の項目を患者さんやご家族に説明しましょう。
- 輸血療法の必要性
- 使用する血液製剤の種類と使用量
- 輸血に伴うリスク
- 医薬品副作用被害救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度と給付の条件
- 自己血輸血の選択肢
- 感染症検査と検体保管
- 投与記録の保管と遡及調査時の使用
- その他,輸血療法の注意点
説明は、患者さんやご家族に分かりやすい言葉で行う必要があります。合意を得て署名された輸血同意書は、1部は患者さんに渡し、医療機関でも診療録もしくは電子カルテに保管します。
輸血前検査を行う
輸血前検査には、輸血用血液製剤の適合性と患者さんの抗体について確認する検査の2種類があります。輸血用血液製剤の適合性は、輸血前検査の時点では通常「ABO式血液型」と「RhD因子検査」を用いて、患者さんの血液との適合性を確かめます。
抗体についての検査は、患者さん全員に行うわけではありません。主に、妊婦さんや輸血の経験がある患者さんなど、特定の患者さんに対して実施します。抗体の検査には、不規則抗体の検査と、白血球の血液型を測るHLA検査があります。
交差適合試験を行う
交差適合試験(クロスマッチ)は、輸血前検査とは別の観点から、患者さんの血液と輸血用血液製剤の適合性を確認する試験です。交差適合試験では、実際に患者さんの血液と輸血用血液製剤を反応させて適合性を調べます。
交差適合試験には、主試験と副試験の2種類があります。主試験と副試験では反応させる検体の組み合わせが異なるため、確認しておきましょう。
患者血清 | 輸血用血液 | |
---|---|---|
主試験 | 血漿 | 赤血球 |
副試験 | 赤血球 | 血漿 |
ただし、次の場合には副試験を省略できます。
- 2回以上異なる時点で採血された検体で、患者さんのABO型を二重チェックした場合
- 血液センターから供給される血液製剤で輸血を行う場合
上記の条件で副試験を省略できる理由は、患者さんの血液型検査が適正に行われており、血液製剤の信頼性が高く、不規則抗体が認められないことが担保されているためです。
血液製剤を出庫・準備する
血液製剤の出庫・準備の方法は、製剤の種類によって異なります。出庫時には、製剤ごとの取り扱いを確認しましょう。血液製剤の様子も確認し、血液バッグの破損や溶血、凝固などが見られる場合は、使用を取りやめてください。
出庫・準備の方法を誤ると、製剤によっては患者さんの命にかかわる変性が起こる恐れがあります。各血液製剤の使用時の温度管理や、冷凍されている血漿製剤の融解方法を確認し、慎重に準備してください。
必要物品を準備する
実際に輸血を行う際に、必要な物品を準備します。輸血の必要物品は次の通りです。
- 血液製剤
- 輸血スタンド
- 膿盆
- 手袋
- 輸血セット
- 交差試験適合票
- 輸血用血液支給票
- 血液型を確認できる書面
- 輸血指示書 など
輸血にあたっては、医療器具以外にも、患者さんや血液製剤の取り違えを防ぐための書類が必要です。血液製剤の出庫・準備と同様、慎重に準備を進めましょう。
輸血前にバイタルサインをチェックする
輸血開始前に、バイタルサインをチェックします。体温、血圧、脈拍を測定します。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)もあわせて測定することが理想的です。
輸血の手順

一般的に、輸血は次の手順で行われます。輸血の手順を確認し、安全にとどこおりなく輸血を行いましょう。
1 | 製剤の外観を確認する |
---|---|
2 | 患者さんの本人確認と製剤を照合する |
3 | ろ過装置を具備した輸血セットで静脈内に輸血を開始する |
4 | 5分間ベッドサイドで患者さんのバイタルチェックと観察を行い、副作用の有無を確認する |
5 | 輸血開始から15分程度の時点で、再度患者さんの観察を行う |
6 | 輸血中、患者さんの状態や輸血の滴下速度を、30分に1回以上継続的に確認する |
7 | 輸血セットのクレンメを閉め、輸血を終了する |
8 | 患者さんの本人確認と製剤の確認を行い、カルテに製造番号を記録する |
9 | 継続的に患者さんを観察する |
手順1では、出庫の時点と同様に、血液の色調変化や溶血、凝固、血液バッグの破損など、外観に異常がないか確認します。外観に異常を認めた場合は、薬剤の使用を取りやめましょう。
手順2で行う患者さんと製剤の確認は、誤りがあると患者さんの命が危険にさらされる恐れがあります。重要な手順なので、必ず複数人で各種情報を確認してください。患者さんの氏名を確認する際には、同姓同名に注意してチェックを行いましょう。生年月日および血液型と合わせて確認すれば、取り違えを防ぎやすくなります。
輸血中の観察で副作用が見られた場合、ただちに輸血を中止します。中止後は医師に連絡し、適宜必要な対処を行いましょう。具体的な対処法としては、点滴セットの交換や生理食塩水をはじめとした等張電解質輸液の点滴などがあります。
輸血にあたっては、輸血前後も輸血中もチェックや観察を頻繁に行います。目安として、輸血開始後5分間はベッドサイドで患者さんのバイタルを確認し、10~15分後に再度バイタルを確認、以後も定期的に様子を観察してください。バイタルチェックや観察は、看護技術と同様に患者さんの命を守るために重要なポイントです。患者さんの状態やバイタルに異常が出たらすぐに対応できるよう、こまめに確認しましょう。
輸血中・輸血後の副作用の注意点

輸血の副作用には、輸血中に認められる副作用と、輸血終了後に認められる副作用があります。輸血開始直後に異変があった場合は、ABO不適合輸血の恐れがあります。ABO不適合輸血で見られる兆候は、次の通りです。
- 発熱
- 悪寒
- 嘔吐
- 疼痛
- 呼吸困難
- 血圧低下
- 血圧上昇
- 顔面紅潮
- 褐色尿(ヘモグロビン尿) など
輸血後に見られる副作用は、アレルギー反応や呼吸不全、ウイルス・細菌感染症などがあります。アレルギー・呼吸不全・感染症で見られる兆候は次の通りです。
- 発熱
- 悪寒
- 頻脈
- 呼吸困難 など
ただし、感染症のなかには輸血数時間後に兆候が見られるケースと、すぐには兆候が確認できないケースがあります。肝炎やHIVなどのウイルス感染症については、輸血2~3か月後の受診時に検査を行います。
まとめ
輸血を患者さんが必要とする状況は、緊急性が高いケースが多いといえます。プレッシャーがかかる状況でも適切に対応できるよう、輸血の方法を知っておくのが重要です。まずは同意書を取得し、血液型・抗体検査や交差適合試験を行います。そのうえで、取り違えがないようダブルチェックをしながら血液製剤および必要物品を準備しましょう。
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※当記事は2024年9月時点の情報をもとに作成しています
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