• 2022年7月4日
  • 2023年8月22日

看護過程とは|5つの要素と展開の手順・書き方を分かりやすく解説

 

看護師の業務において、看護過程の内容や展開方法は押さえるべきポイントです。看護過程は看護師の思考過程を論理的に組み立てたものであり、看護過程の展開によって、看護師は患者さんに適切な看護を提供できるようになります。

看護過程の展開や、アセスメントの書き方で悩んだ経験がある看護師さんも多いのではないでしょうか。当記事では、看護過程の5つの要素、展開の手順、アセスメントをするうえで大切なポイントを紹介します。

看護過程とは?

看護過程とは、看護師が患者さんへ看護を行うときに使用する、問題解決法のことです。看護師は看護過程を展開して、患者さんに対してどのように看護を行うかを決定し、看護を実践します。

看護過程を展開する目的は、「看護師が患者さんの置かれている状況を把握して、患者さんにとって適切なケアを判断して実施する」ことです。看護師は看護過程という問題解決法を用いることで、患者さんに合わせた看護を提供できます。

看護過程の5つの要素|特徴とポイント

看護過程の5つの要素|特徴とポイント

看護過程は下記に示す5つの要素で構成されています。

(1)アセスメント

(2)看護診断

(3)看護計画

(4)看護介入

(5)看護評 

看護現場では、アセスメントから順番に看護過程を展開します。なかでも特に重要な要素がアセスメントです。

アセスメントは情報収集のプロセスであり、収集した情報を基礎として看護診断や看護計画の内容が決定されます。患者さんに合った看護を提供するためには、アセスメントを綿密に行わなければなりません。

以下では看護過程の5つの要素について、具体的な内容や実施するポイントなどを解説します。

アセスメント

アセスメントは患者さんの情報を収集し、情報を整理・分析・評価するプロセスです。看護師がアセスメントで収集する情報には、主観的情報と客観的情報の2種類があります。

主観的情報 患者さんが感じる痛みや不調など、患者さんとの対話から得られる情報
客観的情報 ィジカルアセスメントで得た患者さんの状態、既往歴、検査データなどの数値化・視覚化して確認できる情報

看護師は収集した情報を整理し、症状・疾患についての知識と照らし合わせて分析します。分析の結果により、患者さんが抱える健康上の問題を把握することがアセスメントの目的です。

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看護診断

看護診断は、アセスメントで把握した患者さんの問題を分類し、看護師の介入で解決・軽減できる問題を明確化するプロセスです。

看護師は患者さんの問題に対して、誰もが共通認識を持てるように看護診断名をつけます。看護診断名には一般的に「NANDA-I看護診断」などの看護診断集が用いられ、表現を統一しています。

NANDA-I看護診断は「ヘルスプロモーション」「栄養」「排泄と交換」などの13領域があり、患者さんの問題を3つの診断タイプに分類して表現します。

NANDA-I看護診断13領域

領域1:ヘルスプロモーション 領域8:セクシュアリティ
領域2:栄養 領域9:コーピング/ストレス耐性
領域3:排泄と交換 領域10:生活原理
領域4:活動/休息 領域11:安全/防御
領域5:知覚/認知 領域12:安楽
領域6:自己知覚 領域13:成長/達成
領域7:役割関係  
(出典:NANDA-I看護診断 定義と分類 2021-2023 原書第12版

NANDA-I看護診断の診断タイプ

実在型看護診断 具体的な症状が現れている状態を記述する
リスク型看護診断 具体的な症状は出ていないものの、症状の発生につながる危険因子があり、将来的に問題となり得る状態を記述する
ウェルネス型看護診断   健康増進について、より良いレベルを目指す意欲や願望がある状態を記述する

看護診断で明確化した問題が複数挙げられた場合は、危険性や緊急度によって問題に優先順位づけを行います。優先順位のつけ方は、マズローの欲求5段階説に当てはめる方法が広く行われています。

マズローの欲求5段階説というのは、人間の欲求を5段階に理論化したものです。人には5段階の欲求があり、「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の順で欲求を満たそうという基本的な心理行動を表します。

マズローの欲求5段階説に則ると、低次の欲求が満たされなければ、高次の欲求も満たされません。看護診断の問題も同様に、低次の欲求につながる問題ほど優先度が高いといえるでしょう。

看護計画

看護計画は、看護診断で明確化した問題の対策となる目標設定と、計画立案を行うプロセスです。目標は、問題そのものの解決・軽減を目指す「長期目標」と、長期目標を段階的に達成するための「短期目標」に分けて設定します。

計画立案では、目標を達成するための計画を「観察計画」「援助計画」「教育計画」という3つの観点で立案します。

観察計画(O-P) 患者さんの検査データやバイタルサインなど、観察により得るべき情報を記述する
援助計画(T-P) 患者さんに対して直接行う、輸血交換やトイレ介助などの看護ケアを記述する
教育計画(E-P) 患者さんや家族に対して行う指導・教育の内容を記述する

看護計画を立案した後は、患者さんと家族に計画書を見せながら内容を説明し、承認を得ましょう。

看護介入

看護介入は、看護師が患者さんに看護ケアを行うプロセスで、基本的には立案した看護計画の内容に沿って進めます。

ただし、患者さんの状態は常に変化する可能性があるため、実際の看護ケアが看護計画の内容そのままに進むとは限りません。看護介入を行う看護師は、患者さんの反応を観察して、安全面やプライバシーにも注意しながら適切な看護ケアを提供しましょう。

看護介入を実施した後は、行った看護内容や主観的情報・客観的情報を経時記録に記入します。

看護評価

看護評価は、アセスメントから看護介入までの成果を分析し、評価するプロセスです。看護評価は下記の3段階で行います。

●目標と成果を照らし合わせたときの達成度

看護計画で設定した目標と、患者さんが得られた成果を照らし合わせて、目標をどの程度達成できたかを評価します。

●達成度に影響を与えた各種要因の特定

達成度に影響を与えた要因を「患者さんの要因」「看護師の要因」「そのほかの要因」に分けて特定し、どのように影響したかを評価します。

看護過程の終了・継続・修正

目標の達成度や評価をもとに、看護過程を終了するか、もしくは継続・修正を行うかを決定します。

看護過程は1回行えば終了というわけではなく、目標の達成度によっては継続や修正を行うことがあります。患者さんに合ったより良い看護を提供するためには、看護介入を実施するたびに看護評価を行い、看護過程の見直しを行うことが大切です。

看護過程の展開で重要なポイント

看護過程の展開で重要なポイント

看護過程はつながりを意識して展開する前提で設計されていることから、原則を無視した方法で実践すると、患者さんに合わせた看護を提供できないリスクがあります。そのため、5つの要素のつながりを意識し、展開することが大切です。

「つながりを意識する」とは、前のステップの内容をふまえて次のステップを行うことを意味します。たとえば、アセスメントの内容をもとに看護診断を行う、看護計画に沿った看護ケアを実践することが、つながりを意識した看護課程の展開です。

看護過程の展開と書き方

看護過程の展開と書き方

看護過程の要素にはそれぞれ、実施する際に意識すべきポイントがあります。アセスメント・看護診断・看護計画の展開や書き方のノウハウを把握し、看護過程を実施する場面に備えましょう。

アセスメント

アセスメントは下記の手順で書きましょう。

(1)看護的視点に基づき、患者さんの反応について「解釈した結果」を記述する

(2)患者さんの反応が生じた「関連因子(原因・誘因)」を記述する

(3)患者さんの反応を改善できる「強み」を記述する

(4)患者さんの反応について、今度どのようになるかの「なりゆき」を記述する

患者さんの現在・過去・未来にかかわる情報を4つのステップに分類することで、情報を整理したアセスメントが書けます。

アセスメントの中で「解釈した結果」を書くパートを例に、基本的な書き方を解説します。

「解釈した結果」の書き方例

「アセスメント項目」の点では、「情報A」と「情報B」により、「解釈した結果」であると考えられる。

「アセスメント項目」とは、患者さんの問題を枠組み化して定義したパターンのことです。アセスメント項目はゴードンの「11の機能的健康パターン」という、基本的なアセスメントの枠組みを11の機能に分けたパターンの中から記述します。冒頭に「アセスメント項目」を書くことで、「どのようなパターンについて書くか」を読み手に伝えられます。

「情報A」や「情報B」は、「アセスメント項目」を解釈する際に必要となる情報を記述しましょう。たとえば「健康知覚・健康管理」では、患者さんの健康状態や病気への理解を記述します。

アセスメントのOK例・NG例を挙げて、それぞれのポイントや注意点を解説します。

OK例(解釈した結果)

睡眠状態の点で、入院前は約7~8時間寝ていたが、入院後は4~5時間しか寝られなくなっており、「夜中急に目が冴えて眠れなくなる」とも訴えている。よって睡眠状態が不良であると考えられる。

問題を解釈するためには、解釈の根拠となる適切な情報を記述しましょう。OK例では、入院前と入院後の睡眠時間を記述することで、患者さんの睡眠状態が変化した点を説明できています。

NG例(関連因子)

睡眠状態が悪化している原因は、服用中の薬が原因であると考えられる。

関連因子を分析するときは、提示する情報に具体性を持たせなければなりません。服用中の薬を原因とする場合は、薬の名称や服用量・服用時間も記述しましょう。

看護診断

看護診断で挙げられる問題は1つとは限りません。複数の問題が挙げられた場合は優先順位をつけて、取り組む順番を明確化することが大切です。

看護診断で優先順位をつける際には、重要度や危険度を考慮する必要があります。早期の介入が必要な危険度が高い問題と、そうでない問題に分類し、判断するとよいでしょう。危険度の分類例には、以下が挙げられます。

危険度・優先度 問題の内容
高い 患者さんの生命に関わりうる重大な問題 呼吸障害・高体温・自殺や自傷リスク・人工呼吸器チューブの自己抜去 など
中程度 患者さんの疾患が重篤化するなど、治療の遅延や苦痛を起こしうる問題 合併症のリスク・転倒や落下のリスク・せん妄の兆候 など
低い 患者さんの日常生活を不快にする問題 食事、入浴、更衣への不満 など

また、リスクの裏付けや問題の顕在化についても確認しましょう。顕在化する可能性が高い、もしくはすでに顕在化している問題は、優先的な対処を検討する必要があります。

複数の問題を同時並行で対処すると、優先度の高いものへ費やす時間が減少し、症状の悪化を招くリスクがあります。患者さんの利益につながる看護ケアを実践するためにも、看護診断のプロセスでは優先順位の検討が欠かせません。

看護計画

看護計画は一般的に、看護診断で挙げた問題ごとに目標と計画を記述する形式で作成します。以下は、目標の欄を記述する際のポイントです。

  • 患者さんを主語にして、具体的に記述する
  • 看護師の働きかけで、解決できる内容を検討する
  • 優先順位をつける

看護計画に記述した目標は後に振り返りを行い、達成度の分析・評価を行います。事後評価の客観性を高めるためにも目標には期日・数値データなどを含めて、具体的に記述しましょう。看護計画は看護ケアに関する記録であることから、医師目線の目標を記述することは不適切です。そのため、目標設定では看護師ならではの視点をいかし、内容を検討する必要があります。

看護計画立案がスムーズに進まない場合は患者さんとの対話不足が疑われるため、アセスメントに一旦戻り、さらに詳細な情報収集を行うとよいでしょう。ただし、闇雲にアセスメントを繰り返しても有益な情報を得られない可能性が高いため、当初実践した際とは異なる視点のアプローチを行うことが大切です。

看護過程において重要なアセスメントをするうえで大切なこと

看護過程において重要なアセスメントをするうえで大切なこと

看護過程の第1要素にあたるアセスメントでは患者さんの情報を過不足なく収集することが大切です。そして、収集した情報はSOAPの「S」「O」として、記録化を行います。

SOAPとは、主観的情報(S)・客観的情報(O)・アセスメント(A)・計画(P)の形式で看護過程を記録する手法です。アセスメントで収集した主観的情報はSOAPの「S」、客観的情報は「O」として振り分け、看護診断や看護計画へとつなげます。

患者さんの情報を過不足なく収集するためには、記録からの収集と質問による収集の両方を行うことが必要です。記録からの収集では診療録や看護記録を確認し、診断名・入院に到った原因と経過・主訴などを調査します。そのうえで不足する情報は患者さんに質問し、問題を把握注意する点はS情報とO情報にない推測は入れないことです。

また、アセスメントでは患者さんを観察して、得られた情報も活用します。観察で得られた情報を看護理論に沿って整理すれば、今後の看護計画のヒントが得られるでしょう。 アセスメントの情報整理で活用される代表的な看護理論には、以下のようなものがあります。

  • ヘンダーソン「14の基本的欲求」
  • ロイ「4つの適応様式」
  • ゴードン「11の機能的健康パターン」

それぞれの看護理論は重視するポイントが異なるため、特徴をふまえて、適したものを活用することが重要です。

看護過程の展開で使われるヘンダーソンの「14の基本的欲求」について

看護過程の展開で使われるヘンダーソンの「14の基本的欲求」について

ヘンダーソンは、「呼吸する」「移動する」など人間が持つ基本的な欲求に基づく看護ケアを体系化した、アメリカの看護理論家です。ヘンダーソンは看護師の機能を「相手が病気を抱えている・いないにかかわらず健康な生活を送れるように援助すること」としました。
(出典:厚生労働省「看護の独自の機能について」

ヘンダーソンの看護理論では、看護師が支援を実施する際に「誰もが持つ基本的な欲求を意識すること」が重視されます。

ヘンダーソンの看護理論は看護過程の展開でよく活用される考え方であるため、概要だけでも知っておくと、実践の場で役立つでしょう。以下では、ヘンダーソンの看護理論における基本的欲求を項目別に紹介します。

6-1. ヘンダーソンの「14の基本的欲求」の項目と必要な情報

ヘンダーソンは人間が持つ基本的欲求として、14の項目を挙げています。アセスメントで収集が必要な情報の例は、下表の通りです。

1 正常に呼吸する 呼吸数、呼吸のリズム・深さ、脈拍数、心拍音・心音など
2 適切に飲食する 食事時間・回数、嗜好品、食事内容、食欲、アルコール摂取の有無、血糖値など
3 身体の老廃物を排泄する 排尿・排便の回数、色、1回量、臭い、方法、下剤の服用の有無など
4 移動する、好ましい肢位を保持する 身体活動量、筋力、筋骨格系の外観、歩行状態、麻酔や骨折の有無など
5 眠る、休息する 睡眠時間、睡眠パターン、療養環境、ストレス反応など
6 適当な衣類を選び、着たり脱いだりする 認知機能、ドレーン挿入や点滴実施の有無、運動機能、運動麻痺の有無など
7 衣類の調節と環境の調整により、体温を正常範囲に保持する 温度、湿度、発熱や感染症の有無、バイタルサインなど
8 身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する 入浴回数、入浴方法、爪や毛髪の状態、麻痺や骨折の有無など
9 環境の危険因子を避け、また、他者を傷害しない 認知機能、瞳孔の状態、皮膚損傷の有無、感染予防対策など
10 他者とのコミュニケーションを持ち、情動、ニード、恐怖、意見などを表出する 性格、自尊感情、言動、聴力、視力、言語機能など
11 自分の信仰に従って礼拝する 信仰の有無、信念・ポリシー、意思決定に影響する価値観など
12 達成感のあるような形で仕事をする 職業、社会的地位、家庭内の役割、ボランティア活動など
13 遊ぶ、あるいは、ある種のレクリエーションに参加する 趣味、運動機能、認知機能、療養中の気分転換方法など
14 正常な成長発達および健康へとつながるような学習をし、発見をし、好奇心を満たし、また、利用可能な保健設備等を活用する 疾患や治療に対する理解度、服薬状況など
(出典:厚生労働省「看護の独自の機能について」

なお、ヘンダーソンの看護理論に沿ってアセスメントを行う際には、事前に基本的欲求に影響を与える「常在要件」や「病理的状態」を整理して把握する作業も必要です。常在要件には、「年齢」「気質、感情の状態」「一過性の気分・社会的ないし文化的状態」「身体的ならびに知的能力」が含まれます。病理的状態とは、飢餓状態・意識障害など、病気によって患者さんの身体に発生した変化のことです。

14の基本的欲求の現れ方や常在要件・病理的状態は患者さんごとに異なるため、個別的な看護を提供するためには、アセスメントによる情報収集が欠かせません。アセスメントを実施する際には目的も強く意識し、過不足ない情報収集に努めましょう。

まとめ

看護過程の展開は、患者さんに合った看護を提供するために必要な行為です。看護過程はアセスメントから始まり、看護診断・看護計画・看護介入を経て、看護評価までが1つのサイクルとなります。適切なアセスメントのために、質問とともにヘンダーソンの「14の基本的欲求」をはじめとした看護理論を利用して患者さんを観察し、その後のサイクルにつなげましょう。

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※当記事は2023年4月時点の情報をもとに作成しています

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