災害看護は、発災時の減災・救命・救助、避難生活における被災者の健康維持に、重要な役割を果たします。被災地で適切な看護ケアを行うためには、災害看護に関する基礎知識を正しく身につけることが重要です。
この記事では、災害看護の概要と災害の種類、災害サイクル別に看護師へ求められる役割を解説します。災害看護を実践する方法と活動現場で意識すべきポイント、看護師に求められるスキルも紹介するため、災害看護活動に興味がある人はぜひ参考にしてください。
災害看護とは?
災害看護とは、国内外で災害が発生した際に医療や看護の知識・技術を提供し、ほかの専門分野と協力・連携しながら行う看護活動です。被災者の生命や健康におよぶ被害を最小限に抑えるため、災害救急医療・精神看護・感染症対策・保健指導など幅広い分野で活動します。
一口に災害看護といっても、災害の種類や災害サイクルの段階、看護現場によって看護師に求められる活動内容やスキルは異なります。災害看護への従事を希望する際は、自分がどの段階の支援に携わるかも考慮して勤務先・登録先を選択することが大切です。
災害の種類
災害看護の現場として想定される災害は、「自然災害」と「人為的災害」の2種類に大別されます。以下は、各災害の特徴と、災害発生に伴って予想される代表的な疾病およびケガの種類です。
【自然災害】
地震 | |
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災害の特徴 | 都市部で地震が起こった場合、建物の倒壊による死傷者が多い傾向です。地震と連動して火災や山崩れ、土石流が発生すると、より被害が拡大します。 |
予想される疾病・ケガ |
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津波 | |
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災害の特徴 | 地震や火山の噴火などに伴って発生する災害です。溺死のリスクが高いとともに、機械損傷も多発します。 |
予想される疾病・ケガ |
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風水害(台風・洪水) | |
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災害の特徴 | 暴風雨が発生した場合、家屋の損傷や高所からの落下物、地滑りなどが原因となる地震と同様の機械的損傷が多い傾向です。河川が決壊し洪水が発生すると、溺死のリスクとともに衛生環境の悪化に伴う感染症の蔓延が危惧されます。 |
予想される疾病・ケガ |
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竜巻 | |
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災害の特徴 | 竜巻へ吸い上げられることによる高所からの落下や損壊した家屋の下敷き、飛来物との衝突などによる機械的外傷を受ける人が多い傾向です。 |
予想される疾病・ケガ |
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火山噴火 | |
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災害の特徴 | 火山の爆発による噴石落下や降灰、火砕流、有毒ガスの発生により被害が発生します。 |
予想される疾病・ケガ |
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干ばつ | |
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災害の特徴 | 干ばつが起こると食料の供給不足による飢餓が増加する傾向です。特に5歳以下の乳幼児に大きな被害が及びます。 |
予想される疾病・ケガ |
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【人為的災害】
交通事故(列車事故含む) | |
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災害の特徴 | 交通事故では、急激な外圧が加わることによって受ける機械的外傷が最多となります。最も多い死亡原因は圧死です。 |
予想される疾病・ケガ |
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爆発(爆弾含む) | |
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災害の特徴 | 爆弾などの爆発に巻き込まれると、急激な気圧変化や爆風によるケガを負います。 |
予想される疾病・ケガ |
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大火災 | |
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災害の特徴 | 大火災では、炎や熱による熱傷や呼吸器系の障害を負うほか、遠隔地においても煙害が発生しやすい傾向です。林野火災によって大気が汚染され、健康被害が発生することもあります。 |
予想される疾病・ケガ |
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NBC災害 | |
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災害の特徴 | NBC災害はテロ行為によってもたらされる人為的被害のことです。核・放射線・生物剤・化学物質による攻撃が想定されており、特殊な対応が必要とされます。 |
予想される疾病・ケガ |
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【災害サイクル別】看護師に求められる役割

災害発生時の医療現場では、医療・看護に当たれる人材が限られるうえに、十分な医療資材を確保できない状況が想定されます。また、確実な安全が保証できない状況下での活動も必要となるため、看護師にも避難誘導や精神的ケアなど通常の看護業務より幅広い活動が求められるでしょう。
ここでは、災害サイクルの段階別に必要とされる看護活動を解説します。
【急性期】発生直後~72時間
看護師は、災害発生直後から72時間経過までの急性期において、主に以下の活動を行います。
【状況把握】
- 施設の被害状況確認
- 指示命令系統の明確化および共有
- 活動可能な看護レベルの把握
- 災害対策本部・各医療機関・支援部隊との連携
- 施設内の滞在者全員との情報共有
- 使用可能な医療機器などの確認・配置
【安全確保】
- 患者さんの安全確保対策
- 二次災害防止対策
- 避難経路確認、および避難誘導
- 医療機器などの損壊状況に応じた患者・被災者の移送手配
- 施設内の危険な場所の把握、立ち入り禁止区域指定
【ライフライン確保】
- 施設内にあるライフラインの稼働状況を確認
- 非常設備の稼働準備
- 食料・医療品・衛生材料の確保および管理
【被災者対応】
- 被災者の受け入れ体制構築
- 軽症者に対する処置
- 中等症~重症患者に対する初期治療
- 被災者・患者・家族に対する身体的・精神的支援
- 緊急ベッドなどの設置
- 生存者の救出
- 遺体の処置
- 遺族へのケア
【人材確保】
- 職員の安否確認
- 参集できた職員の人数に応じた人材の再配置・シフト調整
- 他医療機関への応援要請
【亜急性期】急性期後~約1か月
看護師は、災害急性期後から約1か月経過までの亜急性期において、主に以下の活動を行います。
【安全管理】
- 標準予防策・経路別感染対策実施による感染制御
- 非常時における感染対策指針の活用
- 二次災害防止に向けた施設内の環境整備
【他機関との連携】
- 施設の被災状況及び患者さんの容態を踏まえた転院調整
- 外部支援団体との連携
【通常診療への移行準備】
- 施設復旧状態の確認・把握
- 通常の診療体制に向けた調整
- 衛生物品・薬品などの必要物資確保
【被災者対応】
- 避難所などへの巡回派遣体制構築
- 被災者に対する精神的ケア
- 環境・保健衛生の調査・指導
- 感染症罹患・拡散状態の調査
【人材確保】
- 確保可能な人材の評価
- 被災直後より勤務する職員に対する精神的ケア
- 遅参した職員に対するフォロー
- ボランティア導入の検討
【慢性期】約1か月~1年
看護師は、災害発生約1か月後から1年経過までの慢性期において、主に以下の活動を行います。
- 亜急性期までに行ってきた看護活動の継続・終了を検討
- 施設や地域の復旧状況を把握
- 自他に対する受援・支援を検討
- 各支援団体からの引継ぎ
- 被災者・患者さんの心身状態の把握・支援・ケア
- 感染症・高血圧症・慢性疾患の看護
- 通常業務へ移行
【静穏期】災害発生前の数年間
看護師は、慢性期から災害が再発生するまでの静穏期において、主に以下の活動を行います。
【人材育成】
- 災害に対する教育プログラム作成
- 災害発生時に向けた災害看護教育
【各種点検】
- 部門ごとの災害対策マニュアル・安全マニュアルを整備
- 施設の食料備蓄状況を確認
- 防災物品・備品の保管場所・状況を確認・把握
- 施設の耐震性・防火性を確認
- 医療機器などの定期点検・整備
- 医療機器の停電時対策を優先度の高い順に実施
- 危機管理体制の点検
- 緊急時の連絡手段構築
【防災訓練実施】
- 防火設備や器具、資機材の設置・保管場所および使用方法の確認・把握
- 避難経路・誘導方法の確認
- 緊急時の導線を把握
- 災害時の配置想定を確認
- 地域関係機関・地域住民との共同防災訓練実施
【災害ネットワーク形成・確認】
- 緊急時に連携すべき関係機関の確認
- 看護支援ネットワーク構築
- ボランティア活用方法の確認
- ボランティアへの依頼項目整理
災害看護では、臨機応変な判断と的確な行動が重要です。平時から災害を想定した準備を怠らないことで、災害発生時に冷静かつ適切な看護活動が可能になります。
災害看護を実践するには?

一般的な病院勤務であっても、災害看護に参加することは可能です。確実に災害看護を実践したい場合は、下記の方法を取るとよいでしょう。
- 災害支援ナースに登録する
- 災害拠点病院に勤務する
- DMATに所属する
ここでは、実際の災害現場で災害看護を実践するための方法を解説します。
災害支援ナースに登録する
災害支援ナースとは、被災地に派遣され適切な医療・看護提供を行う看護師のことです。自己完結型を基本としており、被災者の健康レベル維持を支援するとともに、自分たち自身も被災者となった看護職の負担を軽減する役割を果たします。
登録先 | 会員として所属する都道府県看護協会 |
---|---|
主な活動場所 |
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活動期間 | 災害発生後3日目~1か月後まで |
派遣期間 | 1人につき3泊4日(移動時間含む) |
下記は、災害支援ナース登録に必要な条件です。
- 都道府県看護協会の会員へ登録
- 5年以上の実務経験
- 所属する施設の所属長からの承諾
- 災害支援ナースを養成する研修の受講
また、災害支援ナースには、下記の条件を満たすことが望ましいとされています。
- 日本看護協会・都道府県看護協会が開催する、災害看護研修か合同防災訓練への定期的な参加
- 災害看護支援活動が補償の対象となる賠償責任保険制度に加入
- 被災地からの帰還後は都道府県看護協会主催の報告会・交流会へ参加
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護実践情報 災害看護」)
(出典:公益社団法人 日本看護協会「災害支援ナース派遣要領」)
災害拠点病院に勤務する
災害拠点病院とは、災害発生時に被災地域内の医療・看護活動全般を支援する際の拠点となる病院のことです。災害拠点病院は、下記のような機能を備えた救急救命センターもしくは第二次救急医療機関を指します。
- 24時間の緊急対応が可能
- 災害発生時に被災地内の傷病者受け入れ・搬出が可能
- ヘリコプターが使用可能で、搬送時の同乗医師を派遣可能
- 傷病者・医療物資のピストン輸送を行う拠点として稼働可能
- DMATの保有および受け入れ・派遣体制、情報収集システムを整備済み
- 孤立状態で3日以上稼働可能な備蓄・医療体制を保有
基幹災害拠点病院は各都道府県に1か所、地域災害拠点病院は2次医療圏に1か所設置することが原則です。2021年4月時点で災害拠点病院に指定を受けている病院は、全国で759か所あります。勤務先の施設で被災者への災害看護へ従事したい場合は、災害拠点病院の求人情報を探して応募するとよいでしょう。
(出典:厚生労働省「災害拠点病院指定要件の一部改正について」)
(出典:独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター「災害拠点病院とは」)
(出典:厚生労働省「災害拠点病院一覧」)
DMATに所属する
DMATとは、専門的な訓練を受け高い機動性を持つ、医師・看護師・業務調整員で構成された災害医療チームです。災害発生直後の急性期から被災地へ現地入りし、災害現場で行われる救助・救護活動と平行しながら、いち早い救命活動を行います。
下記は、DMATに所属するための要件です。
- DMAT指定医療機関に所属
- 日本DMAT隊員養成研修の受講、筆記・実技試験合格
DMATに所属するためには、まずDMAT指定病院・災害拠点病院など指定の医療機関に勤務することが最低条件となります。所属するDMAT指定医療機関から隊員候補に選抜された後、養成研修を経て試験に合格することで隊員資格が取得可能です。
医療機関によって基準は異なるものの、急性期医療に携わる診療科に所属するほうが選ばれやすい傾向にあります。DMATへの所属を希望する場合は、DMAT指定医療機関の求人情報を探して応募するとよいでしょう。
(出典:厚生労働省「DMAT事務局」)
災害看護で意識すべき7つのポイント

災害発生直後の混乱した状況の中で1人でも多くの被災者を救うためには、「CSCATTT」の考え方を意識することが大切です。CSCATTTとは、災害発生時における医療活動の原則となる、組織体制4つと医療支援3つの頭文字を取った言葉です。
組織体制 | |
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Command & Control 指揮と連携 |
災害発生時の混乱した状況下で、迅速かつ的確な医療活動を行うための指揮命令系統を確立し、各組織間の連携を円滑にします。 |
Safety 安全 |
二次災害の発生を防ぐためには、3Sの安全を確保することが重要です。
災害発生現場で安全が確保できないと判断される場合は、責任者へ通達し避難の原則に従って速やかに退避した後、安全の確保を待ちます。 |
Communication 情報伝達 |
TV・ラジオ・インターネット・無線機・電話などから現状を把握し、医療組織・警察・消防・救援機関・被災者と情報を共有し意思の疎通を図ることが重要です。 |
Assessment 評価 |
医療施設の損壊具合や危険な場所、負傷者数などの状況を把握し、被災地の負傷者数・危険地域などを踏まえたうえで患者さんの受け入れの可否を判断します。 |
医療支援 | |
---|---|
Triage |
災害現場・病院来院時・広域搬送時には被災者の緊急度を見極めたうえで、治療の優先度・搬送の順番を決定するトリアージが必要です。 |
Treat |
トリアージで緊急度が高いと判断された被災者から順番に、傷病に適した治療を実施します。 |
Transportation |
各病院のライフライン・人材・使用器具の在庫・確保状況を考慮したうえで、患者さんの最適な搬送先を選択することが必要です。 |
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災害看護で看護師に必要なスキル

災害看護に赴く看護師には、冷静な判断力や豊富な経験以外にも以下のスキルが求められます。
調整能力 |
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災害発生時に看護師派遣のニーズが最も高いのが、病院です。災害時にも稼働能力を持つ病院には、災害が原因の傷病者だけでなく、かかりつけ病院が利用できなかった患者さんも増えます。 また、病院そのものや勤務する医療従事者が被災することで、物資・人材不足に陥ることも少なくありません。初めて訪れる病院で初対面の人の中でも状況に応じた配置・業務調整能力は、災害看護の現場で必要とされます。 |
コミュニケーション能力 |
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初対面の患者さんが相手でも速やかに意思が疎通でき、円滑な人間関係を作れるコミュニケーション能力は災害看護の現場でも重要性の高いスキルです。被災地では、普段の看護よりも患者さん一人ひとりに割ける時間が少なくなります。短い時間でも患者さんの心に配慮し、必要な情報を聞き取り理解するスキルは不可欠といえるでしょう。
また、被災地ではパニック状態に陥る人や、1人でストレスを抱え込む患者さんが増える傾向です。患者さんを落ち着かせたり、精神的なケアをしたりするスキルも求められます。 |
体力・精神力 |
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被災地での救命・看護活動では、普段よりも短時間で多くの患者さんと接します。災害発生場所が平坦とは限らず、現場の環境が整う前から活動を開始することも多いため、どのような場所でも機敏に動けるだけの体力が必要です。
また、平時に比べて救えるはずの命を救えないことや、遺族と向き合う機会が増えることで、看護師自身も大きなストレスを抱え込みやすくなります。十分な休養も取りにくいため、慣れない環境下でも自分を強く保てるだけの精神力も必要です。 |
「一人でも多くの患者さんを救いたい」という気持ちを実現するためには、看護師自身にも災害看護に向いたスキルが必要となります。災害看護での従事を考えるのであれば、被災地で求められるスキルを磨くことが大切です。
まとめ
災害看護は、災害発生によって脅かされる命を1つでも多く救い、患者さんの健康を少しでも早くを取り戻すべく尽力する看護活動です。災害サイクルの段階や派遣先によって必要な知識や技術が異なるため、自分が希望する災害看護の形に応じて勤務先を選んだほうがよいでしょう。
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※当記事は2022年4月時点の情報をもとに作成しています
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