『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル>より抜粋。第6回は《各論》術後回復を助けるための”エッセンス”10項目の「項目3【術前から術直後】ほかにも知りたい! ナースにできること」として、項目1、項目2以外にも、術前・術直後にナースができることを紹介いたします。
立石 渉 (東京女子医科大学東医療センター 心臓血管外科 助教、NST)
術前からのリハビリで、術後の回復を促進
後述の「項目8」の通り、術後のリハビリテーション(以下、リハビリ)は重要ですが、術前からリハビリを行うことで、図1のように術前の状態を術後リハビリの目標として活用することもできます。
近年ではprehabilitation(プリハビリテーション)といって、術前に運動療法(疼痛回避動作や咳嗽・呼吸の訓練も含む)、栄養指導、不安軽減を行うと術後の身体機能回復が改善するという報告(引用文献1、2)もあり、ERAS®を採り入れるならぜひおさえておきたい事項です。 術後のみでなく、術前にも積極的なリハビリの指導・介入をしてみましょう。
図1 リハビリテーションのめやす
術前からのデータ把握で、早期異常を見落とさない
ERAS®では、早期離床・食事開始を進めることが大切です。しかし、回復の促進に目が行き過ぎ、異常が察知できず、逆に状態が悪化するケースがあります。また、手術等で医師が対応できず、データの把握が遅れることもあるでしょう。
そのため、ナースが血液検査やレントゲン写真、心電図など術前のデータを把握し、早期に術後の異常を察知するために、どこに気をつけなくてはならないのか? ということを整理しておく必要があります。
術前データとの比較で現在の問題点が浮き彫りになるはずです。特に術前に異常なデータが多い患者(いわゆるハイリスク症例)を受けもつ際には、早期異常察知のために術前から常にデータのチェックと評価をするようにしましょう。また、ハイリスク症例であるかを理解するためにも、医師に患者の情報を聞くのもよいでしょう。
術中・術後は体温維持をしっかり!
術後にシバリングを見かけたことがあるでしょうか? これは、術中の低体温によって起こります。術中はさまざまな要因により体温が低下してしまいます(図2-①)。その結果、多様な合併症を引き起こす可能性があります(図2-②/引用文献3)。
つまり、術中はもちろん、術後にも十分な加温が必要です。
また、シバリングが止まっても、じつはまだ温度調節が不十分ということもあります。中枢温(腋下)と末梢温(皮膚)の差もチェックし、差が大きいようなら加温は継続しましょう。また循環不全(循環血液量の不足)でも、末梢血管が収縮するために末梢温が低下しますので温度のチェックは重要です。
シバリングが起きてしまった際には、患者の不安を軽減するために術後の生理的反応であることを説明するほか、こまめに声かけをしましょう(家族がいる場合、家族へも説明します)。
図2 体温低下の原因と引き起こされる合併症
1.Gillis C,Li C,Lee L,et al.:Prehabilitation versus rehabilitation:a randomized control trial in patients undergoing colorectal resection for cancer.Anesthesiology 2014;121(5):937-947.
2.Tsimopoulou I,Pasquali S,Howard R,et al.:Psychological Prehabilitation Before Cancer Surgery: A Systematic Review.Ann Surg Oncol 2015[Epub ahead of print].
3.松川隆:麻酔薬と体温調節機構について.山梨医科学誌 2007;22:13-20.

東京女子医科大学東医療センター 心臓血管外科 助教、NST
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[出典]エキスパートナース2015年12月号 P.68~「術後のつらさを改善する【10項目】ナースができる! ERAS?(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル」