シリンジポンプは、薬剤を正確かつ安全に投与するために欠かせない医療機器です。特に、少量で高濃度の薬液を一定速度で注入する場面では、シリンジポンプの高い精度が求められます。しかし、正確な操作手順や安全な使用方法を理解し、適切に運用しなければ、患者さんの健康に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
当記事では、シリンジポンプの基本的な機能、輸液ポンプとの違い、正しい使用手順などを詳しく解説します。
シリンジポンプとは?
シリンジポンプは、薬液を精密に注入するために使用される医療機器です。薬液をセットしたシリンジ(注射器)のプランジャー(内筒)を、機械で押し出すことで正確な投与を実現します。
シリンジポンプは、特に少量かつ高濃度の薬液を一定速度で持続的に注入する必要がある場合に利用する機器です。微量で正確な投薬管理が必要な場合に使用されます。
(出典:旭川医科大学病院 診療技術部 臨床工学技術部門「ME機器」)
(出典:旭川厚生病院 臨床工学技術部門「シリンジポンプ編」)
シリンジポンプと輸液ポンプの違い
シリンジポンプと輸液ポンプは似た目的で使用される機器ですが、特性が異なります。輸液ポンプは主に点滴静脈注射で薬液を一定速度で注入する際に適しており、流量設定範囲が広いのが特徴です。一方、シリンジポンプは微量の薬液を高い精度で注入するのに適しています。
輸液ポンプの流量誤差はプラスマイナス10%以下で、24時間の点滴や術後の水分補給など、多量の液体を注入する場合や、長時間かけて微量の薬液を注入する場合に向いた機器です。一方、シリンジポンプは0.1ml単位の微細な流量調整が可能で、薬液の流量誤差がプラスマイナス3%以下に抑えられるのが一般的です。この流量精度の高さから、少量でも体に大きな影響を与える薬液の投与に適した機器です。
用途に応じてこれらを使い分ける、もしくは併用することで、患者さんに安全な治療を提供できます。
(出典:旭川医科大学病院 診療技術部 臨床工学技術部門「ME機器」)
(出典:旭川厚生病院 臨床工学技術部門「シリンジポンプ編」)
(出典:旭川厚生病院 臨床工学技術部門「輸液ポンプ編」)
シリンジポンプの使用方法

安全な薬剤投与には、シリンジポンプの正確な使用が欠かせません。ミスを防ぎ患者さんに適切なケアを提供するためにも、正しい手順を再度確認しておきましょう。
1 | 準備を行う |
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まずは注射指示箋を確認し、以下の点が正しいかを確認します。
次に、手洗いや手指消毒を十分に行い、下記の必要な物品を用意しましょう。
その後、シリンジに薬剤を充填し、延長チューブを接続してチューブ内に薬液を満たしておきます。機械の作動状況に加え、破損や異常がないことの確認も重要です。 |
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2 | 患者さんに声をかける |
患者さんに薬剤投与の目的と方法を説明し、同意を得ます。患者さんの本人確認はフルネームで行い、不安や質問がないかも確認しましょう。患者さんとの丁寧なコミュニケーションは、治療への理解と安心感を高める重要なステップです。 | |
3 | シリンジをセットする |
シリンジをシリンジポンプにセットします。シリンジの外筒のつばを固定部(スリット)に、内筒のつばを押し子へ確実に取りつけ、シリンジホルダーを固定しましょう。シリンジサイズが正しく表示されていることを確認し、誤差を防ぎます。 | |
4 | 流量を設定する |
注射指示箋に基づき、正確な流量を設定します。この際、サイフォニング現象(高低差による薬液の急速注入、もしくは逆血)が発生しないよう、シリンジポンプの高さを患者さんの高さとそろえて調整することが大切です。 | |
5 | プライミングを実施する |
プライミング(ルート内に薬液を満たす作業)を行います。早送りボタンを押して薬液を延長チューブの先端まで到達させ、気泡を完全に除去しましょう。この際、プライミングによる積算量をクリアしてゼロに戻すことを忘れないでください。 | |
6 | 点滴を接続する |
三方活栓のキャップを外して消毒綿で清拭した後、延長チューブを接続します。接続が緩んでいないことを確認したら点滴ルートを開通させ、投与開始ボタンを押してください。送液ランプの点灯を確認し、薬液が正確に投与されていることを指差し確認します。 |
注入開始操作後は、10~15分後に1回、その後1時間ごとに患者さんの状態や輸液量を確認します。また、シリンジポンプの設置位置や接続部の緩み、留置針刺入部と全ルート、電源の確認も定期的にチェックし、安全性を確保しましょう。
医療事故防止対策を徹底しつつ看護業務を効率的に進めるには、正しい手順の順守に加え、メーカーの取扱説明書に従って正しい使い方を身につけることも大切です。
(出典:厚生労働省「与薬の技術」)
シリンジポンプを使用するときの注意点

シリンジポンプは、薬液を微量かつ高精度で投与するための重要な機器であり、わずかな操作ミスが重大な事故につながりかねません。以下では、シリンジポンプを安全使用するためのポイントを4つ解説します。
シリンジとシリンジポンプは密着させる
シリンジポンプを正確に動作させるには、シリンジと機械部分をしっかり密着させることが重要です。シリンジが正しくセットされていない場合、スタートボタンを押しても薬液が設定通り注入されない可能性があります。患者さんに必要な薬液が届かなければ、健康状態に悪影響を与えかねません。
スタートボタンを押す前に、必ずシリンジの外筒のつばと固定具、またシリンジの押し子とポンプのスライダーが隙間なく密着しているか確認してください。また、プライミングを行い、薬液がルート内に十分満たされていることを確かめるのも必須です。薬液が確実に患者さんに投与される状態を確保するには、慎重な作業と入念な確認が欠かせません。日常的にポンプの作動状況やシリンジの位置を確認する習慣をつけておくのも、安全対策として大切です。
(出典:社団法人 日本看護協会「シリンジポンプの取り扱いによる事故を防ぐ」)
(出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「シリンジポンプセット時の注意について」)
押し子がセットされているか確認する
押し子が正しくセットされていないと、サイフォニング現象の発生により、薬液が予期せぬ量で急速に注入される場合や逆流が発生する場合があります。特に、ポンプの位置が患者さんよりも高い場合や、移動中に押し子が不安定な位置に置かれるとこの現象が起こるケースが少なくありません。
押し子のセットは確実に行い、固定されているかを何度も確認してください。また、シリンジポンプを患者さんと同じ高さに設置し、高低差を最小限にすることで、サイフォニングのリスクを軽減できます。万一のトラブルを防ぐための点検は常に行い、移動時にもポンプの固定状態を再確認することが大切です。
(出典:社団法人 日本看護協会 「シリンジポンプの取り扱いによる事故を防ぐ」)
(出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「シリンジポンプセット時の注意について」)
流量設定を必ず確認する
流量設定値のミスは、薬液の投与量が過剰または不足する原因になります。事例として多いのが、小数点・桁数の入力ミスや流量と積算量の表示切り替えの見間違えです。
ポンプの設定画面や注射指示箋を照らし合わせて確認する際には、流量表示と積算量表示の切り替えに注意する必要があります。スタートボタンを押す前には、必ず指差し呼称で設定流量を確認してください。また、ダブルチェック体制を取り入れると、安全性をさらに高められるでしょう。
使用する製品の操作方法や設定機能の特徴を十分理解し、適切に扱えるよう日頃から準備しておくのも重要です。
(出典:社団法人 日本看護協会 「シリンジポンプの取り扱いによる事故を防ぐ」)
(出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「シリンジポンプセット時の注意について」)
アラームに頼りすぎない
シリンジポンプにはアラーム・警報機能がありますが、この機能に頼りすぎるのは危険です。特に、注入する薬液量が少ない場合、閉塞が発生してもアラームが鳴るまでに数時間かかる恐れがあります。たとえ遅延が短時間であっても、患者さんの状態は悪化しかねません。
投与開始後は、アラームが鳴らなくても定期的に訪室し、送液が正しく行われているか確認してください。接続部やルートの状態、患者さんの状態なども併せてチェックすることが重要です。また、アラームが鳴った際は迅速に原因を特定し、適切な対応で問題を解決できる看護技術を磨いておくことが求められます。
(出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「シリンジポンプセット時の注意について」)
まとめ
シリンジポンプは、微量かつ精密な薬液投与を可能にする重要な医療機器です。シリンジポンプを正確に運用することで、患者さんの治療効果を高め、医療事故を未然に防げます。
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※当記事は2024年12月時点の情報をもとに作成しています
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