ムーンフェイス(満月様顔貌)とは? 原因や看護のポイントを解説
  • 2025年3月1日
  • 2025年2月28日

ムーンフェイス(満月様顔貌)とは? 原因や看護のポイントを解説

 

ムーンフェイス(満月様顔貌)は、顔の脂肪が過剰に増加して丸みを帯びる症状で、患者さんの外見に顕著な変化をもたらします。ムーンフェイスは直接的に生命を脅かすものではありません。しかしその一方で、患者さんに心理的な負担を与え、生活の質(QOL)の低下を引き起こす可能性があります。

当記事では、ムーンフェイスの原因、症状、治療法について詳しく解説するとともに、患者さんの心身の健康を支えるための看護のポイントを紹介します。ムーンフェイスを適切に理解し、患者さんのQOL向上を目指したケアに役立てていただければ幸いです。

ムーンフェイス(満月様顔貌)とは

ムーンフェイスとは、顔の脂肪が増加して満月のように丸く、赤みを帯びた状態になる現象です。ムーンフェイスは「満月様顔貌」とも呼ばれ、クッシング症候群に関連する顔貌変化の1つとして認識されています。

ムーンフェイスを起こした患者さんは首周辺・肩・胴体などの脂肪も増加し、体型の変化を伴うことが少なくありません。腹部への脂肪沈着は「中心性肥満」、首の後ろに脂肪が沈着する状態は「野牛肩(バッファローハンプ)」と呼ばれます。

内服薬や点滴によるムーンフェイスは、見た目の変化を伴う副作用として患者さんの心理的負担となり、生活の質(QOL)への影響が懸念されます。ムーンフェイスの患者さんを担当する際には心のケアも意識し、きめ細やかな対応を取ることが重要です。

ムーンフェイス(満月様顔貌)が起きる原因

ムーンフェイス(満月様顔貌)が起きる原因

ムーンフェイスにつながる直接的な原因は、体内の副腎皮質ホルモンが過剰になっていることです。副腎皮質ホルモンが過剰になる原因には、クッシング症候群や医原性(ステロイドの長期投与など)が含まれます。

クッシング症候群(クッシング病)

クッシング症候群とは、副腎皮質ホルモンの一種「コルチゾール」が過剰に分泌されて、ムーンフェイス・中心性肥満・野牛肩などの症状を起こす病気にあたります。コルチゾールの分泌量は、脳の下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン「ACTH」によって調節される仕組みです。下垂体の異常によってACTHが大量に作られると副腎を過剰に刺激し、ムーンフェイスが起こります。

クッシング症候群の患者さんにしばしば生じるムーンフェイス以外の症状は、以下の通りです。

  • 毛細血管が透けてピンクのまだら模様に見える
  • あざができやすくなる
  • 体幹に近い部分の筋力が低下する
  • 多毛、にきび、腹部や臀部に赤い筋ができる

子どもの患者さんの場合は成長が遅く、低身長になる可能性もあります。女性の場合は生理不順が起こるケースもあり、症状の出方はさまざまです。
(出典:MSDマニュアル家庭版「クッシング症候群」

ステロイドの長期間投与

ムーンフェイスは、ステロイドを長期で大量服用した場合に懸念される副作用の1つです。ステロイドは炎症・アレルギーを抑制する働きが期待される薬剤にあたり、以下の疾患で処方されることがあります。

  • 気管支喘息
  • 腎臓病
  • 自己免疫疾患
  • 炎症性皮膚疾患 など

ステロイドを長期間かつ大量に服用した場合、コルチゾールが過剰分泌されている時と同様の状態になり、糖の上昇を抑制するため、インスリンの分泌量が増加します。顔にはインスリン感受性の高い脂肪細胞が多いことから、脂肪の増加によって丸くなります。

なお、ムーンフェイスは、ステロイドの内服や点滴によって生じる可能性のある副作用です。アトピー性皮膚炎などの患者さんに処方されるステロイド外用薬を使用し、ムーンフェイスが起こることは稀です。
(出典:科学技術振興機構「ステロイドの副作用と対策」
(出典:東京医科大学八王子医療センター「ステロイド (副腎皮質ホルモン)の飲み薬について」

クッシング症候群の患者さんの検査や治療の流れ

クッシング症候群の患者さんの検査や治療の流れ

ムーンフェイスのリスクが高いクッシング症候群の患者さんをアセスメントする際には、病歴・服薬歴を詳細に聞き取ります。医原性のクッシング症候群ではないことが判明した場合、血中コルチゾール値・血中ACTH値などを測定し、症状を評価するアプローチも必要です。血中ACTH値と血中コルチゾール値がいずれも高い場合には、以下の検査を必要に応じて実施します。

スクリーニング検査
  • 一晩少量デキサメタゾン抑制試験
  • 血中コルチゾール日内変動
確定診断検査
  • CRH試験
  • 一晩大量デキサメタゾン抑制試験
  • 画像検査
  • 選択的下錐体静脈洞血サンプリング

クッシング症候群を完治させる治療薬がないため、治療の第一選択は原因となる副腎や脳下垂体の腫瘍を手術で摘出することです。腫瘍が完全に摘出できればクッシング症候群は治癒します。

手術ができない場合や手術で腫瘍がとりきれなかった場合は、薬物治療、放射線治療などを組み合わせて追加治療を行います。効果的な治療によってコルチゾールの分泌量を正常化させれば、症状の改善が可能です。
(出典:MSDマニュアル家庭版「クッシング症候群」

ムーンフェイス(満月様顔貌)の患者さんの看護を実施するポイント

ムーンフェイス(満月様顔貌)の患者さんの看護を実施するポイント

副作用やクッシング症候群によってムーンフェイスを起こした患者さんを看護する際には、いくつかの注意点があります。以下で紹介するポイントを意識した看護を実践し、患者さんの総合的なサポートにあたりましょう。

患者さんの不安をやわらげる

ムーンフェイスは生命に直接関係する症状には該当しないものの、患者さんの不安やストレスにつながることも多くあります。ムーンフェイスの症状に対する不安やストレスが強い場合はうつ状態に陥る可能性もあることから、精神面に配慮した支援を実践しましょう。

患者さんの不安やストレスを軽減するためには、相手の主張を十分に傾聴して受け止めます。精神的サポートの一環として、不安を軽減するためのカウンセリングや、具体的な回復見込みに関する情報提供を実施しましょう。

合併症に注意する

クッシング症候群の患者さんは、以下の合併症を起こしやすい状態です。

  • 高血糖
  • 高血圧
  • 骨粗鬆症
  • 消化性潰瘍
  • 脂質異常症 など

看護師は合併症のリスクを常に意識して各種検査のデータを詳細にチェックし、早期発見を目指す必要があります。投薬治療を行っている場合には患者さんの副作用の訴えや心理状態にも気を配り、心身の状態把握に努めましょう。

また、ステロイドを服用している患者さんやクッシング症候群の患者さんは抵抗力が弱まり、感染症にかかりやすい状態です。患者さんご本人やご家族に身体の状態を説明して、手洗い・うがいの徹底を促してください。

自宅で療養する患者さんに対しては感染症の初期症状を説明し、微熱や倦怠感に気づいた場合は医師への相談を促すことも重要です。感染症の予防薬が処方されている場合には重要性を説明して、確実な服用を意識づけてください。

ご家族も含めて服薬管理や生活指導を行う

通常体内で分泌されるコルチゾールは10mg/日、プレドニゾロン換算で2.5mg/日です。

ステロイド受容体の感受性は個人差もありますが、基本的に通常の分泌量の倍量を超えるステロイドの投与があるケースでは、副作用出現の可能性があります。常に使用量を確認し、さまざまな副作用を念頭に置いてケアしていくことが大切です。薬物療法を開始するタイミングで患者さんご本人とご家族に薬の効果と副作用を説明し、正しい知識を持ったうえで、治療に臨んでもらいましょう。

ムーンフェイスに悩む患者さんは副作用を軽減したい思いから医師の指導に従わず、自己判断で断薬して、症状を悪化させるケースもあります。ご家族のステロイドへの誤解が治療の妨げになる可能性もあるため、服薬治療を開始するタイミングでの十分な情報提供が重要です。

クッシング症候群の患者さんやステロイドを服用している患者さんは、しばしば食欲が増進します。食生活が乱れるとムーンフェイスの悪化リスクがあるため、体重管理・食事バランス・塩分摂取量のコントロールを意識してもらうことも大切です。

ムーンフェイスは、顔面へ脂肪が蓄積した状態です。過剰なエネルギー摂取はさらなる脂肪蓄積を招き、ムーンフェイスを悪化させてしまいます。患者さんの状態をみながら、医師や栄養士と連携してエネルギーコントロールをしていく必要があります。

骨折に注意する

高齢の患者さんが長期間ステロイドを服用した場合、骨折リスクが高まることもあります。ステロイドは骨芽細胞の機能を低下させるため、骨形成が抑制されます。さらに破骨細胞の分化・活性化の促進や性腺機能低下、二次性副甲状腺機能亢進などで骨吸収が促進され、骨が脆くなってしまい、骨粗鬆症を引き起こします。これによって骨折のリスクが高まり、高齢者では寝たきりの大きな原因の1つとなります。筋力が低下している患者さんは転倒リスクも高まることから、事故自体を回避する対策として、以下の工夫を行いましょう。

  • メガネや目薬はベッドに寝た状態で手の届く場所に置く
  • ベッド周辺が濡れている時には早急に拭く
  • 転倒しにくい靴や寝具を用意する
  • 歩行器の使用を促す

転倒による骨折予防には環境整備に加え、患者さんの意識的な注意や筋力維持を促す教育も重要です。看護師は転倒時の骨折リスクが普段以上に高いことを説明し、意識的な行動を促してください。
(参考:兵庫県難病相談センター「ステロイド剤と副作用予防薬について」
(参考:高知大学学術情報リポジトリ「患者のステロイド治療に対する葛藤」

まとめ

ムーンフェイスは、ステロイドの長期使用やクッシング症候群によって引き起こされる副作用です。見た目の変化だけでなく、中心性肥満や合併症のリスクが伴うため、包括的な対応が必要となります。患者さん一人ひとりに寄り添ったケアを提供し、安心して治療を継続できる環境を整えることが大切です。

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※当記事は2024年12月時点の情報をもとに作成しています

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