患者さん一人ひとりが抱える悩みや不安はさまざまです。看護師の皆さんは、患者さんの心身をケアする際に、患者さんの悩みや不安の背後にある欲求を見つけ、相手は何を求めているのか理解する必要があります。
看護アセスメントの際にも役立つのが、マズローの欲求階層説です。マズローの欲求階層説は、人間の欲求を5つの階層に分けて考える理論で、人間の行動やモチベーションを理解するうえで重要な概念です。
当記事では、マズローの欲求階層説について基礎的な内容から、各階層の詳細まで分かりやすく解説します。
マズローの欲求階層説とは
マズローの欲求階層説は、人間の欲求を5つの段階に分け、それらが階層的に満たされていくという心理学の理論です。
具体的には、人間の欲求は、ピラミッドのように下から上に積み重なっていると考えられています。下の階層の欲求が満たされると、次の階層の欲求が生まれ、それを満たすために行動するようになります。
ビジネスの世界や医療の世界でも、従業員のモチベーション向上や患者さんの満足度向上に、マズローの欲求階層説の考え方が活用されています。
マズローの欲求階層説における各階層の詳細

マズローの欲求階層説は、ニード論とも呼ばれます。一般的に5段階説として知られていますが、マズロー自身が晩年に「自己超越欲求」という6段階目の欲求の存在を提唱しました。
また、マズローが著した「人間性の心理学」という本の中では、認知の欲求・審美的欲求の2つも紹介されています。「ヒルガードの心理学」では、認知の欲求・審美的欲求も、階層図として紹介されています。
(出典:聖路加国際大学学術情報リポジトリ「マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈」)
以下では、それぞれの欲求について紹介します。
生理的欲求
マズローの欲求階層説において、最も基礎的な欲求が「生理的欲求」です。生理的欲求は、人間が生きていくうえで最も基本的な、生物としての生存に関わる欲求です。
具体的には、以下の欲求などが挙げられます。
- 食欲
- 睡眠欲
- 排泄欲
患者さんの場合、病状や治療の副作用によっては生理的欲求が満たされない状況に置かれることがあります。生理的欲求はすべての欲求の基盤となるため、食欲が出ない、痛みで眠れないなどの患者さんに対しては、まず欲求を満たすケアが必要になります。
安全の欲求
生理的欲求の次にくる欲求が「安全の欲求」です。安全の欲求は、身体的・精神的な安全を求める欲求であり、生命の維持というよりは、生命の維持のための安定性や予測可能性を求める欲求です。
具体的には、以下の欲求などが挙げられます。
- 病気やけがから身を守りたい、健康でいたいという欲求
- 生活が安定し、将来に不安を感じないようにしたいという欲求
- 安全な住居で暮らしたいという欲求
患者さんの場合、病気や治療によって、以下のように安全が脅かされていると感じることがあります。
- 手術や検査、投薬が本当に効果を発揮するのか不安に感じる
- 身体機能が低下したまま、今後も戻らないのではないかと悩む
- 退院後、元通りの生活に戻れるかどうか分からないことを恐れる
など
愛情と所属の欲求(社会的欲求)
安全の欲求が満たされると、次に現れる欲求が「愛情と所属の欲求(社会的欲求)」です。人間が社会的な動物であることを示す欲求で、他者とのつながりや所属感を求める欲求です。
具体的には、以下の欲求などが挙げられます。
- 家族、友人、恋人など、親しい人と良好な関係を築きたいという欲求
- 何かのグループに属し、認められたいという欲求
- 友人を作り、心の支えとなるような関係を築きたいという欲求
患者さんの場合、病気や入院によって以下のように孤独感や孤立感を覚えることがあります。
- 入院により家族や友人と離れる
- 病気や治療により、以前のように社会活動に参加できなくなる
- 病気や障害について理解されたい、受け入れてもらいたいという欲求が生まれる
承認の欲求
社会的欲求の次にくる欲求が「承認の欲求」です。低位の承認欲求としては「他者から認められたい、尊敬されたい」、高位の承認欲求としては「自分に自信を持って生活したい」という欲求を持つ、自己評価を確立するために重要な欲求です。
具体的には、以下の欲求などが挙げられます。
- 周囲から認められ、尊敬されたいという欲求
- 社会的な地位や名誉を得たいという欲求
- 目標を達成し、自己成長を実感したいという欲求
- 自分の能力や価値を認め、自信を持ちたいという欲求
患者さんのなかには、自分の能力や価値を否定的に捉え、自己肯定感が低下している方もいます。
- 病気や障害により、以前のように活動できなくなり、無力感を抱く
- 外見の変化や身体機能の低下により、自己評価が下がる
- 病気により、社会的な役割を果たせなくなり、存在意義を見失う
【7段階説の場合】認知の欲求
認知の欲求は、「知る欲求」と「理解する欲求」の2つの側面から成り立っており、好奇心や探究心といった正の衝動が基礎となっています。
マズロー自身は、認知の欲求がほかの基本的欲求(生理的欲求や安全の欲求など)とは独立して存在し、人間の成長と発達に不可欠な役割を果たすと考えました。
【7段階説の場合】審美的欲求
審美的欲求は、調和、秩序、美しさを求める普遍的な衝動、精神的なゆとりや向上心などが挙げられます。マズローは、審美的欲求が原始人の時代から現代に至るまで、あらゆる文化や時代において観察されると主張しました。
審美的欲求はほかの欲求、特に認知的欲求と密接に関連しており、明確に区別することは難しいとされています。たとえば、秩序や調和を求める欲求は、複数の欲求が混在した形で現れると考えられています。
自己実現欲求
マズローの欲求階層説の頂点に位置する欲求が「自己実現欲求」です。自分の可能性を最大限に引き出し、自分らしく生きることを追求する欲求です。ほかの欲求が満たされたうえで、現れる高度な欲求であり、人それぞれが持つユニークな目標や価値観に基づきます。
具体的には、以下の欲求などが挙げられます。
- 自己を超え、より大きな存在や目的に貢献したい
- 自分は自分として、確固たる信念を持って生きていきたい
自己実現欲求は最も高いレベルの欲求とされていますが、病気やけがなどで入院している方であっても、この欲求を持つことは決して特別なことではありません。患者さんの自己実現欲求の例としては、以下の通りです。
- 病気とうまく付き合いながら、趣味やボランティア活動など、新たな目標を見つけ、充実した日々を送りたいと考える
- 限られた時間の中で、自分らしい生き方をしたい、家族との時間を大切にしたいと願う
- いきがいを持って老後を過ごしたい、何か新しいことを学びたいと考える
【6段階説の場合】自己超越欲求
自己超越欲求とは、自分という枠を超えて、他者や社会、宇宙など、より大きな存在に貢献したいという欲求です。
自己実現欲求が個人の成長や能力の発揮に焦点を当てているのに対し、自己超越欲求は、その範囲を自己の外に広げ、より普遍的な価値や意味を求める欲求です。
看護アセスメントにおけるマズローの欲求階層説の活用方法

マズローの欲求階層説を看護アセスメントに活用する方法として、以下の2つの観点から解説します。
患者さんが何をすれば満たされるのか推察する |
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マズローの欲求階層説を用いることで、看護師は患者さんの現在の状態と最も強く感じている欲求を特定し、その欲求を満たすために必要な行動や条件を推察できます。
たとえば、入院直後の患者さんが強い不安を感じている場合、安全の欲求が満たされていない可能性があるでしょう。この場合、病院環境に慣れ、治療計画を理解し、医療スタッフとの信頼関係を築くことで、患者さんの安全の欲求が少しずつ満たされると推察できます。 |
ケアの成果を確認する |
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看護師は、患者さんの欲求がどの程度満たされたかを観察し、ケアの成果を確認できます。
たとえば、痛みを訴えていた患者さんに対して適切な疼痛管理を行った後、患者さんが楽に過ごせるようになり、ほかの活動に関心を示すようになれば、生理的欲求が満たされたと判断できます。 |
患者さんの状況から、どの欲求を満たせており、何が満たせていないのか推測し、個々の患者さんに合わせたケアを提供しましょう。
まとめ
マズローの欲求階層説は、人間の基本的な欲求を階層構造で表現した心理学理論です。看護の現場では、患者さんの行動や言動の背景にある欲求を理解する手がかりとなり、より効果的なコミュニケーションや支援に活用できます。
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※当記事は2024年10月時点の情報をもとに作成しています
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