徒手筋力テスト(MMT)は、患者さんの関節運動を行う筋群を測定するために、臨床で用いられている筋力測定方法の1つです。MMTは筋力測定方法のなかでも圧倒的なシェアを誇っており、理学療法士はもちろん医師や作業療法士、看護師など多くの医療関係者が利用しています。
この記事では、看護師の皆さんに向けて、MMTの目的や評価方法・判断基準、測定方法を詳しく紹介します。治療やリハビリテーションの効果判定としてMMTを活用する機会が多い場合は、ぜひご覧ください。
徒手筋力テスト(MMT)とは
徒手筋力テスト(MMT:Manual Muscle Testing)とは、患者さんの筋力を評価・測定するためのスケールです。臨床で用いられる筋力測定方法のなかではもっともポピュラーな手法です。
MMTでは、「筋収縮がまったくない状態」から「重力・抵抗に逆らって力を入れられる状態」までの6段階で筋力を評価します。測定部位は頚筋(けいきん)、体幹、骨盤底、上腕、下肢、脳神経支配筋と幅広く、それぞれの部位に分けて測定・評価するのが特徴です。
MMTは主に脳神経外科や整形外科、リハビリ科、救命救急(救急外来)、ICUなどで利用されているスケールです。医師や作業療法士、理学療法士はもちろん、看護師もさまざまなシーンでMMTを活用しています。
看護師がMMTについて理解を深めることで、患者さんの部位ごとの筋力を正しく把握できます。また、日常生活動作のうち、どの動作をどの程度患者さん自身に任せ、どのようなサポートを提供すべきかを判断するための指標として役立てることが可能です。
MMTの目的

MMTは医療現場だけでなく介護現場でも活用されている筋力測定スケールです。介護現場でMMTを活用することで、利用者さん一人ひとりに合った適切なケア・サービスを提供できます。
ここでは、介護におけるMMTの目的について詳しく解説します。
利用者さんの身体機能の把握・評価
利用者さんの筋力を定期的に測定すれば、身体的な特徴や身体機能の変化を正しく把握・評価できるでしょう。
末梢神経障害や関節由来の痛み、治療による関節固定などが長引くと、筋力の低下が起こりやすくなります。MMTでは部位ごとに6段階評価で筋力を測定するため、単純な筋力把握はもちろん、前回の測定結果と比較することで筋力低下の程度についてもチェックできます。
MMTの結果、利用者さんの筋力が低下していると判断される場合には、筋力低下の要因を考えながらそれぞれに合った筋力の維持・改善方法を検討することが重要です。
利用者さんに合った支援方法の選択
MMT測定で利用者さんの関節運動を評価すれば、一人ひとりの状態に合わせた適切な支援を提供できます。
たとえば、下肢を中心として筋力の低下が認められる患者さんの場合、自身での歩行が可能であるかはMMTの結果によって判断できます。自身での歩行が難しいまたは転倒リスクが高いといったケースでは、職員によるサポートや歩行器・車椅子などの利用を検討するとよいでしょう。
患者さんの筋力を正しく把握すれば、それぞれに合ったケアを提供できます。
リハビリ計画への活用
利用者さんにリハビリを実施する際は、MMTの結果などをもとにリハビリの目的や方法などを決定してリハビリ計画書を作成するのが通常です。
リハビリ計画書には、心身機能・日常生活・社会活動・起居動作などについて記載する欄があります。利用者さんの身体の状態と本人の希望とを照らし合わせることで、必要なリハビリトレーニングが明確になります。
MMTの結果をもとに身体機能や可能な動作について細かく把握できれば、一人ひとりに合った最適なリハビリ計画を策定することが可能です。
MMTの筋力評価方法・判断基準

厚生労働科学研究費補助金 政策科学総合研究事業の「心不全高齢者のICF評価マニュアル」によると、MMT評価は0~5の6段階の基準に基づいて判断されます。MMT0はもっとも筋力が弱く、MMT5はもっとも筋力が強い状態です。
具体的な評価方法・判断基準は以下の通りです。
【b730 筋力の機能の補助基準】
・徒手筋力検査:MMT(Manual Muscle Test)
スコア | 表示法 | 内容 |
---|---|---|
5 | Normal | 強い抵抗を加えても完全に動かせる |
4 | Good | かなりの抵抗を加えても、なお完全に動かせる |
3 | Fair | 抵抗を加えなければ、重力に打ち勝って完全に動かせる |
2 | Poor | 重力を除けば完全に動かせる |
1 | Trace | 関節は動かない、筋の収縮のみが認められる |
0 | Zero | 筋の収縮も全くみられない |
健康的な日常生活を営むためには、最低でもMMT3以上の筋力が求められます。ただし、MMT3は抵抗がない環境で重力に打ち勝てる程度であるため、重力以上の負荷がかかる動作は難しい状態です。
たとえば、全身の筋力がMMT3の場合、抵抗がないベッドの上であれば自由に動けるものの、自分の体重を支える必要がある立ち上がり動作は難しいでしょう。
ある程度の日常生活動作を介助なしで行うには、MMT4以上が必要です。
また、MMTは検査者の主観によって評価に違いが出ることも少なくありません。患者さんの筋力を正しく判断するためには、検査者のMMTに関する知識・スキルが不可欠です。
【部位別】MMTの測定方法

MMT検査は部位・関節ごとに筋力を測定するスケールであるため、それぞれの部位によって具体的な検査方法が異なります。
ここでは、部位別のMMTの検査方法やポイント・注意点について詳しく解説します。
肘関節
坐位での肘の曲げ伸ばし(肘関節の屈曲動作)の測定方法は、以下の通りです。
1 | 被検者は、椅子に座った状態で手のひらを自分に向けて肘を90度以上曲げる。検査者は被検者の正面に立って肩・手首を持つ。 |
---|---|
2 | 被検者に肘を曲げるように指示する。 |
手順2の動作ができれば、MMT3以上と判断します。肘が曲がらない場合は検査者が肘の付け根を触りながら筋肉の様子を観察し、わずかでも動きが見られればMMT2となります。
また、MMT3以上の場合、患者さんにできるだけ力を入れて屈曲を保つよう指示し、手首をつかみ前腕を引っ張って抵抗を加え、位置を保てればMMT4となります。MMT5は最大負荷に耐えて位置を保てる状態です。
測定時は、身体が前に倒れる・手首をひねるなどの代償運動に注意してください。
手関節
坐位での手首・手(手関節の屈曲動作)の測定方法は、以下の通りです。
1 | 被検者は椅子に座り、手のひらを上にしてテーブルに手を乗せる。検査者は被検者の手首を下から持つ。 |
---|---|
2 | 被検者に手のひらが前腕に近づくように手首を曲げることを指示する。 |
手順2の動作ができれば、MMT3以上と判断できます。手首が曲がらない場合は検査者が手首の付け根を触りながら筋肉の様子を観察し、わずかでも動きが確認できたらMMT2となります。
また、MMT3以上の場合、手首を曲げたままで検査者がかける負荷に耐えながら位置を保てればMMT4となります。MMT5は最大負荷に耐えて位置を保てる状態です。
測定時は、指が大きく曲がる・肘が曲がるなどの代償運動に注意してください。
膝関節
坐位での膝の伸展動作の測定方法は、以下の通りです。
1 | 被検者は椅子に座り、膝を90度に曲げて手は身体の横に下ろす。検査者は被検者の膝下に横から手を添える。 |
---|---|
2 | 被検者に膝をまっすぐ伸ばすよう指示する。 |
手順2の動作ができれば、MMT3以上と判断します。膝を伸ばせない場合は検査者が太ももを触りながら筋肉の様子を観察し、わずかでも足の動きが確認できたらMMT2となります。
また、MMT3以上の場合、膝を伸ばしたままで検査者がかける負荷に耐えながら姿勢を保てればMMT4です。MMT5は最大負荷に耐えて姿勢を保てる状態です。
測定時は、身体が後ろに反る・太ももが上がるなどの代償運動に注意してください。
足関節
片脚立位での足関節(足首)の屈曲動作の測定方法は、以下の通りです。
1 | 被検者は片足立位の姿勢をとり、壁に触れながら姿勢を保つ。 |
---|---|
2 | 被検者に片足で立ち、踵を最大限まで上げるように指示する。 |
手順2の動作を1度でも行えればMMT3と判断できます。また、片脚立位のままで踵の上げ下げを行い、繰り返し10回以上できればMMT4、20回以上できればMMT5です。
また、手順2の動作ができなかった場合には以下の測定を実施します。
1 | 被検者はうつ伏せで足をベッドの端に出し、検査者は被検者の足底側を持って足首を支える。 |
---|---|
2 | 被検者に足先を天井方向に最大限屈曲して上げた状態を保つよう指示する。 |
手順2の動作が問題なくできればMMT2となります。
立位の測定時は、身体が前方に倒れる・上肢に力が入る、うつ伏せで行う場合は太ももが天井方向に動く・足の指が大きく動くといった代償運動に注意してください。
まとめ
徒手筋力テスト(MMT)とは、患者さんの筋力を評価・測定するために用いられるポピュラーな筋力測定方法です。MMTでは筋収縮の状態によって0~5の6段階の評価基準を設けており、検査者が被検者との対面により段階ごとに負荷をかけて基準に基づきMMT0~MMT5といった判断をします。
MMTは理学療法士だけでなく看護師も使用するため、看護師の方やこれから看護師を目指す方は評価方法・判断基準などの基礎知識を押さえましょう。
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※当記事は2024年10月時点の情報をもとに作成しています
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