せん妄とは、身体的な負担や環境の変化などによって一時的に意識が混乱する状態を指します。特に高齢者や認知症患者に多く見られる症状で、入院患者にもよく見られます。せん妄は一時的なものですが、もし患者さんがせん妄と診断された場合は、迅速な対応が求められるので、対処法や予防法を覚えておきましょう。
当記事では、せん妄の症状や原因、対処法を詳しく解説します。病棟で働く看護師のみなさんは、ぜひ参考にしてください。
せん妄とは?
せん妄とは、主に身体的な負担がかかることで生じる一時的な「意識の混乱」を指します。脱水や感染、貧血、薬物の影響などが原因で発症しやすく、高齢者や認知症を併発している患者さんに多く見られる症状です。せん妄は入院中の患者さん全体の約1〜3割の方に生じるといわれています。
診断や対応が遅れると、経過の悪化や大きなけがにつながりかねません。医療費の増加や命の危険を招く場合もあるため、適切な対応が求められる精神疾患です。
(出典:公益社団法人 日本精神神経学会「和田健先生に「せん妄」を訊く」)
せん妄の具体的な症状
せん妄には、以下のような症状が見られます。
- 注意力や状況の判断能力が低下する
- 意識がもうろうとする
- 物忘れが激しくなり、ぼけたように見える
- 話のつじつまが合わなくなる
- 幻覚や妄想を訴えることがある
- 点滴やチューブを自分で外そうとする
- 落ち着きがなくなる
- 昼夜が逆転する、夜中に興奮する
個人差はあるものの、せん妄の症状として代表的なのが、注意力や状況判断力の低下です。昼間は落ち着いているのに、夜になると急に不安定になる「夜間せん妄」と呼ばれるケースも見られます。
(出典:公益社団法人 日本精神神経学会「和田健先生に「せん妄」を訊く」)
せん妄の原因
せん妄は、さまざまな要因で引き起こされる一時的な精神機能の障害です。主な原因には、以下の3つが挙げられます。
- 薬剤
一部の薬剤はせん妄を誘発する恐れがあります。特に抗コリン作用のある薬剤や、向精神薬、オピオイドなどはリスクが高い傾向にあります。薬に対する感受性が高まっている高齢者は、処方薬や市販薬の影響でせん妄を引き起こすケースが珍しくありません。若年者では違法薬物や急性アルコール中毒の影響も要因の1つです。また、薬剤の急な中断や長期使用後の離脱症状も、せん妄を引き起こす場合があります。 - 入院・手術
入院や手術も、せん妄を起こす要因の1つです。隔離された環境や、夜間のモニタリングによる睡眠の妨げは見当識を失いやすくします。手術後は麻酔や鎮痛薬の使用、手術による身体的ストレスがせん妄の引き金となるケースが少なくありません。また入院・手術により、常用する薬物を摂取できない場合も、せん妄が引き起こされることがあります。 - 病気
感染症(肺炎・尿路感染症など)や腎不全、肝不全、電解質異常なども、せん妄を引き起こす要因です。急性の病態や脳に影響をおよぼす病気が原因になる例も少なくありません。また、血糖値や甲状腺の異常、ビタミンB1の欠乏なども原因として挙げられます。特に、高齢者や脳卒中を経験した患者さんは、比較的軽い病態でもせん妄を発症しやすいとされています。
せん妄は原因を特定し、迅速に対処すれば回復が見込まれる病気です。そのため、せん妄の原因を早期に見つけ、適切な治療を行う必要があります。
(出典:MSDマニュアル 家庭版「せん妄」)
せん妄と認知症の違い
せん妄と認知症では、症状に共通する部分もあるものの、発症の経過や特徴に大きな違いがあります。認知症は、記憶力の低下などが徐々に進行する慢性の疾患です。一度発症すると長期間にわたって症状が進みます。対して、せん妄は突然発生し、数時間から数日の間で症状が急激に現れるのが特徴です。せん妄は起こり方が急激で、その日時まで特定できる場合もありますが、認知症は非常に緩徐で同定できないという違いがあります。
また、せん妄では1日のうちでも症状が大きく変動するケースが珍しくない一方、認知症は比較的症状が安定しており、環境の影響はあまり受けません。さらに、せん妄の大半は環境や薬物、身体的な病気など明確な原因が存在し、それらを取り除けば改善する可能性があります。しかし、認知症は根本的な治療が難しい病気です。このように、発症の経過や原因、症状の変動がせん妄と認知症を区別するポイントです。
せん妄の診断
せん妄は通常、精神状態検査・血液検査・尿検査・画像検査などの結果に、医師による評価を総合して診断されます。診断にはICD-10やDSM-5といった基準が使用され、DSM-5では以下の要素が確認されます。
- 意識と注意の障害
患者さんは集中することが難しく、環境に対する見当識が低下します。意識レベルは混濁から昏睡に至るまでさまざまです。 - 短期間での症状の出現
数時間から数日の間に急激に発生し、1日のうちで変動することが一般的です。 - 認知機能の低下
短期記憶や見当識が低下し、思考が混乱します。幻覚や錯覚、妄想が見られる場合もあります。 - ほかの精神疾患が原因ではない
意識と注意の障害、認知機能の低下がほかの精神疾患によるものではない場合せん妄と判断されます - 身体疾患や物質中毒が原因となっている
(出典:公益社団法人 日本精神神経学会「和田健先生に「せん妄」を訊く」)
せん妄への対処法

せん妄は適切に対応すれば改善が期待できる病気です。対処法は以下の3つが挙げられます。
- 根本的な原因の治療
せん妄を引き起こす根本的な原因の特定と、迅速な対処が重要です。たとえば、感染症が原因であれば抗菌薬を使用し、脱水が原因であれば水分と電解質を補います。薬剤が原因の場合は、その薬の使用を中止するか減量を検討するなどの方法をとります。原因を正しく特定して速やかに対応すれば、症状の改善が期待できます。 - 薬物療法
興奮状態や幻覚、妄想が強い場合は、抗精神病薬や鎮静薬が使用されます。たとえば、リスペリドンやオランザピンは、せん妄の症状を抑えるためによく使われる薬です。また、アルコール依存症によるせん妄にはベンゾジアゼピン系薬剤を用います。ただし、薬剤は副作用を起こす危険性もあるため、ほかの方法で改善が見られない場合にのみ使用し、短期間で終えるのが薬物療法の基本です。 - 環境の整備
せん妄を引き起こす要因の1つに、環境の変化や刺激があります。落ち着いた環境の提供は、せん妄の予防や対処に効果的です。病室を静かに保ち、時計やカレンダー、家族の写真などを置いて、患者さんが時間や場所の情報を把握しやすいようにするとよいでしょう。医療スタッフや家族が定期的に患者さんに話しかけ、安心感を与えるのも有効です。眼鏡や補聴器をいつでも使えるようにしておくと、患者さんの混乱を防げます。日中は覚醒を促して夜間に良眠が得られるような工夫をする、飲水をすすめるなどの対応も必要です。また、便秘に対して排便コントロールを行う、安静に対しては動くように促す(早期離床、歩行器の使用)ことも積極的に行います。
適切な治療と環境整備を行えば、せん妄の悪化を防ぎ、症状を軽減できるでしょう。
(出典:MSDマニュアル 家庭版「せん妄」)
(出典:公益社団法人 日本精神神経学会「和田健先生に「せん妄」を訊く」)
せん妄を予防するためには?

せん妄の予防対策には、環境の整備に加えて脱水防止や適度な運動、痛みのコントロールが効果的です。
- 脱水の防止
脱水は、せん妄の主要な原因の1つです。水分が不足すると、脳の機能が乱れやすくなり、せん妄を引き起こす可能性が高まります。1日に1.5リットル程度の水分を意識して摂取することが大切です。特にのどの渇きを感じにくい高齢者や、吐き気などの症状がある入院中の患者さんは脱水症状を起こしやすいため、定期的に水分をとるよう促しましょう。水だけでなく、味噌汁やスープなども水分補給の一環として役立ちます。 - 適度な運動
適度な運動で日中の活動量を増やすことも、夜間の良質な睡眠を確保しやすくなるため、せん妄予防効果があります。入院中の患者さんにも、できるだけベッドから離れて歩くことや、軽い体操に取り組むことを促しましょう。 - 痛みコントロール
痛みがあると身体的ストレスが増加し、せん妄が引き起こされやすくなります。痛みを感じたら我慢せずに医療スタッフに伝えてもらい、適切な治療法を受けることが大切です。痛みをコントロールすると睡眠の質が向上して体力の回復も早まり、せん妄の発症リスクを抑えられます。
これらの取り組みを日常的に行えば、患者さんの精神状態や身体的な安定を保ちやすくなるでしょう。
(出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター「がん治療のために重要な「せん妄(もう)予防」と「心のケア」」)
まとめ
注意力や判断力の低下など、せん妄の症状が現れたときは、早期に原因を特定し、根本的な治療を行うことが求められます。特に高齢者や入院患者はせん妄のリスクが高いため、環境の整備や水分補給、適度な運動といった予防が対策です。医療スタッフはできるだけ患者さんの精神状態を把握し、適切なケアを提供するよう心がけましょう。
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※当記事は2024年9月時点の情報をもとに作成しています
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