喘鳴とは、呼吸するときに気道が狭くなることで生じる「ゼーゼー」「ヒューヒュー」などの擬音で表される異常な呼吸音です。息を吐くときに起こる「呼気性喘鳴」と、息を吸うときに起きる「吸気性喘鳴」の2種類が存在します。喘鳴は呼吸器などの疾患の重要なサインであるため、それぞれの喘鳴の特徴と関連する疾患について覚えておきましょう。
この記事では、呼気性喘鳴と吸気性喘鳴のそれぞれの原因となる疾患について、代表的な種類を解説します。喘鳴を起こした患者さんのアセスメントやケアのポイントも掲載しているので、ぜひ参考にしてください。
喘鳴とは
喘鳴(ぜんめい)は、呼吸時に気管や気管支が狭くなることで発生する異常な呼吸音です。この症状は、空気が狭窄した気道を無理に通過する際に発生し、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」などと表現されます。
喘鳴は、息を吸うときや吐くときのどちらにも発生する可能性がありますが、音の発生部位や音質によって原因が異なるのが特徴です。喘鳴の原因となる疾患や特徴を理解することは、患者さんの適切なアセスメントとケアにおいて重要です。
(出典:神戸大学 大学院医学研究科・医学部「こどもの⽌まらない 咳と喘鳴(ゼーゼー) 」)
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喘鳴の種類と音の違い
喘鳴には、息を吐く際に発生する「呼気性喘鳴」と、息を吸う際に発生する「吸気性喘鳴」の2種類があります。
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呼気性喘鳴
呼気性喘鳴は、主に気管支や下気道が狭くなったときに聞こえる高音性の笛のような音です。この音は「ヒューヒュー」と表現され、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などで見られます。通常、呼気時に強く聞こえる音ですが、吸気時に発せられる場合もあるため注意が必要です。
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吸気性喘鳴
吸気性喘鳴は、主に上気道が狭くなったときに発生する低音性の「ゼーゼー」という音です。いびきのような「ゴーゴー」という音が聞こえるケースも少なくありません。この音は、のどや鼻腔、気管などが部分的に閉塞されたときに聞こえ、クループ症候群や異物吸入などで見られます。吸気性喘鳴は呼気性喘鳴と比べ、より粗雑な音として聞こえるのが特徴です。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
双方の音の違いを理解すれば、患者さんの病状をより的確に判断しやすくなります。
呼気性喘鳴が起こる原因
呼気性喘鳴は、息を吐く際に空気の通り道である気道が狭くなることで発生する高音の笛のような音です。この症状は、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、RSウイルス感染症など、さまざまな疾患によって引き起こされます。以下では、呼気性喘鳴が起こる主要な原因4つを解説します。
気管支喘息
気管支喘息は、気道が慢性的に炎症反応を起こして狭くなることで、呼吸が困難になる疾患です。ダニやカビ、ハウスダストなどの環境要因やアレルギー反応、刺激物質が引き金となることが多いものの、原因が特定できないケースも少なくありません。
夜間や早朝に喘息発作が起きやすく、発作時には「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼気性喘鳴に加え、咳や痰を伴う傾向があります。喘息は慢性化しやすい疾患であり、発作を予防するためには継続的な管理が必要です。喘息治療には主に抗炎症薬や気管支拡張薬が使用されます。発作が起きないよう普段から使用する長期管理薬と、発作時の治療に分かれます。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「喘息」)
(出典:独立行政法人 国立病院機構 近畿中央呼吸器センター「気管支喘息(喘息)」)
(出典:一般社団法人 日本呼吸器学会「気管支ぜんそく」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
COPDは、気道が持続的に狭くなることで呼吸が困難になる疾患で、主に喫煙が原因です。以前は、慢性気管支炎や肺気腫などとも呼ばれていました。症状としては息切れや慢性的な咳、痰があり、呼気性喘鳴もその1つです。
症状が進行するに従って肺の空気の流れが著しく制限されることで、胸部から喘鳴が聞こえやすくなる傾向にあります。COPDは治療により進行を遅らせられるため、早期の診断と気管支拡張薬などによる治療、および禁煙をはじめとした健康管理が必要です。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」)
(出典:一般社団法人 日本呼吸器学会「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
心不全
心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、血液が適切に循環しなくなる状態です。肺に血液が滞留することで、全身の酸素不足や息切れといった症状を起こすリスクが高まります。喘鳴は典型的な心不全の症状で、肺水腫が発生して呼吸が困難になり、呼気時に喘鳴が生じます。
この喘鳴は、「心臓喘息」とも呼ばれ、夜間に悪化するケースが少なくありません。治療には主に、心不全を改善するための薬物療法が用いられます。
(出典:公益財団法人 日本心臓財団「心不全 Question 10」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
RSウイルス感染症
RSウイルス感染症は、乳幼児を中心に発生する呼吸器の感染症で、細気管支炎や肺炎を引き起こします。この疾患では、呼気時に「ゼーゼー」とした喘鳴が聞こえる場合があり、特に初感染時には重症化するケースが少なくありません。
感染力が強く、集団生活をしている子どもたちの間で広がりやすいのが特徴です。終生免疫は獲得されないため、どの年齢でも再感染は起こります。治療方法は対症療法が中心であり、感染を広げないためのうがい・手洗いや消毒の徹底も重要になります。
(出典:厚生労働省「RSウイルス感染症Q&A(令和6年5月31日改訂)」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
吸気性喘鳴が起こる原因
吸気性喘鳴は、息を吸う際に上気道が狭くなることで発生する低い呼吸音です。この症状は、クループ症候群や咽後膿瘍、異物吸入・誤嚥、アデノイド肥大や扁桃肥大など、上気道に関連するさまざまな疾患によって引き起こされます。呼気性喘鳴よりも大きな音が出やすく、離れていても聞こえるケースが一般的です。以下では、吸気性喘鳴が起こる主要な原因4つを解説します。
クループ症候群
クループ症候群は、ウイルス感染により喉頭や気管が炎症を起こし、上気道が狭くなることで吸気性喘鳴が発生する疾患です。特に、1型パラインフルエンザウイルスが原因となるケースが多く見られます。
オットセイの鳴き声や犬の遠吠えのように聞こえる咳をします。気道が異常に狭くなることで「ケーンケーン」「ヒューヒュー」「バウバウ」といった咳音を発し、重症化すると呼吸困難になります。主に生後6か月~3歳頃の乳幼児が罹患しやすく、夜間に症状が悪化することが多い疾患です。治療には、気道を広げるための吸入薬やステロイドが使用されます。
(出典:MSD マニュアル プロフェッショナル版「クループ(喉頭気管気管支炎)」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
咽後膿瘍
肺膿瘍は、肺内に膿が溜まり、周囲の組織が炎症を起こすことで空洞をつくり、そこに膿(うみ)が溜まった状態です。この空洞が気管や気管支を圧迫し、吸気性喘鳴が発生します。誤嚥や歯周病が原因で肺に細菌感染が起こったために発症するケースが一般的です。
肺膿瘍の患者さんには、疲労感や発熱、胸痛といった症状も見られます。診断には胸部X線検査やCTスキャンが用いられ、治療には抗菌薬が必要です。重症になると、膿の排出手術が行われる場合もあります。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「肺膿瘍」)
(出典:一般社団法人 日本呼吸器学会「肺膿瘍」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
異物吸入/誤嚥
異物吸入や誤嚥は、特に小児期や高齢者に多く見られる原因で、気道に異物が詰まることで吸気性喘鳴が生じます。異物が気道内に入り込むと激しい咳や呼吸困難が生じ、場合によっては命に関わる状態になりかねません。
一時的に症状が治まっても、異物が肺にとどまっていると肺炎や肺膿瘍を引き起こすケースがあるため、迅速な対応が求められます。異物の除去には、緊急処置としてハイムリッヒ法、外科的処置の場合は気管挿管・切開や気管支鏡を使用するのが一般的です。
(出典:読売新聞社 yomiDr.(ヨミドクター)「異物誤吸入」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
アデノイド肥大/扁桃肥大
アデノイド肥大や扁桃肥大は、リンパ組織が大きくなり、上気道を狭めることで吸気性喘鳴を引き起こします。特に2~5歳の子どもに多く見られ、鼻づまりや口呼吸、いびきが典型的な症状です。
重症になると、睡眠時無呼吸症候群を引き起こし、日中の眠気や集中力の低下なども見られるケースがあります。通常、成長とともに自然に改善しますが、重度の場合は手術による摘出が検討されることもあります。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
喘鳴を起こした患者さんのアセスメント方法
喘鳴を起こした患者さんへのアセスメントでは、迅速かつ適切な判断が求められます。まず、患者さんのバイタルサイン(血圧・心拍数・呼吸数・体温など)を確認し、呼吸状態を評価しましょう。
呼吸音や呼吸苦の有無、喀痰の状態、顔色やチアノーゼの有無も緊急性を判断する重要な観察ポイントです。特に、喘鳴の発生場所(上気道か下気道か)を特定し、患者さんの背景疾患を把握することで、素早い診断と治療の手助けとなります。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
喘鳴を起こした患者さんのケアのポイント
喘鳴を起こした患者さんへのケアでは、まず呼吸を楽にするための体位調整が重要です。半座位や起座位などの安楽な体位を取り、呼吸筋の負担を軽減します。症状によっては診断前でも酸素投与が必要です。また、必要に応じてドレナージや吸引を行い、喀痰の排出を促進します。呼吸困難時は会話しなくてもいいことを伝えます。
患者さんが不安を感じている場合は、安心感を与えるために寄り添うのも大切です。症状によってはすぐに医師へ報告し、指示を仰ぐ必要があります。後は指示に従って酸素療法や薬物療法を適切に実施し、患者さんの呼吸機能を安定させられるように尽力しましょう。
(出典:MSD マニュアル 家庭版「呼気性喘鳴(wheezing)」)
(出典:MSD マニュアル 家庭版「吸気性喘鳴(stridor)」)
(出典:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「喘鳴(ぜんめい)」)
まとめ
喘鳴は、呼気性と吸気性の2種類に分類されます。呼気性喘鳴は、気管支喘息やCOPDなどで見られ、特に呼気時に強く聞こえる「ヒューヒュー」という高音の笛のような音が特徴です。一方で吸気性喘鳴はクループ症候群や異物吸入によって起こりやすく、「ゼーゼー」「ゴーゴー」という低音性で粗雑な音が発生します。
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※当記事は2024年8月時点の情報をもとに作成しています