不穏とは、医療や介護の現場で用いられる用語で、過剰に動く・叫ぶ・暴れるなど、興奮状態にあることを指します。これは病名ではなく、特定の状態を示す言葉であり、病院や介護施設でよく見られる現象です。
普段は穏やかな人が突然攻撃的な行動をとる、不明瞭なことを話すなどの行動変化が見られる場合、不穏状態である可能性があります。このような状態への対応には細心の注意が必要です。
当記事では、不穏の原因やせん妄との違い、不穏状態の方への具体的な対応方法について詳しく解説します。
不穏とは?
不穏とは、医療用語で過剰に動く、叫んで暴れるなど、落ち着きがなく興奮して行動が活発になる状態を指す言葉です。病名ではなく、状態を指す言葉として使われており、介護施設や医療の現場で多く見られます。
「普段は穏やかだが、急に攻撃的な言動をする」「突然意味の分からないことを言う」など、いつもと様子が違う場合は不穏状態の可能性があります。治療の拒否や、暴れてラインを抜くなども不穏状態の患者さんに見られる行動です。
不穏という表現は幅広く解釈できるため、判断が異なることも考えられます。不穏という言葉が失礼な表現になると考える患者さんもいるため、使用する場合は注意が必要です。可能な限り具体的な表現に置き換えるのが望ましいといえます。
せん妄との違い
医療用語には、せん妄という不穏と似た意味の言葉があります。せん妄は意識障害の一種であり、見当識や記憶障害、注意力や思考力が低下している状態をあらわします。多動や興奮状態が起こるのも、せん妄の特徴です。
せん妄は時間によって覚醒度にムラがあり、夕方から夜間にかけて症状が出現する事例が多く、急激かつ一時的に発症します。見当識、記憶、注意力に障害があると、現在の状況をうまく認識できない場合があります。患者さんの状態を観察して対応することが必要です。
身体疾患や中毒の結果として意識障害や認知機能障害が伴う場合をせん妄といい、「穏やかでいられない」「落ち着かない」など行動の異常がある状態を不穏といいます。不穏が行動の異常に着目しているのに対し、せん妄は意識の異常に着目している点が、不穏とせん妄の違いです。
不穏の原因
不穏には、身体的・精神的な病気や外的要因からくるストレスなど、さまざまな原因があります。不穏の原因を理解していれば、いざというときに患者さんに負担をかけずに対応可能です。
ここでは、患者さんが不穏に陥る原因を3つ解説します。
病気の影響
精神的・身体的な疾患が原因で不穏状態に陥ることがあります。統合失調症や認知症・うつ病などの精神疾患による不穏状態は、不安や緊張・幻覚や妄想が主な原因です。脳炎・甲状腺機能亢進症などの身体的な疾患の場合は、痛みや苦痛などがきっかけで不穏の症状があらわれます。
特に不穏状態に陥りやすいのは、認知症の患者さんです。認知症によってうまくコミュニケーションがとれないと不安が大きくなり、不穏状態のきっかけとなります。
また、認知症の患者さんが夕暮れどきに自宅以外の場所にいることに不安を感じ、声を上げて興奮する「夕暮れ症候群」の症状があらわれる場合もあります。
薬の副作用/アルコール・薬物による影響
不穏状態は、ステロイドや化学療法の副作用、アルコールや薬物などの中毒症状が起因してあらわれるケースがあります。薬による副作用で不穏が引き起こされる場合は、使用する薬を変更することも視野に入れてください。
アルコールや薬物の場合は、自律神経症状や情緒障害・手の震えや幻覚などの離脱症状が原因で不穏状態に陥ることがあります。
薬の副作用やアルコールや薬物による中毒・離脱症状が原因で起こる不穏状態は、原因となる物質をやめることで症状が改善することもあります。薬の場合は、処方している医師と相談し、調整することが大切です。
身体的・精神的なストレスによる影響
不穏は、身体的・精神的なストレスによっても発生する症状です。たとえば、身体的ストレスによる不穏状態は、慢性的な疼痛や息苦しさ・不快感などが主な原因です。不穏の症状としては、正常な判断ができないゆえ、落ち着きがない行動としてあらわれる傾向があります。
また、精神的ストレスによる不穏状態の例としては、適切なストレスの処理が行えず不穏状態に陥るケースが考えられます。家庭環境の問題や人間関係のトラブルが重なってストレスにつながることもあるため、不穏状態の背景を理解したうえで、適切なサポートやケアを検討してください。
不穏状態にある方への対応方法
不穏状態が見られる方に対しては、無理に症状を抑えようとするのでなく、可能な範囲で適切な対応が求められます。また、不穏行動が生じてからの対応だけでなく、未然防止の観点でできる取り組みを行うことも重要です。
ここでは、不穏状態にある方への対応方法を4つ紹介します。
威圧感・過剰な刺激を与えない
不穏状態の方への対応として大切なのは、威圧感や過剰な刺激を与えないことです。コミュニケーションの際、患者さんに大声で急に話しかけるなど、過剰な刺激を与えると不穏状態を誘発する可能性があります。患者さんに接するときは、「穏やかなトーンの声で話しかける」「優しい力で触れる」など、刺激しないよう心がけましょう。
また、生活環境についても配慮が必要です。騒音や強い光など周囲の刺激をなるべく減らし、患者さんが落ち着いて過ごせる空間を作ってください。
安心して過ごせる環境を用意する
不穏状態の患者さんのなかには、認知機能の低下により現状をうまく理解できないことから不安感を持ち、不穏状態に陥る方もいます。そのため、安心して過ごせる環境を用意することがポイントです。
カレンダーや時計など状況を把握できるものの設置や、トイレや病院の個室などに大きく目印をつけておき、分かりやすくするなどの工夫で不穏状態が防ぎやすくなります。個々の患者さんにとって馴染みのあるものをそばに置き、安心感を持てるようにしてください。
また、設備だけではなく、患者さんと接する看護師さんを毎回同じにし、混乱を防ぐことも予防策として効果的です。
体調の変化を十分に観察する
患者さんの体調の変化を十分に観察することで、事前に不穏行動の兆候が捉えやすくなります。不快感や疼痛などの身体的ストレスや、不安や恐怖による精神的ストレスによって不穏状態が誘発される場合があるため、気になる変化が見られた際は早めの対応が必要です。
観察した情報をこまめに記録しておくと、不穏状態を誘発する原因の把握や業務改善にもつながります。患者さんの生活環境を向上させるためにも、不穏行動を予防してきめ細かなサポートを提供することが大切です。
質の高い睡眠を取れるようにする
不穏状態を予防するためには、質の高い睡眠が欠かせません。生活リズムが乱れ昼夜逆転状態になった場合、夜に眠れず不穏状態を引き起こすリスクがあります。日中に散歩や適度な運動を行い、夜に眠れるように生活リズムを整えるなどの工夫をして、患者さんがリラックスして睡眠がとれるようにしてください。
また、なんらかの要因で夜間に眠れない際に、眠ろうと努力することがかえってストレスになり、不眠につながる場合もあります。眠れない苦痛を理解したうえで、生活リズムや起床時刻の改善などの検討が重要です。
あわせて、睡眠をとる空間にも配慮が必要です。患者さんが慣れ親しんでいた環境と近い空間を作り、温度・湿度にも気を使いましょう。
まとめ
不穏状態は、精神的・身体的な要因や環境ストレスなど、さまざまな原因で引き起こされることが多く見られます。不穏状態の患者さんに対しては、適切なケアを提供し、安心して過ごせる環境を作ることが求められます。
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※当記事は2024年6月時点の情報をもとに作成しています