昏睡は、意識障害の一種であり、脳や神経系に重大な影響を与える状態です。意識障害には、傾眠、昏迷、半昏睡、昏睡の4つのレベルがあり、それぞれの段階で異なる特徴を示します。
当記事では、意識障害の各レベルの特徴や評価法について詳しく解説します。さらに、昏睡の主な原因や意識レベルの評価方法であるJCS(Japan Coma Scale)やGCS(Glasgow Coma Scale)の詳細にも触れています。当記事で、意識障害の理解を深めましょう。
昏睡とは? レベル別にみた意識障害の区分
昏睡とは、意識障害の区分の一種です。意識障害は昏睡を含む4つのレベルに大別されており、それぞれの段階における患者さんの状態が詳しく定められています。
ここでは、意識障害のレベル別の区分と概要について詳しく解説します。
(出典:J-STAGE「意識障害」)
傾眠
傾眠とは、刺激を加えることで覚醒するものの、刺激がない状態で放置すると睡眠状態となる意識レベルです。また、場所と時間がわからなくなったり(見当識障害)、直前の出来事の記憶がなかったりすることもあります。意識障害のなかでは最も軽度な症状であり、呼びかけや軽い刺激で容易に意識が覚醒するのが特徴です。
意識レベルの客観的評価スケールの1つであるJCS(Japan Coma Scale)においては、傾眠はスコア10にあたります。JCSスコア10とは、通常の呼びかけによって容易に目を開ける程度です。
(出典:J-STAGE「意識障害」)
昏迷
昏迷とは、強い刺激を与えた場合にのみ覚醒し、刺激がないとすぐに睡眠状態となる意識レベルです。意識障害としては中程度にあたります。
昏迷時は無反応状態が深まっており、通常の刺激や声かけには反応がありません。何度も体を揺する、体をつねって痛みを与える、大声で話しかけるといった強い刺激を加えることで、短時間のみ覚醒状態を取り戻すことがあります。
昏迷はJCSスコア20・30にあたります。JCSスコア20とは、大きな声での呼びかけや体の揺さぶりによって開眼する状態です。また、JCSスコア30とは、痛みを与えながら呼びかけを繰り返すことで辛うじて目を開ける状態を指します。
(出典:J-STAGE「意識障害」
半昏睡
半昏睡とは、強い痛みを与えた場合にのみ顔・手足に動きが見られる意識レベルです。意識障害のなかでも重度であり、強い痛みにのみ反応するため、体を揺する・大声で呼びかけるなどしても目を開けることはありません。
半昏睡はJCSスコア100・200にあたります。JCSスコア100とは、強い痛みの刺激を与えた際に払いのける仕草をする状態です。また、JCSスコア200とは、強い痛み刺激を与えた際に手足を少し動かす・顔をしかめる状態を指します。
(出典:J-STAGE「意識障害」
昏睡
昏睡とは、どのような刺激を与えても反応がなく、自発運動が全くない状態となる意識レベルです。強い刺激や痛みを与えても覚醒せず、完全に無反応となります。そのため、一部の自動的な反射を除き、痛みを感じて手足を動かす・払いのけるといった意図的な反応は見られません。
昏睡はJCSスコア300にあたります。JCSスコア300とは、痛み刺激に全く反応がない状態です。
(出典:J-STAGE「意識障害」
昏睡状態を引き起こす主な原因には、脳機能のなかでも意識の維持に特化した部位に影響を与える障害や損傷、薬物などが考えられます。また、昏睡状態が長期間続くと、床ずれや血栓などの症状を引き起こす可能性があります。
意識レベルの評価法|JCSとGCS
意識障害は傾眠・昏迷・半昏睡・昏睡の4種類に区分されますが、それぞれの定義が曖昧であるため、近年の意識レベル診断には採用されていないケースも少なくありません。
現在、救急患者の意識レベルの客観的評価には、「JCS」や「GCS」などの基準が用いられています。
ここでは、JCS・GCSのそれぞれについて、概要や特徴などを詳しく解説します。
JCS(Japan Coma Scale)
JCSとはJapan Coma Scale(ジャパン・コーマ・スケール)の略であり、日本国内で用いられている意識障害レベルの評価スケールです。
JCSでは、患者さんの意識状態を「1」から「300」までの9段階に分けて判別しており、数字が大きくなるほど重症であることを表します。また、意識障害が見られない場合の評価は「0」です。
JCSによる意識障害評価は、覚醒度に応じて1桁、2桁、3桁の3種類に分類されます。それぞれの区分のなかでさらに3種類に細分化されることから、「3-3-9度方式」とも呼ばれています。
具体的な評価スケールは、以下の通りです。
意識清明 | |
---|---|
Ⅰ. 覚醒している | |
1. | 大体清明だが今ひとつはっきりしない |
2. | 見当識障害がある |
3. | 自分の名前、生年月日が言えない |
Ⅱ. 刺激すると覚醒する | |
10. | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
20. | 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する |
30. | 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する |
Ⅲ. 刺激しても覚醒しない | |
100. | 痛み刺激に対して、払いのけるような動作をする |
200. | 痛み刺激で少し手足を動かす、顔をしかめる |
300. | 痛み刺激に全く反応しない |
刺激を与えていない状態で開眼していればJCSは1桁、閉眼している場合は2桁または3桁であると判断できます。
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GCS(Glasgow Coma Scale)
GCSとはGlasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール)の略であり、日本のみでなく海外でも広く用いられている意識障害レベルの評価スケールです。
GCSでは、開眼(E)、最良言語反応(V)、最良運動反応(M)の3分野に分けて意識レベルを評価するのが特徴です。開眼を1~4点、最良言語反応を1~5点、最良運動反応を1~6点で評価し、3分野の合計で意識障害の度合いを判断します。
具体的な評価スケールは、以下の通りです。
1. 開眼(eye opening,E) | E |
---|---|
自発的に開眼 | 4 |
呼びかけにより開眼 | 3 |
痛み刺激により開眼 | 2 |
なし | 1 |
2. 最良言語反応(Best verbal response,V) | V |
見当識あり | 5 |
混乱した会話 | 4 |
不適当な発語 | 3 |
理解不明の音声 | 2 |
なし | 1 |
3 最良運動反応(Best motor response,M) | M |
命令に応じて可 | 6 |
疼痛部へ | 5 |
逃避反応として | 4 |
異常な屈曲運動 | 3 |
伸展反応(除脳姿勢) | 2 |
なし | 1 |
GCSはJCSと比較すると意識レベルを細かく評価できるため、患者さんの状態をより正確に把握しやすいとされています。一方で、3つの分野をそれぞれ評価してスコアを算出するという複雑な判定方法を採用しており、特に救急現場では評価に時間を要する点がデメリットとなる場合があります。
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意識障害の原因・鑑別疾患の覚え方|AIUEOTIPS
意識障害の原因・鑑別疾患を覚える際には、「AIUEOTIPS(アイウエオチップス)」という語呂合わせが使用されます。
AIUEOTIPSは、もともとは海外において「AEIOUTIPS」という語呂合わせで使われていました。国内では日本語の「アイウエオ」の語順に並べ替えられ、意識障害の主な原因・鑑別を覚えられる語呂合わせとして普及しています。
A | Alcoholism,Acidosis | 急性アルコール中毒、代謝性アシドーシス |
---|---|---|
I | Insulin | インスリン(低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス) |
U | Uremia | 尿毒症 |
E | Endocrine,Encephalopathy | 内分泌疾患、肝性脳症、低ナトリウム血症などの電解質異常 |
O | Oxygen,Opiate | 低酸素血症、麻薬 |
T | Trauma,Temperature,Tumor | 外傷、体温異常、脳腫瘍 |
I | Infection | 感染症(髄膜炎・脳炎) |
P | Psychiatric,Porphyria,Pharmacology | 精神疾患、ポルフィリア、薬剤性 |
S | Syncope,Stroke,SAH,Seizure,Shock | 失神、脳卒中、クモ膜下出血、痙攣、ショック |
注意点として、AIUEOTIPSはあくまで意識障害の原因を覚えるための語呂合わせであり、それぞれの疾患・病気の緊急度や重要度などの要素は考慮されていません。実際の医療現場では、気道・呼吸・循環の安定や低血糖の判断などが優先となるため、語呂合わせとは別で必要な検査や治療の優先順位を押さえておきましょう。
まとめ
昏睡をはじめ、そのほかの意識障害は、適切な評価と迅速な対応が求められる緊急性が高い状況です。傾眠から昏睡までの意識障害の各レベルの特徴を理解し、JCSやGCSといった評価スケールを適用することで、より正確な診断が可能になります。
昏睡の原因は脳の障害や薬物など多岐にわたるため、原因を的確に特定し、迅速に対処することが不可欠です。医療従事者は常に最新の知識を持ち、適切なケアを提供することが求められます。
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※当記事は2024年6月時点の情報をもとに作成しています