医療・介護現場での急変対応は時間との闘いで、正確な指示や判断、スピード感のある行動が求められます。発見者になったとき、落ち着いて対処するには急変対応の基礎知識・流れを理解することが大切です。看護師さんのなかには、「急変時対応をする機会が少ない」「いざというときに的確な判断を下せる自信がない」と感じている方もいるでしょう。
当記事では、急変時の対応について覚えておきたい基礎知識や対応の流れ、症状別の対応方法を紹介します。急変時における対応の流れや評価方法が知りたい方は必見です。
急変時の対応の流れ
医療従事者として病院や高齢者施設に勤務している以上、いつ急変の発見者になるかは分かりません。発見者になった際にも慌てず、落ち着いて対処するためには、急変対応の基礎知識を理解しておきましょう。
以下では、患者さんや施設利用者さんの万が一に備えたい看護師さんに向けて、急変時の対応の流れを紹介します。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
第一印象
まず患者と接してから最初の数秒間で第一印象を確認します。病室に入って患者さんの様子から感じる印象や感覚を指します。たとえば、血圧計や聴診器などを使わずにわかる「呼吸が荒い」「肩で息をしている」「元気がない」「顔色が悪い」「手が冷たい」「視線が定まらない」「目線が合わない」「皮膚が紅潮している」「胸を痛がっている」などです。
具体的には下記の項目を観察し、生命の危機につながる緊急度の高い兆候を探ります。
- 気道開通の有無
- 呼吸の異常
- ショック症状
- 意識障害
- 外見の異常(皮膚紅潮・視点が合わない/苦痛表情など)
(引用:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
迅速評価では、血圧計・モニターなどの機械を使用せずに情報収集することが原則です。
迅速評価は、主に以下3つの感覚を用いて行います。
- 目で見る(視覚)
- 耳で聞く(聴覚)
- 手で触る(触覚)
ただし、パルスオキシメーターを使用している患者さんの急変時には、数値を確認してください。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
一次評価
迅速評価で「心停止などに対する救命措置は必要ないものの、生命の危機につながる兆候がある」と判断した場合には、一次評価を行います。一次評価は心肺停止の近接性を判断するもので、「ABCDEアプローチ」の結果とバイタルサインを参考にします。一次評価を終了した時点で、患者さんは現在のままの状態で継続観察するか、何らかの処置に移るための準備に入ります。この段階で医師へ報告します。
A:Airway (気道) | 気道閉塞[発声の有無・シーソー呼吸・陥没呼吸・高調性の連続性副雑音(Stridor)] |
---|---|
B:Breathing (呼吸) | 呼吸数,異常呼吸・努力呼吸,気管の偏位, 頸静脈怒張,呼吸音,SpO2 |
C:Circulation (循環) | 血圧,心拍数 四肢の冷感,冷汗,蒼白 橈骨動脈の触知の程度 |
D:Disability of CNS (中枢神経障害) | 意識レベル:JCS・GCS 瞳孔所見:瞳孔の左右差・対光反射・共同偏視 麻痺:四肢の感覚・動き・痺れ |
E:Exposure and Environmental control (脱衣と外表・体温) | 低体温,高体温,外観 |
ABCDEアプローチはAからEまでの順番を守り、進めることが重要です。ABCDEアプローチで気道閉塞などを発見した場合には、速やかに心肺蘇生を行いましょう。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
報告・共有
評価の結果は必要に応じて医療チームに報告し、情報共有したうえで応援要請してください。病棟で急変を発見した場合にはナースコール、そのほかの場所では大声で周囲に呼びかけます。
医師への情報共有をスムーズに行うためには、SBAR(エスバー)の順番で報告する方法が一案です。
S(Situation) | 緊急度の高い症状、状態 例:胸部と腹部が痛むと主張、意識障害もある |
---|---|
B(Background) | 臨床経過、関連情報 例:昼食後から倦怠感と食欲不振を主張していた |
A(Assessment) | 看護師自身の評価 例:脳卒中もしくは心血管障害が疑われる |
R(Recommendation) | 要請内容、提案 例:至急診察を依頼したい |
近年では「SBAR」に「I(Identify:自分)」と「C(Confirm:復唱確認)」を加えた「ISBARC」の活用が推奨されるケースもあります。ISBARCで情報共有する場合は最初に自身の所属部署と氏名・患者さんの氏名を伝え、最後に医師からの指示を復唱しましょう。
二次評価
二次評価とは、救命処置の終了後に実施する評価です。二次評価では急変の原因を推測したうえで「OPQRST」もしくは「SAMPLER」を意識した問診を行うとともに身体所見を確認し、看護問題を抽出します。
SAMPLER | OPQRST |
---|---|
S:Sign&symptom 主訴 | O:Onset 発症転機 |
A:Allergy アレルギー | P:Palliative&Provoke 増悪・寛解 |
M:Medication 内服 | Q:Quality&Quantity 性状・強さ |
P:Past medical history 既往歴 | R:Region/Radiation 部位/放散痛 |
L:Last meal 最終食事 | S:Symptom 随伴症状 |
E:Event 現病歴 | T:Time course 時系列 |
R:Risk factor 危険因子 |
問診における患者さんの負担を軽減するためには、「はい」「いいえ」で回答できる質問を行う方法があります。患者さんへの質問が難しい場合は、家族などから情報収集する方法も考えましょう。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
【症状別】急変時の対応方法

ひと言で「急変」といっても症状はさまざまで、まったく同じトラブルは存在しません。以下で紹介する症状別の対処法を十分に理解し、急変時における対応スキルを磨きましょう。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
(出典:東京都医師会「介護職員・地域ケアガイドブック各論7 状態の観察と緊急時の対応」)
呼吸器系の症状
呼吸器系の症状が見られる場合は視診・触診・打診・聴診を行い、状況を把握しましょう。視診では主に、顔⾊・呼吸パターン・胸郭の運動状況を確認します。合わせて、慢性的な酸素供給不足を示す「ばち状指」・外傷・還元ヘモグロビンの増加を示す「チアノーゼ」などの有無も確認しましょう。
触診は患者さんに恐怖感を与えないことを意識しつつ、胸部と頸部に対して行います。胸部に対する触診は痛みや外傷がないほうから開始して反対側も行い、左右差を確認しましょう。
打診は「上方から下方」の順番を守り、左右交互に行います。打診での⿎⾳は空気の貯留、濁⾳は⽔分の貯留を示すサインです。聴診では前胸部と背部に聴診器をあて、呼吸音を確認しましょう。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
循環器系の症状
心臓のポンプ機能が十分に役割を果たしていないと身体の隅々まで酸素や栄養が供給されにくく、循環器系の症状が出るケースがあります。ポンプ機能の状態を確認するためには以下に注目し、問診・視診・触診・聴診を行いましょう。
問診 | 胸痛、動悸、呼吸困難、失神など |
---|---|
視診 | 全身・顔面:表情、口唇チアノーゼ、顔色、息切れなど 四肢:皮膚の色調、チアノーゼの有無、ばち状指 頸部:頸静脈怒張、拍動 |
触診 | 末梢血管:動脈触知の有無や強弱、拍動のリズムなど 皮膚:冷感、湿潤 むくみ:下肢 ホーマンズ徴候:下肢腫脹、足関節背屈に伴う下肢痛 |
聴診 | 過剰心音、心雑音 |
息切れや下肢のむくみは、循環器系の異常で特に発生しやすい症状です。むくみの重症度を把握するためには脛⾻前⾯を親指で圧迫し、「痕が残るか」と「何秒で元に戻るか」を確認しましょう。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
脳神経系の症状
脳神経系の症状が見られる場合には「JCS」や「GCS」により、意識レベルを評価します。
JCS | 日本で主に活用される意識レベルの評価法 |
---|---|
GCS | 海外においても広く活用される意識レベルの評価法 |
合わせて瞳孔の状態と対光反射を確認し、脳神経障害の評価を行いましょう。瞳孔の状態を確認する際には、大きさ・形・眼位に注目します。対光反射は、瞳孔にペンライトの光をあてることで確認が可能です。また麻痺などの神経学的所見も確認が必要です。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
腹部の症状
腹痛に対しては、さまざまな原因疾患が考えられます。症状の原因を推測するためにはSAMPLERやOPQRSTを活用し、問診を行いましょう。問診以外には視診・聴診・打診・触診を順番に行い、必要な情報を収集します。
視診で確認する主な項目は、以下の通りです。
- 姿勢
- 外⽪の状態
- 腹部の形態
- 静脈怒張
- ⼼窩部拍動
- ⼝腔内、肛門周囲の状態
聴診では腸蠕動⾳を参考にして、腸管機能の状態と⾎流の異常を把握します。打診では、臓器の状態や炎症の有無を確認しましょう。触診では、炎症や腫瘍の有無を確認します。
吐血・下血を伴う腹痛は生命の危機につながる疾患も疑われるため、特に注意が必要です。たとえば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍からの痛みや出血は、患者さんの生命に関わる可能性があります。
(出典:日本救急看護学会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント ミニガイド」)
(出典:東京都医師会「介護職員・地域ケアガイドブック各論7 状態の観察と緊急時の対応」)
急変時の対応をするときのポイント

医療・介護現場における急変対応は時間との闘いで、スピード感のある行動が要求されます。ただし、気の焦りで曖昧な指示を行うことや早口で情報共有することはハイリスクです。急変の発見者になった際には普段同様に落ち着いた口調で話し、チームのメンバーに明確な指示を出してください。
ほかの看護師から応援要請を受け、対応をサポートする際にも同様です。現場に駆けつけ次第、落ち着いて状況を把握し、優先度の高い対応を判断して行動しましょう。
まとめ
急変時の対応で看護師に求められることは、冷静な判断やスピーディーな対応などです。急変時は迅速評価・一次評価・報告と共有・二次評価などを経て患者さんの状態を的確に判断し、症状ごとに適切な処置を施す必要があります。異変に気付けるようになるには、臨床実践に近いシミュレーション学習によって状態変化を早期にキャッチする訓練を重ねるのが効果的です。
受け持ち患者さんの状態を前日の数値と比較するなど、日常的に評価を振り返るなどトレーニングをしておくと良いでしょう。
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※当記事は2023年10月時点の情報をもとに作成しています
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