• 2022年11月28日
  • 2023年2月15日

特定行為研修とは? 内容と研修後の活躍の場について解説

 

高齢化社会が急速に進み、医療ニーズが高まった近年、質の高い医療・看護が求められています。より専門的な知識や技術を有した看護師は評価され、給与にもよい影響を与えるでしょう。

看護師がスキルアップを目指すなら、認定看護師や専門看護師を目指すといった方法が主流です。しかしこれらは、高度なスキルの習得が必要となるため働きながらの実現の難易度が高く、資格取得のために一度勤務先を辞職しなければならないケースも珍しくありません。

働きながらしっかりスキルアップを目指したい看護師さんは、特定行為研修を受けてみてはいかがでしょうか。今回は、看護師特定行為研修の概要と研修内容、特定行為研修を受けた看護師の活躍の場について詳しく紹介します。

特定行為研修とは?

特定行為研修とは、保健師助産師看護師法により2015年10月から開始された研修制度です。高齢者数が現在よりさらに増加する2025年において、予測される医療ニーズに対応することを目的に当制度は創設されました。

厚生労働省では、特定行為研修について下記のように定義づけています。

特定行為研修とは、看護師が手順書によって特定行為を行う際に、特に必要となる「実践的な理解力」「思考力および判断力」「高度かつ専門的な知識・技能の向上」を図るための研修である

(出典:厚生労働省「特定行為研修とは」

加えて、「特定行為研修は、特定行為区分ごとに研修基準に適合するものであること」とも定められています。

特定行為研修を受講するには、3〜5年程度の実務経験を積んだうえで、厚生労働大臣が指定する指定研修機関への受講申請が必要です。特定行為研修を受けた看護師は、「特定看護師」と呼ばれるようになります。特定看護師は資格名ではなく、あくまでも研修を受けたうえで診療の補助を行える看護師を指していると覚えておきましょう。
(出典:厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度の概要」

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特定行為研修を受けると仕事内容は変わる?

特定行為研修を受けた看護師は、医師の指示・判断を待たずに、医師が事前に作成していた手順書に沿って個人の判断で特定行為を行うことが可能です。すなわち、タイムリーな看護ケアの提供ができるようになります。

ここでは、特定行為研修を受けている看護師と、特定看護師などの特別な資格を有していない一般的な看護師が行うケアの流れを解説します。

【特定行為研修を受けている看護師のケアの流れ】

(1) 医師から「患者さんAを診察したのち、脱水症状があれば」と指示を受ける

(2) 患者さんAを観察中、脱水症状が見られたため手順書を確認したうえで点滴を実施し、結果を医師に報告する

【特定行為研修を受けていない看護師のケアの流れ】

(1) 医師から「患者さんAを診察したのち、脱水症状があれば報告してください」と指示を受ける

(2) 患者さんAを観察中、脱水症状が見られたため、医師に状態を報告する

(3) 医師から点滴の実施を指示される

(4) 医師からの指示通り点滴を実施し、結果を医師に報告する

このように、特定行為研修を受けている看護師と特定行為研修を受けていない看護師とでは、患者さんへのケア提供のスピードが大きく変わります。主に携わる業務自体に変わりはありませんが、特定行為において素早く対応できるようになるといった点は、看護師・患者さんともによい影響を与えるでしょう。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「特定行為研修制度とは」

特定行為に必要な手順書とは?

看護師が特定行為を行うためには、医師の手順書が必要です。手順書とは、医師が看護師に診療の補助を行わせるために作成する指示文書であり、主に下記のような内容が記されています。

  • 特定行為の対象となる患者さんの情報
  • 診療の補助を行わせる患者さんの病状範囲
  • 診療補助の内容
  • 特定行為を行うときの確認事項
  • 医師への連絡が必要となった際の連絡体制
  • 特定行為後に医師に対して行う報告の方法

(出典:厚生労働省「特定行為に係る手順書例集」

特定行為研修の内容は?

特定行為研修の内容は?

特定行為研修は、「共通科目」と「区分別科目・領域別パッケージ」の2つに大別されます。特定看護師として活躍するためには、双方の研修を修了していなければなりません。いずれにしても、講習と演習・実習を受ける必要があります。また一部はe-ラーニングによる受講も可能です。

ここからは、共通科目と区分別科目・領域別パッケージについて、それぞれ詳しく解説します。

共通科目

共通科目とは、すべての特定行為区分に共通して必要とされる能力の向上を目的とした研修です。研修期間はおよそ6か月〜7か月で、各科目と時間数は下記の通りとなっています。

科目 学習事項 時間数
臨床病態生理学
  • 臨床解剖学
  • 臨床病理学
  • 臨床生理学
約30時間
臨床推論
  • 臨床診断学
  • 臨床検査学
  • 症候学臨床疫学
約45時間
フィジカルアセスメント
  • 身体診察
  • 診断学
約45時間
臨床薬理学
  • 薬剤学
  • 薬理学
約45時間
疾病・臨床病態概論
  • 主要疾患の臨床診断・治療
  • 状況に応じた臨床診断・治療
約40時間
医療安全学/特定行為実践
  • 特定行為の実践に関わる医療倫理・医療管理・ケアの質保証
  • 特定行為研修修了者のチーム医療における多職種協同践
  • 特定行為実践のための関連法規・意思決定支援
  • 根拠に基づいた手順書の作成・評価・見直しプロセス など
約45時間

(出典:厚生労働省「共通科目の内容」

上記に示す講習時間はあくまでも一例であり、指定研修機関・研修センターによっては細かに異なる可能性があることを覚えておきましょう。すべての科目をe-ラーニングで受講できるか、一部の科目のみe-ラーニングでの受講が可能となるかも、指定研修機関により異なります。

共通科目の各科目の履修成果は、筆記試験や各種実習の観察評価によって評価されます。すべての科目の受講が修了すれば、区分別科目・領域別パッケージの研修を受けられるようになります。

区分別科目・領域別パッケージ

区分別科目・領域別パッケージとは、特定行為の区分ごとに必要とされる、より高度かつ専門的なスキル・能力の向上を目的とした研修です。厚生労働省が定めた21区分から必要科目を選択して受講するか、各診療科で実施頻度の高い特定行為を組み合わせた領域別パッケージを受講するかの2通りとなります。研修期間はおよそ5か月〜6か月で、各科目と時間数は下記の通りとなっています。

科目(合計21区分) 時間数
呼吸器(気道確保)関連 約9時間
呼吸器(人工呼吸療法)関連 約29時間
呼吸器(長期呼吸療法)関連 約8時間
循環器関連 約20時間
心嚢ドレーン管理関連 約8時間
胸腔ドレーン管理関連 約13時間
腹腔ドレーン管理関連 約8時間
ろう孔管理関連 約22時間
栄養に係るカテーテル管理(CVC管理)関連 約7時間
栄養に係るカテーテル管理(PICC管理)関連 約8時間
創傷管理関連 約34時間
創部ドレーン管理関連 約6時間
動脈血液ガス分析関連 約13時間
透析管理関連 約11時間
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 約16時間
感染に係る薬剤投与関連 約29時間
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 約16時間
術後疼痛管理関連 約8時間
循環動態に係る薬剤投与関連 約28時間
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 約26時間
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 約17時間
(出典:厚生労働省「区分別科目の内容」

区分別科目・領域別パッケージの場合、e-ラーニングで受講できる学習項目は非常に少なくなります。

領域別パッケージの場合、在宅・慢性期領域パッケージや救急領域パッケージなど、各診療科における特定行為を集中的に学べます。共通科目と区分別科目・領域パッケージの受講者(修了生)は、特定看護師として活躍することが可能です。

特定行為研修を受けた看護師の活躍の場は?

特定行為研修を受けた看護師の活躍の場は?

特定行為研修を受けた看護師は、活躍の場が大きく広がります。病院・クリニックといった医療施設のほかにも、訪問医療や介護の現場でも大いに活躍できるでしょう。最後に、それぞれの現場での仕事や役割について説明します。

病院

病院で働く特定看護師も、日々一般的な看護師のように業務を担うことが基本です。しかし、正確な判断力が必要となる場面においては、任される現場も増えるでしょう。回復期・慢性期病院、さらに急性期・高度急性期病棟など、幅広い施設で特定看護師が求められていることも特徴です。

訪問医療(在宅医療)

住み慣れた地域や自宅で治療を受けたいという高齢者も増えている中、医師は不在で看護師だけが自宅に訪問するケースも珍しくありません。訪問中に急を要する事態が起きた場合などには、医師から受け取った手順書をもとに、タイムリーな処置・医療ケアを提供します。特定行為研修によって得た観察項目についての知識も役立ち、患者さんやその家族、さらに他機関との連携もスムーズに行えるでしょう。

介護施設

介護施設で働く特定看護師は、その高度な知識を活かして、利用者さんの状態のアセスメントや多職種連携、適切かつスムーズな処置・ケアの実施が主な仕事です。医療現場とは違って、なるべく治療やケアの必要なく、住み慣れた地域でいきいきと生活できるように、日々利用者さんとかかわっていくことがポイントといえるでしょう。

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まとめ

進行し続ける高齢化によって、急激に高まった医療ニーズに対応すべく、2015年10月から特定行為研修制度が開始されました。特定行為研修は、看護師の実践的な理解力や高度かつ専門的な知識の向上を図るための研修であり、受講するには3~5年の看護実務経験が必要です。

特定行為研修には、「共通科目」と「区分別科目・領域別パッケージ」の2つがあり、いずれの研修も修了すると、特定看護師として医師の指示・判断を待たずに、医師が事前に作成していた手順書に沿って個人の判断で特定行為を行えるようになります。キャリアアップ・スキルアップを目指したい看護師さんは、ぜひ特定行為研修を受講してみてはいかがでしょうか。

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※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています

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