医療業界には、さまざまな専門用語が存在します。なかでも、一般的に用いられる言葉であるものの、医療業界においてはその意味がやや異なる独自の用語が「コンプライアンス」です。
コンプライアンスは、医療事故や患者さんとのトラブルによる裁判への発展を防ぐために、医療現場では重要性の高いものとなっています。医療現場で働きたいと考えている看護師さんは、日々コンプライアンスを意識して業務を進める必要があります。
そこで今回は、医療業界で活躍する看護師さんに向けて、医療現場におけるコンプライアンスの基礎知識から、コンプライアンスの種類、コンプライアンス違反を防ぐ体制の作り方を詳しく紹介します。
医療・看護におけるコンプライアンスとは?
コンプライアンスとは、一般的に「社会規範・倫理を遵守する」という意味であり、命令や指示、要求に従うことを指します。企業においては、法令遵守はもちろん、社会倫理や道徳といった社会的なルールも守って活動するといった意味合いで用いられており、病院・クリニックといった医療機関も一企業としてコンプライアンスが重視されています。
(出典:厚生労働省「中小病院向け コンプライアンス体制構築のためのポイント」)
しかし医療現場においてのコンプライアンスという言葉は、「患者さんが定められた治療方針や指示を守って服薬をしたり、治療に参加したりすること」という意味でも用いられています。
どのような意味であれ、コンプライアンスに抵触する行為を行った場合は「コンプライアンス違反」となります。医療業界においては、コンプライアンスに違反すると医療事故が発生したり、医療機関への社会的信用が大きく低下したりするおそれがあるため、医療従事者は日々コンプライアンスを意識した行動をとりましょう。
コンプライアンス違反の例
コンプライアンス違反は、重大な医療事故やトラブルを引き起こすおそれがあります。実際に、過去にはコンプライアンス違反によって医療機関の存続すらも危ぶませた事故事例がいくつか存在しています。最悪の場合、下記のように死亡事故につながるおそれがあることも覚えておきましょう。
●認知症入院患者さんの医療事故
当事件は、2012年9月に大阪府で発生した医療事故です。入院していた認知症患者さんが病室で大声を上げており、看護師は状態を落ち着かせようと薬を飲ませたものの収まりませんでした。看護師はその後、認知症患者さんをうつぶせにさせ、布団を包み込むようにかぶせました。その後、巡回した別の看護師によって、布団にくるまった状態のまま動かない認知症患者さんが発見され、のちに死亡が確認されました。
布団で包み込まれたことと死亡との因果関係は不明とされていますが、看護師が行った行動は重大なコンプライアンス違反とみなされ、解雇処分を受けることとなります。
また、患者さんの健康状態を脅かすインシデントには至らなくても、患者さんの情報漏えいや不要な治療による不正受給などといったさまざまな事例もあります。このような事例では、情報システム・情報セキュリティの脆弱性や医療従事者側のポリシーに反する不正行為が問題視されるでしょう。
コンプライアンス違反を起こしたスタッフの解雇のみならず、病院・クリニックにも社会的責任が問われ、経営そのものの存続が危ぶまれる可能性も十分にあります。
(出典:厚生労働省「中小病院向け コンプライアンス体制構築のためのポイント」)
一般企業との違い
コンプライアンス遵守が重要な点は、一般的な企業も医療機関も同様です。しかし、違反の基準においては、医療機関と一般企業とでやや異なる点があります。
一般企業のコンプライアンス違反 | 医療機関のコンプライアンス違反 |
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医療機関も一企業として含まれるため、医療機関のコンプライアンスも一般企業に準ずると考えてよいでしょう。そのうえで、人々の命を預かる医療機関では、より厳しいコンプライアンスとなることが特徴です。
医療用語の「肺コンプライアンス」
医療用語には、「肺コンプライアンス」という言葉も存在します。肺コンプライアンスとは、これまで紹介したコンプライアンスとは意味合いが異なり、患者さんの肺の膨らみやすさを表した指標のことです。
肺コンプライアンスには「静肺コンプライアンス」と「動肺コンプライアンス」の2つに分けられます。静肺コンプライアンスは気道内の空気が流れていない状態で測定した肺の膨らみやすさで、動肺コンプライアンスは気道内の空気が流れている状態で測定した肺の膨らみやすさです。
このように、肺コンプライアンスは一般的に用いられるコンプライアンスと意味が大きく異なるため、混同しないよう注意しましょう。
医療現場におけるコンプライアンスの種類

医療現場において、看護師が注意すべきコンプライアンスの種類には、主に下記の3つが挙げられます。
- 病院など施設におけるコンプライアンス
- 看護師など医療従事者におけるコンプライアンス
- 患者さんにおけるコンプライアンス
コンプライアンスに抵触した行動をとらないためにも、各種類についてしっかりと知識を習得しましょう。
ここからは、各コンプライアンスについて詳しく紹介します。
病院など施設におけるコンプライアンス
病院など施設におけるコンプライアンスは、病院・クリニックなどの医療施設による、「患者さんを含む他者へ向けた、安全管理に関する基本方針」です。基本的に、多くの医療施設では下記のような宣言をし、コンプライアンスへの取り組み・推進を行っています。
- 専任組織を整備し、コンプライアンス推進に関する行動計画を策定する
- 規定・ルールを確立し、組織内全体の合意を徹底する
- 規定・ルールを定期的かつ適切に見直し、継続的にマネジメントする
- 全職員の教育を通して、コンプライアンスに対する使命感を醸成する
- 全職員の個性を尊重し、働きやすい勤務環境を整える
- コンプライアンスの推進状態に関する情報を公開する など
医療施設で活躍する看護師さんは、勤務先施設が取り決めたコンプライアンスの推進宣言に基づき、日々の業務を進める必要があります。どのような取り組み方をするかは施設によって異なるうえ、定期的に評価・見直しがされることも覚えておきましょう。
看護師など医療従事者におけるコンプライアンス
看護師など医療従事者におけるコンプライアンスは、「看護業務を遂行するうえで、法律違反や倫理に反した信頼を損なう行為を行わないこと」が重要視されています。具体的には、下記のようなコンプライアンスが求められます。
- 1人の人間としての権利・尊厳を尊重する
- 個人情報保護・守秘義務を努める
- 継続的な看護実践により能力の向上・維持に努める
- 他医療関係者と協力し、最善の看護ケアを提供する
- 患者さんとの信頼関係を築き上げる など
医療従事者によるコンプライアンス違反が発生し、トラブルに発展した際、責任を問われるのは医療施設となるため、日頃から患者さんと多く関わる看護師は健全に業務を行う必要があります。医療従事者としての自覚を持ち、患者さんに不利益を及ぼさないよう、日々最適な看護を提供していれば、コンプライアンスに違反することはないでしょう。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護記録に関する指標」)
患者さんにおけるコンプライアンス
患者さんにおけるコンプライアンスとは、「患者さんが医師や看護師の治療方針・指示に従うこと」を指します。
- 医師や看護師の指示に従い、用法用量を守って服薬を行っているか
- 決定された治療方針に沿って、しっかり治療に参加しているか
- 医師や看護師から指示された行動制限に、きちんと応じているか など
従来は、このコンプライアンスの概念に基づき患者さんを評価していました。コンプライアンス低下と判断された際は「ノンコンプライアンス」と称されます。
また、患者さんにおけるコンプライアンスは、患者さんが医療機関からの指示通り治療を受けているかといった状況しか見られませんでした。「患者さんは、医療サイドが決定した治療方針に従順でなければならない」というイメージを植え付ける可能性があることが危惧され、近年ではコンプライアンスではなく「アドヒアランス」が重要とされています。
医療現場でコンプライアンス違反を防ぐ体制を作るには?

前述の通り、コンプライアンス違反は重大な医療事故につながるだけでなく、解雇や医療施設の存命につながるおそれもあります。医療現場でコンプライアンス違反を防ぐためには、体制作りがまず必要です。
コンプライアンス違反を防ぐための体制を構築するためには、下記の方法を実施しましょう。
コンプライアンス違反を防ぐ方法 |
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どのようなプロセスにおいても、職員間で情報を共有することは大切です。日々の業務のなかで情報や知識を共有することはもちろん、研修会やセミナーに参加して、コンプライアンスに関する専門的な知識を学ぶのもよいでしょう。
まとめ
コンプライアンスは、一般的に社会的な規範や道徳・倫理を遵守するという意味を持つ概念であり、すなわち命令や指示、要求に従うことを指します。これは広義のコンプライアンスとして、一般企業や医療機関の現場においても浸透していることが特徴です。
しかし、医療業界においては、施設におけるコンプライアンス・医療従事者におけるコンプライアンス・患者さんにおけるコンプライアンス、さらに医療の専門用語である「肺コンプライアンス」とでそれぞれ意味・内容が大きく異なるため、正しい知識を習得しましょう。
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※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています
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