著名人・賢人コラム ココロの処方箋
【鈴木祐著・科学的な適職】看護師必見! キャリア選びで失敗する真の原因

Vol.11

科学ジャーナリスト・鈴木祐さんからのメッセージ 看護師必見! キャリア選びで失敗する真の原因|科学的な適職①

「本当に看護師になってよかったのか」「この職場で働き続けていいのか」——。看護師としてのスキルアップ、キャリアアップを目指して日々がんばっているとはいえ、理想と現実はまったくの別物。多忙さや人間トラブルなど、業務上の悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。なかには、「そもそも看護師というキャリアを選んだことを後悔している」という人もいるかもしれませんね。では、わたしたちはなぜキャリア選びに失敗してしまうのでしょうか。「そもそも、人間の脳は職業選択に向いていない」と話す科学ジャーナリストの鈴木祐さんが、その原因と対応策について伝授します。

いま看護師をやめて後悔しない?

看護師の就職や転職の失敗を引き起こす「視野搾取」

私たちがキャリア選びに失敗する根本的な原因について考える前に、ハーバードビジネススクールが行った“ある調査”について紹介しましょう。“ある調査”というのは、日本を含む世界40カ国のヘッドハンターや人事部門の責任者1000人超にインタビューを行い、「良い仕事を見つけられずに後悔した人たち」の共通項を調べたもの。その結果から、次のことがわかったといいます。

就職と転職の失敗は、およそ7割が「視野狭窄」によって引き起こされる

「視野狭窄」とは、ものごとの一面にしか注目できなくなり、その他の可能性をまったく考えられない状態を指します。

たとえば、先の調査でもっとも多かった失敗は「下調べをしっかりしなかった」というものでしたが、これはどういうことでしょう? 普通に考えれば、キャリア選択の場面では徹底的なリサーチを行うのが当たり前。もし友人から「直感で転職先を選んだ」などと言われたら、誰もが「もっと下調べをしなさい」とアドバイスするはずです。が、いざ自分のことになると、なぜか私たちは十分なリサーチを怠りやすくなります。

ヘッドハンターたちの証言によれば、転職先の企業に「業績はどのように査定していますか?」や「仕事の裁量権はどれくらい確保されていますか?」といった質問をぶつけた人はかなりの少数派だったとか。彼らが「もはや十分な情報を手に入れた」と判断したのか、はたまた「もう自分の進路は間違いない」と思い込んでしまったのかは定かではないものの……。どうやら多くの人は、「適職選び」という人生の一大事においても、広い視野を維持できない傾向にあるようです。

病院・転職先は比較検討することが大事

「視野搾取」を避けるには3つ以上の選択肢を!

ハーバード・ビジネススクールの研究チームは、他にも視野狭窄の定番パターンを3つ挙げています。

①お金に釣られる
給料アップにひかれて転職を決めて、それだけしか考えられなくなるケース。収入が増えたのはいいが、前職で培ったコネクションを失うパターンが見られる。

②「逃げ」で職を決める
現在の仕事に不満が募り、「将来のため」ではなく「逃避」で職を転々とするケース。いまの職場を改善する可能性には思いがいたらないため、最終的に収入も下がることが多い。

③自信がありすぎる、またはなさすぎる
自己評価がやたらと高いせいで「私はどのような職場でもやっていける」「いまの職場には問題が多い」などと断定してしまい、自分のほうに問題がある可能性や現状のありがたみに気づけていないケース。または、逆に自信がなさすぎるせいで、「自分はあの職場には向かない」と決めつけて、より良い可能性から自らを遠ざけるケースも定番。

いずれのパターンにせよ、仕事探しの一部のポイントにしか目が向かず、さまざまな選択肢が頭から抜け落ちていることがわかります。つまり、脳内が黒か白かの二択だけになり、より良い可能性を考えられなくなっている状態です。

ちなみに、視野狭窄のせいで選択を間違える現象はあらゆるシチュエーションに存在し、この問題は、どれだけ頭が良い人でも避けられません。ここで、オハイオ州立大学が行った調査についても紹介しておきましょう。同大学は一流企業の最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者(COO)を対象に、「他の企業から優秀な人材を引き抜く際の意思決定」に関する調査を行い、「それが成功に終わったかどうか」をチェックしましたが、その結果は驚くべきものでした。ほとんどのCEO、COOは「優秀な人材を引き抜くか、引き抜かないか」という二択でしか物事を考えておらず、意思決定の際に3つ以上の選択肢を吟味した人は29%しかいなかったのです。

当然、そんな雑な選択がうまくいくはずもありません。データによれば、二択だけで意思決定をした場合の失敗率は52%。一方で、3つ以上の選択肢を用意した場合の失敗率は32%まで下がっています。

キャリアに悩む看護師さんへ

看護師がキャリア選びを間違える2つの理由

では、なぜこと職業選択という重大な場面において、私たちの視野は狭窄してしまうのでしょうか? 幸いにも近年では職業選択に関する研究が進み、多くの論文がこの問題の答えを明らかにしてきました。それらの知見をまとめると、私たちがキャリア選びを間違える理由は大きく2つにわかれます。

①人類の脳には、職業を選ぶための「プログラム」が備わっていない
②人類の脳には、適職選びを間違った方向に導く「バグ」が存在している

では、①のほうから説明していきましょう。

そもそもの話になりますが、私たち人類には自分に適した仕事を選ぶための能力が備わっていません。なぜかというと、「職業選び」が現代になって初めて浮かび上がってきた問題だからです。

たとえば、あなたが原始時代に生まれていたら、部族の一員として狩りに精を出すしか生きる道はありませんし、江戸時代に生まれれば世襲制のしくみに従って親の仕事を継いでいたでしょう。中世ヨーロッパに生を受けたら、かなりの確率で農奴として一生を終えたはずです。つまり、人が職業を選べるようになったのは、ヨーロッパで能力主義の考え方が進んだ19世紀に入ってからのことであり、人類は歴史の9割以上を「職業選び」に悩まずに暮らしてきたのです。そして、そのせいで人類の脳は「複数に分岐した未来の可能性」をうまく処理できるように進化しませんでした。

大学に残って勉強を続けるべきか? 子どもの頃からの憧れである弁護士を目指して精進するべきか? 地元のコミュニティで堅実な職を探した方がいいのだろうか? それとも、好きなことを仕事にすべく起業の資金を貯めるべきか?

このような現代的な悩みに対して、私たちの脳は適応していないため、大量の選択肢を前にした人の多くは不安や混乱の感情に襲われます。人類にとっていまの状況は、見知らぬ土地にひとりで放り出された幼子さながらなのです。

後悔のない看護師のキャリア形成を目指して

看護師転職のリサーチや分析は欠かさずに行うこと!

続いて、もうひとつの問題である、人類の脳の「バグ」について説明します。誰の頭のなかには、生まれつき大量の「バグ」が住みついており、そのせいで私たちは、人生の重要な選択を高い確率で間違えてしまうことがわかっています。

偏見、思い込み、思考の歪み、不合理性——。バグの呼び名はさまざまですが、いずれにおいても人間の脳には生得的なエラーが存在し、大事な場面でいつも同じような過ちを犯すようにできているのです。

職業選びで「こんなはずじゃなかった」と思う場面もあると思いますが、それもバグの一種です。夢にまでみた職業に就いたところで、長期間にわたって同じ喜びが続くはずがないのに……。多くの人は夢がかなった後の感情を高く見積もりすぎて、結果として大きな落胆を味わうことになるのです(こうしたバグは「インパクト・バイアス」と呼ばれています)。

当たり前ですが、就職や起業の行く末を完全に見抜くのは不可能ですし、実際に仕事を始めてみないと実態がわからないケースも多いでしょう。しかし、事前に少しだけリサーチしてみたり、分析の量を増やしたりするだけでも、これらの失敗が起きる確率をかなりのところまでふせげるはずです。このバグの問題は、あなたの将来を誤らせる大きな論点のひとつなので、ぜひ覚えておいてください。

プロフィール

鈴木祐(すずき・ゆう)

科学ジャーナリスト

1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『科学的な適職』『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。

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