業界ニュース情報便

vol.100

知っておきたい!看護師の「独立」という選択肢(前編)

看護師としてキャリアを重ねる中で、「独立」という選択肢を考えたことはありますか? たとえその気があっても、具体的な第一歩を踏み出すのは、なかなか難しいものですよね。ここでは、ウィル訪問看護ステーションの設立者であり、フランチャイズ展開やコンサルティングの経験も豊富な岩本大希さんにお話を伺い、看護師が独立開業する際の代表的な選択肢である「訪問看護ステーション」の魅力や開業方法について探っていきます。

WyL株式会社 代表取締役
ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 看護師・保健師
岩本大希さん

総合大学の看護医療学部を卒業後、神奈川県相模原市にある北里大学病院の救命救急センターのICU等で看護師として従事。三次救急のドラマティックな看護を経験しながら、患者が家に帰りたくても帰れないことで救急車のたらいまわしが起こる「ベッドの玉突き事故問題」や、突然の搬送・救命治療での充分な意思決定の時間が足りない事を問題と捉え、在宅医療・ケアの受け皿としてヘルスケアベンチャーにて24時間365日対応の訪問看護事業を起こす。

訪問看護ステーションを開設して独立

「病院から地域へ」の流れが加速する今、在宅医療を支える主戦力として、訪問看護は欠かせない存在となっています。しかし、「訪問看護アクションプラン2025」(日本訪問看護財団ほか)」によると、在宅死の割合を約13%(日本の平均)から30%程度(オランダをはじめとする諸外国の平均)まで引き上げる場合、現状の3倍ほどに当たる約15万人の訪問看護師が必要になるのだとか。そうした状況の中、病院の一スタッフとして訪問看護に携わるだけでなく、独立して事業所を開設することに興味を持つ看護師も増えています。2016年にウィル訪問看護ステーションを立ち上げた岩本大希さんも、その一人でした。

「救命救急センターのICUで経験を重ねるうちに、高齢の患者さんが、骨折するほどの心臓マッサージを受けたり、たくさんのチューブにつながれたりする環境に疑問を感じるようになりました。また、ICUで一命を取りとめた後、なかなか退院できない患者さんも多く、そうした人たちの『家に帰りたい』という願いをかなえたいという思いもありました」(岩本さん)

自宅に帰れる人が増えれば、その分、空いたベッドを緊急度の高い次の患者さんに使ってもらえます。看護師として、患者さんの「家に帰りたい」をかなえよう——。そう考えた岩本さんが、ヘルスケアベンチャー企業勤務を経て立ち上げたのがウィル訪問看護ステーションでした。ウィル訪問看護ステーションでは、「すべての人に、“家に帰る”選択肢を」というモットーを実現するため、24時間365日対応を実践しているほか、医療依存度が高い患者さんをケアできる体制も整えています。

訪問看護ならではの魅力とは?

訪問看護ステーションは、主治医からの「訪問看護指示書」を受けて、小児からターミナルまで様々な患者さんに訪問看護サービスを提供しています。母体となるのは、医療法人、社会福祉法人、株式会社、NPO法人、看護協会、医師会など。看護師と保健師の有資格者は、自らが管理者となって事業所を運営することができます。

訪問看護の大きな魅力は、入院・退院という区切りがなく、一人ひとりの患者さんと長期的に関われること。その人の歩んできた人生や家族の状況なども考慮した上で、ベストのケアを提案、実践できます。つまり、「病気や障害を抱えていても住み慣れた自宅で暮らしたい」という願いに寄り添い、できるだけ不安要素を取り除くための働きかけをしていくわけです。

「私のように、救急領域から訪問看護へと移行してくる看護師も多いですね。地域医療という観点からすると、在宅と救急は密接な関係にあるので、興味を持ちやすいのかもしれません。逆に、在宅の現場を経験してから病院に戻るというのも、両方の領域の事情が理解できるので、とても良いと思います。看護師としてのキャリアの中で、一度は訪問看護を経験してみることをおすすめします」(岩本さん)

開業に必要な手順をチェックしておこう

看護師が訪問看護ステーションを設立するにあたり、特別な資格などは必要ありません。まずは、株式会社やNPO法人などの「法人格」を取得しましょう。事務所の開設、必要な人員の確保などができたら、都道府県知事による「指定訪問看護事業者」の指定に必要な書類を提出。指定を受けたら、晴れて訪問看護事業をスタートできます。

訪問看護ステーションで最低限必要とされる人員数は、看護職員2.5人以上(常勤換算)。つまり、自分を含めて3人以上の看護師(あるいは保健師、准看護師)をそろえなくてはなりません。スタートアップの段階では、このメンバー集めが大きなハードルといえます。

また、開業にあたっては、法人格を取得する際の費用や事務所の家賃や備品の購入費、人件費、広告宣伝費などがかかりますが、その中でも大きな割合を占めるのが人件費でしょう。なお、診療報酬の入金があるのはサービス提供の翌々月。少なくとも6カ月分の運転資金が必要であることを加味して、おおむね600万円~1000万円程度の開業資金を準備するケースが多いようです。自己資金で足りない場合は、銀行や日本政策金融公庫などから融資を受けるのが一般的です。

フランチャイズ加入のメリットとは?

このように訪問看護ステーションのスタートアップにはいくつかの関門があり、未経験者が一人で対応するのは大変なこともあります。そこで注目されているのが、フランチャイズに加盟してノウハウを学ぶ方法です。

「たとえば、レセプトなど請求関連の事務作業一つを取っても、初めは難しく感じるでしょう。でも、せっかく地域医療のために力を尽くそうと思っている看護師が、そうした部分で心折れてしまうのは非常にもったいないこと。フランチャイズに加盟すれば、様々なサポートを受けることができるので、スタートアップ時の負担も減らせるはずです」(岩本さん)

しかし、一口にフランチャイズと言っても、フランチャイジーに対するサポートの程度や内容は様々です。中には、立ち上げ時の一時的なサポートにとどまり、その後のフォローアップが不十分なために、運営が立ち行かなくなるケースも少なくありません。実際、2017年には1221施設の訪問看護ステーションが新規に立ち上がった一方で、710施設が廃業・休止に追い込まれています。

何よりも大切なのは、看護師本来の業務である患者さんのケアに集中してもらうこと。だからこそ私たちが行っているフランチャイズ事業(以下、のれん分け)では、開業時の支援のみならず、その後も含めて継続的な運営支援を提供することを重視しています。『訪問看護が好き。でも、経営には自信がない』。そうした思いを抱える看護師を、経験者として力強くサポートしたいですね」(岩本さん)

(後編に続く)

取材・文:ナレッジリング 中澤仁美
撮影:和知 明

参考:日本訪問看護財団「訪問看護アクションプラン 2025」
参考:一般社団法人 全国訪問看護事業協会「令和元年訪問看護ステーション数調査結果」

ウィル(WyL)訪問看護ステーション
ライフスタイルに合わせた多様な働き方ができるステーション。同行訪問や引継ぎのみの教育だけでなく、オリジナルのe-larningとアクティブラーニング型の教育を取り入れ、新卒・新規入職者研修から管理者・看護専門職として自立するまでを支えるキャリア開発ラダーを提供します。各事業所では、転職希望者だけでなく、看護師や看護学生、他事業所の方々の見学も受け付けています。「訪問看護って?」「キャリアの相談をしたい」「経営について知りたい」そんなときは見学に参加してみてください。

所在地:東京都江戸川区中央4-11-8 アルカディア親水公園ビル 地下1階
TEL:03-5678-6522(ウィル訪問看護ステーション江戸川)
URLhttps://www.wyl.co.jp/

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