業界ニュース情報便

vol.123

映画『島にて』離島の生活に未来のヒントがありました

日本海の沖合にぽっかりと浮かぶ山形県唯一の有人離島、飛島。酒田港から定期船で75分の豊かな島には現在140人が暮らしています。人が人として社会を営み、生きていくために必要なことがこの映画には隠されています。

<作品情報>「島にて」
5/8より仮設の映画館にて全国一斉配信、本物の映画館にて順次公開
監督:大宮浩一、田中圭 プロデューサー:大宮浩一、木下繁貴 制作:大宮映像製作所

©『島にて』製作委員会

 

「仮設の映画館」http://www.temporary-cinema.jp/harumachi/

医者もいないこの町で暮らすということ

飛島の面積は2.75㎢。本土を望めば雄大な鳥海山、豊かな自然に恵まれ、その全域が国定公園に指定されています。

そこに一人の漁師が。当時76才の太田忠則さんは大きな真タコを引き上げ、それを妻の洋子さん(当時76才)がゆであげる。そんなシーンからこの映画は始まります。

この島の住民のほとんどが高齢者。かつては日本海側の海の交通の要所として栄えましたが、今は過疎化し、島に暮らしているのは140人です。

島の住民のひとり、佐藤みつさん(当時86才)は夫を亡くしたあと、この島で一人暮らしています。家の廊下や畳をぞうきんでぴかぴかに磨き、食事の用意も自分でします。酒田市で暮らす家族に、「来ないか」と呼ばれたものの、島に残りました。

「出ていく人はいっぱいいた。この部落で半分。島に残るのは田舎者。医者もいない。みんな島から出ていく。さみしいんだ」

島で唯一の医療機関である『飛島診療所』には医師は常駐していません。週に一度、酒田の病院から派遣され、島の住民の様子を診ます。もしもの時はドクターヘリ。現在、看護師は二人体制であるものの、一人体制だった時には島民の不安は計り知れないものだったと看護師の佐々木美紀さん(当時53才)は言います。

佐々木さんは酒田市に住んでいましたが、高齢者の多い島民の健康を思い、島で暮らすようになりました。それでも坂田に帰るときは、島民宅を訪ね、健康状態を伺います。島民にとっては命を守ってくれる大きな存在。

「(医師がいなくて)不安だと思いますよ」

佐々木さんの言葉が重く心に響きます。

移住者によって立ち上げられたデイサービス

島にはデイサービスがあります。立ち上げたのは、この島に移住してきた渋谷一家。聡さん(当時48才)と妻のわかさん(当時45才)。1999年に3人の子どもたちを連れて、この島に移り住み、デイサービス『和楽』を立ち上げました。わかさんたちは、酒田から定期船で来る荷物を島民に運ぶお手伝いもします。

ずっと介護畑だった聡さんは、これまでの“流れ作業”になりがちな介護と理想の間にギャップを感じ、この島でなら、自分たちがやりたい介護ができるのではないかとこのデイサービスを運営しています。

高齢者である一人一人の目線に立ち、各自の家まで送迎する。移住当初はいぶかしい目で見られた渋谷さん一家も、島民に受け入れられ、今ではデイサービスは高齢者たちの憩いの場となっています。

一方で子どもたちの数は極端に少ないのも現実。この島にはたった一人しか中学生がいません。渋谷さんちの息子、新くんは中学3年生。高校進学するなら島を出なくてはいけません。極端に進む少子高齢化は今の日本を大きく映し出している鏡なのかもしれません。

島を支えるIターンやUターンの若者たち

過疎化が進む島ですが、IターンやUターンで移り住む若い世代の存在もまた、大きな支えとなります。島出身で、島内に雇用を生み出し、移住者を受け入れる活動を試みるため、島の食材を生かしたカフェや観光ガイドを運営する本間当さん(当時38才)が代表を務める『合同会社とびしま』には30代を中心とした社員10名が働いています。

とびしまの共同代表者で山口県出身のデザイナー、松本友哉さんは島での暮らしの可能性を次のように語ります。

「デザインの仕事はどこにいてもひとりでできるけれど、コミュニティに所属しないと人は生きていけない」

飛島の人たちは、島の資源でつつましやかに、そして支えあって生きています。離れた人たちも、ここに再び戻り、英知を集めて、島の可能性を最大限に引き出そうとしています。

海が荒れて定期便が欠航になったとしても、島の人たちは家の軒先に干し柿をつるし、たくわんを仕込みます。しかし、それも限りあること。若い世代は本土とのつながりを強くし、自治体をうまく運営することを考えるようになります。

この島には日本の働き方を大きく変えるヒントが大きく隠されています。若い世代が高齢者の健康を気遣い、安否を確認し、命の炎をともしていく。いま、世界はコロナで不安の渦に巻き込まれ、在宅看護も介護も思うようにはなりません。今後はコミュニケーションの取り方も大きく変わっていくでしょう。しかしコロナが収束したとき、家族以外の誰かとの結びつきを考えるとき、この島の住民のことを考えれば、大きなヒントになるかもしれません。

 

取材・文/ライター 廉屋友美乃

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