私が出会ったびっくりな患者さん

患者の睡眠ケア Q4環境整備【入眠しやすい環境づくりとは?】

第18回

『エキスパートナース』201611月号<最新エビデンスに基づく今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A>より抜粋。第4回は環境整備「Q4 入眠しやすくする環境づくりは何を心がけるとよい?」を紹介いたします。

板倉朋世 獨協医科大学看護学部 基礎看護学 准教授
飯島満枝 とちぎメディカルセンターしもつが 副院長兼看護部長

A :「光」「温熱」「音」の環境調整が重要です。睡眠を妨げるような状態になっていないか、定期的にチェックしましょう。(板倉朋世、飯島満枝)

睡眠薬に頼ることのない環境調整による良質な睡眠への援助の重要性は、前の項目で述べられた通りです。

病室内の物理的環境条件のなかでも、特に「光」「温熱」が睡眠に影響を及ぼす2大環境要因といわれています。本項目ではここに「音環境」を加えて、入眠しやすくする環境づくりについて検討します。

良質な睡眠のための環境づくり①:「光環境」の調整

1)患者は病室の向きや閉めきったカーテンによって、十分な自然光を浴びていない恐れがある

光は人間の概日リズムの最も強力な調節因子であり、日々誤差を生じてゆく概日リズム位相を最も効率的に補正するリセッターとして知られています。

廊下を挟んで、南向きと北向きに病室が配置されているのをよく見かけます。北向きの病室は、どうしても自然光が不足してしまいます。また、多床室ではプライバシー保護を目的に間仕切りカーテンを閉め切っているのも多く目にします。このような環境下では、病室の向きやベッドの位置によって照度が変わってきます

筆者らは、「南向き病室」と「北向き病室」の窓際の照度を4か月間に渡り測定しました(図1引用文献1)。南向き病室の照度は、朝7時には3,964lx(ルクス)の高照度を示し、太陽が真南にあるときに最大となり、16時には低くなっていました。北向き病室の照度は、正午を過ぎて16時に4,082lxの高照度を示しましたが、これは西日による影響と考えました。

人間は午前中に、睡眠サイクルの制御に関する体内物質である、メラトニンの抑制効果がある2,500lx以上の高照度の光を浴びると、人間の生体リズムが改善されると言われています。反対に夜間前期に高照度の光を浴びると概日リズムがリセットされず、夜型化し不安定になります。午前中に強い光を浴び、夕方には徐々に照度を下げていくのが望ましいと言えます。

1 病室の向きの違いによる照度の変化

2)病室の方角に合わせカーテンの開閉を行うことで、光による生体リズム調整を促す

また、4床室の各ベッド周囲のカーテンを開閉した場合のベッド枕もとの照度は、廊下側では、4ベッドすべてのカーテンを全開にしてはじめて、病室内の推奨照度である100200lxに達しました(窓側のカーテンやすべてのカーテンを閉めたときには、100lx以下となってしまいます)。反対に、西日の影響を受けた16時の北向き病室の窓側の照度は3,227lxと最高値を示しました。

「南向き病室」では、早朝の陽光が射す時間帯だけでもカーテンを全開にして、高照度の環境を提供することを推奨します。入院時オリエンテーションで、早朝に高照度の光を浴びることが良質な睡眠につながることを説明し、患者の協力を得られるような試みが必要です。カーテンを開けるメリットを表現したポスターの掲示もよい手段となります(図2-①)。

一方で、「北向き病室」は、夕方にはカーテンやブラインドを閉めて遮光していく工夫が必要です。16時から18時の時間帯は、夜間勤務への引継ぎなどで病室の巡視が遅れることもあると思います。西日を浴びたままの状態が続くことが懸念されます。光と睡眠の関係を念頭に置き、カーテンやブラインドを閉めるタイミングを逃さないようにします(図2-②)。

2 環境づくりのポイント

①午前中に高照度の光を浴びる

カーテンを開けるメリットを示したポスターを掲示する

②午後には高照度の光を浴びないようにする

引き継ぎなど多忙な時間ではあるが、カーテンを閉めることを忘れない

③医療者由来の音を生じさせない

ビニールエプロンの着脱は、病室の外で行う

最近では、壁埋込型の照明器具である人工窓(図3)が建築計画に取り入れられています(引用文献2)。多床室のうち採光窓のない壁面に人工窓を設置し光を補償するものです。

また、睡眠ケア用品として高照度光照射装置も各種開発されており、高齢者施設では導入する施設が増えています。うつ病、睡眠相後退症候群/長時間睡眠者、高齢者の夜間徘徊、術後せん妄などに対する効果が示されています。

3 病室に設置した人工窓(福島県立医科大学会津医療センター)

2種類の光を組み合わせ、自動で「日の出」から「日の入」まで表現し、患者の生活サイクルをサポートする(文献2を参考に作成)

良質な睡眠のための環境づくり②:「温熱環境」の調整

1)夏季における冷房器具調整のポイント

温熱環境は、人間の体温調節や快適性に影響を与える重要な因子です。温熱感覚や体温調節にはたらきかけて、睡眠に影響を与えています。

「室内の設定温度は28」という基準が定着していますが、これは1966年に報告された厚生科学研究『ビルディングの環境衛生基準に関する研究』に示された、「室温の範囲は1728とする」を参考としたものです(引用文献3)。ただ 、当時の基準がはたして現代に通用する基準であるのか、はなはだ疑問です。実際、「室温が2528にかけて1℃上がると生産性が2%低下する」「適正室温は26℃である」とする“28という基準以外の設定を推奨する報告もあります(引用文献4)。

仮に28が適正温度であったとしても、空調の設定温度が室内温度を示しているわけではありません。室温を28にするという意味であり、実際に人がいる地点の温度とずれることがままあります。病室内の複数か所で定点測定を行い、26をめやすとした適切な空調管理が必要です。

夏季の睡眠環境については、睡眠の全時間を冷房した場合(気温26、相対湿度50%)と半分に冷房を入れる場合(前半4時間冷房と後半4時間冷房)を比較した報告があります(引用文献5)。

全時間冷房では中途覚醒が減少し、ノンレム睡眠も有意に出現して、睡眠の質が高くなっていました。一方でエアコンから噴出する冷風が、直接人体に当たると、そのたびに体動回数、覚醒、心拍上昇が有意に多くなり、高速の冷風が覚醒刺激となる可能性も示唆されています。また、暑熱条件(気温32、相対湿度80%)の場合でも、扇風機を使って足もとから顔方向へと送風すると、足皮膚温と直腸温が0.3程度低下し、寝床内温湿度も低く保たれ、発汗量が少なく中途覚醒を減少させています。

患者は、発熱がなくても氷枕の使用を希望します。暑熱条件で冷却枕を使用すると、起床時の鼓膜温と睡眠中の全身発汗量が有意に減少し、また、中途覚醒も減少して睡眠効率が改善したという報告もあります(引用文献6)。

これらの結果から、夏季においては、冷房使用による26コントロール下で冷風が直接当たらないようにし、冷却枕を使用することにより睡眠の質が高められます。

2)冬季における暖房器具調整のポイント

冬季の睡眠環境については、高齢者では、気温10以下で睡眠効率が低くなり、平均覚醒時間も長くなると報告されています(引用文献7)。近年は、電気毛布以外にも遠赤外線を利用した毛布やマイクロファイバー製の毛布などがありますが、吸湿性を考えると合成繊繊のものは避けたほうがよいでしょう。羽毛布団が使われている病院も増えてきていますので、熱を遮断してしまう合成繊繊の毛布は、基本的に布団の上に使うと、保温性がアップします。

布団に入ったときのひやりとした冷たさや不快感、足先の冷たさが原因で寝つくまでに時間がかかり、睡眠が妨げられていることも報告されています(引用文献8)。入眠には手足など末梢部皮膚温の暖まりが重要となります。入床12時間前に電気毛布などで寝具内を暖めておくことは有効です。しかし、就寝中暖まりすぎた寝床内温度は負荷となるため、入床後は電源をオフにするなどの工夫が必要です。

良質な睡眠のための環境づくり③:「音環境」の調整

光と温熱環境は自然環境に依存しており、人由来のものではありません。しかし医療者由来で発生する音に関しては、私たちの意識改革が必要となります。

病棟で感じる音についての先行研究を概観すると、「病棟内で発生する音源を騒音計で測定し基準値と比較したもの」「患者や看護師が不快、または睡眠の妨げとして感じる主観的な影響を取り上げたもの」があります。いずれにしても、睡眠に影響する騒音には「モニター・ナースコールなどの機械音」「ワゴン車・点滴台の動作音」「流し・トイレなどの流水音」「患者・医療者の話し声や足音」「いびき・咳」などがあります。最近では、感染対策上必須であるビニールエプロンを装着する音や、おむつの面ファスナーの音が問題になっています。

特に、医療者由来で発生する音に関しては、対策を講じて睡眠の妨げにならないようにする必要があります。ビニールエプロンの装着・脱着は病室の外で行うのがよいでしょう(図2-③)。面ファスナーの音を消す方法については多数研究がありますが、実際に音を消す方法はいまのところありません。しかし、どのような音が騒音となり睡眠を妨げているのかを看護師それぞれが自覚し、ていねいに静かな対応を心がけると、静かな環境を保てるようになるでしょう。

[引用文献]
1.飯島満枝:病室の向きと間仕切りカーテンの開閉が病室環境に与える影響.人間-生活環境系学会 人間-生活環境系シンポジウム報告集 2014;38:17-20.
2.渡邉拓: 福島県立医科大学会津医療センターにおける「4床室」照明進化の取組みについて.病院設備 2014;56(3):30-37.
3.厚生科学研究:ビルディングの環境衛生基準に関する研究.
4.平松美紀,後藤伴延,小金井真:在室者の覚醒状態を媒介とした室温と作業効率の因果関係に関する被験者実験.日本建築学会大会学術講演梗概集 D-2 環境工学Ⅱ 2014:483-384.
5.Okamoto-Mizuno K,Tsuzuki K,Mizuno K:Effects of humid heat exposurein later sleep segments on sleep stages and body temperature i nhumans.Int J Biometeorol . 2005;49(4):232-237.
6.Okamoto-Mizuno K,Tsuzuki K,Mizuno,K:Effects of head cooling on humansleep stages and body temperature.Int J Biometeorol 2003;48(2):98-102.
7.都築和代:冬期の低音環境が睡眠時の体温および睡眠に及ぼす影響.日本建築学会大会学術講演梗概集 D-2 環境工学Ⅱ:2007:415-416.
8.Van Someren EJ:More than a maker:Interaction between the circadianr e g u l a t i o n o f t emp e r a t u r e a n d s l e e p,a g e – r e l a t e d c h a n g e s,a n dtreatment possibilities.Choronobiol Int 2000;17(3):313-354.

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2016照林社
[出典]エキスパートナース2016年11月号
P.80~「最新エビデンスに基づく 今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A」

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