悪性症候群は、精神科領域を中心に報告される重篤な副作用で、突然の高熱や筋固縮、血清CK(クレアチニンキナーゼ)の上昇などが主な症状として現れます。発症頻度は低いものの、原因となる薬が内科で処方されている場合もあり、見逃すと命に関わるため、現場の看護師としては早期発見と的確な対応が求められるでしょう。
当記事では、悪性症候群の基礎知識や発症リスクのある薬剤、代表的な症状、検査・診断の基準、治療方法など、看護師として知っておきたい情報をまとめています。「悪性症候群について基礎から学びたい」「患者さんの異変にすぐ気づけるようになりたい」という方は、ぜひ参考にしてください。
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院 院長)
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Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市)院長。2009年、群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月より現職。総合内科専門医、循環器内科専門医。 |
悪性症候群とは?
悪性症候群とは、抗精神病薬をはじめとする精神神経用薬により引き起こされる副作用を指す用語です。一定の薬品を服用中に、高熱や意識障害、身体の機能低下といった症状が複数出た場合、悪性症候群が疑われます。
悪性症候群の症状は、該当の薬を服用すると必ず起きるわけではなく、発症頻度は0.07~2.2%程度であると言われています。
悪性症候群の症状は、治療・服薬を開始してから数週間以内に現れるのが一般的です。また、悪性症候群の原因ははっきりと分かっていません。悪性症候群は薬の服用による発症リスクが必ずしもあるわけではなく、複数の要因が関係していると言われています。一度悪性症候群にかかった人は再発しやすく、疲労や感染、鉄欠乏、脳器質性疾患などもリスク要因です。
悪性症候群は、発生当初には抗精神病薬を使用した患者さんに見られる症状で、死に至るケースがあったことから「悪性」と呼ばれるようになりました。現在ではさまざまな薬の服用中に見られると分かっており、重篤な状態を防ぐためには、適切な対処が求められます。
(出典:医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け) 悪性症候群」)
悪性症候群を引き起こす恐れがある薬剤

悪性症候群を引き起こす可能性がある薬剤は、次の通りです。
従来の抗精神病薬(第1世代抗精神病薬:FGA) |
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クロルプロマジン・フルフェナジン・ハロペリドールなどドパミンD2受容体阻害作用が強い薬品は、より悪性症候群を引き起こしやすく、特に筋肉内注射はリスクが高いと言われています。 |
抗精神病薬(第2世代抗精神病薬:SGA) |
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リスペリドン・ペロスピロン・オランザピン・アリピプラゾールなどFGAよりドパミンD2受容体阻害作用が弱い薬品です。発症率などが抑えられているという明確な見解は得られていないものの、発症率が低く軽症のケースが多い傾向があると言われます。 |
制吐剤 |
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ドンペリドン・ドロペリドール・プロメタジンなど精神科以外の診療科からの発症例としては、制吐剤(嘔吐を予防する薬)の服用中に発症したケースが報告されています。 |
抗パーキンソン病薬 |
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抗パーキンソン病薬の場合は、服用そのものではなく、薬の急な減量や中止に伴って発症するケースが一般的です。 |
上記のような薬の服用や減量・中止の際には、急な体調の変化が起きないか、患者さんの様子を注視しましょう。
(出典:J-STAGE「薬物と神経筋障害:診断と治療の進歩」)
悪性症候群の三大症状

悪性症候群を放置すると、重篤な状態に陥る恐れがあるため、症状が認められたら迅速に対応する必要があります。ここでは、悪性症候群の代表的な症状として、三大症状について解説します。三大症状が出ているかどうかで悪性症候群と診断できるため、早期発見に役立ててください。
筋固縮
筋固縮は、筋強剛とも呼ばれる錐体外路症状の一種で、筋肉が固くこわばり、脱力できなくなる症状です。悪性症候群の症状のなかでも筋固縮は発生率が高く、軽度・重度を問わずほとんどの症例に現れています。
筋固縮は全身あるいは四肢など体の一部に見られる症状と言われています。主にパーキンソン病など固有の疾患にのみ見られるため、判断しやすいでしょう。
また、筋固縮は体のこわばりだけでなく、痛みとして現れるケースもあります。ほかの悪性症候群の症状と同時に、患者さんが体の痛みを訴えている場合も注意が必要です。
高熱
悪性症候群を発症すると、37.5度以上の高熱が出る場合があります。
抗精神病薬など特定の薬を投与した際に発熱があれば、悪性症候群が疑われます。服薬中に発熱が見られ、悪性症候群が疑われる場合は、筋固縮などほかの症状を確認しましょう。
悪性症候群による発熱は、39度以上の高熱が出るケースが多いと言われており、体温が39度以上の場合は特に注意が必要です。
(出典:医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 悪性症候群」)
血清CKの上昇
筋固縮や発熱などの症状が現れるのと同時期に、多くの場合、血清CKの上昇が認められます。
上記のような臨床症状が改善したあとも、しばらく異常値が続くことが多いものの、悪性症候群の病勢を観察するのに役立つ指標です。
血清CKのモニタリングは、患者さんが腎障害を起こす危険性を予測し、予防するためにも重要となります。
(出典:医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 悪性症候群」)
(出典:J-STAGE「薬物と神経筋障害:診断と治療の進歩」)
そのほかの症状
悪性症候群を発症した場合、三大症状以外の症状が見られる場合があります。三大症状以外の症状の例は次の通りです。
- 精神状態の変化(興奮・錯乱状態など)
- 高血圧・頻脈など
- 昏睡
- 茶色の尿 など
尿が変色している場合、尿にタンパク質の1種であるミオグロビンが放出されている恐れがあります。ミオグロビン尿の症状が出ると、急性腎障害や腎不全など、致死性が高く重篤な疾患が進行する場合があります。
悪性症候群の検査・診断

悪性症候群の症状が見られる場合、症状を放置すると重篤な疾患に発展する恐れがあります。悪性症候群の疑いがある患者さんに対しては、早期発見・早期治療のために迅速な対応が求められます。
ただし、悪性症候群を診断するための検査は存在しません。そのため、診察などで悪性症候群を診断する必要があります。悪性症候群の診断ポイントは、筋固縮・高熱・血清CKの上昇がすべて見られるかどうかです。3つの症状がすべて出ている場合、悪性症候群と診断できます。
また、三大症状のうち2つの症状が出ている状態で、次の症状のうち4つを満たした際にも悪性症候群と診断されます。
- 頻脈
- 頻呼吸
- 高血圧・低血圧
- 意識の変容
- 異常な発汗
- 白血球の増多
悪性症候群の症状は、発熱や自律神経症状など、ほかの疾患にも共通するような症状もあります。悪性症候群が疑われる場合でも、ほかの疾患にかかっている可能性も考え、該当する疾患の検査を行うことがあります。
(出典:厚生労働省「B.医療関係者の皆様へ」)
悪性症候群の治療

患者さんの症状などから悪性症候群が疑われる場合、以下のような治療法を行います。
原因薬の使用中止 |
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初動として、原因薬の使用を中止するのが一般的です。ただし、抗パーキンソン病薬のように、減薬や中止で症状が悪化する場合があるため、使用中止は状況に応じて行います。 |
発熱管理(全身冷却) |
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全身を冷却し、発熱管理を行います。冷却の方法としては、皮膚を濡らして送風する、冷却用のブランケットで全身を冷やすといった方法が挙げられます。また、脇の下や頭、太ももの付け根を冷やすと効果的です。 |
脱水の補正 |
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悪性症候群の場合、発熱・発汗などによる脱水が懸念されるため、適宜水分補給を行い、脱水を防ぐことが必要です。 |
筋弛緩 |
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筋固縮が起きている場合、筋弛緩剤を経口もしくは点滴で投与します。 |
呼吸管理 |
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頻呼吸などが見られる場合、血中の酸素濃度などを確認しながら呼吸管理を行います。 |
解熱効果のためのダントロレンナトリウムの投与 |
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ダントロレンナトリウムは、解熱効果のほかにも筋弛緩の効果があり、悪性症候群の治療に活用される薬品の1つです。ただし、副作用として呼吸困難が起こる恐れがあるため、投与の際は呼吸管理を十分に行いましょう。 |
悪性症候群の治療は、一般的には集中治療室で行われます。また、上記の治療法のほかにも、興奮が激しい患者さんには鎮静剤を使用するケースもあります。
(出典:医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け) 悪性症候群」)
まとめ
悪性症候群は、抗精神病薬や制吐剤などの服用が原因で発症する副作用です。主な症状には、高熱、筋固縮、自律神経の異常などがあり、迅速な対応をしなければ生命に関わる可能性もあります。診断は、三大症状(筋固縮・高熱・血清CKの上昇)をもとに行われ、治療では原因薬の中止や対症療法が基本となります。看護師としては、患者さんの状態をしっかり観察し、異変に早く気づくことが求められるでしょう。
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※当記事は2025年2月時点の情報をもとに作成しています。
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