血液中の酸素レベルが低下している患者さんには、室内空気よりも高い濃度の酸素を投与する「酸素療法」を行います。酸素療法で用いる酸素吸入装置には主に低流量システムと高流量システムの2種類があり、各種類においてもさまざまなデバイスがあります。
ベンチュリーマスクは、高流量システムに分類される酸素療法デバイスです。主に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などⅡ型呼吸不全の患者さんに用いられます。
今回は、ベンチュリーマスクの概要や効果から、使い方・ポイント、さらにベンチュリーマスク以外に使われる酸素療法デバイス、ベンチュリーマスクを使用する基準まで詳しく説明します。
ベンチュリーマスクとは?
ベンチュリーマスクとは、高流量システムに分類される酸素療法デバイスの一種です。一部を細くした酸素の供給路から酸素を流して陰圧をつくり、周りの空気を引き込みながら酸素とミキシング(混合)できるマスクタイプの酸素療法デバイスとなっています。
酸素と空気の混合比を調整することによって、酸素濃度を通常24%~50%の範囲で柔軟かつ正確に設定でき、患者さんの1回換気量、つまり呼吸状態にかかわらず安定して酸素を供給できる点が特徴です。そのため、二酸化炭素の排出がうまく行えないことの多いⅡ型呼吸不全の患者さんに多く用いられます。
ただし、酸素濃度を設定するには製品専用のアタッチメントや供給ガス流量の設定が必要となることも覚えておきましょう。
ベンチュリーマスクの「ベンチュリー効果」とは
![ベンチュリーマスクの「ベンチュリー効果」とは](https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/wp-content/uploads/2024/11/NP551_1.jpg)
ベンチュリーマスクは、「ベンチュリー効果」を利用して酸素を供給しています。ベンチュリー効果とは、液体や気体といった流体が狭い出口を通過するときに、流速が増加して低い圧力が発生する現象のことです。
ベンチュリーマスクのアダプター側面には空気を入れるための小さな穴があり、そこに高圧の酸素を流すことでジェット流がつくられ陰圧が発生します。この陰圧によって外部の空気が引き込まれ、酸素と空気の混合ガスが生成されるという原理です。酸素と空気をミキシングすることで、通常よりも高流量の酸素を投与できるようになります。
また、空気を引き込む量はベンチュリーマスクのアタッチメント・ノズルである「ダイリュータ」の穴の大きさによって異なります。色の異なるダイリュータを交換することで、異なる酸素濃度を供給することが可能です。
ベンチュリーマスクの使い方とポイント
![ベンチュリーマスクの使い方とポイント](https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/wp-content/uploads/2024/11/NP551_2.jpg)
前述の通り、ベンチュリーマスクの酸素濃度の設定には専用アタッチメントや酸素流量の適切な設定が必要です。ベンチュリーマスクを使用する患者さんの看護をいつ任されても自信をもって対応できるよう、あらかじめ使い方とポイントを把握しておきましょう。
【ベンチュリーマスクの使い方】
(1)酸素流量計(恒圧式)にヒューミディファイヤーアダプターを接続し、蒸留水を接続する
(2)酸素チューブの接続口のピンを折り、ネブライザー用フードに接続する
(3)設定酸素濃度ごとに適切なダイリュータをネブライザー用フードにセットし、蛇管と酸素チューブに接続する
ベンチュリーマスクの患者さんを看護する際は、まず「マスクがしっかり顔に密着しているか」「酸素流量と酸素濃度が指示通りの設定となっているか」の2点を確認しましょう。酸素流量の目盛りはもちろん、ダイリュータの色の確認も重要です。
また、ベンチュリーマスクで使用する酸素マスクは、一般的な酸素マスクと違って呼気を逃がすための穴が大きくなっています。一般的な酸素マスクを装着させると、呼気ガスが停滞するため必ず専用の酸素マスクを使いましょう。
なお、ベンチュリーマスクの主な適応対象となる慢性閉塞性肺疾患(COPD)などⅡ型呼吸不全の患者さんは、CO2ナルコーシスの発症リスクが高くなっています。したがって、血液ガスデータとともに頭痛や振戦、傾眠といった症状の有無をしっかり観察しておくこともポイントです。また、ベンチュリーマスクは供給ガス流量が多いため、話しにくかったり、食事をしにくかったりというデメリットがあるので配慮も必要です。
ベンチュリーマスク以外の酸素療法で使われるデバイス
![ベンチュリーマスク以外の酸素療法で使われるデバイス](https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/wp-content/uploads/2024/11/NP551_3.jpg)
血液中の酸素濃度が低下している患者さんに行う酸素療法では、患者さんの呼吸状態・酸素状態によって低流量システムまたは高流量システムのいずれかのデバイスが用いられます。
低流量システム |
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高流量システム |
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ここからは、低流量システムと高流量システムにおけるそれぞれの酸素療法デバイスについて詳しく紹介します。
簡易酸素マスク
簡易酸素マスクは、主に「35~50%程度」の酸素濃度が必要なときに用いられる低流量システムの酸素療法デバイスです。両側に呼気を排出する穴がある酸素マスクで鼻と口を覆い、酸素を投与します。
鼻カニューラと比べて高い吸入酸素濃度が得られる一方で、酸素流量が少なければマスク内に呼気ガスが停滞します。呼気ガスの再呼吸によるPaCO2上昇の危険性もあるため、酸素流量は「5L/分以上」に維持することが基本です。
メリット |
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デメリット |
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リザーバーマスク
リザーバーマスクは、主に「60%以上」の酸素濃度が必要なときに用いられる低流量システムの酸素療法デバイスです。「リザーバー付き酸素マスク」「リザーバー付きマスク」とも呼ばれています。呼気時にリザーバーバッグ内に酸素を溜め、吸気時にその酸素を吸入することで、高濃度酸素を吸入できます。
患者さんの1回換気量が多い場合はリザーバーバッグ内の酸素が不足する可能性があるため、適宜マスクの装着を緩める・一方向弁を1つ外すといった工夫が必要です。
メリット |
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デメリット |
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鼻カニューラ
鼻カニューラは、主に低い酸素濃度で酸素化の維持が見込まれるときに用いる低流量システムの酸素療法デバイスです。鼻腔から酸素ガスを供給します。「鼻カニューレ」とも呼ばれています。
ほかの酸素療法デバイスと比べて簡易的で、患者さんの生活にも影響を及ぼしにくい一方で、患者さんの呼吸状態によっては適さない可能性がある点に注意が必要です。
メリット |
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デメリット |
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インスピロンネブライザー
インスピロンネブライザーは、主に人工気道を装着しており十分な加湿が必要な患者さんに対して用いられる高流量システムの酸素療法デバイスです。
正式名称は「ネブライザー付ベンチュリー装置」であり、ベンチュリーマスクにネブライザーの機能が備わった酸素療法デバイスといえます。酸素投与と同時に加湿も行える点が最大の魅力です。
メリット |
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デメリット |
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酸素療法にベンチュリーマスクを使うかの判断基準
![酸素療法にベンチュリーマスクを使うかの判断基準](https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/wp-content/uploads/2024/11/NP551_4.jpg)
酸素療法にベンチュリーマスクを使用するかどうかは、患者さんの呼吸状態によって決まります。
患者さんの呼吸状態からは「安定した酸素濃度管理が必要か」を把握することが可能です。安定した酸素濃度管理が必要な場合は、基本的に高流量式酸素療法デバイスであるベンチュリーマスクが適しています。
また、安定した酸素濃度管理が必要で、かつ人工気道を有しており加湿が必要な場合は、ネブライザー機能付きのインスピロンネブライザーが適していると判断できます。
このように、酸素療法デバイスによって特徴が違えば、適した症例も異なります。ベンチュリーマスクを使用していた患者さんでも、呼吸状態の変化によって低流量システムの酸素療法デバイスが適応となるケースもあるため、定期的に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
ベンチュリーマスクとは、ベンチュリー効果を利用して酸素供給をする高流量システムの酸素療法デバイスの一種です。二酸化炭素の排出がうまく行えないことの多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)などⅡ型呼吸不全の患者さんに多く用いられています。
酸素療法で使用するデバイスには、ベンチュリーマスクのほか鼻カニューラやリザーバーマスク、インスピロンネブライザーなどが挙げられます。患者さんの呼吸状態によって、適切に使い分けながら看護ケアを実施することが大切です。
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※当記事は2024年9月時点の情報をもとに作成しています