デルマトームとは、脊髄神経がどの皮膚感覚領域を支配しているかを示す図です。医学や看護の分野で重要視されており、特に神経障害や疼痛の診断において大きな役割を果たしています。
当記事では、デルマトームの基本的な理解や効率的な覚え方、臨床での活用方法、関連する疾患について詳しく解説します。デルマトームを正確に把握すれば、症状の原因を特定し、適切な治療に結びつけることが可能です。デルマトームの知識を深めて、健康管理に役立ててください。
デルマトームとは? 何が分かる?
デルマトームとは、どの脊髄神経がどの皮膚感覚の領域を支配しているかを示す図です。具体的には、脊髄から出る神経根ごとに皮膚表面の感覚(触覚・痛覚・温度覚)の領域を表すもので、日本語で「皮膚分節知覚帯」や「皮膚感覚帯」とも呼ばれます。
病気や怪我によって脊髄から出る末梢神経根が傷付いた場合、患部から離れた場所にしびれや痛みが生じることは少なくありません。たとえば、頸椎椎間板ヘルニアや変形性頸部脊椎症といった首の病気が原因で手にしびれが現れるケースがあります。
デルマトームで分布を知っておけば、自分の痛みやしびれなどが、どの神経が障害されたことで生じているのか推測できるようになります。原因を推測できれば、看護だけではなく痛み・しびれの根本的な治療に役立てることも可能です。
(出典:J-STAGE「痛みの逆探知―新デルマトームの作成と応用,ツボとの関係」)
デルマトームの表の覚え方
脊髄神経と皮膚感覚との関係を把握するためには、デルマトームを覚えるしかありません。しかし、デルマトームは複雑で覚えるのが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。今回は、デルマトームの効率的な覚え方について表を交えながら解説するので、参考にしてください。
デルマトームを覚えるにはまず脊髄神経の理解が大切
デルマトームを知るうえで欠かせないのが、脊髄神経の概要を理解することです。
脊髄神経は脊椎の椎間孔から1対ずつ出ています。上から、8対の頸神経、12対の胸神経、5対の腰神経、5対の仙骨神経、1対の尾骨神経の5種類です。頸神経は頸椎の間から、胸神経は胸椎の間から、腰神経は腰椎の間から、仙骨神経は仙椎から、尾骨神経は第1尾椎と第2尾椎の間から出ています。
脊髄 | 対 | 脊髄神経 |
---|---|---|
頚髄(C) | 8対 | 頚神経(Cervical nerve) |
胸髄(T) | 12対 | 胸神経(Thoracic nerve) |
腰髄(L) | 5対 | 腰神経(Lumbar nerve) |
仙髄(S) | 5対 | 仙骨神経(Sacral nerve) |
尾髄(Co) | 1対 | 尾骨神経(Coccygeal nerve) |
脊髄神経は、それぞれ英語の頭文字を取って以下のように表記されます。
- 頚神経(Cervical nerve)=C
- 胸神経(Thoracic nerve)=T
- 腰神経(Lumbar nerve)=L
- 仙骨神経(Sacral nerve)=S
- 尾骨神経(Coccygeal nerve)=Co
以下は上記のアルファベットに神経の番号を付与したものであり、デルマトームの図のなかでも表記される大切なポイントです。
- C1~C8(第1頚神経~第8頚神経)
- T1~T12(第1胸神経~第12胸神経)
- L1~L5(第1腰神経~第5腰神経)
- S1~S5(第1仙骨神経~第5仙骨神経)
デルマトームを覚えるために、まずは基礎として、上記の脊髄神経に対する理解を深めておくとよいでしょう。
(出典:日本終末期ケア協会「デルマトームをわかりやすく徹底解説」)
複雑なデルマトームの効率的な覚え方
デルマトームにはさまざまな覚え方がありますが、基本は体表のランドマークとなる部分を覚えると効率的です。たとえば、以下のような形で覚える方法もあります。
部位 | 支配する脊髄神経 | デルマトームの表記 |
---|---|---|
肩 | 第4頚神経(Cervical nerve:C) | C4 |
乳頭付近 | 第4胸神経(Thoracic nerve:T) | T4 |
剣状突起 | 第6胸神経(Thoracic nerve:T) | T6 |
へそ | 第10胸神経(Thoracic nerve:T) | T10 |
鼠経部 | 第12胸神経(Thoracic nerve:T) | T12 |
大腿前面 | 第2腰神経(Lumbar nerve:L) | L2 |
膝 | 第3腰神経(Lumbar nerve:L) | L3 |
肛門 | 第5仙骨神経(Sacral nerve:S) | S5 |
支配領域が複雑で覚えるのが大変な場合は、人間を直立ではなく前屈した姿勢に置き換えると分かりやすくなるでしょう。また、デルマトームは人間以外の動物でも描くことが可能です。たとえば、四足歩行の動物に置き換えてみると、お尻の位置は1番後ろに配置され、前足の屈筋群と伸筋群が前になります。
語呂を使ったデルマトームの表の覚え方
デルマトームは、部位によっては語呂合わせで覚えることも可能です。例として、語呂合わせを使ったデルマトームの覚え方を下表で4つ紹介します。
部位 | 支配する脊髄神経 | 語呂 |
---|---|---|
首 | C2、C3 | 兄さんクビ |
肩 | C4 | 四十肩 |
中指 | C7 | 真んナナ |
乳頭 | T4 | シクビ |
インターネット上では、デルマトームに関するさまざまな語呂合わせが無料で公開されているため、覚えやすそうなものを見つけるとよいでしょう。
臨床におけるデルマトームの活用方法
脊髄や神経根が傷つくと、触覚や痛覚に変化が生じます。デルマトームを覚えていれば、実際にしびれや痛みが生じている部位から、どの脊髄神経が障害されているのかを把握することが可能です。
基本的にデルマトームは、痛みのアセスメントを行う際に活用するケースが多く、特に神経障害性疼痛の評価・診断の際に役立ちます。そのほか、帯状疱疹痛やガン性疼痛、手術後瘢痕疼痛症候群などにも応用されます。現在治療中の病気がある患者さんの場合、痛み・しびれと治療中の病気とが無関係だと思い込んでいるケースもあるため、しっかりと確認することが大切です。
麻酔効果範囲を確認する冷覚試験(COLD TEST)の際や、がん疼痛などの痛みの包括評価における視診の際にも、デルマトームは使用されます。
鍼治療においても、トリガーポイントとツボと神経の関係を研究する際に参考にされることがあります。また、自律神経と症状の発現位置の関係を確認するためにも利用されることがあります。
(出典:J-STAGE「痛みの逆探知―新デルマトームの作成と応用,ツボとの関係」)
(出典:秋田大学医学部付属病院「緩和ケアだより」)
デルマトームと関連性の高い疾患
デルマトームとの関連性が高い疾患として代表的なものは以下の5つです。
- 頚椎症性神経根症
- 坐骨神経痛
- 帯状疱疹後神経痛
- 手根管症候群
- 糖尿病神経障害
頚椎症性神経根症では首から肩・腕・指先にかけて痛みやしびれが現れ、さらに脱力に進行します。首を後ろに反らせると痛みが強くなるケースが多いのが大きな特徴です。
坐骨神経痛は腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアが原因で発生することが多く、お尻や足に痛み・しびれが現れます。冷感、灼熱感などを感じることもあり、脚の一部のみに現れたり、脚全体に現れたりすることもあります。
帯状疱疹後神経痛は、刺すような痛みが一定時間繰り返されるのが特徴です。締め付けられるような痛みを感じる方もいれば、腫れたような感じや、触れるだけなどの軽い刺激を痛みとして感じる方もいます。また、帯状疱疹ウイルスだけではなく、抗酸菌や真菌といったほかの感染症でも神経根が侵され、痛み・しびれが現れるケースがあります。
手根管症候群の場合、初期は人差し指や中指に痛み・しびれが生じ、進行すると親指から薬指の親指側までの3本半の指がしびれるケースが多いです。
糖尿病神経障害では、主に足の指や足の裏にビリビリ・ジンジンといった痛み・しびれが生じます。進行すると手指にも痛みやしびれが現れます。
以上のように、原因となる疾患によって痛み・しびれが生じる部位や現れ方が異なるため、痛み・しびれの診療やケアにおいてはデルマトームの把握が欠かせません。
痛みやしびれの具体的な原因が明らかな場合、当然ながら原因の治療が必要となります。また、急性疼痛には適切な鎮痛薬を処方することが大切です。慢性疼痛の場合は管理が難しく、鎮痛薬では部分的な効果しか得られないケースもあります。
すべての治療で効果が得られない場合には、鍼治療や経皮的電気神経刺激といった代替医療を試みることや、必要に応じて外科的な治療を検討することもあります。
(出典:J-STAGE「痛みの逆探知―新デルマトームの作成と応用,ツボとの関係」)
まとめ
デルマトームは、脊髄神経がどの皮膚感覚領域を支配しているかを示す図で、神経障害や疼痛の診断において非常に重要です。デルマトームの理解は、症状の原因特定や適切な治療計画に役立ち、医療従事者にとって不可欠な知識です。また、患者自身もこの知識を持つことで、自分の症状をより正確に把握する手助けとなるでしょう。
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※当記事は2024年7月時点の情報をもとに作成しています