• 2021年3月19日
  • 2021年11月16日

【前編】「第3回医療と介護の総合展(東京)」セミナーレポート

 

2020年10月14日(水)~16日(金)の3日間にわたり、幕張メッセにて「第3回医療と介護の総合展(東京)」(主催:リード エグジビジョン ジャパン株式会社)が開催されました。医療・介護分野におけるB to B商談展としては日本有数の催しだけに、期間中は医療と介護のセミナーも多数実施。コロナ禍の状況にあっても、多くの参加者でにぎわいました。

ここでは、16日(金)のセッション「看護師を取り巻く環境の今と未来~感染症対策から2040年にむけた働き方改革まで~」から、裵英洙先生、山元恵子氏によるセミナーの模様をレポートします。

セミナー(1) 医療機関における働き方改革の最新動向

ハイズ株式会社 代表取締役社長/慶應義塾大学 特任教授/高知大学医学部附属病院 病院長特別補佐(医師、医学博士、MBA)
裵 英洙(はい・えいしゅ)さん
奈良県出身。1998年に医師免許取得後、金沢大学第一外科に入局、金沢大学をはじめ急性期病院にて外科医・病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年間ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)に入学。首席で修了し、MBA(経営学修士)を取得。現在、ハイズ株式会社代表として、各地の病院の経営アドバイザーとして活躍中。

「医療現場のタスクシフトというと、たとえば医師の業務の一部を看護師へ移譲するようなことを意味しますが、その場合、業務を渡される側の3つの『ふ』――不安、負担、不満を解消しなければスムーズに進みません。リレーのバトン渡しのようなもので、走っている人がつなごうと思っていても、相手が手を出してくれなければうまくいかないのです」

医療従事者の働き方改革について、厚生労働省の検討会で委員を歴任してきた裵先生は、医師の労働時間規制を契機とする医療現場のタスクシフトを成功させるためには、「シフトされる側」への目配りが欠かせないと指摘しました。

言うまでもなく看護師も多忙な業務をこなしているわけで、「看護師についても働き方改革が進まなければ、新たなタスクを受け入れることは難しい」というわけです。では、看護師の働き方改革については、どのように進めればいいのでしょうか。裵先生は3つの成功事例を紹介しました。

1.熊本地域医療センター
「各所で話題になった施策ですが、熊本地域医療センターでは、看護師のユニフォームの色を日勤帯と夜勤帯で変えるという方法をとりました。これによって看護師の勤務帯が一目でわかるようになったため、すでに所定の勤務時間が終わっている看護師には新たな仕事を頼みづらくなります。そしてその結果、日勤帯の場合は残業時間が約110時間から約21時間にまで減りました。また、始業前の時間外労働も減り、さらには、離職率の低下にもつながったということです」

2.聖マリアンナ医科大学病院
「看護師の記録業務を省力化するため、スマートフォンの音声入力を活用したという事例です。ナースステーションにある数少ないパソコンの順番を待って記録をするのではなく、患者さんに付き添いする際の待ち時間や、エレベーターの待ち時間などを使って音声入力する施策を実施。その結果、労働時間は減り、患者さんのケアに割く時間は増え、看護師のモチベーション向上につながったということです」

3.がん研有明病院
「院内の間接業務を見直すことで、会議、委員会、ミーティングなどの機会を約半分に減らしました。たとえば、連絡が主だった集まりは、イントラネットで情報を流したり、職員用エレベーターにモニターを設置して情報を表示したりすることで代替。こうして削減した時間や労力を、より有意義なことに振り向けたわけです」

ただし、これらの成功事例をまねすれば、自分の病院でもうまくいくと思ってはいけない――。裵先生はセミナーの終わりにこんな言葉も付け加えました。

「医療従事者は『ベストプラクティス』が好きですから、すぐに美しい成功事例に飛び付いてしまいがち。でも、ここでは結果よりも、過程を見ることが大切です。どういった課題があり、どういった問題意識から、どう試行錯誤してきたのか……。まずはそこに注目してください。また、自施設と他施設では、歩んできた歴史、組織風土、スタッフの構成や能力、地域環境などすべてが異なります。そうしたことを踏まえ、ベストプラクティスを横展開する際の落とし穴にはまらないように、気をつけていただきたいと思います」

セミナー(2) 介護・看護の現場を動かし続ける具体的な感染症対策

東京都看護協会 会長
山元恵子(やまもと・けいこ)さん
神奈川県立衛生短期大学(看護学科)卒業。千葉科学大学危機管理研究科博士課程(危機管理学専攻)修了。1976年より国立国府台病院・国立療養所中野病院、1992年より国立小児病院看護師長、2002年より国立成育医療センター医療安全管理者、2004年より東京北社会保険病院副看護部長・GRM、2008年より春日部市立病院副院長・看護部長、2010年より富山福祉短期大学教授を経て、2016年6月より現職。

東京都看護協会は、東京都に在住・在勤する看護職(保健師、助産師、看護師、准看護師)が自主的に加入する看護職能団体で、現在約5万人の看護職が加入しています。その会長を務める山元氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が急拡大する状況下で、都内病院で働く看護職を支援するための陣頭指揮に当たってきました。

「私どもの調査では、都内に約650施設ほどある病院のうち、約12%でCOVID-19のクラスターが発生したり、看護師の感染が起こったりしていることがわかりました。世界では、COVID-19の感染者の約10%が医療従事者だといわれており、それで亡くなった看護師も1000人ぐらいいるそうです。日本でも、大変残念ながら看護師がお一人、COVID-19でお亡くなりになっています」

状況が切迫する中、東京都看護協会は「新型コロナウイルス感染症プロジェクトチーム」を立ち上げ、感染対策、医療安全、業務管理という3つの視点から医療現場のサポートを開始。特に、緊急事態に対応できる人材が不足している300床以下の中小規模の病院に対して重点的なサポートを行いました。

「看護師一人が陽性判定になると、その周囲の10~20人くらいが濃厚接触者と認定されるので、次の日から病棟で働ける人がいなくなってしまいます。これは本当に悲惨でした。代替要員を手配するため、ナースバンクの登録者に声をかけるなどの対応はしましたが、即座に十分な確保をすることは難しい。潜在看護師を活用するにしても、混乱を極める現場にいきなり入ってもらうことは不可能でした。そのため、たとえば海外留学や海外への医療支援に赴く予定の看護師にお願いし、代替要員として手配していたのが実情です」

都内では主に3つの病院で大規模なクラスターが発生。事態は長期化の様相を呈していましたが、東京都看護協会が各病院と密に連携することで、効果的な現場介入につながったケースもありました。

「A病院の支援に入った看護師に、事態が落ち着いた後、B病院の支援に入ってもらうという橋渡しを行いました。また、C病院の所属で自分の職場のCOVID-19対応に当たっていた看護師に、B病院の応援に入ってもらうようにお願いもしました。自分の職場も大変な状況の中、管理者などの理解もあってこうしたヘルプが実現したことは、危機的な状況においいて大変ありがたいことです。こうした病院の垣根を越えたサポートは、個々の病院が孤立していると実現できないことなので、その部分については、東京都看護協会が“橋渡し役”として貢献できたと思っています」

ほかにも、高度な感染制御が必要となった病院に感染症看護専門看護師を派遣したり、院内の調整や各種機関への連絡などで忙殺された管理者を手助けしたりと、現場のニーズに即したサポートを提供した東京都看護協会。特に300床以下の病院に対しては、山元氏自身がひんぱんに電話でやり取りし、ニーズをくみ取ることに腐心したそうです。COVID-19の脅威がいまだ去っていない中で、継続的なサポートに邁進する東京都看護協会の姿は、現場の看護師にとって、非常に“心強いもの”ではないでしょうか。

取材・文:ナレッジリング
撮影:ブライトンフォト(和知 明)

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