• 2022年2月15日
  • 2022年2月15日

緩和ケアとは|治療内容や看護師が果たす役割・求められる能力も

 

がんと診断された患者さんは、自身の体のことや治療のこと、さらに今後の人生において不安や恐怖を感じる傾向にあります。このようなあらゆる苦痛を和らげるためのケアが、「緩和ケア」です。

一般病棟とは趣旨の異なる緩和ケア病棟やホスピスで働く看護師は、患者さんが安心して日々を過ごせるよう、緩和ケアの基礎知識や具体的なケア方法・取り組み、さらに求められる能力について把握しておかなければなりません。

そこで今回は、緩和ケアの概要から看護ケアに携わる看護師に求められるスキル・能力まで詳しく紹介します。緩和ケアに興味のある看護師の方は、ぜひ参考にしてください。

緩和ケアとは

緩和ケアとは、生命を脅かす病気に関連する問題に直面している患者さんとその家族の身体的苦痛・精神的苦痛を和らげるためのケアのことです。対象患者は主にがん患者さんであり、生活の質(QOL)を維持・向上することも実施目的の1つとなっています。

WHOによる緩和ケアの定義
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
(引用:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会「「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳」

緩和ケアでは、患者さんに対してがんに伴う体と心の痛みを和らげる総合的なケアを提供します。充実したケア体制を構築したうえで、患者さんが最期まで自分らしく生きられるように支援しています。

緩和ケアは入院病棟だけでなく、緩和ケア病棟・緩和ケアセンターやホスピスなど、あらゆる医療機関で提供されています。中には緩和ケア外来を開設している病院もあるように、入院患者でなくても緩和ケアを受けることは可能です。
(出典:厚生労働省「緩和ケア」
(出典:特定非営利活動法人日本緩和医療学会「緩和ケアとは」

緩和ケアはいつから始まるのか?

緩和ケアは、基本的にがんと診断されたとき、いわゆるがん治療(標準的ケア)の初期段階から同時進行でスタートすることが推進されています。がん治療と並行して進めることにより、痛み・倦怠感・吐き気といった治療に伴う症状緩和がされるため、患者さんがより積極的に治療に取り組むことが可能です。

また、緩和ケアと似たケアプログラムとして、「ターミナルケア」が挙げられます。ターミナルケアとは、「終末期医療」という別名がある通り、がんの終末期(余命わずかと判断されたとき)に行われる身体的苦痛・精神的苦痛の除去のみを目的としたケアのことです。

一方で、緩和ケアは身体的苦痛・精神的苦痛の除去に加え、患者さんと家族の生活の質(QOL)を維持・向上するためのケアも行います。このように緩和ケアとターミナルケアは似たようなケアではあるものの、厳密には細かな違いがあることを覚えておきましょう。
(出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「緩和ケア」
(出典:東北大学病院がんセンター「緩和ケアについて知ろう」

緩和ケアに要する医療費はどれくらいか?

緩和ケアに要する医療費は、「緩和ケアをどこで受けるか」によって異なります。緩和ケアは一般病棟に入院して受ける・緩和ケア病棟に入院して受ける・通院もしくは訪問で受けるという方法があり、ケース別の費用感は下記の通りです。

ケース 医療費
一般病棟に入院して 緩和ケアを受ける 緩和ケア診療加算を含む医療費 × 医療保険の自己負担率 + 食事療養費
(1食あたり460円)
緩和ケア病棟に入院して 緩和ケアを受ける 医療費 × 医療保険の自己負担率 × 入院日数 + 食事療養費
(1食あたり460円)
通院・訪問など 自宅で生活しながら 緩和ケアを受ける 医学管理料・診察料 + 医療保険の自己負担率 + 処方薬代
(訪問看護の場合は、基本療養費・管理療養費 + 各種加算)

なお、入院治療や訪問看護にかかる医療費は高額療養費制度の対象となっており、一定額を超えた場合の費用(自己負担分)は返金されます。自己負担限度額は一人ひとりの状況によって異なるため、あらかじめ確認しておくようにしましょう。

また、緩和ケアを提供する病棟は緩和ケア病棟・緩和ケアセンターだけでなく「ホスピス」も挙げられ、施設によっては「ホスピス緩和ケア病棟」としている施設も存在します。ホスピスについて詳しく知りたい人は、下記の記事も参考にしてください。
(出典:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会「緩和ケアの医療費について」

緩和ケアの効果にはどのようなものがあるのか?

緩和ケアは、一般的に生活の質(QOL)の維持・向上や精神状態の改善を目的として行われるケアプログラムです。しかし、近年はがんの標準治療と緩和ケアを並行することにより、患者さんの生存率の改善が示唆されています。

つまり、緩和ケアは単純にがんによる痛みを和らげるだけでなく、治療効果を高めることにも貢献する可能性があるといえるでしょう。

このことから、近年では緩和ケアの対象範囲がより広まりつつあります。これまで緩和ケアは末期がんを患った患者さんに対して行われていたケアですが、生命を脅かすような疾患のほか、治療が困難な疾患など、非がん患者さんも対象となりました。 現在では、多くの病棟で非がん患者さんも緩和ケアを受けられます。さらに、今後緩和ケアの正しい知識が浸透すれば、対象患者の範囲がより広まることも考えられるでしょう。

緩和ケアの2つの方法

緩和ケアで医療用麻薬について説明する看護師

緩和ケアは、がんなどの病気による痛みを取り除く処置(医療用麻薬)と、痛み以外のさまざまな症状を和らげる処置があります。いずれも、療養生活の質向上と精神状態の改善、さらに苦痛症状の緩和・軽減が期待できます。

ここからは、緩和ケアの2つの方法についてそれぞれ詳しく紹介します。

医療用麻薬により痛みを取り除く

緩和ケアにおいて、がんなどの病気による痛みを取り除く処置には一般的な痛み止め(消炎鎮痛剤)に加えて「医療用麻薬」が使用されます。医療用麻薬とは、医療用での使用が法律で認められている麻薬のことです。医療業界では、痛みに有効な薬としてがん患者さんを中心に使用されています。

がん治療で最も使用される医療用麻薬は「モルヒネ」です。その他には「オキシコドン」「フェンタニル」「タペンタドール」などが挙げられます。モルヒネにはあらゆる剤形があり、あらゆる痛みに対応します。使用量の上限は定められておらず、一人ひとりの痛みにあわせて薬を増やすことが可能です。一方で、眠気や吐き気、便秘などの副作用もありますが、いずれの副作用においても適切な対処方法があります。

また、医療用麻薬であっても中毒を心配する人も少なくありません。しかし、痛みがある状態で使用する医療用麻薬には、中毒性がないことが判明しています。そのため、がん患者さんが痛みのある状態で医療用麻薬を使用しても依存症にはならず、安全に痛みを取り除くことが可能です。
(出典:特定非営利活動法人日本緩和医療学会「「医療用麻薬」の誤解」

痛み以外の症状を緩和する

がん患者さんは、単純な体の痛みだけでなく、下記のような症状があらわれます。緩和ケアでは、起こり得る痛み以外の症状の緩和にも対応しています。

  • 吐き気
  • 食欲不振
  • 息苦しさ
  • 尿漏れ
  • 体がだるい
  • やる気が出ない
  • 憂鬱になる

がんをはじめとした生命を脅かす疾患や治療が困難な疾患は、あらゆる症状によって精神面に影響を及ぼす可能性があります。精神状態が不安定となれば、治療効果にも影響が出るため、緩和ケアではあらゆる症状に対してケアを行うことが基本です。

しかし、多くの患者さんの中で緩和ケアについての知識が浸透しておらず、「こんなことを医師や看護師に相談しても仕方がない」と症状を我慢するケースも珍しくありません。そのため緩和ケアを提供する医療チームは、患者さんに対して「緩和ケアではさまざまな症状に適したケアや処置があること・どんな悩みでも伝えてほしい旨」を説明しておくことも重要です。医療チームと患者さんの信頼性を築き上げることを心がけておきましょう。
(出典:特定非営利活動法人日本緩和医療学会「痛み以外の症状にも「緩和ケア」」

緩和ケアを支えるチーム医療

緩和ケアを支えるチーム

緩和ケアは、医療専門職がチームとなって患者さんへの適切な治療・ケアを提供しています。病棟や施設によっても配置される専門職の違いはあるものの、基本的には下記の専門職が配置されます。

  • 看護師
    緩和ケアチームに配置される看護師は、医師の指示のもと担当患者さんの日常のケアを行ったり、家族ケア・緩和ケアを行ったりします。一般的な看護師だけでなく、緩和ケアに関する専門的な知識と高いスキルをもった認定看護師もいます。
  • 医師
    主治医(担当医)のほか、緩和ケアに関する専門的な知識と高いスキルをもった緩和ケア専門医が、主な治療を行ったり緩和ケアチームの各スタッフに対して指示を出します。
  • 薬剤師
    緩和ケアチームに配置される薬剤師は、医師の指示のもと適切な薬を処方したり、体の痛みや精神状態が関連するさまざまな症状をコントロールする薬について提案・説明をしたりします。
  • 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など
    がんの症状や治療により、これまでのように自由に体を動かせなくなった患者さんに対して、適切なリハビリを提供したり生活におけるアドバイスをしたりします。

  • 栄養士・管理栄養士
    がんの症状や治療により、食欲がなくなってきた患者さんに対して、どのような食事をとるとよいのかなどのアドバイスをしたり食事に工夫をしたりします。

  • 心理士
    がんの症状や治療に伴う心の問題を抱える患者さん本人や患者さんをともに支える家族に対して、話を聞いたり心のつらさを和らげるための提案をしたりします。

  • ソーシャルワーカー
    がん治療に励む患者さんとその家族に対し、経済面での問題や転院に向けた不安のサポートやアドバイスをしたり、適切な福祉制度を紹介したりします。

(出典:特定非営利活動法人日本緩和医療学会「「緩和ケア」の専門チーム」
(出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「緩和ケア」

このように、緩和ケアでは医師・看護師のほかコメディカル職も一丸となって、がん患者さんとその家族をサポートします。

また、上記のようなチームでのサポート体制は病棟・施設だけでなく在宅においても同様です。緩和ケアではチームでのケアが大切とされており、特に在宅医療(訪問看護)においては2022年度(令和4年度)における診療報酬改定でも論点となっています。

  • ICTを活用した在宅看取りについて
  • 在宅看取り時のターミナルケアに関する評価について
  • 専門性の高い訪問看護師に対する評価について

また、在宅緩和ケアとなると前述した専門職よりも多くの職種のスタッフが携わる傾向です。家族だけでは十分な介護ができないため介護保険制度を活用するケースも多々あり、そのような場合はケアマネジャーやホームヘルパー(訪問介護員)などの介護職員・介護者もチームの一員として患者さんを支えることとなるでしょう。

緩和ケアチームの中でも、看護師は患者さんと各専門職をつなぐ橋渡し役のような立ち位置となります。患者さんとその家族の話を聞き、どのように対処すればよいかを考え、適切な専門職と相談・調整するという役割を担う看護師は、チームの中でも特に重要な存在です。

緩和ケアに携わる「緩和ケア認定看護師」

緩和ケア認定看護師

緩和ケアチームの一員として活躍できる看護師には、一般的な看護師のほか、緩和ケア認定看護師も存在します。緩和ケアについて専門性をもって働くためには、緩和ケア認定看護師になることがおすすめです。

そもそも認定看護師とは、「特定の看護分野において熟練した技術・知識を用いて質の高い看護を実践できる看護師」を指します。つまり、緩和ケア認定看護師とは緩和ケアの分野において高い専門性を有していることが認められている看護師のことであり、緩和ケアでは重宝される存在です。

緩和ケア認定看護師の主な役割は、下記の通りとなっています。

  • 身体的・精神的な苦痛といった問題のアセスメント
  • 生活の質(QOL)を維持・向上するためのアセスメント
  • 患者さんを支える家族の喪失・悲嘆のケア

上記の役割において高い専門性があると認められた緩和ケア認定看護師は、緩和ケアの現場において率先して患者対応を行ったり、看護師の教育を行ったりします。

緩和ケア認定看護師になるためには、まず看護師免許を取得し、認定看護分野における3年以上の実務研修を含む計5年以上の実務研修を受けなければなりません。その後認定看護師の教育機関に入学し、基準カリキュラムを修了したのち認定審査を受けます。認定審査に合格し、認定証交付・登録が済んだら緩和ケア認定看護師として働くことが可能です。

緩和ケア認定看護師になるための教育機関の学費や審査料を含めると、合計で約100万円の費用が必要となることを覚えておきましょう。

なお、緩和ケア認定看護師は認定資格の取得後5年ごとに更新しなければなりません。更新の際にも「認定分野に携わっているか」「自己研鑽実績があるか」といったポイントで審査されることも覚えておいてください。
(出典:公益社団法人日本看護協会「認定看護師」

緩和ケア認定看護師になるためには最低でも5~6年の期間を要し、かつ100万円程度の費用が必要となることから高いハードルを感じる看護師の方も多いでしょう。しかし、認定看護師資格を有していることから、基本給がアップしたり、資格手当が加算されたりすることも多々あります。加えて活躍の場が広がることから、さらなるやりがいも感じられるでしょう。

一般病棟で働くならもっておくべき最低限の看護知識だけでなく、緩和ケア・ターミナルケア・ホスピスケアの現場でも活躍できる看護師になりたいという人は、緩和ケア認定看護師の取得をおすすめします。

緩和ケアに携わるために看護師として求められる能力

緩和ケアに携わる看護師

緩和ケアに携わる看護師には、下記のような能力・スキルが求められます。

  • トータルケア能力
  • アドボカシーケア能力
  • 家族へのグリーフケア能力
  • コミュニケーション能力

大前提として必要となる能力は、緩和ケア能力です。しかし、緩和ケアチームの一員として現場での実践を進めるためには、上記のスキルも必要といえるでしょう。

特に重要となる能力が、トータルケア能力・アドボカシーケア能力です。緩和ケアでは、身体的要因・精神的要因・社会的要因といったあらゆる要因を把握したうえで患者さんの苦痛を理解してあげなければなりません。患者さんの中には、疾患の進行により意思疎通がままならなくなるケースもあります。このような患者さんに対しても、意思を代弁しながらあらゆる苦痛を判断し適切な対処・ケアを行うためには、トータルケア能力・アドボカシーケア能力が重要です。

また、緩和ケアはチーム医療で取り組みます。さらに、日々のように患者さんやその家族と話をしながら関係者との連携や調整を行わなければなりません。そのため、マネジメント力も兼ね揃えたコミュニケーション能力も重要となるでしょう。

しかし、上記のような能力やスキルがなければ採用されないというわけではありません。あくまでも求められる能力であり、実際に緩和ケアの現場で働きながらそれぞれの能力を培っていくことも十分可能です。

「患者さんの最期のときまで支えたい」「終末期となった患者さんとその家族が前向きに過ごせるよう、徹底的にサポートしたい」と考えている人であれば、大きなやりがいを感じられる仕事となるでしょう。

まとめ

緩和ケアは、がんを中心に生命を脅かす病気や治療が困難な病気を患った患者さんとその家族の身体的苦痛・精神的苦痛を和らげるためのケアです。ターミナルケアと似た部分もありますが、ターミナルケアは「患者さんと家族の生活の質を向上すること」を主な目的としていないという点に違いがあります。

緩和ケアは、医師や看護師のほか、あらゆる医療専門職がチームとなって患者さんに適切なケアを行います。その中でも看護師は、各専門職をつなぐ橋渡し役のような立ち位置となります。緩和ケア認定看護師となると、活躍の場はより広がるでしょう。

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