• 2022年8月3日
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2025年問題とは? 医療業界や企業に与える影響や対策を解説

 

2025年問題では、年々進む少子高齢化によりさまざまな業界で労働力や人材が不足する、公費の負担や中小企業の廃業が増えるなどの社会的影響が懸念されています。特に分かりやすく問題が表れる年代として2025・2035・2040・2054年が挙げられており、医療・介護業界への影響も大きいといわれている状況です。

当記事では、2025年問題における医療業界や企業に与える影響と対策について解説します。2025年問題が看護師の仕事へどのように影響するかを知りたい看護師の方は、ぜひ参考にしてください。

2025年問題とは

2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年以降、日本が超高齢化社会に突入することで起きるさまざまな問題の総称です。令和4年版高齢社会白書によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が2,180万人、65~74歳の前期高齢者人口は1,497万人に達すると予測されています。同年における日本の総人口は1億2,254万人と目されているため、全体の約3割が高齢者で構成される計算です。
(出典:厚生労働省「今後の高齢化の進展~2025年の超高齢社会像~」
(出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書(概要版)」

高齢者の人口が急速に増加する一方、若年層の人口や出生率は減少傾向から脱せず、深刻な労働力不足に陥ることが指摘されています。また、医療・介護人材の不足や社会保障費の増大なども大きな懸念材料です。

2035年問題・2040年問題・2054年問題との違い

2025年問題のほかにも、少子高齢化による社会への影響を示す問題として、2035年問題・2040年問題・2054年問題の3つが挙げられています。以下は、3つの問題の概要です。

  • 2035年問題
    2035年問題とは、2025年問題で直面するさまざまな問題がさらに深刻化する予測のことです。団塊世代が85歳以上、団塊ジュニア世代が65歳以上となることで起こる医療・介護における需要と供給のバランスや、年金制度の崩壊リスクが指摘されています。
  • 2040年問題
    2040年問題とは、15~64歳までの生産年齢人口が2025年と比べて約1,200万人減少するうえ、高齢世代の人口が最大となることで予測されるさまざまな問題です。就職氷河期に直面した世代が高齢者となることで、高齢世代の困窮や孤立も懸念されています。
  • 2054年問題
    2054年問題とは、64歳以下の人口が減少を続ける中で75歳以上の後期高齢者人口は増加の一途を辿り、国民の4人に1人が後期高齢者になると予測される問題です。高齢者の定義や社会保障の在り方が大きく変わる可能性を指摘されています。

(出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書(概要版)」

2025年問題による影響

2025年問題による影響

2025年問題は、日本社会に対して下記のように広範な影響を与えるといわれています。

  • 労働力が不足する
  • 医療・介護人材が不足する
  • 社会保障費が増大する
  • 中小企業の廃業が増える
  • 不動産市場が衰退する

ここでは、上記の分野に対してどのような影響があるとされるのか解説します。

労働力が不足する

労働力不足は、2025年問題のうち最も深刻と指摘されている問題です。パーソル総合研究所が行った「労働市場の未来推計 2030」によると、2025年にはおよそ505万人の労働人口が不足すると予測されています。2030年にはさらに644万人の労働力不足が推計されており、特に医療・福祉とサービス業における人材不足予測は深刻です。
(出典:パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」

医療・福祉やサービス業といった産業では、現段階においても人手不足に苦しんでいる事業所が少なくありません。若年世代の人口が減少する一方で高齢世代の人口が急増する中、今後は女性や高齢者の労働供給をいかに増やせるかが大きな課題となっています。また、国内で賄い切れない労働力を補充するため、外国人労働者の受け入れ環境を整備し、働く場所として選ばれる魅力的な国づくりをすることも求められています。

医療・介護人材が不足する

2025年問題は、医療・介護人材の不足にも拍車をかけるとされています。以前と比べて高齢になっても元気に過ごす人が増えているとはいえ、老化に伴う免疫力の低下を止めることはできません。高齢になればなるほど複数の疾患に罹患する確率も高まります。高齢者数が増えることは、医療・介護に対するニーズが増えることと同じだといえるでしょう。

しかし、少子高齢化による労働力不足は、医療・介護業界にも人手不足をもたらします。団塊世代の多くが現役を退く中、医師や看護師、介護従事者の減少も避けられません。また、2000年には256万人だった要介護・要支援認定者数は2025年には815万人を超え、2040年ごろまでは増加を続ける見込みです。これまで医療・介護業界を支えてきた世代がサービスを受ける側に回ることで、さらに人手不足の深刻化が予想されます。
(出典:みずほ情報総研株式会社「平成29年度産業経済研究委託事業(高齢化社会の進展と地域経済・社会における課題に関する調査研究)報告書」

社会保障費が増大する

2025年問題では、社会保障費の増大も懸念の1つに挙げられます。厚生労働省が公表した「令和2年度 医療費の動向」によると、2020年度に国民1人あたりが必要とした医療費の平均は約33.5万円です。しかし、これを75歳未満と75歳以上に分けると約21.9万円と約92万円となり、その差はおよそ70万円にもなります。つまり高齢者人口の増加は、医療費の増加に直結するといってよいでしょう。
(出典:厚生労働省「令和2年度 医療費の動向」

また、高齢者となることで医療費のほかにも介護費用や年金などの給付も始まります。原稿の社会保障制度や年金システムを支えているのは、主に20~64歳の現役世代です。支え手となる世代の人口は減少が続く中、給付に必要な費用が増大することで社会保障制度の弱体化や破綻のリスクが指摘されています。

中小企業の廃業が増える

事業承継できずに廃業せざるを得ない中小企業の数が増えると予測されていることも、2025年問題の1つです。経済産業省と中小企業庁が出した資料によると、中小企業・小規模事業者の平均引退年齢である、70歳を超える経営者の数が約245万人になると予測されています。そのうち後継者が定まらないことによる倒産・廃業に陥るケースは、日本企業の約1/3を占める127万社におよぶと試算された状況です。

現状が改善されないまま廃業する中小企業が増え続ければ、2025年までに累計で650万人の雇用喪失、および約22兆円のGDP減少といった経済損失が予測されています。また、経営者のみならず社内全体が高齢化することで、会社の後継者不在が解消できても事業が存続できないケースは少なくありません。これまで日本経済を支えてきた技術力やノウハウが引き継がれず、失われる恐れも指摘されています。
(出典:経済産業省 中小企業庁「事務局説明資料」

不動産市場が衰退する

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者が同居する世帯のうち82.1%、高齢者の単身世帯でも66.2%が持ち家に居住している状態です。5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となる2025年には、全国で相続件数の増加が想定されます。相続人が土地や家屋を保有できない状況の場合、不動産の売却や貸し出しを検討することになるでしょう。
(出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」

しかし、住宅需要の高い30~40代の人口は減少傾向にあり、不動産の買い手や借り手が見つかりにくい状況が続きます。また、人口減少に伴って行われる公共施設の統廃合により、交通や生活の便が悪い地域の需要減少も懸念事項です。不動産の引継ぎ手が見つからず空き家が増加すると需要と供給のバランスが崩れ、不動産市場自体が衰退する可能性も指摘されています。

2025年問題への政府による対策

2025年問題への政府による対策

2025年問題を解決するために政府が取り組みを進めている対策は多岐にわたりますが、そのうち医療や介護に深く関わる対策は下記の3つです。

  • 地域包括ケアシステムの構築
  • 医療・介護人材の確保
  • 公費負担の見直し

ここでは、政府による対策の中で、医療や介護に関する上記3つの対策について紹介します。

地域包括ケアシステムの構築

政府による2025年問題への対策として進める取り組みの1つが、地域包括ケアシステムの構築です。地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域や自宅で可能な限り長く自分らしい暮らしを継続するための支援や、サービスを提供する体制を指します。地域包括ケアシステムの構築には、下記のような活動が挙げられるでしょう。

  • 地域全体で連携した医療・介護サービスの提供
  • 在宅医療・介護の推進
  • 地域全体の協力による日常的な高齢者の見守り活動

地域全体で高齢者の生活をサポートすることで、事故の抑止や異常の早期発見による、適切な医療の提供が可能となります。また、医療関係者や介護事業者の負担を減らしつつ、医療費を抑制する効果も期待される取り組みです。

■関連記事

医療・介護人材の確保

医療・介護人材確保は、地域包括ケアシステムを構築するうえでも重要です。たとえば、介護業界に対するアプローチとして、政府では下記のような政策を取っています。

  • 介護業界への就職を選択肢に含めていない層に対する情報発信の強化
  • 地域教育機関と連携した若年層と高齢者の交流推進
  • 生活支援サービスの担い手養成に向けた研修受講支援
  • 地域の施設・事業所の経営改革に向けた指導
  • 障害者に対するきめ細やかな就労支援
  • 離職中の介護従事者に対する復職支援
  • 介護現場新規就職者の早期離職防止
  • ライフスタイルによらず生涯働き続けることが可能な環境・キャリアパスの整備
  • 労働環境・雇用管理の改善
  • 介護ロボットの導入による腰痛対策
  • ICTの活用による業務の負担軽減
  • 介護福祉士資格取得方法の一元化

(出典:厚生労働省「2025 年に向けた介護人材の確保」

公費負担の見直し

社会保障費の増大が懸念される中、政府では医療費などの公費負担を見直すことによって、制度そのものを破綻させないための取り組みを行っています。

たとえば、後期高齢者の医療費について、単身で200万円以上(夫婦は合計320万円以上)の年収がある場合、窓口負担の割合が2割に引き上げられることが決定しました。ほかにも、施設給付の見直しや介護報酬改定、新たな高齢者医療制度の創設なども推進されています。

2019年9月には、社会保障全般を持続可能とするための改革を検討する会議として、全世代型社会保障検討会議が設置されました。
(出典:厚生労働省「全世代型社会保障改革」

2025年問題への企業による対策

2025年問題への企業による対策

2025年問題は企業側に対して与える影響も大きなものとなるため、企業活動に関連する対策も必要とされています。企業活動に関連する主な対策内容として、下記の4つが挙げられるでしょう。

  • 公的制度を活用した事業承継
  • ダイバーシティ推進による人材確保
  • ICTの活用による生産性の向上
  • 離職率の改善による人材流出の防止

ここでは、企業に関する2025年問題への対策について解説します。

公的制度を活用した事業承継

中小企業の廃業が予想される2025年問題に対して、公的制度を活用した事業承継が推奨されています。たとえば、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)などが代表的です。同法の施行により、企業は事業承継に伴うさまざまな負担が軽減される下記の公的支援制度が受けられるようになりました。

(1)税制支援(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)の前提となる認定

(2)金融支援(中小企業信用保険法の特例、日本政策金融公庫法等の特例)の前提となる認定

(3)遺留分に関する民法の特例

(4)所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定

引用:中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」

事業承継を円滑に進めるためには、5~10年程度の準備期間が必要といわれています。また、後継者の育成だけでなく、事業承継後の労働力の確保も必須です。上記制度に加え、下記制度や機構などの活用も推奨されています。

  • 65歳超雇用推進助成金
  • トライアル雇用助成金
  • 特定求職者雇用開発助成金
  • 事業承継診断
  • 事業引継ぎ支援センター

ダイバーシティ推進による人材確保

2025年問題における労働力不足を解決するためには、ダイバーシティ(多様性)推進による人材確保が急務です。既存の条件に固執して労働力を確保しようとしても、必要とするだけの人材が集まるとは限りません。今後、企業の人材確保に大きな役割を果たす労働資源が、「高齢者」「女性」「外国人」といわれています。

現在仕事をしている60歳以上の36.7%が「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えています。「70歳くらいまで~80歳くらいまで」を合わせると87%が高齢期を迎えても高い就業意欲を持っており、労働力として大いに期待できるでしょう。
(出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」

また、結婚や出産、育児に際して離職した女性の再就職支援や外国人の受け入れによる人材活用も、労働力不足問題解決策の1つです。

ICTの活用による生産性の向上

ICTは、「Information and Communication Technology(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)」の略称で、情報通信技術のことを指します。「IT技術を使用して、人々の暮らしをどのように豊かにしていくか」といったように、活用方法にフォーカスした考え方がICTの特徴です。

ICTを活用することにより、労働者一人ひとりの生産性を向上させることで不足する労働力を補えます。ICTを活用した企業の取り組みとして、業務システムの構築やクライアントサーバーシステム、クラウドコンピューティングによる業務効率化などが挙げられるでしょう。

また、近年広く普及しているテレワークなどもICTを活用した就業形態となります。これらのシステムを活用することで柔軟な働き方が可能となり、育児中の夫婦や障害者、高齢者が労働力として参加しやすくなる傾向です。ICTは日々進歩を続けており、企業活動の効率性を向上させるツールとして、また経済成長の原動力としても期待されています。

離職率の改善による人材流出の防止

すでに働いているスタッフの離職を防ぎ、有能な人材の定着を図ることも2025年問題への対策として重要です。労働者が離職する理由には、出産や育児、家族の介護などが多く挙げられます。離職する人材をどのようにして引き留め、仕事と家庭の両立支援制度をどこまで実現させられるかが企業としての大きな課題です。人材流出の防止策として、下記のような制度の導入や対応が考えられています。

  • 短時間勤務
  • 短時間正社員制度
  • フレックスタイム制
  • テレワーク制
  • 育児・介護休業の推進・手当の整備
  • 労働環境の改善
  • 健康経営の遂行
  • 労働者のキャリア形成支援の実施

人材を確保し育てることが、2025年問題を乗り切るためには重要です。

2025年問題への医療・介護業界による対策

2025年問題への医療・介護業界による対策

2025年問題は、社会の広い範囲に影響を与える問題です。そして特に、医療や介護の世界における影響は非常に大きくなると推定されています。そのため、政府による対策だけに頼り切るのではなく、業界として下記の対策も進められている状況です。

  • 地域を中心としたケア体制の推進
  • AIや介護ロボットの活用

ここでは、医療・介護業界で進められている2025年問題への対策について解説します。

地域を中心としたケア体制の推進

政府の対策として地域包括ケアシステムの構築が進められていますが、業界側でも地域を中心とした下記に代表されるケア体制の推進が急がれている状況です。

  • 在宅診療を希望する患者さんに対応可能な人材の確保
  • 慢性期や回復期の病気に対応可能な人材の確保
  • 症状が悪化した在宅患者さんに対応可能な入院機能の整備
  • 病院間におけるネットワークの構築
  • 医師会への積極的な参加の推奨
  • 病院間交流の活発化
  • 病院間におけるカルテの共有化
  • 医療機関と福祉機関の綿密な連携・情報の共有化
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護を区内全域で提供可能な体制の確保
  • 社会資源を活用した高齢者の居場所づくり
  • 中高年層ボランティアの活動促進

地域間における連携や情報の共有を進めることで、必要な人材を確保しつつ適切な医療の提供と重篤化の予防が可能になると期待されます。

AIや介護ロボットの活用

AIや介護ロボットの積極的な導入も、医療・介護業界における2025年問題の解消に大きな期待が寄せられている対策です。AIや介護ロボットの活用では、下記の利点が得られると考えられています。

  • 電子カルテ・電子薬歴の導入による情報共有の簡略化
  • PCやモバイル機器を用いた遠隔診療の実施
  • AIによる検査結果解析のサポート
  • 医療ビッグデータとしての利用・活用
  • 画像解析を活用した見守り支援
  • 介護プラン予測・設計のサポート
  • 利用者さんの移乗・移動・排泄支援
  • 介護従事者の負担軽減
  • 介護従事者の腰痛予防

AIや介護ロボットの活用は、医療現場・介護現場の人手不足解消や負担の軽減が期待できるとともに、利用者さんの利便性向上も期待される対策です。

まとめ

2025年問題を皮切りに、少子高齢化による問題が今後次々に起きると予想されています。医療・介護業界でもその影響は大きく、人材不足や必要な人に医療が行き渡りにくくなることが懸念されます。

2025年問題に対して真剣に向き合っている職場は、看護師の方々にとっても働きやすい環境である可能性が高いでしょう。将来を見据えた対策を講じている職場を探したい場合は、看護職専門のキャリアアドバイザーによる転職サポートを提供する「マイナビ看護師」にご相談ください。

※当記事は2022年6月時点の情報をもとに作成しています

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