• 2022年5月20日
  • 2023年12月6日

在宅看護の特徴|訪問看護との違いや仕事内容・メリットを解説

 

これから看護師を目指す方だけでなく、すでに看護師として働いている方の中にも、「在宅看護では何を行うのか分からない」という方がいるのではないでしょうか。近年注目を集める在宅看護・訪問看護について、正しい知識を身に付けましょう。

当記事では、在宅看護の概要やメリットを整理したうえで、看護師が訪問看護を行うときのポイントを解説します。在宅看護・訪問看護の仕事内容について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

在宅看護とは?

在宅看護とは、病気や障がいを持つ方が住み慣れた自宅で療養できるように看護することを指します。医療機関への通院が困難な方や、終末期を家族とともに自宅で過ごしたいという方が主な対象です。看護は日常的なケアが中心となる一方、病気などの対応については看護師や介護福祉士、理学療法士などさまざまな職種がかかわります。

在宅看護を行う際は、各種訪問サービスの利用や、福祉用具の購入やレンタルなど、被看護者の方が安全に暮らせるような環境の整備が必要です。

在宅看護と病院医療の違い

病院医療は治療が最優先となる一方で、在宅看護は利用者さんやその家族の意思に加えて、QOL(生活の質)が優先される点が異なります。在宅看護における看護師の役割は、利用者さんが自分らしい人生を送れるように医療的なケアを通じて支えることです。医師と他職種の情報を「橋渡しする役割」も担います。

在宅看護は利用者さんにとって、病院よりもリラックスした状態で診療や看護が受けられるメリットがあります。いつもと変わらない生活環境の中で療養できることは、精神的な安定につながるでしょう。入院や通院にかかわる家族の負担を軽くできることも、在宅看護の魅力です。

在宅看護と訪問看護の違い

在宅看護と訪問看護は似たようなサービスと思われやすいものの、実際には大きな違いがあります。在宅看護は利用者さんが住み慣れた自宅で療養生活を送り、主にご家族が介護者として日常的なケアを担当する看護形態です。ただし、ご家族が独力でケアするわけではなく、デイケアや訪問介護も併用できます。万が一の場合に備え、定期的な診察の実施や緊急時の連絡・受け入れ体制の整備が必須です。

一方で、訪問看護は専門の医療従事者が継続的な在宅療養を行う利用者さんのもとに赴いて、看護を行うことを指します。訪問看護師による利用者さんの健康状態のチェックや、医療行為を提供するのが訪問看護の主なサービス内容です。主治医の指示にもとづき、看護師や保健師が点滴や床ずれなどの医療ケアなどを行います。利用者さんやご家族のメンタルケアや看護指導なども、訪問看護サービスの一つです。

在宅看護をしている利用者さん・ご家族の状況や希望に合わせて、訪問看護を行うことが一般的です。

在宅看護の重要性

在宅看護の重要性が高まっている理由として、深刻な高齢化が挙げられます。厚生労働省の資料によると日本の高齢者数(65歳以上)は2025年に3,657万人となり、2042年のピークに向けてさらに増加する見込みです。

年齢を重ねると身体の機能が衰え、生活習慣病などの慢性疾患にかかりやすくなります。治療は長期化する傾向があるものの、足腰の衰えなどにより思うように通院できなくなるケースが多く見られます。終末期医療に関する調査では、「自宅で療養したい」と回答した方が国民全体の60%以上にのぼっており、在宅看護は現代の医療ニーズに適した看護形態といえるでしょう。

医療と介護が連携を図るうえでも、在宅看護は重要な位置付けですが、ケアマネジャーの50%近くが「医師との連携が取りにくい」と感じている現状があります。利用者さんの状態が積極的に共有される環境ができれば、医療と介護がそれぞれ最適なサービスを提供することが可能です。在宅看護の充実は、地域包括ケアシステムの実現に大きく寄与します。
(出典:厚生労働省「在宅医療・介護の推進について」

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在宅看護の3つのメリット

在宅看護の3つのメリット

在宅看護は病院での入院や治療とは異なり、自宅で暮らしながら必要な医療ケアを受けられます。在宅看護は看護を受ける人にとってもさまざまなメリットがあり、長期療養を必要とする方の選択肢として、近年多くの方々から注目を集めている看護方法です。

ここでは、在宅看護を選ぶことで利用者さんが得られる主なメリットを、3つ解説します。

生活の質が向上する

在宅看護を行うことで、病院での制約や緊張から解放され、住み慣れた環境で自分らしい日常を過ごせるようになります。ご家族と時間を共有し、食べたいものを食べ、安心して眠れる環境は、精神的な安定に重要です。

利用者さんにとって心地よい環境での療養は、体調をよくするだけでなく、心の平穏をもたらし、生活の質の向上につながります。よく眠れないことやあまり食欲がわかないことの多い利用者さんが在宅ケアに切り替えると、症状の改善が見られるだけでなく、治療への前向きな姿勢を生む場合もあります。

通院の負担が減る

通院の負担が減る点も在宅看護のメリットです。特に病院までの距離が長い場合や高齢者、障がいを持つ方にとっては通院自体が負担となります。通院時の移動時間や待ち時間がなくなり、体力の消耗を防げるのは、利用者さんにとって大きな安心材料です。在宅看護において薬局と連携している場合は、必要な薬も自宅に直接届けられます。

また、在宅看護はご家族側にもメリットがあります。たとえば、面会時間に合わせたスケジュール調整や病院への付き添いを行う手間が省けるでしょう。さらに、病院は多くの方が集まる場所のため、訪れる頻度を減らすことで感染症のリスクも下げられます。

ストレスが軽減する

在宅看護では、利用者さんが自身の好きな生活環境で治療が受けられます。病院や施設ではほかの患者さんとの間にカーテン一枚しかなく、プライバシーが犠牲になる場合も少なくありません。そのような療養環境は、話し声やいびきによる騒音トラブルが発生しやすく、ストレスを感じることがあります。

自宅では、好きな硬さの布団や使い慣れた枕で眠れるうえ、巡回やほかの患者さんがトイレに行く気配などで夜中に起こされる心配もありません。医師や看護師が自宅まで訪問するため、通院による体力的・精神的な負担もなく、ストレスが少ない状態で治療に専念できます。

看護師が行う訪問看護の仕事内容

看護師が行う訪問看護の仕事内容

訪問看護の一般的な仕事内容は、下記の通りです。

健康状態の観察と助言 問診やバイタルチェックで健康状態を確認し、必要に応じて助言を行う
医療処置 訪問看護指示書に従い、点滴・インスリン注射・カテーテル管理などを行う
家族の支援・相談 看護するうえで分からない点などを尋ね、助言や必要な支援を行う
在宅療養上の世話 家族や介護関係者と分担して、清潔管理・食事管理・排泄管理・呼吸管理などを行う
褥瘡(じょくそう)の管理 褥瘡の処置や予防のための指導、リスク評価などを行う
認知症と精神疾患のケア 内服管理や住環境の整備、家族に対応の仕方などの助言を行う
医療機器の管理と指導 専門業者と連携して機器の管理を行うかたわら、吸引器・吸入器・酸素濃縮器・人工呼吸器などの使用方法を指導する
リハビリテーション 身体機能や嚥下機能の回復、拘縮予防や廃用症候群の予防を目的としたリハビリテーションを行う
ターミナルケア 終末期・がん末期における看取りや、家族の精神的なケアを行う

訪問看護師は、介護分野の知識や技術も必要となります。また、医療的な視点はもちろん、利用者さんや家族に寄り添った視点が求められることも特徴です。

看護師が訪問看護の現場で働くメリット・デメリット

看護師が訪問看護の現場で働くメリット・デメリット

訪問看護の仕事には、メリット・デメリットの両面があります。代表的なメリットは下記の3つです。

メリット
  • 利用者さんとじっくり向き合える
  • 在宅医療のスキルを身に付けられる
  • ワークライフバランスの実現につながる

訪問看護では、急性期病棟よりも一人ひとりの利用者さんに対して手厚いケアを行える環境にあります。知識や技術の幅が広がるので、キャリアの選択肢が広がります。残業や夜勤が少なく、プライベートを充実させやすいこともメリットの一つです。

訪問看護の仕事の代表的なデメリットは下記の3つです。

デメリット
  • オンコール対応がある
  • 自己判断と責任が求められる
  • 事故のリスクや移動の大変さがある

職場によっては利用者さんの容体が急変した際に、急な訪問を行う場合があるので、休日や夜間に出勤することもあるでしょう。また、フォロー体制は整備されているものの自己判断が必要な場面もあり、責任の重さを辛いと感じる看護師も少なからずいます。ほかにも、自転車やバイクで訪問する場合は、悪天候時や夏場の炎天下で移動に苦労する可能性があります。

在宅で看護を提供するときに大切なポイント

在宅で看護を提供するときに大切なポイント

在宅生活での看護を提供する場合、病院とは異なる課題や配慮すべき点があります。安全で効果的な在宅看護サービス提供には、利用者さんはもちろん、ご家族や他職種とのコミュニケーション、環境に応じた医療技術や支援が必要です。

ここでは、在宅看護を提供する看護師が大切にしたいポイントを6つ解説します。

利用者さんとコミュニケーションを取る

訪問看護では、患者さんとそのご家族との信頼関係の構築が不可欠です。訪問看護師は、限られた時間内で利用者さんの症状や生活状況、ご家族のサポート状況まで把握する必要があります。信頼が築ければ、症状の正確な聞き取りや、ご家族からの情報取得もスムーズに行えるでしょう。

信頼関係の構築には、利用者さんやご家族が話しやすい雰囲気を作ることが大切です。治療の中心はあくまでも利用者さんのため、ご家族と話す場合でも、本人への配慮を怠らないようにしましょう。観察力だけでなく、情報を正確に受け取り、適切にフィードバックするコミュニケーション能力も必要となります。適切に伝えなければならない事柄があるときは、現状どのような支援が必要か、困っていることはないかをしっかり傾聴し、今後どのような課題があるかを話し合いながら看護を行います。必要に応じて図や筆談を用いるなどの工夫も有効です。

アセスメントスキルを上げる

アセスメントとは、看護のプロセスにおいて客観的な評価と分析を行う作業です。訪問看護でのアセスメントでは、利用者さんが自宅で安全に生活するための健康状態や身体状態を評価するだけでなく、本人やご家族の希望も考慮する必要があります。

時間が限られる訪問看護では、少ない情報からでも「いつもと違う何か」に気づく能力が必須です。病院内看護とは異なり、訪問看護は生活を中心にしたケアが求められます。利用者さんの希望する生活の実現と維持をサポートするために、医学的な視点と利用者さんの視点をバランスよく持つことが重要です。

生活環境は一人ひとり異なり、暮らし方はその人自身の生き様でもあります。利用者さんの生活環境を把握し、尊重しながら援助を行う必要があります。健康問題を引き起こすような生活環境は教育的な支援を行い、改善する必要があります。

他職種との連携を大切にする

在宅看護では、医師・介護職員・理学療法士・作業療法士など、多くの医療・福祉の専門職と相談・連携しながら利用者さんのケアを行います。看護師単独で完結する業務はほぼありません。日本の高齢化が進む中で、在宅での医療ニーズは多様化しています。利用者さんが住み慣れた地域で安心して日常生活を送るためには、地域包括ケアシステムの構築が大きな役割を果たします。

地域包括ケアシステムは医療機関からケアマネジャー、ソーシャルワーカーに至るまで多職種によって支えられています。関係者が互いの役割と専門性を尊重し、連携を深めることで、利用者さんにとって最適なケアを提供する基盤として機能します。
(出典:厚生労働省「平成27年度 在宅医療関連講師人材養成事業 各論1 多職種協働・地域連携」

看護技術を磨く

在宅看護では、専門の医療処置はもちろん、身体的なケアから心のケアまで、広範なスキルが求められます。多くの場合、訪問看護師は医師やほかの医療スタッフがいない状況で利用者さんに看護を提供するためです。

訪問看護の現場は、病院と違い医療機器や設備、器具がそろっていません。そのため、緊急時には家にある物品で応急処置を行う知識と技術が必要です。緊急対応のシミュレーションを普段から行っておくと、ほかの医療スタッフが到着するまでの対応をスムーズに行えます。

基本的なバイタルサイン測定の技術はもちろん、体位変換や吸引などの身体的なケアや、入力や洗髪の援助などの清潔ケアなどもあります。

限られた時間で看護を行うため、時間管理のスキルも欠かせません。高い看護技術は患者さんの安心と信頼に直結します。継続的な学びと実践を通して、質の高い在宅看護を提供しましょう。

マナーを守る

訪問看護において、利用者さんとの信頼関係を築くために、マナーの重要性は非常に高いといえます。訪問先の状況や看護内容によっても多少変化はあるものの、共通する基本的なマナーは以下の通りです。

  • 笑顔で自己紹介する
  • はっきりとした声で滑舌よく話す
  • 名刺は両手で渡す
  • 敬語を使用する
  • 上着は玄関先で脱ぐ
  • 雨の日は雨具の入れ物を持参する
  • 靴は前向きで脱ぎ、玄関の下座に置く
  • バッグや持ち物は机や椅子の上に置かない
  • お宅にあるものを使用する際は一声かける
  • 飲食物は原則受け取らない
  • 時間は厳守する

以上のようなマナーを守ると、利用者さんやそのご家族と良好な関係を築きやすくなります。

身だしなみに注意する

立場や職種を問わず在宅療養に携わる方は、服装を選ぶ際に下記の点に気を付ける必要があります。

  • 清潔感があること
  • 動きやすいこと
  • 色が派手すぎないこと
  • 手入れが楽にできること
  • 香水やボディクリームなど匂いにも気をつける

相手に不快な思いをさせないためには、汚れやシミなどが目立つ服を避けることが大切です。スムーズにケアができるよう、動きやすさも重視しましょう。

訪問看護師が着る服としては、移動のしやすさからパンツタイプがよく選ばれます。ブラウンやグレーなど、落ち着いた印象を与える色の服を選びましょう。

まとめ

在宅看護とは自宅で療養をする方に対する看護であり、訪問看護はその一環として利用される医療サービスを指します。近年の高齢化に伴い、訪問看護の需要は今後も高まるでしょう。

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※当記事は2023年11月時点の情報をもとに作成しています

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