• 2021年4月20日
  • 2022年5月17日

知っておきたい! 「残業」についての基礎知識

 

2020年4月から、中小企業でも時間外労働の上限規制が適用されるようになり、私たちの働き方が大きく変わりはじめました。その一方で、看護師の仕事はいまだに「残業が多い」「勤務が不規則」といったイメージがあり、「労働基準法の原則通りに働けているのかどうか、よくわからない」という人も少なくなさそうです。そこで今回は、「残業時間の上限規制」や「36(さぶろく)協定」など、いまさら聞けない「残業」についての基礎知識をご紹介しましょう。

そもそも残業って何? 残業手当の計算方法は?

就業規則や労働契約によってあらかじめ決められた労働時間を超えて働くと、「残業」になります。しかし、看護師には、「労働時間に含まれるのかどうか」の線引きがあいまいな作業がいろいろと発生することも事実。まずは、「どこまでが労働時間に含まれるのか」について、厚生労働省が公表しているガイドラインを見てみましょう。

労働時間とは何か?


労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことで、使用者の明示または黙示の指示により、労働者が業務に従事する時間はすべて「労働時間」になります。

これを看護師の業務にあてはめた場合、次のような時間は「労働時間に含まれる」と考えられます。
・ナース服に着替えるための時間
・患者対応に必要な準備をするための時間
・オンコールなど、すぐに勤務ができるように待機している時間
・救急カートのチェックや掃除など、就業後の片付けの時間
・参加が義務付けられている研修や勉強会、委員会などへの参加時間
・勤務先の指示で行う、業務に必要な学習などをする時間

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残業には「所定時間外労働」と「法定時間外労働」がある



残業についてきちんと知るには、「所定労働時間」と「法定労働時間」の違いも理解しておく必要があります。

所定労働時間とは?

所定労働時間とは、労使間の契約で定められた労働時間のこと。就業規則や雇用契約書などで定められ、法定労働時間(1日8時間・週40時間)の範囲内で、自由に決めることができます。もしも、所定労働時間を超えて働いた場合、超過部分は「所定時間外労働」となり、残業手当が支払われますが、法定労働時間を超えるまでは賃金の割増はありません。

法定労働時間とは?

法定労働時間とは、労働基準法に規定されている労働時間の限度のこと。休憩時間を除いて「1日に8時間」「1週間に40時間」を超えて労働させてはならないと法律で決められています。もしも、法定労働時間を超えて働いた場合、超過部分は「法定時間外労働」となり、割増賃金(※1)が支払われます。

ただし、不規則な勤務が多い看護師は、1週間の法定労働時間について「44時間(※2)」が適用されるケースや、「変形労働時間制(※3)」による例外が当てはまる場合があります。働いている職場がどのようなケースに該当するのか、就業規則などで確認しておくといいでしょう。

※1 割増賃金…通常の賃金の25%で、1カ月の残業が60時間を超えた場合には、超えた分について50%が割り増しされます
※2 44時間が適用されるケース…保健衛生業に含まれる看護師は、職場の規模が従業員10人未満の場合に該当します
※3 変形労働時間制…1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

事例をもとに残業手当を計算してみよう!

続いて、残業手当がどのように計算されるのか、具体的なケースをもとに試算してみましょう。

【例】
所定労働時間が6時間の職場で、3時間の残業をしたAさん。通常の賃金は1時間当たり1,000円ですが、この日の残業代はいくらでしょう?

残業手当を計算する際には、所定時間外労働と法定時間外労働に分けて計算します。

所定時間外労働 …… 2時間×通常の賃金1,000円=2,000円
法定時間外労働 …… 1時間×(通常の賃金1,000円×125%)=1,250円

計算の結果、Aさんの残業手当は3,250円になります。

働き方改革とは? 何が変わった?



働き方改革とは、「働き手がそれぞれの事情に応じて、多様で柔軟な働き方を自分で選べるようにするための改革」の総称です。労働環境を大きく見直すための取り組みとして、政府が中心となって推進しています。

働き方改革では、さまざまな関連法が審議・成立していますが、その一方で、多くの企業が残業時間削減に向けて取り組んでいます。

働き方改革の成功事例 熊本市医師会 熊本地域医療センターのケース

熊本地域医療センターでは、「超過勤務の多さなどから離職率が高い」といった課題を抱えていました。また、超過勤務が多くなる理由の一つとして、「業務の引継ぎがうまくできず、残業時間が増えてしまう」という傾向があることもわかりました。

そこで次のような取り組みを行い、残業時間の大幅な削減に成功したそうです。

(1)ユニフォーム2色制の導入
日勤と夜勤とでユニフォームの色を変えることで、勤務終了時刻を過ぎて働いている職員が明確になり、定時で仕事を終わらせることへの意識が高まった。

(2)複数のポジションをこなすポリバレントナースの育成と活用
所属を超えた支援ができる看護師を育成し、業務量に応じて相互に支援する体制を整えた。

(3)効率的な引継ぎ
ベッドサイドで前勤務者と患者情報の確認を行う制度を導入し、情報収集による労働時間を削減した。

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働き方改革で残業時間の上限はどうなった?

2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」。その中でも注目を集めたのが労働時間法制の見直しです。

これまでのルールは? 

これまでも残業時間には上限が定められていましたが、法的拘束力はありませんでした。また、労働基準法に基づいて労使間で話し合い、「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」を提出すれば、上限を超えて残業をさせることも可能でした。

新しいルールは?

2018年に成立した「働き方改革関連法」では、時間外労働の上限規制が盛り込まれ、「残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない」と決められました。

また、臨時的な特別の事情があり、労使間で合意をした場合でも、以下の時間を超えて残業を命じることができなくなりました。これには法的な拘束力があり、違反すると6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

◆残業時間の上限
・年720時間以内
・月100時間未満(休日労働を含む)
・複数月(2カ月から6カ月)の平均残業時間が月80時間以内(休日労働を含む)
・月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで

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残業を命じる場合には36協定が必要?

36協定とは、時間外労働や休日勤務などについて、労使間で結ぶ協定のことです。労働基準法で労働時間は「週40時間」と決まっていますが、使用者が従業員に時間外労働や休日出勤をしてもらいたい場合には、事前に働く側の代表と労使協定(36協定)を結び、所轄労働基準監督署まで届け出をしなければなりません。

すでに紹介した通り、これまでも36協定による時間外労働に上限が定められていましたが、法的拘束力はなく、特別条項付きの36協定を締結すれば、上限を超えて時間外労働をさせることが可能でした。しかし、新たなルールでは、時間外労働に罰則付きの上限が導入され、法的な拘束力が生じるようになりました。

一緒に覚えておきたい「年次有給休暇制度」



年次有給休暇は、法律で定められた労働者に与えられた権利で、次の要件を満たしていれば、正社員・パートタイムなどの区分に関係なく、年次有給休暇を取得できます。

年次有給休暇がもらえる要件

1.半年間継続して雇われている人
2.全労働日の8割以上を出勤している人

有給休暇は、自分から申し出ないと取得できないことから、「有給があっても忙しくて休めない」「職場に言いにくい」といった声も聞かれ、大きな課題とされてきました。しかし、労働基準法が改正された2019年4月からは、「法定の年次有給休暇が10日以上のすべての社員に対し、毎年最低5日間の有休休暇を取得させること」が企業に義務付けられ、そうした課題も少しずつ解消されています。また、有給休暇の取得は原則1日単位ですが、労使間で協定を結べば、年5日の範囲内で時間単位の取得ができるようになりました。

有給休暇は何日もらえるの?

年次有給休暇の付与日数は、勤務年数や所定の労働日数に応じて、以下のように決まっています。

年次有給休暇の付与日数

 通常の労働者の付与日数

継続勤務年数 0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
付与日数 10 11 12 14 16 18 20

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数

  週所定 労働日数 1年間の 所定労働日数(※) 継続勤務年数
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
付与日数
4日 169~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

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まとめ

今回は「残業」を中心に、法律で定められた労働時間について紹介しました。看護師は患者を守るという立場から、時間外労働や深夜労働が避けられないケースがあります。しかし、労働基準法が守られない環境で働き続ければ、自身の健康を損なうことになりかねません。「きつい」と感じたら、ルールを守って働けるように、上司に相談してみましょう。

[参照]厚生労働省「改正労働基準法」
厚生労働省「法定労働時間」
厚生労働省「変形労働時間制」
日本看護協会「看護業務の効率化先進事例アワード2019」
厚生労働省「働き方改革特設サイト 支援のご案内」
厚生労働省「労働基準 労働時間・休日」
厚生労働省「年次有給休暇取得促進特設サイト 労働者の方へ」

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