• 2021年4月6日
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「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200年記念式典レポート

 

「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200年記念式典レポート

日本看護協会は2021年1月21日、「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200周年記念イベント「Nursing Now:看護の力で未来を創る」をウェビナー開催し、看護職を含む約4900人が視聴しました。イベントでは第10回「忘れられない看護エピソード」の受賞作品の表彰式を実施。今回の募集には2702通の応募があり、その中から、乗客に後押しされて電車の中で臨終の父親に電話をかけた男性のエピソードやストレスから死を考えていた男性が、献血バスで看護師に血管をほめられたことから生きる気力を取り戻した作品などが受賞しました。表彰式では内館牧子さんによる講評が行われたほか、ゲスト審査員・荻野目洋子さんによる作品の朗読などが行われました。

「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200周年記念イベント「Nursing Now:看護の力で未来を創る」を開催

看護の日制定から30年、看護師の数は84万人から166万人と2倍に

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Nursing Now賞を受賞した渡邉美香さん(中央)と福井トシ子会長(右)

開会にあたっては主催者を代表して田村憲久厚生労働大臣があいさつに立ちました。田村大臣は「看護基礎教育検討会報告書を受けて、2022年度から看護師の養成カリキュラムを見直して、免許取得前の教育の充実を図っていきます。また、特定行為研修においては、在宅や慢性期領域など領域別研修を設定することで、安全かつタイムリーに患者に必要な医療を提供できる体制を作っていきます」などと政府の方針を示しました。

福井トシ子日看協会長は「今から約30年前に、看護の日が制定された当時の看護就業者は約84万人。それから30年、今では約166万人の看護師が様々な場所で活躍しています」と看護の日の制定から今日までを振り返り、看護師の数が2倍になり活躍の場も増えていることなどに触れました。

また、看護エピソード募集ではこれまで10回の募集を通じて総計3万通以上の応募を集めたことも紹介。「それぞれの作品から、皆様と人生の様々な場面を共にし、より良く生きられるように、あるいは悔いなく生きられるように支えている看護職たちの姿を感じていただけることと思います」と感想を述べました。

来賓では萩生田光一文部科学大臣、中川俊男夫日本医師会会長、丸川珠代参議院議員、石田昌弘参議院議員などがあいさつしました。

萩生田文科大臣は看護教育の観点からこの30年間を振り返り、「医療の高度化・専門化に対応できる看護人材を育成するため、大学および大学院の充実に取り組んできました。具体的にこの30年間で看護系大学は11校から274校に増加し、うち187校には大学院が設置されるようになりました」と看護師の専門教育が進んでいる状況を報告しました。

電車の中から臨終の父に電話、献血で生きる気力を復活などのエピソードが受賞

「忘れられない看護エピソード」の過去10回の受賞作を基に連続ミニドラマ「Memories~看護師たちの物語~」は、BS日テレ毎週日曜日の20時54分~21時に放送中です。

第10回目となる今回の「忘れられない看護エピソード」に寄せられた応募作品の中から、最優秀賞に選ばれたのは、看護職部門では齋藤泰臣さんの「その声は」です。これは臨終の床にある父のもとに駆けつける途中の夫婦が、周囲の声がけに背中を押されて電車の中で電話をかけて、父と最期の会話をする風景を描いた作品です。緩和ケア病棟に勤務する筆者さんは、家族から患者への最期の声掛けを後悔がないように促してきた経験から「あの場にいた誰もが看護をしていた」と描写しています。

受賞を受けて齋藤さんは「受賞の連絡を受けた時は、ちょうど緩和ケア病棟から脳神経外科病棟に移動した時でした。やっていることは大きく変わりますが、緩和ケア病棟で学んだ苦しみを和らげることはどこでも共通。そうした力を育んで発信できる看護師になりたい」と喜びのコメントを寄せました。

一般部門の受賞作品は新田剛志さんの「今日も元気に出しています」です。筆者である新田さんは仕事のトラブルを抱えて、自分の命と引き換えに責任を取ろうとするまで思い詰めていました。そんな時にふと足を運んだのが献血バス。そこで看護師に「立派な血管ですね。すごい勢いで出ていて本当に助かります」とほめられたのをきっかけに生きる気力を取り戻します。その後、献血回数は50回を数え、骨髄ドナーとして骨髄の提供まで行いました。

新田さんは受賞にあたり「骨髄移植の退院後に新聞でエピソードの募集を見て、勢いで応募しました。受賞に驚いています。ありがとうございます」とコメントしています。

表彰式では脚本家の内館牧子さんによる講評が行われました。

内館牧子賞は、看護職部門は久保百香さんの「ハル子ちゃんのおにぎり」、一般部門は池田幸生さんの「看護師として」が選ばれました。

池田さんは自衛隊の教官です。作品では教え子の看護師が東日本大震災の時に、小学生の我が子を説得して病院の非常招集に応じた様子を振り返って描いています。池田さんは受賞のコメントで「自衛隊にもこのように多くの看護師が活躍していることを知って欲しいという願いから応募しました」と話しました。

久保さんの作品では小児がんで入院する2歳のハル子ちゃんが登場します。抗がん剤の副作用で食欲のないハル子ちゃんになんとか食べてもらおうと努力する久保さんに、ハル子ちゃんは三角おにぎりが作れるかたずねます。作れないと答えると「教えてあげる」と。慣れない手つきでおにぎりを握る久保さんをハル子ちゃんは、天使のような笑顔でほめてくれました。

受賞を受けて寄せた手紙で久保さんは、自分自身が親になってから「子供が重い病気になることの苦しさ。それでも日々成長する我が子が生活でいるよう、甘やかさずに育てなければいけないこと。こうしたことがどれほど大変か理解した」とした上で「私達は患者さんを支えているように思われるが、実は患者さんに勇気をもらったり学ばせていただくことが多く、それが仕事の原動力にもなっている」と話しました。

看護の力で健康に貢献、Nursing Now賞も募集

ゲスト審査員として萩野目洋子さんが受賞作品の朗読をしました。

フローレンスナイチンゲールの生誕200年の節目に当たる今年は、看護職が持つ可能性を最大限に発揮し、人々の健康向上に寄与するために行動するNursing Nowキャンペーンが世界的に行われています。今回、これにちなんで設けられたNursing Now賞では、看護の力で人々の健康に貢献したことを実感した看護実践・経験を募集しました。

Nursing Now賞を受賞したのは渡邉美香さんの「セルフケア看護の実践によるハピネス」です。渡邉さんは、独り暮らしで心不全の急性憎悪による緊急入院を繰り返している患者に対して、看護師がネガティブな感情を持っている点に着目。その看護師と患者が一緒に、患者の強みに着眼したセルフケア能力の評価指標を活用した看護の実践を行うことを提案しました。

その結果、患者は病気を理解して水分・塩分に気をつけているものの受診のタイミングがわからず重症化してから入院していることが判明。風邪かと思ったらすぐに受診するよう話し合うことで、患者にとっては早期退院による体力低下の防止、看護師にとっては患者を捉える視点の変化、管理者である渡邉さんにとっては患者が尊重される職場風土の育成というそれぞれにハピネスがもたらされました。また、病院にとっても入院期間の短縮、ベッドの有効活用につながりました。

受賞後に福井会長による講評を受けて渡邉さんは「セルフケア支援は病気の有無に関わらず、患者さんが生活するすべての場において必要なもの」と指摘。「コロナ禍において孤独になり、コンプライアンス低下や受診控えが懸念される。そうした人に対してケアを提供できる環境が大切」とも話しました。

また「今後はセルフケア支援が診療報酬等でも評価されるべき」という意見には、福井会長も「まったく同感です」と応じました。

取材・文/横井かずえ

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