• 2020年11月27日
  • 2021年11月15日

看護師がいま知っておきたい、持続可能な新型コロナウイルス感染症対策

 

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、看護師のみなさんは公私ともに大きな影響を受けたことでしょう。危機対応という面では、いまだに予断を許さない状況が続いていますが、そうした中だからこそ、新型コロナ対策の「これまで」をどう振り返り、「これから」をどう実践していけばいいのかについては、しっかり把握しておきたいもの。そこで、感染症専門医であり、感染症コンサルタントとしても活躍する岸田直樹先生に、「いま確認しておきたい新型コロナ対策」について伺いました。

感染対策という名の「振り子」を収束させよう

「この冬こそ勝負」と強調する岸田先生

新型コロナウイルス感染症の拡大に翻弄された2020年は、一般の方たちの感染症に対する意識が急激に高まるとともに、感染予防の知識(デマも含めて)が広がりをみせた年でもありました。残念ながら、このウイルスが完全に終息する目途は立っておらず、今後も長い付き合いを覚悟しなければなりません。だからこそ看護師のみなさんには、正しい感染対策の普及を促進する立場として、よりいっそう活躍してほしいと期待しています。

突然ですが、頭の中で「振り子」を想像してみてください。非常事態宣言が出された当初は、厳しい対策を実施する方向にグッと振り子が動きました。しかし、現在は過剰だった感染対策をうまく「引き算」していく段階に入っており、振り子が逆サイドに振れつつあります。コロナ対策を言葉にするなら、そうやって少しずつ調整をはかりながら、次第に対策の精度が上がっていき、やがて一点に収束していくイメージ。そんな流れを踏まえつつ、自施設や地域の状況を把握し、最適な感染対策を模索していくことが、「持続可能な対策」につながるのではないでしょうか。

感染対策を考えるときに重要なのは、「感染した場合に致死率の高い人がどのくらいいるか」という観点から、その場におけるリスクを正しく把握すること。そして、新型コロナウイルス感染症の場合は、心疾患や呼吸器疾患を抱える人、そして高齢者全般の死亡率がかなり高いという特徴があります。高齢者が多く利用する病院やクリニック、介護施設は極めて感染リスクが高い場所の一つであり、「急性期病院レベル」の感染対策が今後も求められると認識しておいてください。

「口からの飛沫」を防ぐための環境整備を

フェイスシールドによる飛沫防止効果は限定的

みなさんもご存じの通り、新型コロナウイルス感染症は、口から出た飛沫による感染例が非常に多く、だからこそマスクの着用が有効だと考えられています。特に「医療用のサージカルマスクを着用したかどうか」は、「濃厚接触者かどうか」の判定にも関わってきますから、医療機関では必ず医療用のサージカルマスクを着用しましょう。

最近では、口元を透明のシートで覆ったマウスシールドも見かけるようになりましたが、顔全体(あるいは表情)が見えやすいというメリットがある一方、すき間が大きいために一部の飛沫しか捕捉できず、効果は限定的です。
また、顔全体を覆うフェイスシールドは「自分を守る」ためのものであり、口や鼻はもちろん、目からの飛沫感染を防ぐ目的で使用されるのが一般的。こちらは、患者さんがマスクを着用できないケースで役立つでしょう。

子どものマスク着用については、より慎重に考えなくてはなりません。WHO(世界保健機関)は「5歳以下の子どもは必ずしもマスク着用にこだわらなくていい」という見解を出していますが、マスクの着用が熱中症や誤嚥を招くことや、顔が隠れるために異変に気付きにくいことなどから、子どもに重大な健康被害をもたらすおそれがあるとも指摘されています。そもそも幼い子どもの場合、マスクをきちんと着用し続けること自体が難しいのではないでしょうか。もちろん、性格や環境によってはマスク着用が安全で意味をなすケースもあるでしょうが、少なくとも2歳未満の子どもでは避けたほうがいいでしょう。

介護施設などでは、利用者が集団で食事を摂ることも多いと思いますが、ここも特に配慮が必要な場面の一つです。政府の専門家会議が発表した「新しい生活様式」にもある通り、できるだけ2mの間隔を空け、対面ではなく横並びで座ることが理想的でしょう。どうしても利用者が対面してしまうようなら、ついたてを用いるのも一案です。ついたては使用する人の顔の高さまであれば十分ですが、下の部分が大きく空きすぎているタイプだと、そこから飛沫が流れていきやすいので注意してください。

感染対策としては、換気も重要です。特に、狭い場所では十分に空気を入れ替えることが大切ですが、冬になるにつれて寒さ対策も求められます。暖房器具を活用することはもちろんのこと、気温低下が避けられない環境なら、厚着での来院・来所を促すことも必要かもしれません。使っていない隣の部屋などの窓を開けて少しずつ外気を取り込む2段階換気もひとつの手法です。

新しい建物では換気システムも整っていますが、排気口にほこりがたまるなどして、十分に機能を発揮できていないケースも散見されます。定期的な確認、掃除も怠らないようにしましょう。

「院内感染」だけでなく「市中感染」も意識して

市中や自宅でも手洗いうがいの徹底を

みなさんの中には、「職場で感染しそうで怖い」「家族にうつしたらどうしよう」といった不安を抱えている方もいると思います。しかし、医療崩壊が起こっていない現在の日本においては、急性期病院レベルの感染対策が徹底できてさえいれば、むしろ自施設外での感染リスクのほうが高いといえます。感染対策を徹底しづらい市中や自宅にいるときこそ、医療従事者としてより注意深い行動を心がけてください。

2020年7月にスタートしたGo Toトラベルキャンペーンで、旅行熱が高まった方も多いかもしれませんが、旅行にともなう行為(食事、会話、移動など)は日常生活でも必ず行うものですから、場面ごとに適切な感染対策を講じれば大丈夫です。とはいえ、旅行中に気が緩んでしまって、人込みでマスクを外したり、食事中に大声で話してしまったりすることは十分にあり得ます。また、旅行先の環境が意図せず「3密」になっていたということもあるでしょう。そういう意味では、「いかに感染しないように旅行できるか」という視点を常に忘れないことが大切ではないでしょうか。

なお、多くの感染症と同様、新型コロナウイルスは冬季に流行しやすい傾向があると考えられています。今後も感染が拡大する可能性は十分にあり、感染症専門医の立場としても「この冬が本当の勝負」だと感じています。インフルエンザの同時流行も懸念されているので、手洗いやマスクの着用を徹底するほか、看護師のみなさんも可能な限り予防接種を受け、万全の状態で冬を迎えてほしいと思います。

取材・文:ナレッジリング(中澤仁美)

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