• 2020年1月24日
  • 2021年11月16日

医療現場で活用したい怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」

 

医療現場は怒りの渦!? 71人の医師の対処法紹介

最近、「アンガーマネジメント」という言葉を耳にすることが増えていませんか? アンガーマネジメントとは、1970年代に提唱された怒りをコントロールするための心理トレーニングのこと。感情的な言動で人間関係をこじれさせたり、トラブルを招いたりしないために注目されている手法です。特に医療現場は、痛みや不調、不安といったストレスを抱えた人が多く、怒りが発生しやすい場所といえるでしょう。2月に公開された電子書籍「医師のためのアンガーマネジメント」(日本医事新報社編)では、第一線で活躍する71人(電子コンテンツ55人)の医師が実践しているアンガーマネジメントが紹介されています。実際に経験したエピソードとともに、どうやって怒りとうまく付き合えるようになったのか、本音もまじえながら語られています。怒りに身を任せて後悔しないための指南書から、一部を抜粋してお届けします。

怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」で仕事も人間関係も円滑に!

看護師などストレス過多な医療従事者たちに知ってほしい「アンガーマネジメント」について、医事新報社『医師のためのアンガーマネジメント』より抜粋してお届け。日本アンガーマネジメント協会公認ファシリテーターである野口由紀子氏にお話を伺いました。

日本アンガーマネジメント協会公認ファシリテーター
野口 由紀子(のぐち ゆきこ)さん高知大卒。医療法人社団プラタナス「イーク丸の内」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医。日本アンガーマネジメント協会公認ファシリテーター。

 

怒りの感情と上手に付き合う

―まず、「アンガーマネジメント」とは、どのようなものなのかお聞かせください。

1970年代に米国で生まれたとされる、怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングです。怒らないことを目的とするのではなく、怒る必要のあることは上手に怒れ、怒る必要のないことは怒らなくて済むようになることを目標としています。協会では、「怒りで後悔しないこと」と教えています。

―どのような分野で活用されていますか?

企業研修や医療福祉、青少年教育、人間関係のカウンセリング、アスリートのメンタルトレーニングなどの分野で幅広く活用されています。中でも企業研修の需要は高く、多くの企業が研修を導入しています。

―医療従事者には、どの程度知られていますか?

協会に所属するファシリテーターの分布(2018年)を見ると、男性が3割、女性が7割で圧倒的に女性が多く、40~50代が7割に上ります。米国では男性が学ぶことが圧倒的に多いのですが、日本では女性の受講者が多い。医療・介護従事者は全体の12.0%で、“感情労働”と言われる看護師や介護士の受講が多いですが、医師にはまだまだ浸透していません。

―野口先生がアンガーマネジメントに興味を持ったきっかけは?

2013年に女性のための統合クリニック「イーク丸の内」の院長に就任し、管理職的な視点で働く必要性を感じていた頃、尊敬する友人に紹介されたことが、学び始めたきっかけです。

医療現場は“怒りの渦”

―それ以前は、医師として働きながら、どのようなことで怒りを感じていましたか?

私は内科医ですが、医師に成り立ての頃はやる気満々で、高血圧や糖尿病など慢性疾患の患者さんがどうしてきちんと治療を受けないのか、食事や運動療法などの自己管理がどうしてできないのか、理解できませんでした。あるいは救急外来で、「こんな時間にこんなことで来てほしくないなぁ…」という患者さんなど、医師なら皆さん経験があるかと思います。周りのスタッフが指示通りに動いてくれないときは、「~してよ」と直接怒りをぶつけていました。
特に、夜中に「眠れません」と言ってくる患者さん、結構イラッとするんですけれども、そこで怒っても解決しない。自分も眠れなくなるし、そういうときは優しく対応したほうがいいんだな、ということに気づき始めました。患者さんが何故そう思っているのか。どうしてその時間に来るのか。理不尽だとしても、とても不安だったなど、それなりに理由がある。そうした感情に寄り添うことが大事なんだな、ということに気づいたのです。
医療現場って、怒りの渦なんですよね。特に患者さんは、痛いとか苦しいと
か何かしら抱えて来ているので、スタッフに親切にしてもらえなかったとか、待ち時間が長いとか、ちょっとしたことでイライラが募り、怒りが増幅してしまう。付き添いの家族も不安を抱えていますし、我々医療従事者は、常に一定以上の緊張感を伴う医療行為に携わっている。医療機関はそういう人達が集まる場であり、日常生活を送る場に比べ、ストレスが怒りに繋がりやすい環境だと言えるんです。

―アンガーマネジメントを受講して、一番の学び、気づきは何でしたか?

アンガーマネジメントは怒らないことではない。初めにお話ししましたが、必要のあることは上手に怒って、必要ないときは怒りを表さないようにするというのは、とても大きな学びでした。これは、トレーニングすれば誰でも身につけることができます。衝動で怒らなくなり、思考や行動をコントロールすることの重要性を知りました。

―人間にとって、怒りとは何でしょうか?

自然な感情の1つで、必要なものなんですよね。怒りのない人はいないし、なくすことも不可能です。伝達手段であり、身を守るための感情でもあり、怒りを自分のパワーやモチベーションに変えるというメリットもあります。
ただ、不必要に怒ると損をします。他人を傷つけて人間関係を壊したり、仕事に支障をきたしたり、溜め込んで激しい怒りに変わったり。あるいは、血圧が上がるなど自身の健康にも影響を及ぼす。人によってはモノを壊したり、それが自分に向かうと自殺や自傷行為となります。

問題となる怒りには4つの特徴があります。

①強度が高く、小さなことでも激高する、強く怒りすぎる
②持続性があり、根に持つ、思い出し怒りをする
③頻度が高く、しょっちゅうイライラする、カチンとくることが多い
④攻撃性があり、他人や自分を傷つける、モノを壊す

─というのは問題です。

自分の怒りのタイプを知る

―怒りの表現方法にはタイプがありますか?

6つのタイプがあります。

1)公明正大“熱血柴犬”。「電車で騒いでいる人を見るとイライラする」「会議に遅刻してくる後輩に腹が立つ」など、マナー違反や、規則にルーズな人を見ると怒りが湧いてくるタイプです。正義感が強く使命感に燃えているため、他人のことに口出しをして人間関係をぎくしゃくさせてしまう。わざわざマナー違反の人をじっと見たり、不正がないか監視したり、怒りの源に注目しがちです。信念を曲げると負けた気になるなど、“勝ち負け”で物事を捉えがちなところもあります。高過ぎず、低過ぎず、意識のバランスを保つことが大切です。周りの人の考えや行動を尊重する気持ちを持つことで、自分も人も楽になります。

※写真はイメージです

2)博学多才“白黒パンダ”。白黒はっきりつけたい完璧主義者。向上心があり、「自分にも他人にも厳しくあるべき」と考えがちで、優柔不断や適当な人が許せません。でも、それでは周りの人は大変なので、常に頭と心を柔軟にすることを心がけましょう。「これくらいでいいか」というグレーな事柄、様々な価値観を受け入れることを意識し、時には諦めることも必要です。

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3)威風堂々“俺様ライオン”。リーダー的存在で自分に自信があり、プライドが高いが、物事が思い通りに進まなかったり、欲しいモノが手に入らないとイライラしてしまう。意外と他人の評価を気にしているので、インターネットでエゴサーチしてしまうのもこのタイプです。意見なのか批判なのか区別して、振り回されずに、必要以上に他人の評判を耳に入れないようにすることも大切です。

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4)外柔内剛“がんこ羊さん”。温厚そうに見えて、実は頑固な人っていますよね。自分の信念やルールに固執して譲らないところがあり、それに反することが起きると怒りを感じる傾向があります。邪推してイライラしたり、あれこれ考えすぎて不安になりやすい。被害妄想に走りがちなので、“思い込み”と“事実”を分けることも必要です。

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5)用心堅固
“慎重うさぎさん”。人や物事に対して慎重で、テリトリー意識が高い。八方美人だが、人を信じることができず、距離を置いて人と付き合おうとするタイプ。人に対してひがみや妬みを持つ傾向があり、それが怒りに変わりやすい。他人にレッテルを貼らず、小さなことからお願いをしてみたり、他人と比べず自分の良いところに目を向けましょう。

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6)天真爛漫“自由ねこ”。天真爛漫な人、横暴な上司に多い。自分の思いや考えをストレートに表現でき、統率力がありますが、自分の意見が通らなかったり、自由に行動できないとストレスを感じてしまう。場の空気が読めないため、わがままで強引と思われてしまいます。時には慎重に考えてみましょう。あえて言わないことも大事です、周りに目を向けてみましょう。

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怒りのピークは6秒で過ぎる

―タイプ別に対処法があるんですね。

皆さん、多かれ少なかれ、どの要素も持っていますが、自分のタイプを知ることがコントロールの第一歩です。
アンガーマネジメントには、次の3つのポイント(図1)があります。

※図版引用:「医師のためのアンガーマネジメント」

1)衝動のコントロール

まず、衝動でカチンと怒らない。“売り言葉に買い言葉”は、絶対してはいけません。怒りのきっかけとなる事象が起きてから6秒で、怒りのピークは過ぎると言われています。その6秒を、他の話をする、カルテを見る、落ち着く言葉を唱えるなどして何とかやり過ごしましょう。そして、起きた問題のフォローや、必要であれば謝罪など、するべきことに頭を切り換えましょう。
また、何かあったとき、イライラ・怒りの温度(点数)を測る(図2)。10点満点で何点か。例えば人に足を踏まれたら、最初は5点くらいつける。次の日、また同じようなことがあったとき、何点つけるか。まあ、3点かな? 5点はつけなくていいよね。そうこうしているうちに、これはそんなに点数をつけなくてもいいんじゃないか。1点とか、怒らないとか。そうして点数化の癖をつけることで、怒りの温度が段々下がっていく人が多い。

※図版引用:「医師のためのアンガーマネジメント」

―自分の怒りの客観視につながるんですね。

そうです。あれが5点なら、こっちは1点でいいかな、というふうに。

詳細は『医師のためのアンガーマネジメント』【書籍版】 【電子コンテンツ版】(発行:日本医事新報社)をご覧ください。

“Iメッセージ”で伝える

※写真はイメージです

―上手な怒り方とは?

アンガーマネジメントについては、同時にアサーティブコミュニケーション(自他を尊重した自己主張・自己表現)が重要です。叱るときは特にそう。
例えば、食事の自己管理ができない患者さん。「どうしてこの人は食事に気をつけないんだろう」「気をつけてください」ではなくて、「何か心配なことはありますか」「これが気になっているから、できていないんですか」ということをまず聞く。感情的にならずに伝える。私は外来で、「今日は結果がこうなってとても嬉しいです」「○○さんがこうやってくれると、私はとても嬉しいんですけどね」と言っています。「○○すべきですよ」というYouメッセージではなく、相手の言い分を聞き、Iメッセージで伝える。機嫌で叱ったり、人によって変えたり、人前で怒るのはNG。一対一が基本です。
NGワードも沢山あります。「なんで」ではなく、「どうしたら」できるかな、に変える。「あなたは必ずこうするよね」という言葉は使わず、今回問題となったことだけ言う。ただこれ、私も家族にはよく言ってしまうんです(笑)。何のためにアンガーマネジメントを学んだんだ、と自分で思うことがあります。

―気を許した相手にはつい言ってしまいますよね。

それもポイントなんです。怒りは、家族や恋人など、身近な対象に対するほど強くなる。高いところから低いところへ流れ、矛先を固定できず、伝染しやすいという性質もあります。
クリニックの院長になったときは、色々問題もありました。いつも怒っているスタッフがいたんです。アンガーマネジメントは、「過去と他人は変えられない」けれど、「未来と自分は変えられる」というのが基本的な考え方で、人を変えるものではないんですが、院長として組織に関わる上で、そのスタッフと毎週面談して、何をそんなに怒っているのか、一生懸命聞き出しました。なかなか心を開いてくれないですけどね。闇雲に注意したり辞めさせるのではなく、そうして話し合いをしている、対応しているというのを、他のスタッフに見せることも大切です。結局そのスタッフは退職してしまい、私も辛かったですが、あの経験は院長としての私の糧ですし、悪くはなかったと思っています。

第一次感情を推測する

―患者・家族の怒りには、どう対応すればよいでしょう。

人の感情には第一次感情と第二次感情があります。怒りは第二次感情。患者さんやご家族の怒りの元にある不安や悲しみ、苦しみ、恐怖、嫌悪、孤独、後悔、罪悪感といった第一次感情を推測してあげることが必要です。
例えば、医療機関では待ち時間が問題になりやすい。お怒りの方がいたときに、その方の第一次感情を推測し、寄り添うような声かけが大事です。「その日の検査の具合で順番が前後することがありますがご了承ください」とか、「具合が悪ければ、横になってお休みになりますか」とか。言われるより先に、「気にかけていますよ」と伝えることが重要です。

―“キレる高齢者”など、怒りやすい人は増えているのでしょうか。

いま怒る人が多い理由としては、忙しい、科学技術の発達、グローバル化による価値観の違いなどが指摘されています。携帯はなく固定電話で連絡を取るしかなかった時代と比べれば、とても快適になっていますが、逆にその快適が少しでもずれてしまうとすごく不便に感じてしまう。高齢者では、もの忘れがあっても、それを認めたくない感情もあります。

―医師同士ではどうでしょうか。

当院では、感情的にぶつかることはありません。意見が分かれることはありますが、決まらなければ1回持ち越し、そこでは徹底的にやり合わない、などのルールを決めています。当院はドクターが沢山いて、各々思うところがありつつも、どうしたら適切に丸く収まるか考えてくれています。
私も学生の頃は人とぶつかることもありました。自分が正しいと思って発言したり、合わない人は合わない。働き始めるとそういう訳にもいきません。“困った上司”はいませんでしたが、男女差別をするドクターはいました。それは受け入れるしか選択肢がなかった。

パワハラ対策としても有効

―アンガーマネジメントはハラスメント対策にもなりますか。

パワハラ対策としてアンガーマネジメントを活用している企業は増えていて、とても有効だと思います。部下のモチベーションもパフォーマンスも上がります。とにかく上司が学ばないといけない。上司から変わらないといけないですね。

―お話を伺って、怒りの仕組みやコントロールの方法がよくわかりました。ありがとうございました。


本記事は日本医事新報社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2019日本医事新報社[出典]医師のためのアンガーマネジメント


「医師のためのアンガーマネジメント」(書籍)


●書籍
編集: 日本医事新報社
判型: A5判
頁数: 196頁
装丁: 単色
発行日: 2019年05月31日
ISBN: 978-4-7849-5838-2
版数: 第1版
本体価格:2,700円(税別)

「医師のためのアンガーマネジメント」(電子コンテンツ)

●電子コンテンツ
判型:A5判
頁数:149頁
発行日:2019年2月7日
本体価格:2,000円(税別)

●内容紹介
・日本アンガーマネジメント協会公認ファシリテーター野口由紀子氏が語るアンガーマネジメントの理論と実践法は必読!
・第一線で活躍中のドクター71名(電子コンテンツ55名)が、自身の経験の中から導き出した「怒り抑制法」の数々は、無用なトラブルを避けるための「盾」となります。
・“怒りの渦”から抜け出し、怒りをやり過ごす、怒りを活かす、うまく怒る、そんな対処法を身につけることができます。

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著者プロフィール