• 2021年9月24日
  • 2021年10月15日

【映画】ジョニー・デップ製作・主演最新作『MINAMATA―ミナマタ―』

 

水俣病に迫った世界的写真家の生き様を描き出す

さまざまなキャラクターを変幻自在に演じ分け、人気・実力を兼ね備えるトップスターとして君臨してきたジョニー・デップ。最新作『MINAMATA―ミナマタ―』では、1970年代の日本を舞台に、彼が長年あこがれを抱いてきた報道写真家ユージン・スミスを演じています。

ユージン・スミスといえば、妻のアイリーン・美緒子・スミスとともに、日本における四大公害病の一つである水俣病の存在を世界に伝えたことで知られる存在ですが、映画『MINAMATA―ミナマタ―』は、2人が1975年に発表した写真集『MINAMATA』を題材にした作品。2020年のベルリン国際映画祭で、特別招待作としてワールドプレミア上映されると、デップのリアルな演技が各国メディアから絶賛されました。


『MINAMATAーミナマター』/ジョニー・デップ インタビュー映像
「ユージン・スミスの写真に惹かれ続けたのは、一枚一枚にいつも真実が示されているから」とジョニー・デップは語る。


『MINAMATAーミナマター』/web限定予告編

 

『MINAMATA―ミナマタ―』

■公開 2021年9月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開
© 2020 MINAMATA FILM, LLC
© Larry Horricks

■製作:ジョニー・デップ
■監督:アンドリュー・レヴィタス 脚本:デヴィッド・K・ケスラー
■原案:写真集「MINAMATA」W.ユージン・スミス、アイリーンM.スミス(著)
■出演:ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、and ビル・ナイ
■音楽:坂本龍一
■提供:ニューセレクト株式会社、カルチュア・パブリッシャーズ、ロングライド
■配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム
■2020年/アメリカ/英語・日本語/115分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/原題:MINAMATA/日本語字幕:髙内朝子
最新情報は映画「MINAMATA」公式サイト をチェック!

ユージンのカメラを通して水俣病の問題に対峙する

本物のユージン・スミスが蘇ったように思える瞬間がたびたびあるほど、ジョニー・デップの役作りには凄みがあった。

1971年、ニューヨーク——。報道写真家として世界的評価を得ながらも、心に傷を抱えたユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、酒におぼれるすさんだ日々を送っていました。そんなある日、ユージンは日本人の血が流れるアイリーン(美波)と仕事を通じて出会い、「工場が海に流す有害物質で苦しむ水俣の人々を撮影して、この悲劇を世界に伝えてほしい」と頼まれます。

はじめのうちは、まったくやる気がみられなかったユージンでしたが、渡された資料に目を通し、水俣の現状を知った途端、何かにつき動かされるように日本へ。その後は、アイリーンとともに、3年間を熊本県水俣市で過ごし、市井の人々の日常や水銀に冒されて歩くことも話すこともできない子どもたち、激化する抗議運動などに向き合い、驚きながらも冷静にシャッターを切り続けました。

とはいえ、ユージンが最初から地元の人たちに受け入れられたわけではありません。水俣病に苦しむ患者や地域の人々と「ともに闘いたい」という思いとは裏腹に、カメラを向けても撮影に応じてもらえない日々が続き、彼のなかには少しずつ苛立ちが募っていきます。また、ある人物からの申し出を拒否したことで、ひどい暴行を受けることもありました。

追い詰められたユージンは、自分なりのやり方で真実に迫ろうと、水俣病とともに生きる家族たちにある提案をしますが……。

鮮やかにスクリーンによみがえる1970年代の日本の光景

ユージン・スミスは、『ニューズウィーク』誌や『LIFE』誌のカメラマンとしてすぐれた作品を発表し、『ポピュラー・フォトグラフィー』誌では世界の十大写真家の一人に選出されています。しかし、太平洋戦争中にサイパン、沖縄、硫黄島などの激戦地で取材を重ねるうちに砲弾の爆風を受けて重傷を負い、後遺症に苦しんで薬やアルコールに依存。1971年当時はカメラさえ手放している状態でした。この映画は、傷付いた写真家が再びカメラを手に取り、立ち上がって闘いに身を投じていく“復活の物語”でもあり、ジョニー・デップはインタビューの中で「ミナマタが彼の心を再び開いたのだと思う」と語っています。

本作ではジョニー・デップや美波の演技はもちろんのこと、ビル・ナイ(ユージンの活動を支援する『LIFE』編集長ロバート・“ボブ”・ヘイズ役)や國村隼(工業排水により水俣病を引き起こした企業社長ノジマ・ジュンイチ役)の熱演からも目が離せません。特に、流暢な英語を操る國村隼とジョニー・デップの応酬は必見です。

さらには、住民のリーダー的存在のヤマザキ・ミツオ役に真田広之、自らも水俣病を発症しながら記録フィルムを回し続ける住民のキヨシ役に加瀬亮、胎児性水俣病患者の娘を持つ夫婦(マツムラ・タツオ、マツムラ・マサコ)役に浅野忠信、岩瀬晶子など、実力派キャストが顔をそろえ、物語に奥行きを加えています。

看護師のみなさんであれば、水俣病について「工業廃水に含まれたメチル水銀が原因の公害病」「中毒性中枢神経疾患」「不可逆的な障害」といった知識をお持ちだと思います。そう、戦後日本の高度経済成長期には、水俣病やイタイイタイ病、四日市ぜんそくなどの公害病をはじめとする公害問題が社会に重くのしかかっていたのです。夏になれば都市部には毎日のように光化学スモッグ注意報が発令されましたし、当時の特撮映画『ゴジラ』で描かれたゴジラの敵は、汚染された海から生まれたヘドラという怪獣でした。

若い人にとっては、そうした史実が「見知らぬ過去の話」になっていますが、だからこそこの映画の力を借りて、過去の問題を知り、学び、その知見を未来につなげていくことが大切なのかもしれません。

「LIFE」誌編集長を演じるのは英国の名優ビル・ナイ。ジョニー・デップとは『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』(2007年公開)以来の共演となった。

闇に包まれた苦難の瞬間にも光として浮かび上がる命の輝き

ところどころに実写フィルムも差しはさまれているものの、本作は決して記録映画のたぐいではありません。スパイ映画さながらのスリリングな病院潜入シーンでは心拍数が上がり、ユージンが決意する潔さには心を打たれ、どこまでも美しい風景には坂本龍一が手がけた音楽が寄り添うように響き、物語はテンポ良く進んで静謐で感動的なラストシーンへ収束していきます。そして、ジョニー・デップからのメッセージがぎっしりと詰まった充実の115分は、悲劇的な内容を扱いながらも陰鬱に陥ることはなく、観た者の心に深い余韻を残してくれます。

ジョニー・デップは「映画の持つ力をフルに活用して、この歴史は語り継がれなければならない」と言い、写真集『MINAMATA』の映画化を熱望したといいます。日本人として、ある程度は水俣病について知っている私たちも、あらためて自問自答しながら、本作に託された警告と希望の光をしっかりと受け止めたいところです。

『MINAMATA―ミナマタ―』

■公開 2021年9月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開
© 2020 MINAMATA FILM, LLC
© Larry Horricks

■製作:ジョニー・デップ
■監督:アンドリュー・レヴィタス 脚本:デヴィッド・K・ケスラー
■原案:写真集「MINAMATA」W.ユージン・スミス、アイリーンM.スミス(著)
■出演:ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、and ビル・ナイ
■音楽:坂本龍一
■提供:ニューセレクト株式会社、カルチュア・パブリッシャーズ、ロングライド
■配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム
■2020年/アメリカ/英語・日本語/115分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/原題:MINAMATA/日本語字幕:髙内朝子
最新情報は映画「MINAMATA」公式サイト をチェック!

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