著名人・賢人コラム ココロの処方箋
【鈴木祐著・科学的な適職】転職失敗のリスクを回避する「2つのテクニック」

Vol.12

科学ジャーナリスト・鈴木祐さんからのメッセージ 看護師転職失敗のリスクを回避する「2つのテクニック」|科学的な適職②

「職場環境が不安だし上司や同僚ともうまくいかない。転職したほうがいいのはわかっているけど、今より状況が悪くなったらどうしよう……」。転職を考えてはみたものの、失敗することを恐れてもう一歩踏み出せずにいる、という人は決して少なくありません。でも、事前に転職で失敗する原因がわかっていたとしたら、どうでしょう? 少しは不安な気持ちが和らぎますよね。科学ジャーナリストの鈴木祐さんによれば、就職・転職の失敗の原因の一つとして「バイアス(思い込み、偏ったものの見方)」が挙げられるのだとか。そこで今回は、適職探しの邪魔をするバイアスを取り除き、転職失敗のリスクを回避するための「2つのテクニック」についてご紹介しましょう。

バイアスとは人間の脳に巣食うバグ

「看護師を続けるべきか?」と悩んだときに

「バイアス」というのは、直訳すると「偏ったものの見方」のこと。つまり、「人間はつねに一定の決まったパターンでミスを犯す」という現象を表した言葉です。バイアスにはさまざまな種類が存在していて、現状、研究で確認されているものだけでも、実に170件以上。意思決定を誤らせるもの、記憶を歪めるもの、人間関係を乱すものなど、さまざまなバイアスがあり、あらゆる方向から私たちを間違った道に誘い込みます。

適職探しにおいてもその悪影響は同じで、「確証バイアス」などはその代表例といえます。「確証バイアス」は、自分が信じたことの裏づけになりそうな情報ばかりを集めてしまう心理で、たとえば「今の時代はフリーな働き方が最高だ」と思い込んだ人が、独立して成功を納めた人の情報ばかりを集め、同じような考え方をする仲間とだけ付き合うようになる、といった事例がそれにあたります。そして、いったんこの状態にハマった人は、大企業の良いニュースや独立に失敗した人の情報には目もくれず、ときには自分と違う生き方を好む人たちを批判し始めたりすることも……。

もちろん、これはほんの一例で、私たちが克服すべきバイアスは、他にも山ほど存在します。

短期・中期・長期で自分の選択肢を見つめ直してみる

患者さんや同僚とのトラブル解決にも!

私たちは未来の予測がとても苦手な生き物。そのせいで、将来のビジョンをクリアに思い描くことを忘れ、「とにかく今の仕事が嫌だから辞めよう!」「成長してる企業だから入りたい!」のように、つい脊髄反射で行動してしまったりしがちです。

こうした問題を解決するために、覚えておいてほしいのが「10/10/10テスト」と「プレモータム」という2つのテクニックです。では、「10/10/10テスト」のほうから解説していきましょう。

「10/10/10テスト」は、ジャーナリストのスージー・ウェルチが開発した意思決定のフレームワークで、使い方はとても簡単。何かしらの選択肢を前にしたとき、次のように考えてみるのです。

①この選択をしたら、10分後はどう感じるだろう?
②この選択をしたら、10ヵ月後にはどう感じるだろう?
③この選択をしたら、10年後にはどう感じるだろう?

簡単にいえば、短期・中期・長期のタイムラインを使って、いったん目先のバイアスから自分を切り離すのが「10/10/10テスト」のゴールです。たとえば、あなたが「転職すべきかどうか?」で思い悩んでいる場合は、次のように使います。

①10分後は?
「いま転職を決断したら、10分後には嫌な仕事から解放されて、せいせいしているだろうな」

② 10ヵ月後は?
「少なくとも最初の開放感は薄れているだろうし、次の仕事に慣れるのに必死になっていそう」

③10年後は?
「転職で悩んでいたことなんて、どうでもよくなっているだろうな……。でも10年前の転職は間違っていないといえそう」

このケースでは最終的に「転職すべき」との結論になりましたが、人によっては「このまま残った方がいいのかも」や「そもそも『転職すべきかどうか?』という問題設定が間違いだった」という判断に行き着くケースもあるでしょう。いずれにしても、目先の感情だけで判断するよりは、精度の高い結論を出せるのは間違いありません。

「プレモータム」で未来の予測精度を30%高める

より良い条件の看護職を見つけるために

さて、もう一方の「プレモータム」は、2000年代からハーバード・ビジネススクールなどで盛んに使われ始めたバイアス解除テクニック。「ポストモータム」という医学用語にヒントを得た言葉で、直訳すれば「事前の検死」となります。少しばかり物騒な響きですが、考え方はシンプルで「失敗を前提にして意思決定をする」のが最大のポイントです。つまり、あえて失敗した未来を頭に浮かべることで、バイアスの影響を限界まで減らすのです。

すでに複数の研究でその効果が認められていますが、ペンシルバニア大学などの研究によれば、「プレモータム」を使った被験者は、未来の予測精度が平均で30%上がったとのこと。ビジネスの世界ではマネージメントツールとして使われるケースが多かったのですが、近年では幅広い有効性が認められ、キャリア選択などに用いられることも増えてきました。

では、具体的な手順を解説していきましょう。

①敗北の想定
まずは、いまから3年後の未来を想像して、あなたの選択が「完全な失敗」に終わった場面をイメージします。転職したらまったく興味がない仕事をやらされた。業績がまったく安定しておらず将来が不安になった。仕事を変えたらそれまでにつちかったコネを失った。給料は増えたが業務が多すぎてプライベートを失った……。「完全な失敗」の中身は主観で決めてください。「もし、自分が間違っていたらどうなるか?」を考えながら、あなたにとって「この結果は最悪だ!」と思う未来を5~10分ほどかけて紙に書き出してみましょう。

②原因の探索
続いて、先にイメージした「完全な失敗」がどのような原因で起きたのかを紙に書き出していきます。自分が普段からどんな失敗をしやすいかを考えて、現実にありそうな理由をできるだけ思いつくようにしてください。

③過程の想起
失敗の原因を思いついたら、そのプロセスを時系列で詳しくイメージしてください。たとえば「転職したら賃金が不公平でやる気がなくなった」という失敗であれば、「次の仕事に就くまでに時間がなかったため、少しネットで検索しただけで面接を決めてしまった」→「面接の際に担当者に『業績が査定される方法は?』と質問しなかった」→「入社から半年が過ぎたあたりで、たいした働きをしていない同僚のほうが高い給与をもらっていることに気づいた」というように、あなたの決定が失敗に終わるまでに、どのような経緯があったのかを順番に想像していきます。少しネガティブな気分になるでしょうが、その分バイアスにまどわされず、正しい仕事を選べる確率が高まります。

④対策の考案
ここでは、先ほど考えた失敗の解決策を考えていきます。「業績の査定方法を事前に社内の人間などに確かめ、面接でもしっかり問い合わせる」や「仕事選びのスケジュールを見直して、より現実に即した期日を決める」など、失敗を防ぐにはどうすればいいのかを考えてください。失敗を防ぐための対策が作れたら、それに従って、仕事選びのプロセスを再調整しましょう。もし、「自分は金銭にこだわりすぎていた」と気付いたらいったん給与のことを忘れて候補を絞り直す。「転職までのスケジュールが甘かった」と考えたなら、余裕のある日程を組み立てる。「いまの仕事が実はそこまで悪くなかった」と思ったのなら、転職案そのものを見直してみる。そうやって、それぞれのトラブルについて明確な計画を立ててください。

いかがでしたか? 過去のプレモータム研究によれば、この段階で「リサーチが甘かった」「目先のことしか考えていなかった」「対人関係のトラブルから逃げたいだけだった」といった問題に気づいた人が多いそうですよ。

いかに合理的な思考力を持った人であっても、意思決定の精度にはどこかしら歪みが生じるもの。その問題を防ぐには、いまの判断に自信があろうがなかろうが、とりあえず「プレモータム」で意思決定の質をチェックするのがおすすめです。

自分で自分をだまし続けてはいけない

看護師が適職を見つけるために必要なこと

ここまで、適職探しに役立つバイアスの解除法をお伝えしてきましたが、実をいうと、バイアス解除の重要性を強調しても、それを実行しようと試みる人はあまり多くありません。誰でも「自分の選択は正しい」と思いたいでしょうし、耳が痛くなるような意見は避けたくなる。それが自然だからです。

とはいえ、バイアスはすべての人間が生まれ持つバグであり、その影響を受けない人は存在しません。ある研究では、高い成果を出すビジネスマンほど自らのバイアスに注意しながら意思決定を行う傾向が強く、およそ80%以上は意識して他人からのフィードバックを求めているとか。一方、慢性的に低い成果しか出せないビジネスマンの場合は、バイアスに注意して働く者の割合は全体の20%にも届かないそうです。

「一番だましやすい人間は、すなわち自分自身である」というのは、イギリスの小説家であるブルワー・リットンの言葉ですが、これは科学的にもまぎれもない事実。バイアスを取り除かないまま、自分で自分をだまし続ける「セルフ詐欺」の悪循環にはまってしまうと、いつまでも適職を見つけることができないかもしれませんよ。

プロフィール

鈴木祐(すずき・ゆう)

科学ジャーナリスト

1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『科学的な適職』『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。

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