著名人・賢人コラム ココロの処方箋
【山口真由】看護師に求められる「コミュニケーション能力」

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 撮影/玉井美世子

Vol.8

2019.02.13

「働き方」は自分で選べる! 看護師に求められる「コミュニケーション能力」

看護師不足や夜勤で不規則な就業時間という問題もあるなかで、毎日多忙に働く看護師のなかには、「働き方を見直したい」「転職をしたい」と考えている人もいるでしょう。また、職場でさまざまなストレスや、人間関係のトラブルを抱えている人もいるかもしれません。そんな看護師の「働き方」の悩みに、かつて財務省や弁護士事務所など複数の職場に勤務し、現在も複数のキャリアを持って活躍する山口真由さんが答えてくれました。

女性が9割の看護師の職場で人間関係を円滑にする秘訣

人間関係を良くするには、相手の立場を考えて「よく動く」こと

――看護師は日常の業務が多忙なうえ、患者さん、医師、専門職員、そして上司や同僚など多くの人たちと関わりながら働く仕事です。そんな職場においては、人間関係に難しさを感じる人もたくさんいますが、山口さんがこれまで働いてきた職場ではいかがでしたか?

山口:わたしが勤めた財務省や弁護士事務所は、おもに男性が多い職場でした。もちろん、女性の上司もいたわけですが、どちらかと言えば女性のほうが「難しいな……」と感じることは多かったですね。なぜなら、伝え方が感情的だったり、話している内容が変わったりすることがあったからです。

――一般的に、論理的な思考を得意とする官僚や弁護士の職場でも?

山口:往々にしてありましたね。そのぶん女性の上司は、きちんとやり方さえわきまえていれば、それほど大変ではないという側面もあります。まず押さえるべきは、自分のほうが下の立場であると明確に自覚すること。そして、ことさらに上司を立て過ぎないこと。女性の上司に対して、「先輩」「年上ですから」などと気をつかう人がいますが、そういう言動は年上の女性は不快に感じるものです。そうした感覚の行きちがいで、関係性が難しくなるのだと思います。

――上司や先輩である相手の立場から考えてみるということですね。

山口:先輩・後輩の関係は、相手への尊重が前提にあれば大体はうまくいくものです。なかには意地悪な人もいるかもしれませんが(苦笑)、自分から「教えてください」という立場をきちんと見せることが大切です。そして、自分が言われて腹が立つようなことを言わないように気をつければ、人間関係が破綻することはそれほどないはずです。

――自分が「下の立場」であることを表現するには、具体的にどのような行動をすればいいのでしょう。

山口:それはもう、「よく動く」ことに尽きますね。看護師さんであれば、きっと「面倒だな……」と感じる仕事もあるでしょう。そんな仕事にも、「わたしがやります!」と積極的に動くことが大切です。わたしの経験でも、たとえば来客があったときに「先に対応しておきますね」とサッと動ける後輩には、やっぱり良い印象が残ります。

――おっしゃるとおり、医療系の仕事には、どうしても手間がかかったり汚れたりするような、みんなができれば避けたがるような仕事もたくさんあります。

山口:そうですよね。そんなときに、「片づけておきます!」と積極的に引き受ける「かわいい後輩」でいるのは大事なことです。お話が長い患者さんなどの場合、事前に看護師さんが話を聞いてまとめておくと、「やっぱり助かる」と知り合いの医師に聞いたことがあります。もちろん、医師とのやり取りなどは先輩にちゃんと譲りつつ、自分は目立たないけれど、みんなが助かるような仕事を積極的にやることが必要ではないでしょうか。

――先輩に「後輩がやるべきことだよね」と思わせたり、させていたりしていてはダメだということですね。

山口:ひと昔前なら怒鳴られた場面でも、いまはコンプライアンスの問題もありはっきりと怒られないことが増えています。そのためになかなか気づけなくて、結局は裏で「あの子使えないよね」と言われてしまう。とくに女性が多い看護師さんの職場では、そこが難しい部分のひとつなのかなと想像します。

理不尽な医師や先輩・上司に効果的!

職場のトラブルは冷静な対応をするためにも一度時間を置く

――人間関係を円滑にするために、相手の立場を考えて行動することが大切なのはわかりました。でも、どうしても上司が理不尽な場合もあります。そんなときはどのように対処すればいいでしょうか。

山口:わたしは、どんなことも「1日置く」ようにしています。そして、場合によっては、自分が「おかしい」と感じることを紙に書き出すのです。なぜ書き出すかと言うと、実際に言葉にしてはじめて、自分が不満に思っているだけなのか、本当に相手がおかしいのかを冷静に判断できるからです。

――なるほど。怒りにかられてしまうと、状況を冷静に把握できない場合がありますよね。

山口:そのとおりです。そして、1日後に書き出したものを見て「やっぱりおかしい」となれば、程度にもよりますが、さらに上の上司に話したほうが良いこともあります。とくに、問題がいくつか重なり、そのすべてに特定の人が絡んでいるなら、それは「職場の問題」として相談できると考えられます。

――最近はハラスメントなどの問題が、業種に関わりなくかなり報告されています。

山口:知人の看護師さんたちの話を聞いていると、「それ絶対おかしいよ!」ということが結構あるんですよね。そんなことをずっと我慢し続ける必要はありません。また、いったん時間を置くことで、上司に相談するときに感情的にならずに怒りを表現できます。感情的になると人は話を聞かないものですが、記録をもとに淡々と事実だけを話すほうが確実に伝わるのです。

――「この人、本当に怒っているな」と迫力も出そうですね(笑)。

山口:怒りを感じたときこそ、より冷静になることです。人間関係では、「この人といると居心地が悪い」とか「自分のことをないがしろにしている」と感じることがあれば、自己防衛として一度距離を取ることも大切なこと。仕事に支障がない範囲でなるべく距離を取ることで、自分の身を自分で守ることは必要なことです。

――信頼できる友人や同期の人に、悩みを聞いてもらうのもいいかもしれません。

山口:わたしも財務省にいたときは、上司がとても怖かったので(苦笑)、ざっくばらんに話ができる友人がいたことで気持ちがずいぶん楽になりました。いくら上司や先輩が怖くても、あくまでも仕事ですから人間関係としてやっていかなければならない場合もあります。そんなときは、仲間と話をして冗談にして笑い合うなど、ストレスを抱え込まないようにしたほうが賢明です。

――悩みや問題を「書き出す」ことと同じで、人に話すことで発散してしまうわけですね。

山口:ほかの人も同じように感じていることがわかると、「わたしがおかしいんじゃなかったんだ!」と安心できるじゃないですか。そう思うと、気持ちに余裕が生まれます。その結果、たとえまた嫌なことがあっても、「こっちは大人の対応をしよう」と冷静になれます。

「看護師辞めたい!」でもいざとなると不安……

転職してもやってきたことはゼロにはならない

――職場の人間関係の観点から、看護師の「働き方」についてお聞きしました。ここからは、看護師の転職やスキルアップについても教えてください。山口さんは、財務省をはじめこれまでの職場を辞めることをどのように決断されたのでしょうか。

山口:どんな職場でも辞める決断をするのは大変ですが、まず自分が置かれた状態を「俯瞰」することがなにより重要です。辞められない理由のほとんどは、じつは多くの場合、人間関係が原因です。自分に「辞める権利」があることは、誰もがわかっているはず。それでもなかなか辞められないのは、職場の人間関係に絡め取られてしまっているからです。

――とくに看護師の場合は、職場の仕事が多く人材も逼迫しているため、引き止めるための説得なども強そうですね。

山口:本来はいつでも辞められるはずなのに、ある業界や組織にいると、そこだけの道理が通ってしまうことはよくあることです。「すぐには辞めないでほしい」「残る人のことも考えてほしい」などと言われると、なかなか自分の決意を貫けないもの。また、「あなたに期待しているんだよ」と、情に訴えかけられるのもきついですよね。

そこで、わたしが財務省を辞めるときは、なるべく利害関係がない友人に相談しました。すると、自分が置かれている状況を客観的に「俯瞰」できて、揺らぎかけていた当初の意志を貫くことができたのです。だからこそ、ほかの業界や組織にいる友人たちと交流することはとても大切だととらえています。

――ほかの世界にいる人から客観的な意見を聞き、状況を俯瞰しながら、あくまで自分の意志を貫いていく。

山口:覚えておいてほしいのは、たとえお世話になったとしても、その人たちを「説得しない限り辞められない」ことはないということです。誠意を持って意志を伝えることは大切ですが、最終的には「相手が納得しなくても辞められるんだ」と考えておくことです。まわりがなんと言ってきても、「今後の人生のためにも、わたしは新しい経験を積みたいと考えています」と、自分の考えをつねに繰り返すことが大事です。

――説得しようとする相手と話し合ってしまうから、自分の考えや意思がどんどんブレてくるのですね。

山口:言われたことに対して「正しく」答えようとすると、自分の意見の甘い部分を突かれたり、言動があいまいになったりします。そして、「なぜうちでできないの?」などと言われて動揺してしまうのです。そんなやり取りを続けていると、やがて自分でも「どうして辞めるんだっけ?」となってしまう。だからこそ、自分の考えを変えずに言い続けることが大切なのです。

――転職にあたっては、将来が不安になることもあります。これまで複数のキャリアチェンジをされてきた山口さんは、そんな時々の不安をどのように乗り越えてきたのですか?

山口:そもそも「変わる」ということは、不安なことです。ましてや大切な仕事を変えるわけなので、「大丈夫だろうか?」「生活が安定しないのでは……」と不安になるのはあたりまえです。ただ、わたしが伝えたいのは、「やってきたことがゼロになるわけではない」ということ。看護師さんであれば、たとえば医療知識を学ぶ姿勢やコミュニケーション能力など、基本的な部分ができていればどこにいっても大丈夫です。そんな大きな楽観を持つことも大事ですね。

二足のわらじでがんばるという選択も◎

これから求められるのはコミュニケーション能力が高い看護師

――現在山口さんは弁護士の活動を一時休止され、大学院で学びながら、著作活動やコメンテーターとしても活躍されています。いま看護師のあいだでも「複業」をする人が増えているのですが、複数のキャリアを持つメリットとデメリットを教えてください。

山口:デメリットは、人目につく複業をしていると「ちゃらちゃらしている」ようなイメージを持たれることですね。その状態でもしトラブルがあれば、ほかの人よりも厳しく評価されるでしょう。もうひとつは、時間の管理に関することでしょうか。自分ではフルに頑張っていても、職場の上司や同僚から見れば「もっと時間があるはずだ」と指摘されることもあるはずです。

一方メリットは、ひとつの業界・業種の考え方やルールに染まらないことです。ちがう世界を見られることで、自分の視野を相対化できるわけです。課題を別の視点から検討できたり、悩みごとなども解消しやすくなったりします。

――最後に、これから医療業界で生き抜いていくために、看護師はどんな力を身につけるべきか教えてください。

山口:やっぱり「コミュニケーション能力」がとても大切になるでしょう。その能力だけは確実に必要とされるし、そこで評価もわかれると思います。たとえば、医療訴訟を見ていると、多くの場合コミュニケーションの行きちがいが原因だと感じます。病院に対する患者の不信感も、根っこにはコミュニケーション不足に問題があるのです。いまは医師をはじめ、人材が流動的である事情もあります。

そんな時代に、実際に患者と関わりながら説明責任を果たしていく「病院の顔」としても、看護師さんの役割はかなり大きくなっています。看護師が患者とコミュニケーションできている病院はやはり人気ですし、そんな病院は医師と看護師との関係も良好だと聞きます。コミュニケーション能力とは、「人がなにを求めているのか」がわかるということ。今後、コミュニケーション能力が高い看護師さんは、どこにいっても求められるはずです。

\看護師にはいろいろな働き方がある!

プロフィール

山口真由(やまぐち・まゆ)

NY州弁護士・コメンテーター

東京大学法学部を首席で卒業。大学3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。学業成績は在学中4年間を通じて「オール優」で4年次には総長賞も受ける。2006年4月に財務省に入省し、主税局に配属。08年に退職し、09年から15年まで大手法律事務所に勤務し企業法務に従事。15年から1年間ハーバード・ロースクールへの留学、修了し、ニューヨーク州弁護士資格も取得。現在は、テレビのコメンテーターや執筆でも活躍している。著書に『東大主席が教える超速「7回読み」勉強法』、『東大主席が教える「間違えない」思考法』(以上PHP研究所)、『リベラルという病』(新潮社)、『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える 合格習慣55:家庭でできる最難関突破の地頭づくり』(学研)など多数。

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