業界ニュース情報便

vol.127

看護師がいま知っておきたい、新型コロナウイルス感染症対策

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、看護師のみなさんは公私ともに大きな影響を受けたことでしょう。危機対応という面では、いまだに予断を許さない状況が続いていますが、そうした中だからこそ、新型コロナ対策の「これまで」をどう振り返り、「これから」をどう実践していけばいいのかについては、しっかり把握しておきたいもの。そこで、感染症専門医であり、感染症コンサルタントとしても活躍する岸田直樹先生に、「いま確認しておきたい新型コロナ対策」について伺いました。

感染対策という名の「振り子」を収束させよう

「この冬こそ勝負」と強調する岸田先生

新型コロナウイルス感染症の拡大に翻弄された2020年は、一般の方たちの感染症に対する意識が急激に高まるとともに、感染予防の知識(デマも含めて)が広がりをみせた年でもありました。残念ながら、このウイルスが完全に終息する目途は立っておらず、今後も長い付き合いを覚悟しなければなりません。だからこそ看護師のみなさんには、正しい感染対策の普及を促進する立場として、よりいっそう活躍してほしいと期待しています。

突然ですが、頭の中で「振り子」を想像してみてください。非常事態宣言が出された当初は、厳しい対策を実施する方向にグッと振り子が動きました。しかし、現在は過剰だった感染対策をうまく「引き算」していく段階に入っており、振り子が逆サイドに振れつつあります。コロナ対策を言葉にするなら、そうやって少しずつ調整をはかりながら、次第に対策の精度が上がっていき、やがて一点に収束していくイメージ。そんな流れを踏まえつつ、自施設や地域の状況を把握し、最適な感染対策を模索していくことが、「持続可能な対策」につながるのではないでしょうか。

感染対策を考えるときに重要なのは、「感染した場合に致死率の高い人がどのくらいいるか」という観点から、その場におけるリスクを正しく把握すること。そして、新型コロナウイルス感染症の場合は、心疾患や呼吸器疾患を抱える人、そして高齢者全般の死亡率がかなり高いという特徴があります。高齢者が多く利用する病院やクリニック、介護施設は極めて感染リスクが高い場所の一つであり、「急性期病院レベル」の感染対策が今後も求められると認識しておいてください。

「口からの飛沫」を防ぐための環境整備を

フェイスシールドによる飛沫防止効果は限定的

みなさんもご存じの通り、新型コロナウイルス感染症は、口から出た飛沫による感染例が非常に多く、だからこそマスクの着用が有効だと考えられています。特に「医療用のサージカルマスクを着用したかどうか」は、「濃厚接触者かどうか」の判定にも関わってきますから、医療機関では必ず医療用のサージカルマスクを着用しましょう。

最近では、口元を透明のシートで覆ったマウスシールドも見かけるようになりましたが、顔全体(あるいは表情)が見えやすいというメリットがある一方、すき間が大きいために一部の飛沫しか捕捉できず、効果は限定的です。
また、顔全体を覆うフェイスシールドは「自分を守る」ためのものであり、口や鼻はもちろん、目からの飛沫感染を防ぐ目的で使用されるのが一般的。こちらは、患者さんがマスクを着用できないケースで役立つでしょう。

子どものマスク着用については、より慎重に考えなくてはなりません。WHO(世界保健機関)は「5歳以下の子どもは必ずしもマスク着用にこだわらなくていい」という見解を出していますが、マスクの着用が熱中症や誤嚥を招くことや、顔が隠れるために異変に気付きにくいことなどから、子どもに重大な健康被害をもたらすおそれがあるとも指摘されています。そもそも幼い子どもの場合、マスクをきちんと着用し続けること自体が難しいのではないでしょうか。もちろん、性格や環境によってはマスク着用が安全で意味をなすケースもあるでしょうが、少なくとも2歳未満の子どもでは避けたほうがいいでしょう。

介護施設などでは、利用者が集団で食事を摂ることも多いと思いますが、ここも特に配慮が必要な場面の一つです。政府の専門家会議が発表した「新しい生活様式」にもある通り、できるだけ2mの間隔を空け、対面ではなく横並びで座ることが理想的でしょう。どうしても利用者が対面してしまうようなら、ついたてを用いるのも一案です。ついたては使用する人の顔の高さまであれば十分ですが、下の部分が大きく空きすぎているタイプだと、そこから飛沫が流れていきやすいので注意してください。

感染対策としては、換気も重要です。特に、狭い場所では十分に空気を入れ替えることが大切ですが、冬になるにつれて寒さ対策も求められます。暖房器具を活用することはもちろんのこと、気温低下が避けられない環境なら、厚着での来院・来所を促すことも必要かもしれません。使っていない隣の部屋などの窓を開けて少しずつ外気を取り込む2段階換気もひとつの手法です。

新しい建物では換気システムも整っていますが、排気口にほこりがたまるなどして、十分に機能を発揮できていないケースも散見されます。定期的な確認、掃除も怠らないようにしましょう。

「院内感染」だけでなく「市中感染」も意識して

市中や自宅でも手洗いうがいの徹底を

みなさんの中には、「職場で感染しそうで怖い」「家族にうつしたらどうしよう」といった不安を抱えている方もいると思います。しかし、医療崩壊が起こっていない現在の日本においては、急性期病院レベルの感染対策が徹底できてさえいれば、むしろ自施設外での感染リスクのほうが高いといえます。感染対策を徹底しづらい市中や自宅にいるときこそ、医療従事者としてより注意深い行動を心がけてください。

20207月にスタートしたGo Toトラベルキャンペーンで、旅行熱が高まった方も多いかもしれませんが、旅行にともなう行為(食事、会話、移動など)は日常生活でも必ず行うものですから、場面ごとに適切な感染対策を講じれば大丈夫です。とはいえ、旅行中に気が緩んでしまって、人込みでマスクを外したり、食事中に大声で話してしまったりすることは十分にあり得ます。また、旅行先の環境が意図せず「3密」になっていたということもあるでしょう。そういう意味では、「いかに感染しないように旅行できるか」という視点を常に忘れないことが大切ではないでしょうか。

なお、多くの感染症と同様、新型コロナウイルスは冬季に流行しやすい傾向があると考えられています。今後も感染が拡大する可能性は十分にあり、感染症専門医の立場としても「この冬が本当の勝負」だと感じています。インフルエンザの同時流行も懸念されているので、手洗いやマスクの着用を徹底するほか、看護師のみなさんも可能な限り予防接種を受け、万全の状態で冬を迎えてほしいと思います。

取材・文:ナレッジリング(中澤仁美)

岸田 直樹

プロフィール

岸田 直樹

総合内科医/感染症専門医/感染症コンサルタント

北海道科学大学薬学部客員教授/一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事

1995年東京工業大学理学部中退。2002年国立旭川医科大学卒業。Master of Public Health(北海道大学大学院医学院修士課程公衆衛生学コース)。
手稲渓仁会病院総合内科・医学教育フェロー、静岡県立静岡がんセンター感染症科フェローなどを経て、 2010年より手稲渓仁会病院で感染症科チーフ兼感染対策室室長を務める。 2014年4月、医療におけるエンパワメントを推進するため、一般社団法人SapporoMedical Academy(SMA)を 立ち上げ、代表理事に就任。

日本感染症学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。 「良き医学生・研修医教育が最も効率的な医療安全」をモットーに、総合診療をベースに 感染症のスペシャリティーを生かして活動中。

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  95. vol.55 犯人は患者さん!? 身近にせまる「看護師ストーカー」
  96. vol.54 コミュニティナース/護身術
  97. vol.53 学費と給料から考える、看護師のコスパ
  98. vol.52 医療現場の未婚化加速/他
  99. vol.51 准看護師の応募者が減少/夜間巡視を助けるライト
  100. vol.50 看護協会が提言する「病院で働く看護職の賃金のあり方」とは?
  101. vol.49 新卒看護師育成で定着率アップ/特定行為に係る看護師の研修制度
  102. vol.48 和歌山県・看護学部新設/週1時間から働ける
  103. vol.47 保育所整備などで働く看護師をサポート/養成課程を一部共通化
  104. vol.46 看護師の「9割超」が身体、精神の疲労を訴える/「高学歴看護師」が増加
  105. vol.45 「災害ナース」の事前登録制度が開始/看護師教育の年限4年を要望
  106. vol.44 看護師の離職率/求人倍率最高も、ミスマッチで就職には繋がらず
  107. vol.43 看護師の「夜勤72時間ルール」が変わる
  108. vol.42 診療報酬改定は看護現場に直結! 超高齢化社会到来で変わる看護師ニーズ2
  109. vol.41 診療報酬改定は看護現場に直結! 超高齢化社会到来で変わる看護師ニーズ1
  110. vol.40 15年連続年休取得の割合50%割れ/他
  111. vol.39 2016年度診療報酬改定 看護師への影響は/他
  112. vol.38 入院患者の満足度、過去最高に/他
  113. vol.37 がん細胞を分離・回収する装置開発/他
  114. vol.36 卵巣がん新薬、腫瘍消失効果確認/他
  115. vol.35 X線胃がん検診、当面は「毎年も可」/他
  116. vol.34 脂肪肝治療のカギとなる物質発見/他
  117. vol.33 災害医療分野の人材養成プログラム開始/他
  118. vol.32 心臓マッサージに新提言/他
  119. vol.31 看護師の届出制度について/他
  120. vol.30 人工血液の臨床試験開始/他
  121. vol.29 糖尿病の貼り薬、開発か/他
  122. vol.28 SOSを発信できるアプリ開発/他
  123. vol.26 「心の病」労災認定、過去最多/他
  124. vol.27 痰の自動吸引システム開発/他
  125. vol.25 准看護師から看護師への道広がる/他
  126. vol.24 新型出生前診断、35歳以下でも判定可能か/他
  127. vol.23 肥満による乳がんのリスク2.25倍に/他
  128. vol.22 認知症ケアの「ユマニチュード」とは?/他
  129. vol.21 血管の位置を確認できる装置、開発/他
  130. vol.20 医療器具使用履歴を「刻印」で簡単管理/他
  131. vol.19 「舌下免疫療法」公的保険対象に/他
  132. vol.18 世界初、精神疾患に関わる遺伝子の働きが明らかに/他
  133. vol.17 生理的なプロセスで眠りをもたらす睡眠薬/他
  134. vol.15 PNSの導入で新たな課題が浮き彫りに/他
  135. vol.16 子育て中の看護師に朗報、新保育制度開始/他
  136. vol.14 突発性難聴に対する新たな治療方法が明らかに/他
  137. vol.13 針なし注射器の開発に成功。実用化への期待高まる/他
  138. vol.12 看護職員の7割以上が疲労感、3割が「切迫流産」に/他
  139. vol.10 アルツハイマー病、一滴の血液で診断可能に/他
  140. vol.11 看護職員の腰痛訴え85%以上に/他
  141. vol.06 特定行為にかかわる看護師の研修制度、検討事項も多く/他
  142. vol.08 感情の表現力の低下が、燃え尽き症候群を引き起こす/他
  143. vol.09 スマートフォンで患者の危険を素早く察知/他
  144. vol.05 「勤務編成の基準」ガイドライン策定の実現について/他
  145. vol.07 見舞い用の花、持ち込み禁止の見直しも/他
  146. vol.04 日本での外国人看護師の受け入れ条件は厳しすぎる?/他
  147. vol.03 診療報酬改定をきっかけに病院の大リストラがはじまる/他
  148. vol.02 いま問われる、男性看護師との円滑なコミュニケーション/他
  149. vol.01 注目される「看護専門外来」は、高度化する医療を支える礎に/他