• 2019年9月19日
  • 2021年11月16日

在宅における“理想の最期”を最新映画から学ぼう!

 

「住み慣れた自宅で家族に看取られたい」と願う患者さん、それを支える在宅医療の従事者は今や珍しい存在ではありません。しかし、それ以外の領域の看護師にとっては、在宅における“理想の最期”とはいったいどういうものなのか、具体的なイメージがわきづらいのではないでしょうか。現場に密着したドキュメンタリー『人生をしまう時間(とき)』(2019年9月21日劇場公開)で、在宅死のことを少しだけ学んでみませんか?

<作品情報>
人生をしまう時間(とき)
9月21日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開

監督・撮影:下村幸子 プロデュース:福島広明 編集:青木観帆、渡辺幸太郎
制作:NHKエンタープライズ 配給:東風
(C)NHK

埼玉県の在宅医療チームにカメラが密着!

この作品は、在宅医療に携わる医療者の姿を追ったドキュメンタリー。元となっているのは、日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞した『在宅死 ”死に際の医療”200日の記録』(NHK BS1スペシャル)。「ラストまで目が離せなかった!」といった視聴者からの大反響を受けて、新たなシーンを加えるなどして映画化されました。

カメラが追うのは、堀ノ内病院(埼玉県新座市)の在宅医療チーム。中心人物の一人である小堀鷗一郎医師は、文豪であり医師でもあった森鷗外の孫に当たる人物です。もともと東京大学医学部附属病院の外科医として活躍してきた小堀医師ですが、67歳にして在宅医療の世界へ転身。終末期を迎える数多くの患者さんやその家族に寄り添ってきました。

映画の「舞台」の一つとなる堀ノ内病院。地域包括ケア病床や退院支援室を備え、在宅復帰にも力を入れている。

堀ノ内病院の名誉院長でもある小堀医師。院内の個人オフィスは、はしごを登った上にある質素な“屋根裏部屋”だ。

患者さんの家にカメラが入り、家庭のありようを活写

医療者の訪問に同行するかたちで患者さんの家にカメラを入れた本作は、本人にフォーカスするだけでなく、家庭のありようまでリアルに描いていることが特徴の一つ。中には、貧困や障害など困難な問題を抱えた人たちもいます。医師や看護師、ケアマネジャー、介護職などが連携しながら、どのように患者さんを支えていくのか、映像から活動の実際を学び取ることができます。

登場する家庭の中でもとりわけ印象的なのは、全介助の妻と、それを支え続ける夫。1年以上も2階の自室から出ていない妻を介護し続ける夫は、心身に疲労が蓄積している様子でした。訪問看護師による手際の良い摘便と入浴介助に感心する夫ですが、肝心の妻の様子は……。一筋縄ではいかない在宅医療の現実は、ぜひ劇場で確かめてください。

堀ノ内病院の在宅医療チーム。4人の医師と2人の看護師で約140人もの患者さんを支えている。

初めて訪問した看護師に話しかける全介助の患者さん。明るい言動とは裏腹に、心の奥底に抱える不安が垣間見える場面も。

笑いも涙も、“人生”がぎゅっと詰まった110分

本作を監督・撮影したのは、NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーの下村幸子氏。およそ200日間かけて、64人もの患者さんやその家族を取材してきました。撮られる側の負担を最小限にするため、カメラマンや音声スタッフなどを同行させず、たった1人で現場に向き合い続けたというから驚きです。

「死」をテーマにしたドキュメンタリーというと、重苦しい作品のように思うかもしれません。しかし、過剰な演出を控えてシンプルに家族の情景を切り取った本作からは、決してそのような印象を受けないはずです。医療者と患者さんたちのユーモアあふれるやりとりに、劇場内で笑いが起こる場面も少なくありませんでした。

笑いも涙も内包した日常を送りながら、より自然な人生の最期を迎える。そうした「普通の日々」を願ってやまない患者さんやその家族のために、看護師としてできることは何か……。本作から学べることは、決して少なくないはずです。

「毎日がフレッシュ」と語る小堀医師。晴れの日も雨の日も、患者さんが待つ家に通い続けている。

取材・文/中澤仁美(ナレッジリング)

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小堀王鴎一郎先生インタビュー
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