私が出会ったびっくりな患者さん

患者の睡眠ケア Q7身体的予防策③【“治療薬を原因とする不眠”を防ぐためには、どう投与するとよい?】

第21回

『エキスパートナース』201611月号<最新エビデンスに基づく今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A>より抜粋。第7回は身体的予防策③「治療薬を原因とする不眠を防ぐためには、どう投与するとよい?」を紹介いたします。

内田 幸介 獨協医科大学看護学部 看護医科学(基礎)教授

A :例えばステロイドによる不眠は、副腎皮質ホルモンの生理的な分泌の概日リズムにあわせて投与することで、不眠症状の改善が見られることがあります。
(内田幸介 獨協医科大学看護学部 看護医科学(基礎)教授)

入院中の患者において、治療薬の副作用による薬剤性不眠を生じることがあります。特に高齢者では、多剤併用の問題もあり注意を要します。

例えば、不眠治療薬である睡眠薬(ベンゾジアゼピン誘導体)の急な中断によって反跳性不眠を生ずることがあるほか、診療科を越えて用いられるステロイドでも不眠を生じます。 本項目ではステロイドと不眠について、時間薬理学の観点から解説します。

ステロイドによる中枢神経への影響

一般に臨床でステロイドは、副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイド(コルチゾール)の構造(ステロイド骨格)を基本として合成された薬物(プレドニゾロンなど)を指します。

ステロイドは抗炎症作用・免疫抑制作用を有し、多くの炎症性疾患、自己免疫疾患、アレルギー疾患などに幅広い適応がある一方で、多彩な副作用を呈します。中枢神経細胞(ニューロン)の興奮性にも影響し、気分の高揚不穏、逆に抑うつを呈したり、不安や不眠を訴えたりすることがあります。

ステロイドが誘発する不眠への対応

糖質コルチコイド(コルチゾール)の生理的な分泌は、早朝から午前中に高く、夕方から深夜にかけて低下するという概日リズムを呈しています(図1)。ステロイド服用による生理的な概日リズムの乱れが、夜間の不眠と関連していると考えられています。

治療上ステロイドを服用するとき、分割投与の場合は1日量を変えずに概日リズムに則して、日中の投与量を増量し、反対に夕方や夜の投与量を減量することで不眠症状が軽減することがあります。
ただし、関節リウマチの患者においては、早朝に炎症性サイトカインが上昇することが報告(引用文献1)されており、朝のこわばりが強い患者では、夜のステロイド減量が難しいことが考えられます。

夜の投与量を調整しても不眠が改善しない場合には、ステロイドの1日量を減らすことを考慮しなければなりません。
しかし原疾患の病態や症状との兼ね合いがあることから、患者や主治医との十分な話し合いが必要になります。さらに、多剤併用の場合は、他の併用薬による睡眠への影響も考慮する必要があります。

図1 コルチゾール分泌の概日リズム(イメージ)

[本文・引用文献]

1. Straub RH,CutoloM:Circadian rhythms in rheumatoid arthritis
[review].Arthritis Rheum 2007;56(2):399-408.

[本文・参考文献]

1.小川朝生,谷口充孝 編:内科医のための不眠診療 はじめの一歩.羊土社,東京,2013.

2.坂井建雄,河原克雄 総編:人体の正常構造と機能[全10巻 縮刷版].日本医事新報社,東京,2008.

コラム 02

「寝る前にアロマを焚きたい」「アルコールを飲まないと眠れない」
「消灯後もテレビを観たい」
入眠時にある“こんな要望”、どのように対応する?

河野かおり 獨協医科大学看護学部 基礎看護学 講師

 

アロマテラピーは、周囲にまで「効果がないよう使用する」

ときおり、「いつも、入眠前にアロマの香りをかいで床に入る」という患者がいます。
嗅覚が精油の香りの分子をキャッチすると、感情や本能をつかさどる「大脳辺縁系」や、自律神経系をつかさどる「視床下部」にその情報が伝わり、体温や睡眠、ホルモンの分泌、免疫機能などに作用します(コラム図1コラム・引用文献1)。

他方で香りには個人の好みがあり、香りのせいで気分が悪くなってしまうほか、精油の成分によってはその作用が患者の状態に悪影響を及ぼすため、使用を避けなければならない種類のものもあります。

そのため使用の際は、周囲にも影響があることを考慮しなければなりません。対応として、「個室でアロマを焚く」「タオルやハンカチに染み込ませて使用する」「精油の種類に注意して使用する」といったことをおすすめします。

 

図1 アロマテラピーの作用のメカニズム

 

 

睡眠のルーティーンが行えない場合に、足浴が効果的

「アルコールが飲みたい」「消灯後もテレビが観たい(=音声を聴きながら眠りたい)」といった要望についても、アロマ同様に入院中は治療や生活管理、病棟の決まりなどがあり、すべてに対応することは難しい現状があります。

「いつもしていることをしないと眠れない」という患者のケアにおすすめしたいのが、足浴です。人間の身体は、交感神経と副交感神経の二重支配によりその恒常性を保っています。入眠時には皮膚交感神経活動が低下し、手足の血管が広がり、深部体温が低下しますコラム・引用文献2,3

加えて、副交感神経活動が優位な、つまりくつろいだ状態になることが入眠を促すために必要ですコラム・引用文献2,3。足浴の温かい刺激が副交感神経活動を高めてリラックス状態をもたらし、手足の血管拡張を起こさせることで体の熱が放散され、入眠を促します。

足浴後、「手足がポカポカしてよく眠れた」「またやってほしい」などの感想が多く聞かれます。こうした患者の反応は、看護を続けていく活力にもなります。

消灯前の時間は特にスタッフの人数が少なく、足浴をする時間がとりにくいと思いますが、このコラムをきっかけとして睡眠を促すための看護の引き出しに足浴を加え、患者をよい眠りへ誘ってください。

[コラム・引用文献]

1.公益社団法人 日本アロマ環境協会:アロマテラピーとは.
http://www.aromakankyo.or.jp/basics/introduction/mechanism/
(2016.9.20アクセス)
2.Kurauchi K,Cajochen C,Werth E,et al.:Functional link between distal
vasodilation and sleep-onset latency?.Am J Physiol Regul Integr Comp
Physiol 2000;278(3):741-748.
3.Okamoto-Mizuno K,Yamashiro Y,Tanaka H,et al.:Heart rate variability
and body temperature during the sleep onset period.Sleep Biological
Rhythms 2008;6(1):42-49.

[コラム・参考文献]

1. 石田宜子,青山ヒフミ,井上智子:入院患者の睡眠薬使用や看護ケアに対する認識.人間と科学 県立広島大学保健福祉学部誌 2008;(1):79-87

\看護師にはいろいろな働き方がある!

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2016照林社
[出典]エキスパートナース2016年11月号
P.80~「最新エビデンスに基づく 今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A」

<執筆者一覧>

編集、巻頭言、Q1

宮本雅之
獨協医科大学看護学部 看護医科学(病態治療) 教授
みやもと・まさゆき:獨協医科大学医学部医学科卒業。同大大学院医学研究科内科学(神経)修了(医学博士)。同大医学部内科学(神経)准教授を経て、2015年より現職(同大学病院睡眠医療センターを兼務)。日本神経学会神経内科専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本睡眠学会睡眠医療認定医。

巻頭言

鈴木純恵
獨協医科大学看護学部長、同成人看護学(慢性) 教授
すずき・すみえ:東京衛生病院附属看護学院、慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。千葉大学大学院看護学研究科修士課程、同博士後期課程修了、博士(看護学)。東京衛生病院、自治医科大学病院にて計9年間臨床で勤務。自治医科大学看護短期大学講師、千葉大学助教授(看護実践研究指導センター)、茨城県立医療大学教授、大阪大学大学院教授(医学系研究科保健学専攻)を経て、現在に至る。

Q2、コラム①

金子昌子
獨協医科大学看護学部 老年看護学 教授
かねこ・しょうこ:自治医科大学附属病院において急性期看護を実践。その後看護基礎教育に入り、茨城県立医療大学、信州大学で教鞭をとり、茨城県立中央病院での看護局長としての看護実践を経て、現在に至る。

Q3

丸井明美
獨協医科大学看護学部 老年看護学 准教授
まるい・あけみ:大学病院で看護師として勤務後、2006年茨城県立医療大学大学院修了。その後老年看護学の教員として大学に勤務。2015年より現職。

Q4

板倉朋世
獨協医科大学看護学部 基礎看護学 准教授
いたくら・ともよ:博士(工学)。病院内のにおいの特性をテーマに研究。工学系建築分野の専門家との共同研究を進めており、特に快適な療養環境の創出について取り組んでいる。

飯島満枝

とちぎメディカルセンターしもつが 副院長兼看護部長
いいじま・みつえ:修士(看護学)。認定看護管理者。

Q5

石川由美子

元・獨協医科大学看護学部 地域看護学 講師
いしかわ・ゆみこ:国内外の急性期病棟や在宅医療の経験ののち、2007年より獨協医科大学看護学部で教育研究に携わる。

Q6

佐藤
獨協医科大学看護学部 老年看護学 助教
さとう・しのぶ

Q7

内田幸介
獨協医科大学看護学部 看護医科学(基礎)教授
うちだ・こうすけ:獨協医科大学医学部卒業、同大大学院医学研究科(薬理学) 修了。獨協医科大学第2麻酔科、獨協医科大学薬理学を経て、現在に至る。

コラム②

河野かおり
獨協医科大学看護学部 基礎看護学 講師
こうの・かおり:2005年聖路加看護大学大学院修了。2014年より現職。

使える!看護テクニック ほかの記事も読む

  1. 第21回 患者の睡眠ケア Q7身体的予防策③【“治療薬を原因とする不眠”を防ぐためには、どう投与するとよい?】
  2. 第20回 患者の睡眠ケア Q6身体的予防策②【転倒を避けるために、睡眠薬はどのように使用するとよい?】
  3. 第19回 患者の睡眠ケア Q5 身体的予防策①【夜間頻尿に対応するためにできる工夫は?】
  4. 第18回 患者の睡眠ケア Q4環境整備 【入眠しやすい環境づくりとは?】
  5. 第17回 患者の睡眠ケア Q3 ケアの進め方 【昼寝て夜起きる患者】
  6. 第16回 患者の睡眠ケアQ2 睡眠障害のアセスメント 【患者が 「眠れない」と訴えるとき】
  7. 第15回 今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A【巻頭言+Q1なぜ睡眠障害は問題となる?】
  8. 第14回 【まとめ】これからのERAS®&ESSENSE!
  9. 第13回 項目10【全体】“いまの周術期患者教育”はこのように行う!
  10. 第12回 項目9【術後】「リハビリテーションは術当日から! 目標設定が大切」
  11. 第11回 項目8【術後】「不要なカテーテル類は早く抜く!」
  12. 第10回 項目7【術後】「血糖管理は180mg/dL以下かつ低血糖を回避」。血糖値変動の感覚を磨こう!
  13. 第9回 項目6【術後】早期経口摂取は大切! …でも本当に摂取できる?
  14. 第8回 項目5【術後】術後の痛みのコントロールはナースが担う役割!
  15. 第7回 項目4【術中、術後】輸液量は大丈夫? 過剰でもダメ、不足でもダメ!
  16. 第6回 項目3【術前から術直後】ほかにも知りたい! ナースにできること
  17. 第5回 項目2【術前】術前の輸液療法は不要。経口補水療法を使おう!
  18. 第4回 項目1【術前】下剤処置は“必要最低限”のみ施行する!
  19. 第3回 [総論]なぜ、いま術後回復の考え方が大切?(後編)
  20. 第2回 [総論]なぜ、いま術後回復の考え方が大切?
  21. 第1回 術後のつらさを改善する【10項目】ナースができる!「 ERAS ®」