• 2019年6月28日
  • 2022年2月10日

患者の睡眠ケア Q6 身体的予防策②【転倒を避けるために、睡眠薬はどのように使用するとよい?】

 

『エキスパートナース』2016年11月号<最新エビデンスに基づく今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A>より抜粋。第6回は身体的予防策②「転倒を避けるために、睡眠薬はどのように使用するとよい?」を紹介いたします。

佐藤 忍 獨協医科大学看護学部 老年看護学 助教

Q:転倒を避けるために、睡眠薬はどのように使用するとよい?

A :睡眠障害(不眠)に適したタイプを選択することが大切です。処方薬を定期的に見直し、転倒予防に努めましょう。 (佐藤 忍 獨協医科大学看護学部 老年看護学 助教)

睡眠障害(不眠)のタイプに適した睡眠薬を選択する

睡眠薬は単剤使用が原則ですが、効果が得られない場合は多剤併用になりがちです。効果が不十分な場合に多剤併用が有効であるというエビデンスはなく、副作用や転倒リスクの観点からも多剤併用はできるだけ避けるべきとされています。

睡眠薬は消失半減期により、「超短時間作用型」「短時間作用型」「中間作用型」「長時間作用型」の4つに分類されます。入眠障害には超短時間~短時間作用型中途覚醒には中間~長時間作用型を選択し、熟眠障害や早朝覚醒では作用時間を考慮して服薬時刻の調整を行うなど、睡眠障害のタイプに適した睡眠薬を選択することが減薬につながります(タイプの詳細は「Q2:睡眠障害のアセスメント」参照)。

不眠の訴えに対して安易に睡眠薬を選択せず、その原因を排除することも重要です。併存する疾患の症状による不眠ではその症状を緩和したり、中途覚醒では服用時刻を遅らせたりします。催眠作用の持続が足りない場合は、用量の調整他の睡眠薬への切り替えを検討することも減量につながります。うつ病の症状として不眠が生じていることもあるため、精神疾患と鑑別を考慮することも大切です。

また、加齢とともに多剤併用になることが報告されています引用文献1.2。高齢者は、腎機能・肝機能の低下により薬物代謝が遅延するため、睡眠薬の蓄積による日中の傾眠や活動性の低下が廃用の原因となり、転倒を招くことが予測されます。薬剤師も含めた医療チームで処方薬が必要最小限になるように見直すことは、転倒予防につながります。

睡眠薬の特徴を知り、転倒リスクを最小限にする

睡眠薬には、眠気・注意力低下・筋弛緩作用などによるふらつきや脱力などの中枢抑制作用があります。従来、消失半減期が短い薬物ほど転倒リスクが低いといわれ、高齢者には超短時間~短時間作用型の使用が推奨されていました。

しかし、実際には超短時間~短時間作用型での転倒事例も報告されています引用文献3。これらのタイプでは、中途覚醒や一過性の前向型健忘が起きやすいためです。また中間型~長時間作用型では高い血中濃度が続くため、持ち越し効果による日中の眠気・倦怠感・脱力があり、深夜から早朝にかけて転倒する恐れがあります。いずれの場合も、血中濃度が急上昇しているときに転倒リスクが高まることから注意が必要です。

睡眠薬は、作用機序により以下の6つに大別されます。

①バルビツール酸系 ②非バルビツール酸系 ③ベンゾジアゼピン系 ④非ベンゾジアゼピン系 ⑤メラトニン受容体作動薬(ロゼレム?) ⑥オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ?

①や②は依存性や呼吸抑制が強いことから、不眠治療に用いられることは少なくなっています。③は広く用いられている睡眠薬です。催眠作用や筋弛緩作用に関与する中枢性ベンゾジアゼピン受容体には、「ω1」「ω2」というサブタイプがあります(1/引用文献4.5

表1 ベンゾジアゼピン受容体作動薬

ω1受容体は鎮静作用や催眠作用に、ω2受容体は筋弛緩作用や抗不安作用や運動失調に関連があります。③はω1ω2のいずれにも親和性があり、催眠作用と同時に筋弛緩作用を持ち合わせているため、ふらつきや転倒に注意が必要です。

 ④はω1受容体選択性が高いので、③に比べて筋弛緩作用が弱く、転倒などの副作用が少ないとされています。

 ⑤は、体内時計調整や催眠作用を有するホルモンであるメラトニンの受容体を介して催眠効果を発揮し、ふらつきや過鎮静などの副作用がみられず入眠の改善が期待できます。

 ⑥は、覚醒に関与するオレキシンという物質が作用する受容体をブロックすることで覚醒状態を抑制し、入眠をはかる新しいタイプのくすりです。

[引用文献]

1. 三島和夫,片寄泰子,榎本みのり,他:診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究.平成22年度厚生労働省科学研究費補助金 特別研究事業 向精神病薬の処方実態に関する国内外の比較研究分担研究方向書 2010.

2. 廣岡孝陽:睡眠薬・抗不安薬の過剰投与の見直し.日本臨床 2015;73(6): 1049-1056.
3. 藤田茂,渡邊聖,長谷川友紀,他:向精神薬の半減期と転倒・転落の関係に関する研究.病院管理 2005;42(4):447-453.
4. 杉山良子 編:転倒・転落防止パーフェクトマニュアル.学研メディカル秀潤社,東京,2012:32
5. 谷口充孝 監修,徳島裕子 編:不眠症と睡眠薬患者さんの疑問に答えるQ&A.フジメディカル出版,大阪,2005:31.

[参考文献]

1. 三島和夫 編:睡眠薬の適性使用・休薬ガイドライン.じほう,東京,2014.

2. 内山真 編:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版.じほう,東京,2012.


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