『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル>より抜粋。第14回は《まとめ》「これからのERAS®&ESSENSE!」を紹介いたします。
ERAS®の可能性①
ERAS®の効果はまだまだ検討が必要。
めざすべきは、ESSENSEの概念である「患者の満足感」
個々のエビデンスにとらわれず「患者の満足感」をめざす
すべての場合においてERAS®を行うべきかどうかは、まだ結論が出ていません。そのためERAS®管理をする際、個々のエビデンスの確立を気にして導入をためらうということがあります。
例えば手術創の短縮に効果的な腹腔鏡手術について、開腹手術に比べて早期回復が望めるという報告(引用文献1)はありますが、腹腔鏡手術に対してのERAS®の効果というのはまだ明確ではありません。また、海外の報告をもとに作られているため、術後3日の早期退院や、術前消化管処置の必要性など、本邦において非現実的なもの、逆に不安を煽るもの、必要ないもの、有害になる可能性があるものもあり、十分な検討は必要です。
しかし、ESSENSEの概念、つまり患者の満足度が得られる術後管理をめざしていれば、たとえエビデンスとしては確立していなくても、術後早期回復によい影響を与えそうな介入は安全性が確保できれば採り入れよう、というくらいの気持ちでもいいのではないかと私は考えています(賛否両論はあると思いますが)。 「エビデンスがあるか? ないか?」はわれわれでデータを蓄積していき、証明していけばよいと思います。
今回はこのような考えもあり、ERAS®の推奨事項として明記はされてはいないことも項目に追加(項目3【術前から術直後】ほかにも知りたい! ナースにできること、項目6【術後】早期経口摂取は大切! …でも本当に摂取できる?参照)しました。
ERAS®の可能性②
内科でも取り入れたいERAS®。
入院管理の見直しに使える項目がある
輸液ラインの抜去や絶飲食期間の短縮などは、ぜひ取り入れたい
現在のERAS®における問題点は表1のように多々ありますが、あまり触れられていない問題として内科における入院管理があります。
ERAS®をとりあげると、どうしても外科系の看護師のみが対象となります。しかし、私はそうは考えていません。
“手術=侵襲”と考えれば、内科では、“侵襲=病気そのもの”と置き換えられます。そうすると、侵襲をとり除くためにERAS®の推奨項目のなかで使える項目があるはずです。ESSENSEの考えをもとに使える項目・介入を導入すればいいと思います。“入院したら長期床上安静、食止め”という管理ではなく、「可能な限りラインを減らす」「輸液時間を減らす」「安静度を可能な限り上げる」「絶飲食期間を最低限度にする」……など、介入点はたくさんあります。いわばERAS®ならぬEnhanced Recovery After Therapy(治療後回復能力強化プロトコル)です。
今回の特集を読んで、自施設の入院管理を考えてみてください。明日から何か変えられることがあるのではないでしょうか? ぜひ、内科の医師・看護師に検討してほしいと考えています。
表1 ERAS®における現在の問題点
ちなみにERAS®の最終的なゴールは、「周術期はERAS®管理をすることが当たり前でERAS®という用語が使われなくなる」ことだと思います。そのために、みなさんがERAS®を導入・発展させて、さらなる普及をしてもらえれば本望です。そして、今回の特集がERAS®を導入する・発展させるための知識やきっかけとなれば幸いです。
また、残念ながら今回、1つひとつの項目の詳細部分についての説明で不十分な点が多少ありますので、成書、過去の報告のほか、学習会・学会などで最新知見を含めた情報を入手して、それぞれでERAS®をブラッシュアップしていってください。
コラム②
「ESSENSE」では満足感を伴う身体回復が重要
海堀昌樹
(関西医科大学医学部 外科学講座 准教授/寄附講座 次世代低侵襲外科治療学講座 併任准教授/臨床研究支援センター 副センター長)
現在、日本外科代謝栄養学会のESSENSEプロジェクト(研究代表者:宮田 剛)では、多施設前向き臨床研究を実施しています(図1/引用文献1)。
主要評価項目を「満足を伴う身体的回復効果の有無」としており、ESSENSEでは、単なる治療だけでなく、不安や苦痛がないことを重要視しています。
図1 ESSENSE プロジェクトにおける臨床研究の概要(進行中)
〈引用文献〉
1.日本外科代謝栄養学会:周術期管理ワーキングループ手術患者に対する ESSENSE プロトコールによる周術期管理 多施設共同前向き臨床試験概要.
http://www.jsmmn.jp/essense/doc/essense_study.pdf (2015.10.20アクセス)
次回からの「使える! 看護テクニック」は「今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A」をお届けします。
[引用文献]1.V l u g MS,Wi n d J,v a n d e r Z a a g E,e t a l .:S y s t e m a t i c r e v i e w o f
laparoscopic vs open colonic surgery within an enhanced recovery
program.Colorectal Dis 2009:11(4):335–343.
2.Ahmed J,Khan S,Gatt M,et al.:Compliance with enhanced recovery
programmes in elective colorectal surgery.Br J Surg 2010;97(5):754–758.
[PROFILE]
海堀昌樹(かいぼり・まさき)
関西医科大学医学部 外科学講座 准教授
寄附講座 次世代低侵襲外科治療学講座 併任准教授
臨床研究支援センター 副センター長
1991年関西医科大学卒業。同年同大学病院外科を経て、国保古座川病院などに勤務。1997年関西医科大学大学院修了。関西医科大学附属香里病院などを経て、2013年より現職。日本消化器外科学会評議員、日本肝臓学会評議員など多数。