看護師国家試験

第11回

うつ病で「死にたい」「私は役に立たない」と訴える52歳女性

【状況設定問題】2015年 第104回 過去問題(午後110)

●精神看護学

【問題】 Aさん(52歳、女性、専業主婦)は、夫と2人の息子との4人で暮らしている。Aさんは内向的な性格であり、順番にまわってきた町内会の役員を引き受けたことで悩むことが多くなった。2カ月前から食欲不振と不眠が続いている。1カ月前から家事ができなくなり、死んでしまいたいと言い始めたため、夫が付き添って精神科を受診したところ、うつ病(depression)と診断された。
入院後1カ月。Aさんは「私は役に立たない人間です。昔から妻や母親としての役割を果たせていませんでした」と発言している。食事は3分の2を摂取できるようになり、夜間も眠れていることから、主治医は認知療法への参加を勧めた。
この時点の認知療法で修正するのはどれか。

  1. 1 内向的な性格
  2. 2 低下した意欲
  3. 3 Aさんと息子との親子関係
  4. 4 自分は役に立たない人間だという考え方

【解答】

  1. 1.認知療法は、性格を修正するものではありません。
  2. 2.意欲の低下は、うつ病の代表的な症状のひとつです。認知療法により修正するのではなく、投薬などの治療により改善・回復をめざします。治療が奏効すると意欲の向上がみられ、治療状況をアセスメントするための重要な観察ポイントとなります。
  3. 3.認知療法は、人間関係を修正するものではありません。
  4. 4.認知療法は、考え方や物事のとらえ方(=認知)の癖を修正する心理療法のひとつです。さまざまな考え方、物事のとらえ方を知ることで、認知の幅を広げていきます。

解説

私たちはあらゆる出来事をさまざまな形で認知し、その結果として感情が芽生えたり行動を起こしたりします。たとえば、Aさんと同じような状況に置かれたとき、「私は役に立たない人間だ」と卑下して嘆く人もいれば、「夫や息子と共に今日まで生きていることに感謝だ」とハッピーになる人、「町内会の役員を楽しんでいこう」とワクワクする人もいることでしょう。このように、人によって認知のあり方は実に多様です。

そして、認知には一人ひとり癖のようなものがあります。そのため、物事を楽観的にとらえる傾向の人や、逆に悲観的にとらえる傾向の人がいるわけです。また、普段は楽観的であっても、出来事の内容や程度、あるいは自身の体調によっては悲観的になる人もいるでしょう。こうした認知のあり方が自然に感情や行動に反映されることを「自動思考」と呼んでいます。「自動」であるため当人の癖が現れやすく、それをコントロールすることは容易ではありません。ネガティブな自動思考が浮かび、それに支配されてしまったら、とてもつらく窮屈な状況に陥ってしまいます。まさにAさんのように。

しかし、いったん立ち止まってほかの認知のあり方を探り、それを実際に試みることで、ストレスを軽減できると考えられています。これを技法として確立させたものが認知療法であり、現代の精神科領域で薬物療法と並んで行われる代表的な治療法となっています。ただし、どのような状態でも実施できるわけではありません。認知療法を受けることが本人にとって苦痛となりマイナスに働くこともあるので、必ず主治医の判断による必要があります。Aさんの食欲や睡眠の状態が改善してきているということで、主治医は認知療法を勧めたと考えられます。

現場ではこうする!

チーム全体として希死念慮に対応しよう

Aさんの状態に関してとくに気になる点は、「死んでしまいたい」(希死念慮)という発言です。どこまで本気の発言なのか、そのときどきで濃淡があると思われますが、決して軽視できません。自殺企図を起こしやすいのは、うつ状態の時期よりも回復期だといわれています。食欲、睡眠、活動状況などを定期的にアセスメントしながら、希死念慮の有無や程度についても把握していく必要があります。

また、患者さんから「死んでしまいたい」などと言われたら、返答に困ることもあるでしょう。そのときは、否定も肯定もせず「そう思っているのですね」と傾聴したり、「私はAさんに生きていてほしいです」というように「私」を主語にして思いを伝えたりする方法があります。あるいは無理に返答せず、その場の空気を共有するということでもよいですね。Aさんから「どう思う?」などと尋ねられていない限り、返答は必須ではありません。今の自分の気持ちをただ吐き出したかったり、誰かに知ってほしかったりという思いからの発言もありうるのです。

どのような方法を採るにせよ、Aさんからどのような発言があり、それにどう対応したか記録に残しておくことは、医療チーム全体としてAさんの治療やケアをするにあたり、非常に重要な情報となります。

面会や外泊を通して自信回復を支援する

Aさんは「私は役に立たない人間です。昔から妻や母親としての役割を果たせていませんでした」とも発言しており、自身の役割責任を気にしていることが伺えます。そのため、Aさんの状況に応じて面会が可能かどうか主治医に確認しながら、夫や息子と過ごす時間を設けることも一案です。また、夫や息子の都合に合わせて週末などに外泊許可をもらい、自宅で過ごす機会を提供することも考えられます。

洗濯物をたたむ、お茶を入れるなど簡単にできることから家事のリハビリテーションを進め、少しずつ自信を回復させられるとよいでしょう。息子に子どもがいれば、できるだけ一緒に過ごすことでAさんは「祖母」という新たな役割を見出すことになるでしょう。孫の成長を見守ることが今後の生きがいにつながり、精神的な支えが増えるかもしれません。Aさんのペースや希望に合わせながら、できることを徐々に増やしていけるよう支援したいですね。

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イラスト:シロシオ 「シロシオ イラスト&マンガポートフォリオサイト」

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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