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項目6【術後】早期経口摂取は大切! …でも本当に摂取できる?

第9回

『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル>より抜粋。第9回は《各論》術後回復を助けるための”エッセンス”10項目の「項目6【術後】早期経口摂取は大切! …でも本当に摂取できる?」を紹介いたします。

立石 渉
(東京女子医科大学東医療センター 心臓血管外科 助教、NST)

悪心・嘔吐対策と腸蠕動促進、薬で早期経口摂取を実現! 腸管免疫にも効果

1)早ければ翌日から食事を開始
早期経口摂取はERAS®において非常に重要なポイントの1つです 。
従来は消化器系術後では数日は絶食管理でしたが、ERAS®では術後の悪心・嘔吐(postoperative nausea and vomiting、PONV)予防策や、硬膜外麻酔使用・腸蠕動促進薬・術後リハビリ促進による腸蠕動促進のためと、縫合不全リスクの低下により、早い施設では術翌日から食事が開始可能になっています。早期に食事を開始するメリットとして、腸蠕動や腸管の免疫機能を改善したり、術後の体重減少を防ぐことが挙げられます。

2)サルコペニアによって嚥下障害が生じていることがある
「腸が使えるときは腸を使え!」という有名な言葉がありますが、”腸が使えるか?”ということに関しては「蠕動音聴取」「便の性状」「腹部膨満の有無」など理学的所見が重要であることは皆さんご存じで、評価されていると思います。
しかし、栄養を摂るステップのうち「嚥下」に関しておろそかになっていないでしょうか? 術後は、表1のような原因による嚥下障害が発生するリスクが非常に高い状態となっています。
特に、近年サルコペニアがやっと医療従事者に認知されてきましたが、術後はもちろん術前からサルコペニアを呈している患者もいます。また、高齢者などは手術による異化亢進による全身の筋力低下から体力が低下し、最終的に嚥下筋まで衰えてしまいます(原発性+二次性の重症サルコペニア状態)。

表1 術後嚥下障害を起こしうる原因

脳梗塞・脳出血(の既往)による麻痺
高齢
サルコペニア←特にサルコペニアに注意
術前からの嚥下障害の存在
意識障害・認知症
反回神経(喉頭運動)麻痺(食道がん、甲状腺がん、胸部大動脈瘤、縦隔腫瘍術後)
気管内挿管による声帯浮腫・損傷
内服している薬剤の副作用 など

VF、VEで、嚥下機能を評価する

誤嚥機能についての詳細な評価・診断をするために必要なのは、嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing、VF)、嚥下内視鏡検査(videoendoscopic examination of swallowing、VE)です。
入院が長期化しそうであれば嚥下機能の再度評価を行います。また術後に限らず、内科やその他の科でも嚥下機能の評価は非常に重要です。”早期栄養摂取!”と意気込んで誤嚥してしまった……とならないように、嚥下機能をチェックする習慣をつけましょう。

チェックリストなど、簡便な方法で嚥下障害をスクリーニング

誤嚥リスクがある場合の評価方法としてVFとVEを紹介しましたが、ナースが嚥下リスクを判断するために、まずはスクリーニングが大切です。
スクリーニングに用いられるテストを図1-①引用文献1)〜④(引用文献2)に示します。4つのテストはいずれも特殊な装置や技能は要しない、スクリーニングに最も適した方法です。
ただ、今回紹介した評価は詳細な内容までは触れられていませんので、ぜひ、これを機に成書なども参考にして実践していただけばと思います。

図1 嚥下機能評価に行われるテスト
①嚥下チェックリスト

(文献1より引用、一部改変)

評価

Aが1つでもあれば、「嚥下障害あり」
B、Cの場合は正常(「嚥下障害なし」)

②反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test、RSST)

・口腔内を湿潤させたあと、30秒間で唾液の嚥下を可能な回数してもらう

評価

30秒間で2回以下が嚥下不良

③改訂水飲みテスト(modified water swallow test、MWST)


・冷水3mLを舌の裏に注ぎ嚥下してもらう
・嚥下可能な場合は、嚥下運動をさらに2回してもらう

(写真は東京女子医科大学東医療センターのスタッフによる)

評価

1点:嚥下なし、むせこみor呼吸変化あり
2点:嚥下あり、呼吸変化あり
3点:嚥下あり、呼吸変化なし、むせこみor湿性嗄声あり
4点:嚥下あり、呼吸変化なし、むせこみ、湿性嗄声なし
5点:4点に加えから嚥下が30秒以内に2回以上可能

④ 頸部聴診法


・嚥下をする音と、嚥下後の呼吸音(呼気音)を聴取する
・施行前に痰などは排出し、誤嚥した際に菌が落ちこまないように口腔内をきれいにしておく
・嚥下させるものは問診で固形物・液体物を決めるとよい(氷片、冷水〈2〜3mL〉でよい)
・③改訂水飲みテストとセットで行ってもよい

評価

*嚥下中、嚥下後を通して、わずかな咳払いや呼吸のつかえがある場合も「むせあり」と判定した

(評価は文献2より引用)


[引用文献]
1. 大熊るり,藤島一郎,小島千枝子,他:摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発.日本摂食嚥下リハ会誌 2002;6(1):3-8.
2.平野薫,高橋浩二,宇山理紗,他:嚥下障害判定のための頸部聴診法の診断精度の検討.日本口腔科学会雑誌 2001;47(2):93-100 .

[PROFILE]

立石 渉(たついし・わたる)

東京女子医科大学東医療センター 心臓血管外科 助教、NST

2006年群馬大学医学部卒業。利根中央病院勤務(研修医)の際にERAS®を学び、その知識を生かして東京女子医科大学東医療センター心臓血管外科でERAS®を導入。群馬県立心臓血管センターなどを経て2013年より現職。心臓血管外科医としては数少ないJSPEN(日本静脈経腸栄養学会)認定医。

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社
[出典]エキスパートナース2015年12月号

P.68~「術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル」

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