『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS?(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル>より抜粋。第8回は《各論》術後回復を助けるための”エッセンス”10項目の「項目5【術後】術後の痛みのコントロールはナースが担う役割!」を紹介いたします。
大北沙由利 (関西医科大学附属枚方病院 看護部、消化器外科病棟師長(集中ケア認定看護師))
海堀昌樹 (関西医科大学医学部 外科学講座 准教授/寄附講座 次世代低侵襲外科治療学講座 併任准教授/臨床研究支援センター 副センター長)
術後は疼痛に対する不安も大きい。だから鎮痛が重要
ERAS?では、術後の十分な疼痛管理には硬膜外鎮痛(図1)が最も効果的であることが示されています。しかし、抗凝固療法や術式の違いにより硬膜外鎮痛を活用できない場合もあり、各種鎮痛薬、オピオイドの全身投与、末梢神経ブロックなどを組み合わせた”多角的な疼痛管理”が術後鎮痛の最適な手段と考えられています。
多角的な疼痛管理を多くの患者に有効活用するには、施設内の術後疼痛プロトコルの確立やacute pain service(急性期疼痛管理サービス。疼痛の評価や患者管理鎮痛法の指導などの術後疼痛全般を管理する)の設置が理想的と考えられています。そのなかで、患者のそばにいる看護師の役割は、術後の痛みを評価・アセスメントし適切な看護ケアを提供することです。 現在、術後疼痛管理に関しては先行鎮痛方法(痛みが発生していない段階から鎮痛薬を投与し、術後の疼痛を抑える方法)が普及していますが、多忙な業務のなかで果たして十分に実施できているか、と言われれば疑問が生じるところではないでしょうか?
「痛み」という言葉には単なる創痛だけでなく、手術によって生じた組織損傷の際に表現される不快な感覚や情動体験(引用文献1)などの心の痛みまでも含まれています。その点を認識したうえで、看護師が行う痛みのコントロールだけではなく、患者自身が治療・回復に参加し痛みをコントロールする必要性が求められています。
図1 硬膜外鎮痛法
痛みを患者も自己管理し、多職種でスケールを共有する
1)患者に痛みの管理に参加してもらう ERAS?において、硬膜外麻酔の使用やNSAIDsによる鎮痛が提示されています。
痛みの受容は個人差が大きく、『日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)』(引用文献1)でも、患者の自己申告が痛みの評価でありゴールドスタンダードであるとされています。また、痛みの管理を患者自身が行うことが効果を示すという報告もあります(表1/引用文献2-4)。
患者が自身で痛みの管理を行う方法として、患者制御鎮痛法(patient-controlled analgesia、PCA)が多く使用されています。そのため、患者に痛みについての説明を十分行い、適切に自己管理ができるように指導することが重要です。
2)評価スケールを多職種で共有する 日常のなかで看護師が痛みの評価を行う機会が多いと考えられますが、患者は検査、リハビリテーション、診察などさまざまな状況のなかで痛みを感じます。
先行鎮痛を行うためにも、そのとき患者のそばにいる医療従事者が常に患者の痛みを評価できることが望ましいと言えます。
多くの施設で痛みの評価スケールとして数値評価スケール(numerical rating score、NRS)、視覚的評価スケール(visual analogue scale、VAS)が使用されています。患者が表現しやすい評価スケールを使用するとともに、その評価を多職種で共通認識できるよう伝達することが必要です。
また、痛みに介入する段階についても共通認識をもち、早期に鎮痛が行えることが大切です。
表1 患者が自身で痛みを管理する効果に関する文献(エビデンス)
積極的なアセスメントと介入で痛みに対して早めに対処する
1)術前に十分なカウンセリングとオリエンテーションを実施する
入院中、手術を受けたりがん告知など、患者は計り知れない不安を抱えています。術後の痛みをコントロールするためにも患者が抱いている不安が何かを十分に聞き、そのうえで必要な説明を行うことが大切です。
術後の痛みに対しての鎮痛方法(PCA使用方法)、痛みの早めの報告については、必ず説明するようにします。さらにどのような痛みが予想されるのかという点まで説明すると、術後実際に痛みが生じた際も患者は理解ができ、不安が軽減します。
2)患者の動作から痛みをアセスメントする
常に患者を観察している看護師だからこそ、患者の動作や表情から、その痛みの程度を評価することが大切です。最低限、以下に示す3点について観察し、抵抗なく行えていなければ痛みがある程度強いことを予想しましょう。
①安静時の痛みが抑えられている
②痛みで体の動きが妨げられていない
③深呼吸や体位変換が行える
3)痛みへの介入を積極的に実施する
コミュニケーションがとれる場合は、スコアがNRS>3、VAS>3であれば痛みに対する何らかの介入が必要であるとされています。
前述の通り、患者が「痛みがある」と表現すれば痛みは存在しているのであり、スコアが介入基準に満たないからといって痛みへの介入が不要なわけではありません。スコアの点数が低くても経時的な観察の結果徐々に増加しているのであれば、原因検索を含めた何らかの介入が必要です。
図3(引用文献5)に、鎮痛に関して当院で実施した、肝切除術患者における予防的NSAIDs投与の結果を示します。予防的NSAIDs投与を実施していた場合、術後3日目まで有意に疼痛が低かったという結果を示しました。この結果からも、積極的なNSAIDs投与を考慮することが必要だと考えられます。
また、胃潰瘍などの既往があり、NSAIDsを回避したい場合などはアセトアミノフェンも現在4g/日で投与可能であり、鎮痛効果も十分にあるので、選択肢の1つとして覚えておきましょう。
図3 予防的NSAIDs投与による疼痛レベルの低下(関西医科大学附属枚方病院での結果)
1.日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会 編集:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日集中医誌 2014;21:542.
2.佐藤新,佐藤明日香,渡辺浩規,他:ICUにおける食道癌術後の呼吸器合併症に対する早期離床の効果.日本看護学会論文集:成人看護Ⅰ 2010;41:244-247.
3.大沢朗子,中西絵理,佐藤啓,他:PCEAによる術後疼痛コントロールにおける自己管理法と看護師管理法の比較, 日本看護学会論 文集:成人看護Ⅰ,2008;39:85-87.
4.Söling M,Nordahl G,Olofsson N,et al.:The impact of preoperative information on state anxiety,postoperative pain and satisfaction with pain management.Patient Educ Couns 2003;51(2):169-176.
5.海堀昌樹,飯田洋也,松井康輔,他:5.消化器外科手術後の痛み評価と鎮痛対策.日外会誌 2015;116(4):234-248.
1.前田勇子:術後痛の看護ケアに関する研究:ケア実施状況と外科経験年数による差の検討.甲南女子大学研究紀要 看護学・リハビリテーション学編 創刊号 2007:29-38.
2.太田博文 編:術後のケアがこんなに変わる! 見直したい術前・術後の管理.エキスパートナース 2012;28(2);24-53.
3.道又元裕 監修,剱持雄二 編:基礎からはじめる鎮痛・鎮静管理マスター講座~せん妄予防と早期離床のために~.南江堂,東京,2015.
関西医科大学附属枚方病院 看護部、消化器外科病棟師長(集中ケア認定看護師) 多病院において混合病棟、ICUを経験後、関西医科大学附属滝井病院に就職し、CCU勤務。2006年同附属枚方病院開院にあたり異動し、循環器病棟勤務。2007年集中ケア認定看護師認定。CCU・消化器外科副師長を経て、現職。
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[出典]エキスパートナース2015年12月号 P.68~「術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS ?(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル」