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項目2【術前】術前の輸液療法は不要。経口補水療法を使おう!

第5回

『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル>より抜粋。第5回は《各論》術後回復を助けるための”エッセンス”10項目の「項目2【術前】術前の輸液療法は不要。経口補水療法を使おう!」を紹介いたします。

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郡 隆之
(利根中央病院 外科部長)

絶飲食は術後高血糖や口渇感を引き起こす。だから経口補水療法が重要

ERAS®プロトコルでは、術前絶飲食をしないよう推奨しています。術前の飲食については、『術前絶飲食ガイドライン』(引用文献1)でも、全身麻酔などを要する待機的手術患者においては図1のように定められています(消化器に障害のある場合は患者に合わせて対応する)。

絶飲食を積極的にしない理由は、以下の2点です(引用文献2)。

①術前の絶飲食を避けることでインスリン抵抗性が低下し、術後高血糖を回避できる
②患者の術前・術後のQOLが高まる

従来の術前管理では、前日夜から絶飲食を行うとともに、輸液療法で体液管理を行うことがあたりまえでした。これは、全身麻酔が開発された当初に、食事を摂取した患者に麻酔をかけた結果、誤嚥性肺炎で死亡した事故があったためです。
しかしその後の研究で、胃からの排出時間は固形物とクリアーリキッド(水、お茶、非乳製品の清涼飲料水)(図2-①/引用文献3)や浸透圧(図2-②/引用文献4)によって差があり、クリアーリキッドであれば術当日に飲んでも胃に残らないことがわかってきました。
なお、一部の製品を除いて、アミノ酸やビタミンを含んで浸透圧が高くなった液体の術直前の飲用の安全性は確立されていませんので注意してください。

図1 術前絶飲食時間

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オーエスワン®を用いた術前経口補水療法を行う

クリアーリキッドであれば術前に摂取しても体液管理に悪影響を及ぼさないため、経口補水療法が重要とされています。
ERAS®プロトコルの本家の欧州では、手術前日の夕食まで通常の食事を行ったうえで、Pre Op®(Nutricia社)という12.6%の糖質飲料の製品を術前日夜に800mL、術当日の入室2〜3時間前に400mL飲用する「術前炭水化物ローディング」(※)を行います(引用文献5)。
本邦では、炭水化物ローディングに代わって、市販品の経口補水液であるオーエスワン®を用いた術前経口補水療法により術前輸液を廃止する治療法が報告され広がりました(引用文献6)。経口補水液とは、清涼飲料水の一種であり、電解質とブドウ糖を配合した液体(通常の清涼飲料水より高電解質)であるため、体内にすみやかに吸収されます。
術前のオーエスワン®による経口補水療法は患者の麻酔導入時の胃内容物を増加することなく、術前の補液と比べて術中の体内の水分保持に優れているとともに、飲水できることで口渇と空腹感を減少させます。輸液ラインがないことで、拘束感が和らぐというメリットもあり、結果として患者の不安軽減につながります。また、術中・術後の輸液量の軽減にもつながります。アメリカ・欧州の麻酔科学会だけでなく日本麻酔科学会でも、経口補水療法を推奨しています。

※【炭水化物ローディング】=筋肉中にグリコーゲンを貯蔵する方法。グリコーゲンローディングとも呼ばれる。

手術室への入室数時間前までにオーエスワン®を飲んでもらう

経口補水療法は、通常の飲水ができる患者であれば問題なく可能です。しかし、イレウスや腹部膨満感のある患者への投与は症状悪化が懸念されますので、避けてください。
摂取方法は何通りかあり、原法では前日21時から手術室への入室2時間前までに患者にオーエスワン®を1L飲んでもらいます。当科では術当日は入室3時間前まで飲水フリーで、入室3時間前までにオーエスワン®を500mL飲んでもらいます。
麻酔導入時に胃内残留しないことが大切ですので、飲み終わっていなくても入室2時間前で中止してください。


[引用文献]
1.公益社団法人日本麻酔科学会:術前絶飲食ガイドライン.
http://www.anesth.or.jp/news2012/pdf/20120712.pdf(2015.10.20アクセス)
2.郡隆之:消化管手術における術後食事開始時期−Enhanced recovery after surgeryを中心に−.臨床栄養 2007;110(5):495-500.
3.Ljungqvist O,Søreide E:Preoperative fasting.Br J Surg 2003;90(4):400-406.
4.Lobo DN,Hendry PO,Rodrigues G,et al.:Gastric emptying of three liquid oral preoperative metabolic preconditioning regimens measured by magnetic resonance imaging in healthy adult volunteers: a randomised double-blind,crossover study.Clin Nutr 2009;28(6):636-641.
5.Ljungqvist O,Nygren J,Thorell A:Insulin resistance and elective surgery.Surgery 2000;128(5):757-760.
6.Taniguchi H,Sasaki T,Fujita H:Preoperative fluid and electrolyte management with oral rehydration therapy.J Anesth 2009;23(2):222-229.

[PROFILE]

郡 隆之(こおり・たかゆき)

利根中央病院 外科部長

1994年群馬大学医学部卒業。モットーは「ON&OFF両立」。医師としてガンガン仕事をすることは大好きですが、それだけで1週間がほぼ終わる人生は、「最悪だ!」と思っています。

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典]エキスパートナース2015年12月号
P.68~「術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる!ERAS®(イーラス)術後回復能力強化プロトコル」


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