私が出会ったびっくりな患者さん

項目1【術前】下剤処置は“必要最低限”のみ施行する!

第4回

『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】ナースができる!ERAS®(イーラス)術後回復能力強化プロトコル>より抜粋。第4回は[各論 術後回復を助けるための“エッセンス”10項目]の中から「項目1【術前】下剤処置は“必要最低限”のみ施行する!」を紹介いたします。

img-1

img-1

清水拓也
(東北大学病院移植・再建・内視鏡外科(血管外科)助教/気仙沼市立病院血管外科)

下剤の使用により脱水などが生じることも。だから腸管前処置は最低限に

消化器手術における経口腸管洗浄剤(マグコロール®P、ニフレック®など)による腸管前処置の目的は、腸管内の便塊を除去することにより縫合不全や手術部位感染(surgical site infection、SSI)の合併症を低下させることです。
しかし、腸管前処置によって脱水が引き起こされたり、腸管粘膜障害や正常な腸内細菌叢を乱すといった問題点が指摘されています。またこれまでの報告からは、結腸がんの腸管前処置では術後合併症の発症予防において有効性がないことも示唆されています(引用文献1)。
このような点から、消化器外科術前に機械的に行われていた腸管前処置を、ERAS®の普及に伴って実施しない施設が増えているようです。

腸管前処置の可否を明確にする

すべての消化管手術で腸管前処置を省略してよいと言うわけではありません。どのような場合に省略できるかを可能な限り明確にすることが必要です。

1)前処置を省略してよい手術(表1-①)

上部消化管手術肝胆膵手術においては、腸管前処置は行わずに手術前日に低残渣食を摂取すれば十分とする考え方が一般的です。一方、下部消化管手術においては、右側結腸では手術前日の低残渣食で可能ですが、左側結腸では便が固形化するため腸管前処置を行ったほうがよい場合もあります。特に、糖尿病患者や透析患者では、重度の便秘症を合併していることが多く、特に注意が必要です。
血管外科手術においては、一般的に腸管前処置は省略可能と考えられます。また、腹部大動脈瘤手術においても腸管内容物が手術の妨げとなることはなく、SSIも増加しません(引用文献2)。

2)前処置を省略してよいか確定できない手術(表1-②)

直腸がん手術においては、腸管前処置を省略するとかえって縫合不全やSSIを増加させる報告もあります(表2/引用文献3)。そのため、必ずしも腸管前処置に有効性がないとは言い切れません。

表1 各手術における術前の対応

img-1

img-1

腸管前処置の有無の理由も患者に伝えることで、不安を取り除く

まず、予定術式と患者の状態を把握しましょう。そこで「なぜ前処置を行うのか、あるいは行わないのか」という理由を考えたうえで、患者にも理解してもらえるような説明をすることが重要です。
そのほかに患者は「おなかを空っぽにしないと手術後に失禁するのでは……」というような不安を抱いている場合もあるため、そこもきちんと説明して疑問を解消しておく必要があります。
一方で高齢者や足の不自由な患者では、腸管前処置によって生じ得る頻回の下痢により、術前に体力を消耗してしまう可能性も忘れてはなりません。そのほか、前処置をするのであれば「項目2」にある経口補水療法を強化するなどの工夫も考えましょう。
予定術式のみではなく、個々の患者に応じた前処置の必要性やメリット・デメリットも理解しておきましょう。


[引用文献]
1.Güenaga KF,Matos D,Wille-Jørgensen P:Mechanical bowel preparation for elective colorectal surgery.Cochrane Database Syst Rev 2011;7(9):CD001544.
2.清水拓也,宮田剛,他:腹部大動脈瘤開腹手術におけるERASプロトコールと術後回復促進のESSENSEに基づいた周術期管理.外科と代謝・栄養 2015;in press.
3.Bretagnol F,Panis Y,Rullier E,et al.:Rectal cancer surgery with or without bowel preparation:The French GRECCAR III multicenter single-blinded randomized trial.Ann Surg 2010;252(5):863-868.

[PROFILE]

清水拓也(しみず・たくや)

東北大学病院移植・再建・内視鏡外科(血管外科)助教/気仙沼市立病院血管外科

1998年東北大学医学部医学科卒業。秋田県平鹿総合病院消化器外科、仙台厚生病院心臓血管外科を経て、2010年東北大学医学部博士課程を修了。2011年より現職。東北大学病院に勤務するかたわら、気仙沼市立病院にて血管外科の診療を行っている。

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典]エキスパートナース2015年12月号
P.68~「術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる!ERAS®(イーラス)術後回復能力強化プロトコル」


使える!看護テクニック ほかの記事も読む

  1. 第21回 患者の睡眠ケア Q7身体的予防策③【“治療薬を原因とする不眠”を防ぐためには、どう投与するとよい?】
  2. 第20回 患者の睡眠ケア Q6身体的予防策②【転倒を避けるために、睡眠薬はどのように使用するとよい?】
  3. 第19回 患者の睡眠ケア Q5 身体的予防策①【夜間頻尿に対応するためにできる工夫は?】
  4. 第18回 患者の睡眠ケア Q4環境整備 【入眠しやすい環境づくりとは?】
  5. 第17回 患者の睡眠ケア Q3 ケアの進め方 【昼寝て夜起きる患者】
  6. 第16回 患者の睡眠ケアQ2 睡眠障害のアセスメント 【患者が 「眠れない」と訴えるとき】
  7. 第15回 今はこうする! 患者の睡眠ケアQ&A【巻頭言+Q1なぜ睡眠障害は問題となる?】
  8. 第14回 【まとめ】これからのERAS®&ESSENSE!
  9. 第13回 項目10【全体】“いまの周術期患者教育”はこのように行う!
  10. 第12回 項目9【術後】「リハビリテーションは術当日から! 目標設定が大切」
  11. 第11回 項目8【術後】「不要なカテーテル類は早く抜く!」
  12. 第10回 項目7【術後】「血糖管理は180mg/dL以下かつ低血糖を回避」。血糖値変動の感覚を磨こう!
  13. 第9回 項目6【術後】早期経口摂取は大切! …でも本当に摂取できる?
  14. 第8回 項目5【術後】術後の痛みのコントロールはナースが担う役割!
  15. 第7回 項目4【術中、術後】輸液量は大丈夫? 過剰でもダメ、不足でもダメ!
  16. 第6回 項目3【術前から術直後】ほかにも知りたい! ナースにできること
  17. 第5回 項目2【術前】術前の輸液療法は不要。経口補水療法を使おう!
  18. 第4回 項目1【術前】下剤処置は“必要最低限”のみ施行する!
  19. 第3回 [総論]なぜ、いま術後回復の考え方が大切?(後編)
  20. 第2回 [総論]なぜ、いま術後回復の考え方が大切?
  21. 第1回 術後のつらさを改善する【10項目】ナースができる!「 ERAS ®」