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[総論]なぜ、いま術後回復の考え方が大切?(後編)

第3回

『エキスパートナース』2015年12月号<術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル>より抜粋。第3回の【[総論]なぜ、いま術後回復の考え方が大切?(後編)】では、ERAS®を行いたい3つの理由の中から「だからいまERAS®②と③」についてご紹介いたします。

編集:立石 渉
(東京女子医科大学東医療センター 心臓血管外科 助教、NST)

だからいまERAS®
「患者の“術後のつらさ”を効果的に改善することができる方策」

1)術後のつらさを改善するための個々のプログラムの内容

ところで、ERAS®の目的は何でしょう? 難しく言うと「postoperative fatigueの改善」を目的としていると言えます。砕けた表現で言うと「術後のだるい・しんどい・つらい状態を改善させてあげる」ことが目的です。
術後、「早く歩けて」「早く食事が摂れて」「早く退院ができたら」患者にとって理想的であり、治療に対しての満足度も高くなります(「早期離床」「早期食事摂取」「早期退院」〈+医療費削減〉はERAS®のアウトカムにも設定されています)。
では、それに対して何をすればよいのか? と考えてできたものがERAS®の多数の推奨事項です(第1回参照引用文献1)。術前から術後までさまざまなアプローチがあるのがわかります。
ただ、よく見ると日本ではすでにあたりまえに行われている事項もあれば、手術の種類や施設によってはこの推奨事項は使えない、というものがあるかと思います。まさにその通りで、さまざまな分野・施設でERAS®を導入するうえで、すべての推奨事項を遵守するのは困難であり、実際に全項目を施行しているという施設はほとんどないと思われます。─でもそれでよいのでしょうか?

2)達成するための大きな方向性は「4つ」。これを押さえていればOK

少し考え方を変えてみて、前述したERAS®のアウトカムを達成するために必要な事項を細かく分けず、大きな方向性に整理して考えてみましょう(図2)。なぜ、“術後はつらい”のか? それは手術という侵襲によるダメージが発端になっているはずです。つまり➊生体侵襲反応の軽減をすることが、早期回復には大切です。

図2 ERAS®のめざすところ

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生体侵襲反応が軽減されれば、早期離床が可能になるはず(➋身体的活動性の早期自立)、食欲も出てきて食事が摂れるはず(➌栄養摂取の早期自立)、さらに回復に向けての意欲が出るはず(➍周術期不安軽減と回復意欲の励起)です。

この➊〜➍の考え方こそが、日本外科代謝栄養学会周術期管理改善プロジェクトが提唱している「ESsential Strategy for Early Normalization after Surgery with patient’s Excellent satisfaction(ESSENSE)の術後早期回復のための方針」で、近年、本邦でERAS®管理を行ううえで重要である考え方です(図3引用文献6)。

しかし生体侵襲反応の軽減(➊)のみで、➋〜➍を達成できるわけではありません。そこでERAS®の推奨事項のうち必要な項目を適切に選択すると、図3のように4つの方針に向かう助けになることがわかります。方向性をしっかりさせ、必要なものが選択できていれば、推奨事項のすべてを遵守せずとも問題ないのです。

図3 ESSENSE(日本外科代謝栄養学会周術期管理改善プロジェクト)の観点を採り入れたERAS®の推奨事項の意識・ねらいimg-2

だからいまERAS®
「患者の術後の回復を手助けするために看護師ができることがたくさんある」

では看護師の視点から見てみます。“ERAS®は多職種の協力により達成しうるものであり、特に患者に近い立場である看護師の役割は非常に大きい”ということは以前より言われています。海外ではERAS®管理をしている科で働く看護師のことを“ERAS nurse”(イーラスナース)と呼んでいます。
しかし日本の臨床では、実際には「ERAS®はしたいけど何をしたらよいのかわからない」「ERAS®をやっているけれど、私たちの役割は?」という看護師からの声が聞かれることが非常に多いです。改めてERAS®の推奨事項を見返すと、「短時間作用型麻酔薬の使用」「手術創短縮」「低侵襲手術の選択」などは外科医師や麻酔科医師等でなくては施行することができず、確かに、看護師が関与できない項目があります。
しかし、ESSENSEの4つの観点を網羅した図3をもう一度見てみましょう。まだまだ、看護師が主として関与していただきたい項目はたくさんあります。さらに、指示を出すのは医師であったとしても、看護師がぜひ考慮したい項目も多数あります。
例えば、「周術期の輸液量管理」に関しては、あまりにdry(脱水傾向)であったりover(溢水傾向)であったりする際には、看護師は周術期の体液バランスを評価して、医師に報告しなくてはなりません。「疼痛管理」にしても、鎮痛薬が処方されていても効果が不十分である際、どう対処したらよいか把握しておくことは大切です。
もう1つ、ERAS®の主たる効果ではないのですが、ERAS®を導入すると看護師の仕事量が減ります。一見、ERAS®を導入すると看護師の患者への介入が増えて仕事量が増えるように思われますが、結果として輸液投与患者(輸液交換回数)の減少、介助歩行患者の減少、清拭回数の減少などの効果があり、全体として看護師の仕事の能率が上がるはずです。
近年、ただでさえ看護師の仕事量・負担が増えています。ERAS®を導入して仕事量を減らすことができれば、勤務疲労が軽減され、ミスや医療事故の頻度も減少させることができるかもしれません。

本特集の特徴は、“看護師の視点から見たERAS®”として、看護師が行えるERAS®を、後述する「各論」の10項目で挙げたところです。可能な限り、わかりやすく、かつ導入しやすいように説明してあります。

これからERAS®を導入したいと考えている、もしくは導入中の施設の方は、前述したように全部できなくても問題ありません。大切なのはESSENSEの基本4方針(➊〜➍)の考えをもって患者をみることです。
少しずつ、いえ、1つずつでもかまいませんので、徐々に導入していき、それが浸透すればいいと思います。最終的にERAS®エキスパートナースとなっていただけるのがベストです。また、ERAS®をすでに導入している施設の方は、今までのERAS®の評価・復習と、さらなる介入や改訂をするためのヒントとして見ていただければさいわいです。

Illustration:Hyuga Ishikawa


[引用文献]
1.Fearon KC,Ljungqvist O,Von Meyenfeldt M,et al.:Enhanced recovery
a f t e r s u r g e r y:A consensus r e v i e w o f c l i n i c a l c a r e f o r p a t i e n t s undergoing colonic resection.Clin Nutr 2005;24(3):466-477
. 2.Tatsuishi W,Kohri T,Kodera K,et a l .:Usefulness o f an enhanced recovery after surgery protocol for perioperative management following open repair of an abdominal aortic aneurysm.Surg Today 2012;42 (12):1195-1200.
3.郡隆之,戸丸悟志,新行内健一,他:消化管手術症例におけるERAS(enhanced recovery after surgery)プロトコルのpilot study.静脈経腸栄養 2006;21増 刊号:102.
4.G u s t a f s s o n UO,S c o t t MJ,Schwenk W,e t a l .:G u i d e l i n e s f o r perioperative care in elective colonic surgery:Enhanced Recovery After Surgery(ERAS®)Society recommendations.Clin Nutr 2012;31 (6):783-800.
5.Nygren J,Thacker J,Carli F,et al.:Enhanced Recovery After Surgery
Society:Guidelines for perioperative care in elective rectal/pelvic
s u r g e r y : E n h a n c e d R e c o v e r y A f t e r S u r g e r y(ERAS®)S o c i e t y recommendations. Clin Nutr 2012;31(6):801-816.
6.宮田剛:ERASとESSENSE.日本外科代謝栄養学会 周術期管理ワーキンググループ編:ESSENSE─日本外科代謝栄養学会周術期管理改善プロジェクト─.春恒社,東京,2014:1-12.

[PROFILE]

立石 渉(たついし・わたる)

東京女子医科大学東医療センター 心臓血管外科 助教、NST

2006年群馬大学医学部卒業。利根中央病院勤務(研修医)の際にERAS®を学び、その知識を生かして東京女子医科大学東医療センター心臓血管外科でERAS®を導入。群馬県立心臓血管センターなどを経て2013年より現職。心臓血管外科医としては数少ないJSPEN(日本静脈経腸栄養学会)認定医。

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典]エキスパートナース2015年12月号
P.68~「術後のつらさを改善する【10項目】 ナースができる! ERAS®(イーラス)術後回復能力 強化プロトコル」


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