• 2017年5月16日
  • 2023年12月27日

災害時のインスリン注射に関する患者さん指導

 

問題

Aさん(75 歳、男性)は、2型糖尿病(type 2 diabetes mellitus)で超速効型インスリンによる治療を行っている。

  1. 開封したインスリンは1年間使用できる。
  2. 使用しているインスリンの名称を正確に覚える。
  3. 消毒薬の入手が難しい場合は消毒せずに注射してもよい。
  4. 平常時と同じように非常時もインスリン注射は食前に行う。

【解答】

  1. 1.製品によって異なりますが、1年間という長期にはなりません。
  2. 2. 災害時には、かかりつけ医を受診できるとは限りません。
  3. 3. 消毒しないリスクよりも、高血糖に陥ることのリスクが上回ります。
  4. 4.摂取できた食事量に応じた量を食直後に注射します。

解説

設問文が不明瞭であるため、複数の選択肢が正答とされた。

災害時には平時同様の医療やケアの提供ができなくなることもしばしばです。インスリンの自己注射もしかりであり、いざとなっても危険な状態に陥らないよう災害時の対処方法を指導しておく必要があるでしょう。また、とくに大規模な災害では、必要十分量のインスリン製剤を持ち出せなかったり、避難所でインスリン製剤を調達できるまでに日数がかかったりすることも考えられます。健康な人以上に平時からの備え(必要な物品をまとめた持ち出し袋など)がものをいうことを理解してもらうことが大切です。※出典:【一般問題】2016年 第105回 過去問題(午前66)看護の統合と実践

現場ではこうする!

アメリカでは消毒しないのが当たり前
今回の設問では、「インスリンを注射する前には消毒すべき」ということが前提となっています。皮下注射や静脈注射を含めて、日本の医療現場では注射部位のアルコール消毒が当たり前と考えられてきましたが、アメリカなどでは通常は行われません。インスリンの自己注射では「着ている服の上から注射してもかまわない」と指導されるくらいです。

消毒不要とされる理由のひとつは、アルコール綿でさっと拭くくらいのことでは皮膚表面を無菌状態にすることは不可能だからです。また、とくに患者さんが自分で用意し、使用するアルコール綿は汚染されていることが多く、何もしない場合よりリスクがある可能性さえ考えられるからです。さらに、より根本的な理由として、注射針の穿刺で生じた微かな穴から極めて微量の皮膚常在菌が体内に入ったところで、免疫システムが機能して直ちに排除され、感染を引き起こすことはないと考えられます。

したがって、皮下の壊死組織へ注射する場合、黄色ブドウ球菌や緑膿菌のコロナイゼーションがある場合などの例外を除いて、通常は注射部位の消毒を行わなくてもかまわないはずなのです。しかし日本の医療現場では、「教科書や参考書に書いてあるから」「病院のマニュアルで決まっているから」「アルコール消毒が必要と思っている患者さんを不安にさせるから」といった理由で、なかなか状況が変わらないようです。

消毒するならアルコールと綿を常に携帯すべし
ひとまずインスリン注射で消毒が必要だと考える場合、設問のケースで正答より望ましい指導は、インスリン製剤や注射器、注射針に加えて、消毒用アルコールや消毒綿も余裕を持ってポシェットなどに携帯しておくよう伝えることでしょう(アルコールは大量に使うものではありませんし、携帯に適した小容量の製品もあります)。避難所でも消毒用アルコールや消毒綿は早期に調達できるようになると考えられますが、何事も備えあれば憂いなしです。

なお、インスリン注射に起因する感染にまつわる注意点として、一度使用した注射針は他人に使わせてはなりません。また、インスリンカートリッジも一度使用した後は、微量の血液が逆流している可能性があるため、他人に貸してはなりません。血糖自己測定用の穿刺針も同様です。

『マイナビ看護師―国家試験について』の記事も読む

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

著者プロフィール